AMDが7月1日に発表した、Phenom最高クロック製品となる「Phenom X4 9950 Black Edition」。旧モデルとの違いを中心に、ベンチマーク結果をお伝えする。 ●動作クロックは2.6GHz。TDPは140Wへ
まずは、簡単にPhenom X4 9950 Black Editionのスペックをまとめておきたい(表1)。基本的には前最上位モデルとなるPhenom X4 9850 Black Editionでは12.5倍だった倍率を、13倍へアップ。動作クロックにして100MHz上昇させたモデルとなる。 熱設計面では変更が大きい。まず、もっとも大きなポイントとなるのはTDPが140Wへ上昇した部分で、シングルプロセッサ環境向けCPUとしては、過去最大級のTDPが設定されていることになる。CPUへ供給すべき電力も増すことになるため、対応マザーボードが問われることになる。すでに大手マザーボードメーカー各社は、140W TDPの本製品への対応表をリリースしているので参考にすべきだ。 もちろん、クーラーに対する要求も高まると考えて良いが、T.Case値も見直されているので、従来製品よりも多少は高い温度も許容される。 製品のOPNは「HD995ZFAJ4BGH」。末尾のGHが示す通り、Phenom X4 9850 Black Editionと同じ、B3リビジョンのコアを使用。CPU-Zで見る限り、動作電圧も大きな違いはなく、TDPのイメージほど使いにくいCPUではなさそうというのが率直な印象だ。
【表1】Phenom X4 9950 Black Editionの仕様
●9850からのパフォーマンスアップはいかほどか それでは、ベンチマーク結果を紹介する。環境は表2に示した通り。比較には、Phenom X4 9850 Black Editionのほか、似た価格帯になることが見込まれるCore 2 Quad Q6700を用意。ただし、このCore 2 Quad Q6700は、Core 2 Extreme QX6850を用いてBIOS上から相応のクロックを作り出したものである。パフォーマンスには影響ないが、消費電力の面では本来の製品とは違う挙動もあり得るので注意されたい。
【表2】テスト環境
では、CPU性能をチェックするベンチマークからチェックしていきたい。テストは、Sandra XIIの「Processor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark」(グラフ1)、PCMark05のCPU Test(グラフ2、3)である。 Phenom X4 9950は9850に対して、動作クロックが4%高い。ベンチマークの結果は全般に3~4%程度のスコア上昇で、やや伸び悩んでいる印象は受けるものの、妥当なところだろう。ただし、SandraのDrystoneのように、誤差の範囲だが逆にスコアが下がるという結果もある。
メモリ性能のチェックはSandra XIIの「Cache & Memory Benchmark」(グラフ4)と、PCMark05の「Memory Latency Test」(グラフ5)の2つである。まず、キャッシュの性能に関しては、3%台後半の性能アップになっており、CPU性能のチェックで出ていた値に近い。メインメモリの性能は当然ながらほぼ同等程度の性能となっており、今回の環境においては、この4%弱の性能向上というのが1つのポイントといえる。
続いては実際のアプリケーションを使ったベンチマークである。テストは、「SYSmark 2007 Preview」(グラフ6)、「PCMark Vantage」(グラフ7)、「CineBench R10」(グラフ8)、「動画エンコードテスト」(グラフ9)の4つ。 SYSmark2007のVideoCreationはスコアが荒れてしまったが、基本的には単純なクロックアップ相応のスコアアップという結果である。Core 2 Quad Q6700に対しては、やや分が悪いテストが多いものの、PCMark VantageのGamingテストや、動画処理に関しては同等程度のスコアを出せている。とくに動画エンコードテストでは、コーデックによってはCore 2 Quad Q6700を上回る点があるのは特筆できる。
次は3Dグラフィック関連のテストである。「3DMark Vantage」(グラフ10、11)、「3DMark06」(グラフ12、13)、「Crysis」(グラフ14)、「Unreal Tournament 3」(グラフ15)、「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ16)の結果を掲載している。 PCMark VantageのGamingテストでは悪くないスコアを出せていたPhenom勢であるが、ここでは分の悪い結果となった。CPUの影響が出やすい低解像度のテストにおいて、Core 2 Quad Q6700に完敗の様相を呈している。ゲームをやるならPhenomよりCore 2という印象が残る結果になっている。 最後は消費電力の測定結果である(グラフ17)。アイドル時の消費電力はPhenom勢が概して低く、ピーク時はPhenom勢の方が高いという結果となった。アイドル時、ピーク時ともそれほど差は大きくないが、ピーク時が続かないような使い方ならPhenomの方が多少、トータルの消費電力を抑制できそうではある。 面白いのは、140W TDPへと増したPhenom X4 9950 Black Editionが同9850 Black Editionの消費電力を下回った点である。個体差もあるだろうが、それを差し引いても電力差が逆転する、というのは意外な結果であり、実際の製品でも、消費電力への影響は小さいのかもしれない。
●インパクトはないが着実な進化 以上の通りベンチマーク結果を見てきた。リビジョンの変化もなく、単純なクロックアップ製品であるため、パフォーマンスアップもクロック相応。そのクロック差も4%と微増であるため、ベンチマーク結果のインパクトは小さい。140Wの熱設計にしてまで出す必要があったのか、という疑問を感じなくもない。 ただ、フラッグシップというのは、往々にして効率を度外視したものであるし、ここはパフォーマンスの着実な進化を果たしたことを評価すべきではないかと思う。冒頭の表1で示した通り、価格は前モデルのPhenom X4 9850 Black Editionから据え置かれる。よりパフォーマンスの良いものを、より安い価格で入手できるようになった。この事実を歓迎したい。 □関連記事 (2008年7月8日) [Text by 多和田新也]
【PC Watchホームページ】
|