PCから生えるケーブルを、できるだけ少なくするには、2つの方法がある。デバイスを内蔵するか、ワイヤレスにするかだ。今のところ、電源ケーブルだけはガマンするしかないが、他のデバイスに関しては、どちらかの方法で解決することができる。 ●IDFに持ち込んだ2台のノートPCデスクトップPC、特に自作機のようにケースを選べるのであれば、必要なデバイスはすべて内蔵してしまえるが、携帯を前提としたノートPCでそれをやってしまうと、本体が大きく重くなってしまう。外出先ではある程度の装備でガマンすることにして、自宅に戻ったときには、瞬時に拡張ができるようになっているのが望ましい。 だから、ワイヤレスのソリューションは、ノートPCにとって、とても重要なテーマだ。かつては、ドッキングステーションが担ってきた拡張も、ワイヤレステクノロジの進化によって、大きく状況が変わってきている。 現在、IDFのために上海市内のホテルに連泊しているが、5泊程度の連泊でも、部屋に戻ったときにはある程度の拡張をしたくなる。 出張には2台のノートPCを持参し、1台はメインノートとして部屋のデスクに置きっぱなし、もう1台のサブノートは日中の取材などに持ち歩く。メインノートには、電源ケーブル以外に、スピーカーと、フラッシュメモリのカードリーダ/ライターがUSB接続されている。 部屋に戻り、カバンから取材を終えたサブノートを取り出し、電源ケーブルにつなぎ、メインノートの隣に置く。スリープから復帰したサブノートは、自動的に持ち込んだルーター経由でインターネットに接続し、メインノートとは同じサブネットのLANに格納される。 かつては、2台のPCを有効利用するために、「MaxiVista」というユーティリティを使っていた。このユーティリティは、ネットワーク経由で別のPCのディスプレイを、セカンダリ、サードディスプレイとして使えるというもので、XP時代には重宝していた。ワイヤレスネットワークがあれば、簡単にワイヤレスのマルチディスプレイ環境を実現できたからだ。ところが、Vistaへの完全対応が遅々として進まず、今も、WDDMやAeroには対応していないため使うことをあきらめた。 それに代わって愛用するようになったのが「DOKODEMO」というユーティリティだ。こちらは、操作するPCが、別のPCのキーボードとマウスになるというもので、それをネットワーク経由で実現する。クリップボードも共有されるし、マウスポインタを画面の端に移動すれば、隣のPCに制御が移る。ドラグ&ドロップまでできないのが残念だが、使いようによってはマルチディスプレイ環境に似た感覚が得られるし、プロセッサ資源も有効活用できる。 この環境で、エディタでの原稿書きなどはメインノート、ブラウザやメール一覧などはサブノートで実行させ、操作に関しては、キーボードはメインノート装備のもの、マウスはメインノートにBluetooth接続した外付けのものを使っている。 ●ワイヤレスUSBとBluetooth先に書いたように、ホテルのデスクに置いたメインノートには、スピーカーとフラッシュメモリカードリーダ/ライターがUSBでケーブル接続されている。このうち、カードリーダに関しては、ワイヤレスUSBを使えば、ケーブルで接続する必要はなくなる。だが、スピーカーに関しては、今のところ、アイソクロナス転送をサポートしたワイヤレスUSBがないため、無線化するのは難しい。 サブノートにはiTunesライブラリが全部入っているので、メインノートのiTunesフォルダを、サブノートのiTunesフォルダにシンボリックリンクして再生し、そのサウンドを外付けスピーカーで楽しんでいるわけだ。iTunesは、shiftキーを押しながら起動すれば、ライブラリを選択することができるが、ここでネットワーク共有フォルダ内のライブラリを選ぶと、ローカルでそのライブラリを再生するときに矛盾が生じてしまうため、シンボリックリンクで騙すように設定した。これで同時起動をしないように気をつければ、特に問題なく使えている。 IDFの期間中に開催されていたショーケースでは、RealtekがワイヤレスUSBによる、ディスプレイ出力とオーディオ出力のソリューションを展示していた。製品化はOEMベンダ次第なのだそうで、その気になればすぐにでも出荷できるだけの完成度に達しているという。ディスプレイとサウンドをワイヤレス出力できれば、出張先はもちろん、自宅と外出先でノートPCを行ったり来たりするにも相当快適な環境が得られる。 関連記事にもあるように、Intelは、今回のIDFで、複数のワイヤレスでディスプレイ出力を提案している。MIDのディスプレイ出力を別のPCのディスプレイにネットワーク経由で出力するものだが、ユセージモデルとしては、マルチプレーヤーゲームなどが想定されているようだった。 Vistaには、ネットワークプロジェクタ機能が実装されている。これは、RDP(リモートデスクトッププロトコル)を使い、ネットワーク経由で、プライマリモニタのミラー、あるいは、拡張ディスプレイとしてプロジェクタを使えるというものだ。今のところ、プロジェクタは、Windows CEベースのものがほとんどで、それがディスプレイ出力を受信する仕掛けになっている。 Windows CEベースの非力なハードウェアでできるのだから、Vistaそのものにもプロジェクタ機能を入れておいてくれれば話が早かったのにと思うのだが、そのあたりが、Microsoftの気が利かないところだ。なんというか、とにかくかゆいところに手が届かなくなってきている感は否めない。 今後は、ホテルの部屋にもHDMI入力端子を持った高解像度テレビが設置されていくようになるだろうし、それは自宅でも同様だ。必要なときに、サッと手近のテレビにワイヤレスでディスプレイ出力ができるようになっていれば、どんなに便利だろうか。Realtekのソリューションは、そうした近未来を想像させてくれた。 ●ワイヤレスがMID成功のキーポイントWiFi、ワイヤレスUSB、Bluetoothのソリューションを組み合わせれば、今でも相当快適な環境をワイヤレスで構築することができる。MIDの成功は、こうしたワイヤレス環境をいかにうまく活用できるかにかかっているともいえるだろう。 誰も自宅に戻ってまで、チマチマとした画面で細かいキーボード操作をしたいとは思わないのだから。常にポケットに入れておける携帯電話ならそれもありだとは思うが、MIDは、そこまでコンパクトなものではない。だからこそ、2台目のノートPCとして、周辺機器との連携を考える必要があるだろう。そして、USBケーブルで母艦PCにつなぐといったレガシーな方法ではなく、もっとスマートにファイルの同期や転送などが行なえるソリューションを提供してほしいものだ。技術は、さまざまな形で現実のものになっているのに、それらが具体的なユセージモデルとして提案されていないところに、もどかしさを感じる。 そういえば、IDFの会場では、ノートPCを半開きの状態で、セミナー会場となる部屋を往来する参加者を数多く見かけた。たぶん、ノートPCを閉じてしまうと、スリープに入ってしまい、次に使うときに不便なのだからだと思う。バッテリでの稼働時間が長くなった副作用だとも思う。開けばスリープが解除されるのだが、再び、パスワードの入力が必要だから、それがめんどうなのだ。かといってスリープしないように設定しておくと、普段の使い勝手が悪くなる。 ちなみにVistaでは、ディスプレイを閉じたときにスリープするかどうかを設定するには、ちょっとした手間がかかってしまう。普段使う電源プランのコピーを作り、カバーを閉じたときの振る舞いだけを変更しておいても、タスクバーの通知アイコンのクリック、電源プランの変更、他の部分をクリックして確定と、3回のクリックが必要だ。 ぼくの場合は、基調講演の会場でメモをとりながら写真も撮影するといったことがあり、一眼レフカメラとノートPCを頻繁に持ち替える必要があり、そのたびにスリープしていては使いづらく、かといって、ノートPCを開きっぱなしで、狭い足下に置いておくのは危険だ。そこで、その切り替えをするバッチファイルを作り、クイック起動に登録してある。Vista標準のpowercfg.exeというコマンドラインユーティリティを使えば、特定の電源プランの特定要素をコマンドで切り替えることができる。クイック起動に登録したアイコンは、Windowsキーと数字キーの組み合わせで起動できるので、一回のクリック、あるいは、1回のショートカットキー操作でディスプレイを閉じたときの振る舞いを切り替えることができる。レノボのThinkPadでは、新ユーティリティで、ディスプレイを閉じてからスリープに移行するまでの遅延時間を指定できるようになったそうだが、そういうニーズが確実にあるということなのだろう。 こうした風景を見ていても、ノートPCの使われ方が、少しずつ変わってきていることがわかる。パワーユーザーからしてみれば、やっていることは、10年前から何も変わっていないのだが、ようやくノートPCが本気で外に持ち出される時代がやってこようとしているのだと思う。こうした時代に、MIDがどのような貢献をすることができるのかが興味深い。 □Intelのホームページ(英文)
(2008年4月4日)
[Reported by 山田祥平]
【PC Watchホームページ】
|