MemCon 2008レポート
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MemCon 2008のロゴ |
会期:7月21~24日(現地時間)
会場:米国カリフォルニア州サンタクララ
Hyatt Regency Santa Clara
半導体メモリに関する講演会「MemCon 2008」では、フラッシュメモリの大手ベンダーであるSpansionが気を吐いていた。23日にフラッシュメモリの将来を展望する講演で同社のフラッシュメモリ技術「MirrorBit」の優位性を強調し、前日の22日にはDRAMの置き換えを狙うフラッシュメモリ技術「EcoRAM」の内容を一部明らかにした。本レポートでは、Spansionによる2件の講演の概要を紹介する。
SpansionのField Engineering & Corporate Strategic Marketing担当のバイスプレジデントを務めるDan Byers氏 |
23日の講演者は、SpansionのField Engineering & Corporate Strategic Marketing担当のバイスプレジデント、Dan Byers氏である。同氏はまず、DRAMとNORフラッシュメモリ、NANDフラッシュメモリの基本的な違いをおさらいした。記憶容量当たりのコスト(ビットコスト)は高い順からDRAM、NOR、NANDとなっている。言い換えれば、NANDフラッシュメモリのビットコストが最も低い。
DRAMは、データを読み書きする速度が圧倒的に速い。したがってDRAMはプログラムコードの実行メモリにもデータの格納メモリにも適する。ただし不揮発性ではない(電源を切るとデータが消えてしまう)ことと、データを一定間隔で再書き込みするリフレッシュ動作が必要なために消費電力が高くなってしまうことが弱点である。
NORフラッシュメモリは不揮発性である(電源を切ってもデータが消えない)ことと、データの読み出し速度が比較的速いことを特長とする。このため、プログラムコードの格納メモリおよび実行メモリに適している。ただしデータの書き込み速度が遅いので、頻繁なデータ書き換えを要する用途には向かない。
NANDフラッシュメモリは不揮発性であることと、ビットコストが低いことを特長とする。またNORフラッシュメモリに比べると、データの書き込み速度が速い。このため、音楽データや映像データといったメディアデータ(またはストリーミングデータ)の格納に適している。ただし、ランダムにデータを読み出すときの速度は低い。
フラッシュメモリがデータを記憶する技術には、大別すると2通りある。フローティングゲート技術とチャージトラップ(電荷捕獲)技術である。これらの技術は、NORフラッシュかNANDフラッシュかは関係ない。どちらの技術でもNORフラッシュとNANDフラッシュを実現できる。
フラッシュメモリ製品に現在普及している技術は、フローティングゲート技術である。チャージトラップ技術を採用しているフラッシュメモリベンダーは少なく、その代表がSpansionである。同社は「MirrorBit技術」と呼称するチャージトラップ技術のフラッシュメモリを製品化している。
とは言うものの、Spansionはフローティングゲート技術のフラッシュメモリも製品化しており、最近まで同社におけるNORフラッシュメモリの売上高は、MirrorBit技術よりもフローティングゲート技術の方が多かった。ただしMirrorBit技術の比率は現在では大半を占めており、今後しばらくはSpansionにおけるフラッシュメモリ技術の主役がMirrorBit技術であることは間違いない。
SpansionのByers氏は講演で、半導体製造技術の微細化に対してMirrorBit技術(およびチャージトラップ技術)は20nm程度の加工寸法まで対応できることが見えているのに対し、フローティングゲート技術は32nm以降の加工寸法に対応できるかどうかが見えていないと主張した。
その大きな理由は、トランジスタ構造の違いにある。フローティングゲート技術は電気的に浮いているゲート(フローティングゲート)の上に制御ゲートを重ねた構造のトランジスタを使う。フローティングゲートに電荷を蓄える。ゲート電極が2つ重なった積層構造となっているため、ゲートがある程度の高さになる。ここで隣接するトランジスタの間隔が微細化によって狭くなると、隣接トランジスタ間の電気的な結合がデータの読み書きを妨げるようになる。
これに対してチャージトラップ技術は、ゲート電極が一層しかない。ゲート絶縁膜に形成した電荷捕獲(チャージトラップ)領域に電荷を蓄えてデータを記憶する方式である。このため微細化しても、隣接トランジスタ間の電気的な結合が少ない。
フローティングゲート技術のトランジスタ構造(左)とMirrorBit技術のトランジスタ構造(右) | フローティングゲート技術のトランジスタの断面写真(左)とMirrorBit技術のトランジスタの断面写真(右)。橙色の部分が隣接トランジスタ間で電気的に結合する領域 |
それでは20nm以降の微細化には、どのようなメモリ技術で対応するのか。現在、次世代メモリ技術の候補として相変化メモリ(PCM)や抵抗変化メモリ(ReRAM)、磁気スピンメモリなどがメモリベンダー各社によって研究されている。Spansionは抵抗変化メモリを次世代メモリの候補と考え、研究を進めているとした。なお相変化メモリ(PCM)はMirrorBit技術のNORフラッシュメモリに比べてセル面積が大きくなるため、次世代メモリ技術には適さないと付け加えていた。
抵抗変化メモリ技術(RCT)の理想と現状 | 相変化メモリ(PCM)とMirrorBit技術NORフラッシュメモリのセル面積の比較(相対値)。加工寸法の違いがあるので、正確な比較ではないことに注意されたい |
●データセンターの検索サーバーでDRAMを置き換え
続いてデータセンター向けフラッシュメモリ技術の講演概要を報告しよう。講演者は、SpansionでDirector of Corporate Marketingを務めるJohn Nation氏である。
Spansionは2008年6月24日(米国時間)にデータセンター向けフラッシュメモリ技術「EcoRAM」を報道機関向けに発表した。MemCon 2008は、その内容を初めて公表する機会となった。
「EcoRAM」の狙いは非常に明快である。データセンターでは、磁気ディスクや光ディスクなどに大量のデータを記憶している。そのデータを検索するためのインデックスを記憶しておくサーバー(検索サーバー)には、ディスクよりもはるかに高速なDRAMが記憶媒体として使われている。このDRAMをフラッシュメモリで置き換えることによって、検索サーバーの消費電力を下げようというのが狙いである。
23日の講演にもあったように、DRAMにはリフレッシュ動作があるので、基本的に消費電力を下げづらい。消費電力によって検索サーバーの記憶容量が制限されかねない。Nation氏の講演によると、10Wの平均消費電力で維持できるDIMMの記憶容量は、DDR2 DRAMベースだと4GBである。これが「EcoRAM」技術では、同じ消費電力で記憶容量が8倍の32GBに増えるとする。
ここで気になるのは、フラッシュメモリの書き換え速度がDRAMよりもはるかに遅いことだ。「EcoRAM」技術では専用のメモリコントローラ技術によってこの欠点を補っている。開発パートナーであるVeridentが開発したメモリコントローラ技術「Green Gateway」で、コントローラLSIとソフトウェアで構成される。
「EcoRAM」技術で試作したDIMMボードにおける測定では、DRAMに比べ、待機時消費電力が14%、動作時消費電力が19%ときわめて低い水準に抑えられた。また、処理性能はDRAMの84%が出ているとした。なお「EcoRAM」技術のフラッシュメモリにはMirrorBit技術を使用しているものの、詳細は公表されていない。また「Green Gateway」技術の内容についても公表は避けた。
「EcoRAM」技術で試作したメモリシステムの外観 | 「EcoRAM」技術で試作したメモリシステムの消費電流。DRAMで試作したメモリシステムの消費電流を併せて示した。緑色が「EcoRAM」技術、橙色がDRAM技術 | 「EcoRAM」技術とDRAM技術のメモリシステムの処理性能を比較。緑色が「EcoRAM」技術、橙色がDRAM技術 |
□MemCon 2008のホームページ(英文)
http://www.denali.com/en/memcon/2008/
□Spansionのホームページ
http://www.spansion.com/jp/
□Veridentのホームページ(英文)
http://www.virident.com/
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【7月24日】【MemCon】携帯電話機を分解して半導体メモリの搭載状況を分析
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0724/memcon03.htm
【7月23日】【MemCon】DRAM縮小、NANDフラッシュが伸び悩むメモリ市場
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0723/memcon02.htm
【7月22日】MemCon 2008前日レポート、DRAMやNANDフラッシュ、SSDなどの将来を議論
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0722/memcon01.htm
(2008年7月25日)
[Reported by 福田昭]