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数字はGUIを救うのか




 クイックサンの提唱するNUI(Number User Interface)は、あらゆる種類のコンテンツを数字を使って呼び出すためのインターフェイスで、リモコンに慣れた現代のコンシューマには、まさにツボにはまるUIに感じられるかもしれない。でも、数字は果たして未来に渡り、最良のインターフェイスであり続けられるんだろうか。

●数字とコンテンツに割り当てる

 携帯電話が普及し、個々の端末が電話帳を持つようになり、誰かに電話をかけるには、電話帳から名前を探すのが当たり前になった結果、他人の電話番号どころか、自分の電話番号さえ覚えていないという人々が増えている。個人的にはさすがに自分の電話番号は覚えているが親の携帯電話の番号というと、もう無理だ。

 一方、数字といえば思い浮かぶのは、テレビのチャンネルだ。首都圏の場合、1chがNHK総合で、4chが日テレ、6chがTBSと続く。このあたりは、今の幼稚園児でも暗記しているだろう。でも、地デジになって、アナログでは10chだったテレビ朝日が5chに出世(!?)している。そのことを人々はどう認識しているのだろうか。ぼくの場合は、リアルタイムでテレビを見るよりも、録画したものを見ることが多く、また、録画は未だに現役で地上波全チャンネルのプライムタイムを365日録画し続けているX Video Stationにまかせているので、どの番組がどのチャンネルどころか、どの放送局によるものかという認識すら希薄になりつつある。

 クイックサンが、数字でコンテンツを呼び出すマルチコンテンツブラウザ「ROBRO」で提示するソリューションでは、すべての種類のコンテンツを数字で呼び出すことができる。テレビのチャンネルはもちろん、ウェブサイトにも数字を割り当てて呼び出せる。さらに、表示されたウェブページに存在するリンクには、すべて数字が割り当てられていて、リモコンでその数字を入力すれば、リンク先のページが開く。

 また、郵便番号のように、リモコンで7桁の数字を入れれば、地図ページが呼び出され、その地域の地図が表示されるといったUXも実現されている。

 これによって、ユーザーは、数字にリンクされたコンテンツの種類を意識することなく、数字の入力だけで、シームレスにこれらを切り替えて楽しむことができるようになる。

●数字の否定がもたらしたもの

 インターネットの歴史は、数字の否定の歴史であるといってもいいかもしれない。

 インターネットをIPアドレス抜きに考えることはできない。ちなみに、0から255までの4組の数字をドットで区切ったものがIPv4時代のIPアドレスだ。たとえば、202.218.223.135といった形式のアドレスで、世界中に散在する相手先コンピュータを特定することができる。

 最大12桁で、世界中のコンピュータを特定することができるというのは、国際電話で任意の国の任意の電話機のベルを鳴らすよりも桁数が少ないともいえる。たとえば、東京の電話番号03-xxxx-xxxxに海外から電話をかける場合、日本の国番号81に続けて、03から先頭のゼロをとった3、そして、xxxx-xxxxを続ける。つまり、81-3-xxxx-xxxx。市外局番のゼロを省略できる代わりに国番号の前には、海外へのダイヤルを識別する番号を付加する必要がある。アメリカからの場合は011だ。場合によっては事業者識別番号をダイヤルしなければならないケースもある。

 アメリカの場合は、市外局番を含む電話番号は10桁に統一され、市外通話のためには、先頭に1を付加し、3桁の市外局番に続けて電話番号をダイヤルする。日本では市外局番が必ず0から始まるが、実は、この0は、アメリカの1、つまり、これから市外局番をダイヤルするぞという意味だ。だから、本当の市外局番は先頭のゼロをのぞいた部分になるわけだ。こうして見ていくと、電話のネットワークというのは、そのトポロジーが、数字だけでうまく表現できているといえる。

 電話番号と同様に、数字の羅列であるIPアドレスは、人間には覚えにくいし、実際に見ても、相手先を想像するのが難しい。だったら名前で識別できるようにしようということにしたのがDNSだ。DNSによって、ぼくらは、特定のサイトの特定のコンピュータを、pc.watch.impress.co.jpといった文字列で特定することができるようになった。DNSは、この文字列を202.218.223.135といったIPアドレスであるということを教えてくれる。でも、その問い合わせの手順を人間が意識する必要はなく、普通にインターネットを使うためには、IPアドレスの存在を知らなくてもかまわない。さらに、比較的新しいDNS的なソリューションとしては、IDNによる日本語ドメイン等の実装例などもある。

●現実解としてのNUI

 入力の手間ということだけを考えれば、IPアドレスを直に入力した方が手っ取り早いに決まっている。極端に短いURLでも、その多くは12桁では収まらないだろうからだ。だが、リストを見たときのわかりやすさはまったく違う。URLを使えば、特定のコンピュータにルートからのフォルダ構造を含めたファイル名を指定し、その先頭にhttp:などのようなプロトコル名を付加することで、リソースを特定することができるが、そのURLを見れば、だいたいどのような素性のリソースであるのかを想像することができる。

 でも、今は、そのわかりやすいはずのURLでさえ、呪文扱いされるようになり、人々は、GoogleやYahoo!の検索ボックスに、探しているサイトの名前を入れるようになった。だから、たくさんのURLを暗記する必要はない。たった1つ、http://www.google.co.jp/さえ覚えておけば、ほとんどの場合は事足りるだろう。

 クイックサンのソリューションは、こうして先人たちが努力してカタチにしてきた数字の呪縛からの解放を再構築しようというものだ。その根底には、リモコンという極めてプアな入力デバイスの存在がある。プアであることはわかっていても、それを超えるデバイスが存在しない以上、それを最大限に活用してやろうというのが、彼らのストラテジなんだと思う。

 ただ、ROBROが提供するのは、名前解決の仕組みなのではなく、画面上の特定オブジェクトを指し示し、それをつっつくポインティングデバイスとしての役割だ。画面上の任意の点を左上を(0.0)とした座標で特定するといったことではなく、目に見えているオブジェクトを数字で指定し、できるだけ少ない打鍵数で、それを呼び出すわけだ。

 この方法論は、かなりコロンブスの卵的な意味合いを持っている。かつて、パーソナルコンピュータの黎明期、たとえば、TK-80が愛されていた時代、その対話は、テンキーからの16進入力で行なわれていた。ハンドアセンブルするのが当たり前だったマシン語は、そのうちニーモニックからアセンブラが変換するようになり、さらに高級言語へとつながってきたのはご存じの通りだが、リモコン文化は、まるで、テンキーによる16進時代への回帰現象であるかのような錯覚さえ覚える。

 本当にこれでよいのかという想いもあるが、10フィートGUIにおける超・現実的な解としては、それもありなんだろう。

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(2008年7月25日)

[Reported by 山田祥平]


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