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ゲーム業界のパラダイムシフトを宣言する任天堂のWii戦略




●ゲーム業界の常識から離れたパラダイムシフト

任天堂のWii

 「間違えていたのはゲーム業界の常識の方だ。我々がDS/Wiiで成し遂げたのは、真のパラダイムシフトであり、それまでの常識は通用しない。DS/Wiiの成功は、短期的なブームではなく、WiiもDSもまだ伸びて行き、ユーザーも広がり続ける」。

 任天堂のメッセージを意訳すると上のようになる。ゲーム業界に根強い、ニテンドーDSやWiiの成功は一過性のブームで、やがて失速するという観測に強く反発している。多くのゲーム業界人が、未だにDSとWiiの成功をパラダイムシフトにあると認識していないというのが、任天堂のポイントだ。

 任天堂はロサンゼルスで7月15日に行なったカンファレンス「Nintendo E3 Media Briefing」で、こうしたビジョンを説明した。登壇した岩田聡氏(任天堂代表取締役社長)は、「グローバルなゲーム市場で真のパラダイムシフトが起きている」と宣言。5年前のE3で、任天堂の社長として始めてスピーチした時を振り返り「あの時、私は、(カンファレンスの)参加者のほとんど全員が任天堂の将来に悲観的だったことを知っていた。しかし、私は、人々が、ビデオゲーム市場の“常識(common sense)”からそう考えているだけであることも知っていた」と説明。「いったん真のパラダイムシフトが起きたら、常識はもはや意味をなさなくなる」と、ゲーム業界の“常識”に捕らわれている限り、パラダイムシフトによる成功があり得ないと、当初から考えていたことを明かした。

 岩田氏は、今回のカンファレンスでは、どうやってパラダイムシフトを起こしたのかという説明は省いた。すでに、過去のスピーチで何度も説明していたからだ。簡単に振り返ると、次のようになる。

 任天堂がやったことは、非常に明瞭で、その思想もわかりやすい。任天堂は、まず、ゲーム機で遊ぶ人口自体を拡大しなければならないと考えた。そこで必要なのは、従来のゲーマーに歓迎される、グラフィックスやプロセッシングパフォーマンスの拡大ではないと判断した。ゲーム機での遊び方を知らない、新規ユーザーを引き込むカギになるのは、ゲーム機を使うことを簡単にすることだ。ゲーム機も、所詮はコンピュータであり、PC同様に、ユーザーインターフェイスは取っつきにくい。

 そこで、任天堂はマンマシンインターフェイスの改革を行なった。DSでのタッチスクリーン、Wiiでのコントローラだ。マンマシンインターフェイスの改革に開発リソースを割いて、よりユーザーフレンドリーなコンピュータを作るという、実にコンピュータの王道に沿ったアプローチをしたのが任天堂だ。

 その上で、任天堂はアプリケーションも広げた。伝統的なゲームの枠に縛られないアプリを花開かせることだ。「脳トレ(脳を鍛える大人のDSトレーニング)」に代表されるような、従来はゲームではなかった要素もゲームに取り込むことで、ゲーム人口を広げる。また、Wiiチャンネルのように、ライトなゲームや、伝統的なゲームではないコンテンツやサービスを提供することで、ゲーム中心でないユーザーをWiiに繋ぎ止める。毎日Wiiに電源を入れる必然性を作り出す「Wii Fit」がその好例だ。

●任天堂の次の目標はユーザーを熱中させること

 今回のE3では、任天堂はこうしたDS/Wiiのパラダイムシフトの結果、何が起きたのかを説明した。ポイントは3つ。(1)ソフトウェアのロングテール(長期販売)化、(2)豪華なグラフィックスと洗練されたゲームだけではない方向性、(3)ゲームユーザー層の拡大。そして、その次のステップとして、DSとWiiでユーザーを飽きさせない、より熱中させる要素が重要だと認識を示した。

 ゲームソフトは、発売直後は売れるものの、すぐにほとんど動かなくなる、瞬発性の商品であるというのが、これまでの常識だった。しかし、任天堂のDS/Wiiのタイトルは、長期的に売れる傾向を示している。これは、新ゲームに飛びつくコアゲーマーだけでなく、カジュアルな新ユーザーを開拓できたための現象だ。

 ゲームソフトは、ゴージャスなCGと膨大なボリュームの大作化が進んでいた。しかし、DS/Wiiでは、小規模なチームが低予算で開発したアイデア勝負のゲームが受け容れられるチャンスがあると岩田氏は言う。実際には、これは、ネガティブな要素の裏返しだ。DS/Wiiでは、ユーザーインターフェイスの開発に注力して、コンピューティング性能の拡張は抑えた。例えば、WiiではPLAYSTATION 3(PS3)やXbox 360のようなグラフィックスは望めない。そのため、PS3やXbox 360の大作タイトルが直面しているような、グラフィックスコンテンツの増大と、それによる開発費や開発規模の増大からは、ある程度距離を置くことができる。一方、DSとWiiでは、直観的なユーザーインターフェイスのおかげで、アイデアの工夫のしようはある。だから、ゲームデベロッパもそちらに注力するために、アイデア勝負のタイトルが出やすい。

 DSとWiiによって、ゲームユーザー層は着実に拡大していると任天堂は言う。任天堂のこの主張は、実際にDSとWiiの台数が、過去のゲーム機を凌駕するハイペースで伸びていることで裏付けられている。岩田氏は、その理由について「我々がこれまで持っていたゲーム市場に対する常識の視野が狭すぎた」と指摘する。つまり、従来の常識に従って、グラフィックスやコンピューティングパフォーマンス、メモリやディスク容量を引き上げて行けば、市場が広がるという常識が、狭量なものだったと言うわけだ。そして、新しいユーザーを惹きつけた結果、DS/Wiiは季節や性別に関係なく売れるようになった。

 岩田氏は、昨年は、ゲームをする人としない人の、心理的なバリヤを破りたいと語った。1年後の現在では、「心理的バリヤは破られつつあると信じている」(岩田氏)という。その上で、任天堂は新しいパラダイムで次を目指すと説明する。それは、飽きさせないこと、プレイヤがゲームにもっと熱中できるようにすることだという。

 岩田氏が、“熱中させること”を次のステップとして挙げたことは、任天堂がDSとWiiの戦略の弱点を認識していることを示している。コアゲーマーが中核を占めるPS3とXbox 360の場合は、ユーザーがアクティブにゲームを求め、伝統的な路線のゲームで充分に楽しむ。そのため、ユーザーを熱中させ続けることは、相対的に容易だ。

 それに対して、今までゲームをやっていなかった新規ユーザーを大量に取り込んだDSとWiiでは様相が異なる。ユーザーは、常にゲームを求めているわけではない。Wiiのコントローラを活かした新鮮なゲームが出ても、ちょっと遊んで飽きてしまうというケースが多々あると言われている。任天堂にとって悪いシナリオは、新規さと評判につられてWiiやDSを買った新ユーザーが、しばらくして飽きてしまい、ハードをしまい込んで使わなくなってしまうことだ。

 そのため、任天堂は、新しい客層に対して、新鮮な驚きを提供するだけでなく、コンテンツに熱中させ継続させなければならない。同時に、従来のゲーマー層も熱中できるだけのコンテンツを提供しなければならない。「不幸なことに、これ(熱中させること)は言うのは簡単だが行なうのは大変」と岩田氏は難しさを強調する。

 気心の知れた旧来のゲーマーではなく、新しいユーザー層を熱中させるものを作ることは、任天堂にとっても新しい体験だ。そして、任天堂にとってチャレンジなのは、新しい分野へと拡大する任天堂を戦略を支えるだけの人材を揃えられるかどうかだ。SCEやMicrosoftと異なり、人的リソースを急増しマネージすることが苦手と言われる任天堂にとって、ここが最も高いハードルとなりそうだ。

●Wiiははたして一過性のブームなのか

 勢いに乗る任天堂に対して、SCEとMicrosoftの2社は、明言こそしないが、Wiiの勢いが一時的なブームに過ぎない可能性があると見ている。正確には「ブームに過ぎなかったらいいな」と、期待している。それは2社だけの見方ではない。調査会社の予測などでも、Wiiの伸びが鈍化して、3社が並ぶという見方は少なくない。

 例えば、iSuppliが今年(2008年)2月に発表した「Wii Shall Overcome Casual gamers boost Nintendo's game console to installed-base lead but PS3 coming on strong」では、5~6年目に当たる2011年には、3社が3,000万台で市場を分け合うと予測している。PS3が3,840万台、Wiiが3,770万台、Xbox 360が3,230万台の予測だ。この調査で言及しているのは、累積出荷ではなく、稼働しているインストールドベース台数であり、Wiiは出荷台数のうち稼働しなくなる分が多いと見ている可能性がある。

 3社が鼎立するという見方は、ゲーム市場でのこれまでの“常識”だった「勝者総取り(Winner takes all)」の原則に反するように見えるかもしれない。しかし、ゲーム業界の別な“常識”と照らし合わせると、こうした予想が妥当に聞こえる。1つは“製造コストと価格の常識”だ。

 実は、Wiiは製造コストでは “最も不利な”ハードだ。3ハードでは、Wiiが最も製造コストが低い。ところが、そのことが逆に不利に働く。現状で製造コストが高いPS3とXbox 360は、半導体技術の進歩によって製造コストを削減できるヘッドルームが大きいためだ。

●製造コストをより大きく削減できるPS3とXbox 360

IBMで製造されるWiiのプロセッサ「Broadway」

 巨大チップで製造をスタートしたPS3とXbox 360は、半導体プロセス技術の進歩に従って製造コストがどんどん下がる。チップのダイサイズ(半導体本体の面積)は世代毎に最大50%に縮小し、さらにチップ同士が統合されることでチップ個数も減る。消費電力もある程度は低減して行くため、廃熱ユニットと電源のコストも圧縮できる。その結果、PS3とXbox 360は、世代を重ねるにつれて急激なコスト削減が可能になり、価格の引き下げが可能となる。PS1とPS2がそうであったように、筐体サイズの縮小も可能になる。

 それに対して、当初からチップサイズが小さく電力消費の小さなWiiは、半導体プロセス技術の進歩による製造コスト削減の効果が小さい。チップは、小さくできる限界があるからだ。インターフェイスと電源のパッドのために、一定の面積とエッジ長が必要となるため、一定以下のチップサイズにはできない。そのため、Wiiの製造コスト削減カーブは、PS3やXbox 360より緩やかなものにならざるを得ない。売れているWiiの場合は、スケールメリットを出しやすいが、それでも、製造コスト削減の幅はPS3やXbox 360の方が大きいだろう。

 もちろん、PS3とXbox 360が、Wiiより製造コストを下げることは、ほぼ不可能だ。しかし、差は現在よりずっと圧縮される。そのため、PS3とXbox 360も、将来的には価格である程度はWiiと戦えるようになる。そして、価格差が縮まれば、ゲーム機の“常識”の上で最も重要なフィーチャであるグラフィックスなど、コンピュータハードとしての機能で、Wiiに大差をつけるPS3とXbox 360が、Wiiを圧倒するようになると考えるのも自然だ。

 Wiiには、PS3やXbox 360のようなシェーダグラフィックスもHDTV解像度もない。プロセッシングパフォーマンスも低くメモリ量も限られている。言ってみれば、1世代古いハードだ。ハードウェアの機能面で世代が異なれば、新世代機が有利になると考えるのが、ゲーム機の“常識”だ。

●予想を覆し衰えなかったDSの勢い

 このように、ゲーム業界や半導体の“常識”に照らし合わせると、数年のうちにはWiiの勢いが止まり、PS3とXbox 360が伸びて、3ゲーム機が鼎立するようになるという予測も、それほど不自然なく導き出される。だが、そうした予測が、全てこれまでのゲーム市場の“常識”をベースにしていることも確かだ。つまり、任天堂が言うように、現在進行しているのが真のパラダイムシフトで、従来の常識が通用しない世界に入ったとするなら、こうした予測は無意味となるかもしれない。Wiiが継続して台数を積み上げ続け、PS2よりハイペースに1億台を突破、プラットフォームとしてダントツの1位の座を固めるかもしれない。任天堂が、パラダイムシフトを強調する理由はここにある。

 現状ではどうかというと、Wiiの台数が積み上がるに従って、Wiiがブームに過ぎないという、他社の期待は薄らぎつつある。少なくとも、今のところはWiiの勢いが止まる気配は見えない。また、先行するDSが、ゲーム業界の常識を破り続けていることも、任天堂の主張に現実性を与えつつある。

 DSもまた、一過性のブームであると言われ、勢いが弱まると予測されていた。DSは発売から1年半ほどはPSPと拮抗していたが、「脳トレ(脳を鍛える大人のDSトレーニング)」が起爆剤となり、実用とゲームの狭間を突いたカジュアル&シリアスなタイトルが揃うにつれてブレイクした。しかし、こうした勢いは一過性のブームであり、2008年には沈静化して勢いが衰えるだろうという見方もあったという。

 Nintendo of AmericaのReggie Fils-Aime氏は「過去の販売実績に捕らわれる人は、2007年がDSのピークイヤーだろうと言っていた。しかし、DSは今年(2008年)に入っても売れ続けており、昨年(2007年)実績を12%も上回っている」と説明する。

 現在のDSは、依然として好調で、息切れするという予測を覆す勢いで伸びているという。累計では、DSは過去2年弱でPSPを引き離した。3年目を終え4年目に入った41カ月時点の今年(2008年)3月末の段階で累計7,060万台。「来年3月までの今会計年度中に1億台に達する見込み」(Fils-Aime氏)という(昨年度決算時の予想は9,860万台)。ちなみに過去の携帯ゲーム機は、ゲームボーイファミリが累計で1億1,869万台、ゲームボーイアドバンスが累計で8,106万台。DSの出荷ペースは、過去2世代を大きく凌駕しており、4,000万台に達したSCEのPSPと較べても80%増しのペースだ。DSはPS2のペースも上回っている(40カ月の時点で5,385万台)。

●数の力を背景に汎用利用へと広がりを見せるDS

 このように、今のところDSも勢いが止まりそうにない。そのことは、任天堂の言うパラダイムシフトが本物である可能性を高めている。もし、WiiがDSと同じパラダイムシフトをもたらすなら、WiiがDSの成功の方程式を踏襲する可能性が高い。WiiもDSと同様に、今のところ息切れする気配は見せていない。Fils-Aime氏は、調査会社NPDのデータでは、最も売れているゲーム機がWiiとDSであると指摘。「今週(カンファレンス週)に発表されるNPDの6月のデータで、Wiiが最も売れている最新世代であったとしても驚かないだろう(実際にトップ2は任天堂のWiiとDSだった)」と語った。

 また、任天堂のカンファレンスでは、DSの利用がゲームを超えて広がりつつあることも示された。Nintendo of AmericaのCammie Dunaway氏(Executive Vice President, Sales & Marketing)は、空港で無線LANを使って、乗り継ぎ便情報などを配信するといったサービスがテストされていると説明。また、シアトルでは、シアトル・マリナーズの本拠地セーフコ・フィールド(Safeco Field)球場で、DS向けに無料の無線LANサービスを提供。観客が、他の球場の試合のスコアをチェックしたり、トリビアクイズに挑戦したり、球場内で売っているイチロール(イチローの名前がつけられた巻き寿司)などの注文ができると説明した。

 Nintendo of Americaの本拠のシアトルはともかく、他のエリアでもサービスが広がって行くのなら、DSの汎用化の動きが本格化することになる。その路線がうまく行くなら、ゲーム機の汎用化で重要なことは、コンピューティングパフォーマンスではなく、数の力を背景にしたサービスの充実ということになる。

 任天堂がずるいのは、DSやWiiの活用が伝統的ゲーム以外へ広がることを「ゲームが広がる」と表現することだ。SCEなどがゲーム以外にも広げると謳うのに対して、任天堂は同じことをゲームが広がると語る。そのため、イメージ的には任天堂は、依然としてゲームという枠組みを守る会社に見え、ゲーム機がゲームから離れることを警戒するゲーマーの支持も得ることができる。

 しかし、表現はどうあれ、DSは、7,000万という膨大な物量を背景に、汎用化へと歩み始めていることは確かだ。Wiiが数で征するなら、同じ図式が繰り返される可能性がある。そうなると、パラダイムシフトはますます進み、任天堂のゲーム機は、ゲーム以外でも、さまざまなサービスが利用できるからと使われるようになり、汎用的なコンピュータへと、より近づくことになる。

●SCEとMicrosoftもそれぞれパラダイムシフトを目指す

 パラダイムシフトを主軸に据えた任天堂のWii/DS戦略。しかし、他の2社の戦略を見ると、実はSCEとMicrosoftもゲーム機のパラダイムシフトを目指していることがわかる。SCEはコンピュータとして高性能でフレキシブルなハードを作ることで、閉じたゲーム機の枠を壊し、新しいエコシステムをくみ上げるというパラダイムシフトを目指していた。Microsoftは、ゲーム機に高度なプログラミングフレームワークを構築し、誰もが自分に合ったレベルでプログラムできる環境を作ることで、作り手側のパラダイムシフトを目指している。2社とも、任天堂とは違う部分でパラダイムを変えようとしている。

 その意味では、今回のゲーム機は、パラダイムシフト戦争、つまり、誰がパラダイムシフトを起こすことができるか、という戦争でもある。パラダイムシフトに成功したものが勝者となるのが、今世代のルールだ。

 構想段階では、パラダイムシフトに一番近いように見えたのはPS3だった。実際、SCEを率いていた久夛良木健氏は、インタビューの中で、PS3のCellコンピューティングによってパラダイムシフトを起こすと語っていた。皮肉なことに、パラダイムシフトは、もともとはPS3を修飾する言葉だった。

 オリジナルのPS3構想では、PCより1桁強力なプロセッシングパフォーマンスの上に、PCライクなオープンなプログラミング環境を用意、その上で、非ゲームアプリケーションを含めたソフトウェアビジネスが花開くエコシステムを組み立てることになっていた。この構想が成立していれば、DOS/Windows PCやMacintoshの上で多様なアプリケーションが花開いたように、PS3の上で多様なアプリケーションが花開き、コンピューティングパラダイムが切り替わった。

MicrosoftのXbox 360 SCEのPLAYSTATION3

 それがうまく行かなかったのは、SCEの体制がついて行かなかったためだ。PS3では、ソフトウェア層の準備が遅れた。汎用(非ゲーム用)OSの標準搭載と、ハイパーバイザー上でのゲームOSとのシームレスな結合化といった構想も消えていった。コンピュータ屋としての経験に足りないという弱点のために、PS3はビッグビジョンを具現化することがうまく行かなかった。

 一方のMicrosoftは、デベロッパコミュニティに対してプログラミングのパラダイムシフトを起こそうとしている。パラダイムシフトという言葉は使わないが、ゲーム機のプログラミングを根本から変えようとして来た。

 プロフェッショナルデベロッパには、優秀なツールと整備されたAPIと系統だったフレームワークを提供。容易にハードウェアの性能を引き出すことができるようにする。アマチュアや準プロフェッショナルデベロッパに対しては、容易なプログラミング環境を提供。素人でも手軽にXbox 360向けのプログラムを書けるようにし、そうしたプログラムを配給するための土台も提供する。そうしたプログラミングフレームワークは、ハードウェアを抽象化したランタイムベースで提供。Xbox 360とWindows PC以外のハードウェアへの移植の可能性も拓く。

 こうしたMicrosoftの試みは、成功しつつあるが、変革が直接影響するのは、プロ&アマデベロッパという、相対的に小さな人口なので目立たない。特に、ホリデープログラマの人口が相対的に少ない日本では、インパクトが小さい。そして、作り手のパラダイムが変わった成果としての、エンドユーザーソフトウェアの変化が目立ち始めるには、かなりのタイムラグがあるだろう。

 任天堂のビジョンは、ゲーム業界だけでなく、コンピュータ業界全体にとって示唆的だ。なぜなら、ゲーム以外の分野でも、同じ狭量な常識に捕らわれ、パラダイムシフトへと開けない状況がありえるからだ。例えば、現在のPCのあり方も、狭いPCの常識に捕らわれて、パラダイムシフトができない状況にあるのかもしれない。

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【7月28日】【海外】SCEの消極的なPS3出荷計画とPS2を10年保たせるビジョン
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0728/kaigai455.htm
【7月24日】【海外】利益を上げ始めたXbox 360が練る対Wii戦略
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0724/kaigai454.htm

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(2008年7月31日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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