現在、家庭用のプリンタといえば、誰もが思い浮かべるのがインクジェット方式のプリンタだろう。インクジェットプリンタが隆盛を極めるきっかけとなったのが、'80年代に開発・製品化されたキヤノンのバブルジェットプリンタ(サーマルインクジェット方式)であることは、よく知られた事実だ。当初はモノクロ印刷のみであったが、カラー対応、写真画質の達成と進化を続け、現在では店頭に並ぶプリンタの大半がインクジェット方式となっている。 しかしインクジェットプリンタも万能ではない。紙質によってはインクのにじみが気になることもあるし、塗りつぶし部分が多いと紙がインクで濡れてふやけてしまうこともある。長期保存についても、通常はある程度条件を整えてやらねばならない(直射日光を避ける、外気と遮断するなど)。こうしたこともあってか、官公庁や企業等の文書出力には、今でもレーザープリンタが使われることが多いようだ。 レーザープリンタの普及に大きく貢献したのもキヤノンで、'75年にはLBP-4000を発表している。その後製品化されたレーザーショットシリーズは、レーザープリンタの代名詞的存在にもなった。さらに、プリンタの世界市場において最大シェアを持つHPのレーザージェットシリーズに、レーザープリンタエンジンを供給していることでも知られる。 以前はモノクロが中心だったレーザープリンタの世界にカラー化の波が本格的に押し寄せてきたのは今世紀に入ってから。20万円台の機種が登場し、それまでデザイン事務所など限られたユーザーのものであったカラーレーザーが、一般のオフィスにも導入されはじめた。ただ、絶対的な価格、顔料系インクの開発も含めたインクジェットプリンタの急速な進歩は、カラーレーザーを特別な存在にしてしまった感は否めない。また、インクジェットプリンタに比べて筐体サイズが大きいこと、消費電力の大きさも、カラーレーザーの普及を妨げてきた。 ●コンパクトサイズを実現した「LBP5050」シリーズ
この5月にキヤノンが発表したLBP5050/LBP5050N(ネットワーク対応)は、従来のカラーレーザーのイメージを大きくくつがえす、A4専用の小型コンパクトなカラーレーザープリンタだ。重量16kgはちょっと重く感じるものの、外寸は幅401mm、奥行き452mm、高さ262mmとモノクロレーザープリンタ並みに小さい。特に高さの262mmは、病院や受付のカウンターの下に入れられる寸法だ。消耗品の交換や補給も前面から行なうことができるから、カウンターの下に入れても困ることはない。 高さを低く抑えることができた理由は、ドラム、現像器、トナーを一体化したカートリッジ4本(Y/C/M+B)を水平に4本並べたこと。従来製品では、縦に4つのカートリッジが並ぶタンデム構成であったため、どうしても高さが高くなっていた。
残念ながらインクジェット並みとはいかないものの、消費電力も比較的小さく抑えられている。特に待機時の消費電力は、キヤノン独自のオンデマンドデマント定着技術の採用で、4W以下(LBP5050)とレーザープリンタとしては極めて小さい。このため、冷却ファンを省略したファンレス設計が可能となり、待機時は完全な無音となる。病院など、騒音が気になる環境でも利用しやすい。オンデマンド定着は、用紙が通過する部分だけ瞬時に加熱するため、待機時の消費電力を低く抑えながら、ウォームアップ時間を短縮することが可能だ。 印刷速度はカラーが8ppm、モノクロで12ppm。高速なビジネスインクジェットに比べると見劣りするが、カラーレーザーとしてはローエンドの製品であることを考えれば、やむを得ないところだろう。ネットワーク対応のLBP5050Nが79,800円(本体標準価格)、ネットワーク非対応のLBP5050が64,800円(同)と、カラーレーザープリンタとしては最も廉価な部類に属し、店頭では4万円台で売られている例も多い。上位モデルと異なり、ステータス等を表示するディスプレイがなく、LEDの表示のみである点も、価格を意識せざるを得ない部分だ。 ランニングコストはカラー1枚あたり18.1円、モノクロ3.3円と低い。ただし、1本7,400円のカートリッジを4色分必要とすることを考えると、やはり個人にはハードルが高いかもしれない。非常時に備えて、カラートナーが切れてもモノクロ印刷は可能で、全く印刷できないという最悪の事態を避けられるようになっているのは、ビジネス向けとしては必須の機能だろう。 短期間だが、5050Nを試用して気づいたのは、カラーも意外といける、ということ。確かに写真画質のインクジェットプリンタで、写真用紙に出力したものとは比べられないが、普通紙への出力であることを考えれば、写真のようなコンテンツであっても十分納得のいく画質だ。“写真”ではないが、ビジネス文書としては充分だろう。カラーインクジェットプリンタであるPIXUSと共通の色設計指針に基づいて、人間の記憶色を再現すべく色作りを行っている成果なのかもしれない。機会があれば店頭で確認してほしい。 1つ注意したいのは、本機のドライバサポートだ。本機が対応するのはWindows 2000以降(64bitサポートはWindows Vistaのみ)、Mac OS X 10.3.9以降だが、現時点でMac OS X用のドライバは提供されていない(2008年8月ダウンロード可能になる予定)。 Windows用ドライバは、複数ページを1枚の用紙に縮小印刷したり、1枚の画像を複数の用紙に分割出力するポスター印刷などをサポートした多機能なもの。カラー調整もプリンタドライバから行なうことができる。ただし、メインテナンスを含めたあらゆる操作がすべてのユーザーに解放されているため、管理者以外のユーザーがうっかり触ってしまう可能性がある。ユーザーが間違って操作しない工夫があった方が良いだろう。 このLBP5050/LBP5050Nは、市場で最も安価な部類に入るカラーレーザープリンタだ。消耗品代や消費電力まで考えると個人利用にはまだ厳しいかもしれないが、SOHOには十分手の届く製品に仕上がっている。プレゼンテーション用に大量のカラービジネス書類を印字する部内や、長期保存が求められる文書の印刷が必要な小規模オフィスこの製品をはじめとするカラーレーザープリンタを検討してもよい時期になったと思う。 □キヤノンのホームページ (2008年6月18日) [Reported by 元麻布春男]
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