ソニーは、モバイルノートの新モデル「VAIO type Z」シリーズを発表した。13.1型ワイド液晶を搭載する、モバイル性重視のモデルながら、A4ノートと同等のハイスペックパーツを詰め込んだ、非常に魅力的なモデルとなっている。今回、スペックを自由にカスタマイズできるVAIOオーナーメードモデルである「VGN-Z90US」をいち早く試用できたので、スペック面や使い勝手などを紹介しよう。 ●起動中にGPUとIGPをスイッチ1つで切り替えられる VAIOシリーズのモバイルノートブランドである「VAIO type S」シリーズには、一般市販モデルや、スペックを自由にカスタマイズできるVAIOオーナーメードモデルに加え、カーボンファイバー製のボディを採用することで薄型化や軽量化を追求した高付加価値モデル「プレミアムバージョン」が存在していた。今回紹介するVAIO type Zは、2008年夏モデルから追加された新シリーズではあるが、実質的にはVAIO type S プレミアムバージョンの後継モデルと考えていい。実際に、VAIO type S プレミアムバージョンを彷彿とさせる特徴が随所に見られる。 VAIO type Zのさまざまな特徴の中で、特に注目される存在となっているのが、「ダイナミック・ハイブリッドグラフィックス」だ。これは、VAIO type Sにも搭載されていた、外付けGPUとチップセット内蔵グラフィック(IGP)を切り替えて、描画パフォーマンス優先モードとバッテリライフ優先モードとを使い分ける「ハイブリッド・グラフィックシステム」を進化させたものだ。 従来のハイブリッド・グラフィックシステムも、GPUとIGPを切り替える機能だが、切り替え時にはマシンの再起動が不可欠だった。それに対し、VAIO type Zのダイナミック・ハイブリッドグラフィックスでは、マシンを利用しながら動的にGPUとIGPの切替ができるようになっている。 GPUとIGPの切替は、キーボード上部に用意されているスイッチを利用する。「SPEED」にするとGPUに、「STAMINA」にするとIGPに切り替わることになる。実際の動作は、スイッチを切り替えると即座にGPU/IGPが切り替わるのではなく、スイッチ切り替え後にデスクトップに確認メッセージが表示され、「OK」ボタンを押した後に切り替わることになるため、スイッチの誤操作によるトラブルも心配ない。 また、STAMINA設定時には、グラフィック機能がIGPに切り替わるだけでなく、液晶の輝度を落としたり、電源オプションの「プロセッサの電源管理」が最大50%に設定されるなど、バッテリ駆動時間を重視した省電力設定モードへ自動的に切り替わる。GPU/IGP切替スイッチだけで、GPU/IGPの切り替えだけでなく、省電力設定も簡単に切り替えられる点は、非常に利便性に優れており魅力が大きい。 搭載されている外部GPUは、NVIDIA GeForce 9300M GSで、専用ビデオメモリも128MB(液晶解像度がWXGAの場合)または256MB(液晶解像度が1,600×900ドットの場合)搭載される。ハイエンドクラスの3D描画能力が得られるわけではないものの、後で紹介するベンチマークテストの結果を見てもわかるように、モバイル性重視のマシンとしては突出した3D描画能力を誇っていることは間違いない。
●アスペクト比16:9の13.1型ワイド液晶を搭載 VAIO type Zに搭載される液晶パネルは、13.1型ワイド液晶と、VAIO type S プレミアムバージョンよりも若干ながら小さくなっているが、サイズ以外にも大きな変更点がある。それは、アスペクト比16:9の液晶パネルを採用している点だ。 一般的に、ワイド液晶を搭載するノートPCでは、アスペクト比16:10の液晶パネルを採用することが多い。VAIO type S プレミアムバージョンでもそうだった。もともと、ノートPC用の16:9の液晶パネルがほとんど存在しなかったということも理由として考えられるが、ビジネスシーンでの利用を考えると、できるだけ縦の解像度に余裕が必要になるため、従来は特に問題視されることはなかった。 しかし、PCでHDコンテンツを扱うことが増え、HDクオリティの動画を再生する場合などに画面上下にすき間ができるなど、不都合が指摘されることが多くなっていたのも事実。それに対応するように、2008年に入ってアスペクト比16:9の液晶を搭載するノートが登場し始め、ソニーでも、VAIO type ZやVAIO type Fなど、AV用途にも対応できるノートにアスペクト比16:9の液晶パネルの採用を決断したのだろう。 VAIO type Zに搭載される液晶パネルの解像度は1,366×768ドットが基本だが、VAIOオーナーメードモデルでは1,600×900ドットの液晶パネルも選択可能となる。今回試用したマシンでは、1,600×900ドット表示のパネルが搭載されていたが、アイコンや文字が小さく表示されて見づらいといった印象を受けることはなかった。 また、非常に明るいだけでなく、鮮やかな発色を実現している点も特筆すべき部分だ。VAIO type Zに採用されている液晶パネルは、色再現領域がNTSC比約100%に拡大しており、画像・映像コンテンツも鮮やかに表示可能とされている。実際に、HD動画を再生させてみたが、ノートPCの液晶とは比較にならないほど鮮やかな映像が表示された。液晶TVのハイエンドモデルで地上デジタル放送やBSデジタル放送のハイビジョン映像を表示させたような鮮やかさが実現されている、と言うとわかりやすいかもしれない。これなら、AV用途にも余裕で対応できるだろう。 さらに、パネル表面に反射を抑える加工が施されている点も見逃せない。いわゆるノングレア処理が施されているのではなく、パネル表面で反射する光を拡散させる処理が施されている。ある程度の映り込みはあるものの、光沢パネルのように映り込みがくっきり確認できるということはなく、ぼやけたように見えるため、映り込みがあまり気にならないのである。実際に天井の照明を写り込ませたり、暗い場面で自分の姿の映り込みを確認してみたが、どちらも写り込んだ像がぼやけて見えるため、光沢パネルのようなイライラを感じることはなかった。とにかく、光沢パネルの鮮やかさと、ノングレアパネルの映り込みの少なさを両立させた、非常に魅力的な液晶パネルと言える。
●薄型・軽量ボディにA4ノートに匹敵するハイスペックを詰め込む VAIO type Zは、VAIO type S プレミアムバージョンの流れをくむ、携帯性に優れた薄型・軽量ボディを実現していながら、A4ノートに匹敵するハイスペックパーツを惜しげもなく詰め込んでいる。 まず、基本スペックを確認していこう。CPUは、Core 2 Duo P8400(2.26GHz)/P8600(2.40GHz)/P9500(2.53GHz)およびCore 2 Duo T9600(2.80GHz)の4種類から選択可能(試用機では、Core 2 Duo T9600が搭載されていた)。このうち、Core 2 Duo PシリーズはTDPが25Wなので、バッテリ駆動時間を重視する場合にはこれらからの選択がおすすめ。また、Core 2 Duo P9500/T9600はL2キャッシュ容量が6MBなので、パフォーマンス優先ならこちらだ。 チップセットは、Intel GM45 Expressを採用。内蔵グラフィック機能は「GMA X4500HD」で、先述のように、外部GPUであるNVIDIA GeForce 9300M GSと切り替えて利用できる。メインメモリは、DDR2ではなくDDR3を標準採用することで、パフォーマンスと省電力性の双方を高めている。PC3-8500 DDR3 SDRAM(1066MHz動作)を最大4GB搭載できる。メインメモリ用のSO-DIMMスロットは2基用意されており、試用機では2GBのDDR3-1066 SO-DIMMモジュールが2枚搭載されていた。 CPUにFSB 1,066MHz対応のCore 2 Duo、チップセットにIntel GM45 Expressをそれぞれ採用するとともに、無線LANモジュールとしてIEEE 802.11nドラフト2.0対応の「Intel Wireless WiFi Link 5100」を採用しており、インテルの新モバイルプラットフォーム「Centrino2」に準拠する。 次に本体サイズだ。フットプリントは、314×210mm(幅×奥行き)と、VAIO type S プレミアムバージョンと比較して横幅はほぼ同じながら、奥行きが24mmほど短くなっている。これは、縦の幅が狭いアスペクト比16:9の液晶パネルを採用しているからだ。また、高さは24.5~33mmとなっている。こちらはVAIO type S プレミアムバージョンと比較して最薄部で2mmほどの増加となってはいるものの、特徴である薄型ボディにほぼ変更はないと考えていい。 ボディ素材には、VAIO type S プレミアムバージョン同様、液晶パネル天板部分およびボディ底面にカーボン素材を採用。しかも、天板部分は従来の5層よりも強度の高い6層板を採用するとともに、底面も2辺折りとすることで、従来よりも堅牢性を向上させている。もちろん、カーボン素材の採用はボディの軽量化にも貢献しており、最低重量は約1.35kgと、VAIO type S プレミアムバージョンからの大幅な軽量化も実現している。今回試用した構成(1,600×900ドットの液晶パネル、SSDのRAID構成、4GBのメモリ、DVDスーパーマルチドライブ、標準バッテリ)での重量実測値は1,392gであった。 ちなみに、本体素材は全面がカーボン素材ではない。キーボード面だけは、アルミニウムの1枚成形となっている。アルミニウムはカーボンよりも重量が重いため、軽量化という点ではマイナスになるが、重厚な光沢感があるとともにつなぎ目のないキーボード面は、高級感にあふれている。キーボード面にアルミニウムを採用したのはデザイン性を重視してのことのようだが、実際に本体を見ると、この判断は正解だと感じる。
●SSD2台をRAID 0構成で搭載し、非常に高速なアクセス速度を実現 ストレージデバイスは、2.5インチHDDを搭載するのが基本となるが、VAIOオーナーメードモデルでは、容量64GBのSSDを選択することも可能。しかも、最大2台の64GB SSDを搭載し、さらにそれらをRAID 0(ストライピング)構成で利用することによって、非常に高速なディスクアクセス速度を実現することも可能となっている。実際に、今回試用したマシンはSSDのRAID構成が実現されていた。 搭載されているSSDは、Smasung製の「MCBQE64G」が2基で、サウスブリッジにあたる「ICH9M-E」が持つSATA RAID機能によってRAID 0構成が実現されている。パフォーマンスを、「Crystal DiskMark V2.1」を利用して計測してみたところ、シーケンシャルリードで177.7MB/sec、シーケンシャルライトで161MB/secと、圧倒的な速度を実現していることが確認できた。これだけの速度が実現されていれば、ディスクアクセスの多い作業も非常に快適にこなせるだろう。 ただし、SSDを搭載するにはそれなりのコストもかかる。標準となる200GB HDDとの比較では、64GB SSD1基搭載時で75,000円、64GB SSD 2基のRAID構成時で164,000円の価格アップとなる。これだけのコスト差を考えると、なかなか選択しづらいのも事実だが、SSDには駆動部分が一切なく衝撃に強いというHDDにはないメリットもあり、ビジネス用途で利用することを考え、性能や信頼性を重視したいなら、このコスト増でもSSDの搭載をお勧めしたい。
●光学式ドライブにはBlu-rayドライブも選択可能 では、その他の仕様を確認しておこう。 本体内蔵の光学式ドライブは、DVDスーパーマルチドライブが基本だが、VAIOオーナーメードモデルではBlu-ray Disc(BD)ドライブも選択できる。BDの読み出しだけでなく書き込みにも対応したドライブで、AV用途を重視するならBlu-rayドライブの選択がお勧めだ。ただし、ストレージデバイスにSSDを選択した場合にはBlu-rayドライブは選択できなくなるので注意したい。 ネットワーク機能は、Gigabit Ethernet対応の有線LANを標準搭載するとともに、IEEE 802.11a/b/g/nドラフト2.0対応の無線LAN(インテル Wireless WiFi Link 5100)、Bluetooth 2.0+EDR、ワイヤレスWAN(NTTドコモ FOMA HIGH-SPEED対応)の搭載が可能だ。ちなみに、無線機能は、本体前面のスライドスイッチでまとめてON/OFFが行なえるのに加え、オリジナルツール「VAIO Smart Network」で個別にON/OFFを行なうことも可能だ。 拡張性は、本体左側面にExpressCard/34スロットを1スロット用意するとともに、USB 2.0×2およびIEEE 1394が用意されている。USB 2.0が本体左右に1個ずつというのは少々物足りないが、Bluetoothを搭載することである程度は補えるため、大きな問題はないだろう。本体前面には、メモリースティックスロットとSDカードスロットがそれぞれ独立して搭載されている。 映像出力端子は、アナログRGB(ミニD-Sub15ピン)に加えて、標準でHDMI端子を備えており、HDMI端子を持つディスプレイや大型テレビに接続して映像を楽しめる。特にHDMI接続時にはフルHD出力も可能となるため、Blu-rayなどのフルHDコンテンツもクオリティを落とすことなく楽しめる。 キーボードは、キーの間隔を広めに取ったアイソレーションキーボードを採用する。一般的なキーボードとはかなり異なる形状で、電卓のボタンのような見た目もあって、やや使いづらいのでは、と感じるかもしれない。しかし実際には、キー自体のぐらつきなどは一切なく、適度な堅さやクリック感があり、ストロークも約2.5mm確保されているため、一般的なキーボードと遜色のない使い心地が実現されている。実際に量販店で触って確かめてみることをお勧めするが、アイソレーションキーボードでも操作性は全く問題ないと考えていい。 ポインティングデバイスは、パッド式のインテリジェントタッチパッドを採用。スクロール機能を搭載する一般的な仕様のもので、操作性も申し分ない。クリックボタン中央には指紋認証センサーが搭載されるが、これはオプション扱いだ。同様に、タッチパッド右にFeliCaポートもオプションで搭載可能となっている。
●携帯性・スペックどちらにも妥協のないモバイルノートを探している人にお勧め では、ベンチマークテストの結果を紹介していこう。利用したベンチマークソフトはFuturemarkの「PCMark05 (Build 1.2.0)」と「3DMark05(Bulid 1.3.0)」、「3DMark06(Build 1.1.0)」、スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」のいつもの4種類に加え、Futuremarkの「PCMark Vantage(Build 1.0.0)」も利用した。Windows Vistaに用意されているパフォーマンス評価の結果も加えてある。そして、それぞれをSPEEDモードとSTAMINAモードで実行した。ただし、STAMINAモードでもCPUのパフォーマンスがフルに発揮されるように、電源プランは「高パフォーマンス」に設定して計測を行っている。また比較のために、筆者がメインのノートとして利用しているFMV-BIBLO MG/A75Nの結果も掲載しておく。 結果は、VAIO type Zの優れたパフォーマンスが一目瞭然となっている。SPEED設定時には、3D描画能力も含め非常に優れた結果が得られている。これなら、3D描画のゲームも快適に利用できるはずだ。また、STAMINA設定時でもパフォーマンスの低下がそれほど大きくない点は嬉しい。GMA X4500HDの3D描画能力も比較的高く、全体的なパフォーマンスのバランスはSTAMINA設定時でも申し分ない。
次に、バッテリ駆動時間を計測してみた。測定は、解像度1,280×720ドット、ビットレート4.66MbpsのWMV9ファイルを連続再生させることで行なった。まず、SPEEDとSTAMINAの双方で、省電力機能を切ってフルパワーが発揮される状態にして、無線LANおよびBluetoothもONの状態で測定。次に、液晶の輝度を最低から3段階目の状態にまで落とし、電源プランを「省電力」に設定した状態(プロセッサの電源管理は最小5%、最大50%)と、STAMINAでの標準省電力設定を再現したうえで、無線LANとBluetoothをともにOFFにして、こちらもSPEEDとSTAMINAの双方で計測を行った。 結果を見ると、フルパワー時ではSPEEDで約1時間49分、STAMINAで約2時間7分と、さすがにかなり短い数字だった。それに対し、省電力設定時には、SPEEDで約2時間42分、STAMINAで約3時間29分と、かなりの延長を確認した。とはいえ、どちらも、標準バッテリーパックを利用した場合のバッテリ駆動時間のカタログ値である約7.5時間~約11時間という数字からはかなりの開きがあり、かなり物足りなさを感じてしまう。 ただ、今回試用した評価機は、CPUにTDP 35WのCore 2 Duo T9600を搭載するとともに、64GB SSD2基でのRAID構成となっていたこともあり、バッテリにとって最もきびしいスペックである。しかもHDクオリティのWMV9ファイルの連続再生と、条件はかなり過酷だったことを考えると、納得できる範囲内だろう。もちろん、「オプションの大容量バッテリーパック(L)」を利用すればさらなる延長も可能で、モバイル性を重視する人も十分満足できるはずだ。 ■バッテリ駆動時間
このように、VAIO type Zは、スペック面はもちろんモバイル性にも死角がほとんどなく、まさに究極のモバイルノートと言ってもいいほどの魅力を備えている。SSD搭載時には価格がかなり高くなってしまうものの、最小構成時で199,800円、試用機とほぼ同じ仕様でも、ストレージデバイスを5,400rpm 200GB HDDにすると275,800円となり、価格面でも納得できる範囲内に収まる(ちなみに、試用機の構成では439,800円)。携帯性とマシンスペックどちらにも妥協のないモバイルノートを探している人に、自信を持ってお勧めしたい。 □ソニーのホームページ (2008年7月30日) [Reported by 平澤寿康]
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