ASUSのEee PCが、1月25日に国内出荷が始まってから2カ月を経過した。 アスース・ジャパンによると、3月末までに、約3万台のEee PCを国内に出荷することになるという。 当初の計画では、年間60万台の出荷を目指しており、月換算すると、5万台の出荷ペースが目標。現状の月15,000台のペースでは、これを大きく下回ることになる。 だが、計画を下回った最大の要因は、不人気ではなく、製品供給不足だ。ビックカメラ有楽町店の石川勝芳店長は、「製品があればもっと売れる」と、品不足が売れ行きに影響していることを示す。 「受注残は1万台。2週間に一度といったペースで入荷しているが、量販店の方々からお叱りをいただいている状況。この状況は、残念ながら6月まで続くことになる」と、アスース・ジャパンのモバイルデバイスマーケティングマネージャーである雛形剛氏は語る。 ●品薄の原因はバッテリ調達 では、なぜ、これほどまでに品薄となっているのだろうか。 同社によると、最大の原因は、バッテリの調達の遅れにあるという。 台湾や米国向けの製品では、4,400mAのバッテリを使用しているが、日本向け製品では、3.2時間の駆動時間を維持するために、5,200mAのバッテリを使用している。「4,400mAのバッテリはそれほど調達には苦労していないが、5,200mAバッテリは調達が困難となっている。バッテリの調達状況から見ると、6月までは月平均15,000台の出荷が精一杯」だという。 もちろん、仕様を変更することも可能だが、その際には、連続駆動時間が2.8時間程度に落ちてしまうことになる。 「日本のユーザーの利用環境を見ると、やはり3時間の連続駆動時間は必要。3時間動作すれば、モバイルで利用していても、次に充電する機会が得られるだろう。その点でも、バッテリの仕様変更は、現時点では考えていない」と語る。 世界的な人気も出荷数量の確保に影響している。6月までの品薄は覚悟してなくはならないようだ。 ●発売直後は2桁近いシェアに Eee PCは発売以来品薄が続いている。そうした状況のなか、市場において、どの程度の影響力を持っているのだろうか。 全国2,300店舗のPOSデータを集計しているBCNランキングによると、2月のノートPCにおけるASUSの台数シェアは、5位となる4.8%。4位までのNEC、富士通、東芝、ソニーが15%以上のシェアとなっていることと比較すると、5位とはいえ、4位との差は大きい。だが、アップル、松下、レノボなどを抑えて、2番手グループのトップにまで躍り出た点は評価されよう。2007年12月までは15~17位を推移していたことに比べると、Eee PCの発売以降、一気に存在感が高まっていることがわかる。 また、機種別シェアでは、発売日を含めた1月21~27日では、パールホワイトカラーが5.6%で2位、ギャラクシーブラックカラーが4.0%で5位となり、あわせて9.6%と、2桁直前までシェアを引き上げてきた。 □2008年のノートPC台数シェア(BCN調べ)
最新週の集計となる3月10~16日では、ギャラクシーブラックカラーが2.5%で8位、パールホワイトカラーが1.7%で15位となっている。 □3月10~16日のノートPCランキング(BCN調べ)
カラー別の出荷比率は、アスース・ジャパンによると、約6割がパールホワイトとされており、なかにはギャラクシーブラックモデルを購入したいとしながらも、バールホワイトを購入したというユーザーもいるようだ。現在のところ、品薄状況となっているため、カラー別の人気ぶりは、販売比率からは判断できない。今後は、台湾などで展開しているカラーバリエーション展開も検討しており、そうなれば、カラー別の売れ行きはさらに変化しそうだ。きはさらに変化しそうだ。 こうした市場シェアの動きを捉えてアスース・ジャパンでは、「Eee PCにより、ASUSブランドの認知が高まっているのは確か。これを他のASUS製品の売り上げ増へとつなげていきたい」(雛形マーケティングマネージャー)とする。 現在、Eee PCを取り扱っている店舗は約700店舗とされるが、Eee PC以外のASUSブランドの製品を取り扱っているのは、2007年の時点で約45店舗。これが現在は約60店舗にまで拡大している。これもEee PC効果の1つといえ、今後は、ASUSブランド製品の取り扱い店舗拡大にも取り組む考えだ。 ●パワーユーザーの購入が先行 ところで、発売2カ月のEee PCの購入者層は、どんなユーザーなのか。
アスース・ジャパンでは、「現時点では、購入者のプロフィールを集計できていない」として、具体的な購入者層は、4月以降にまとめる考えを示す一方、「量販店店頭での動きを見ていると、セカンドマシン、サードマシンとしての購入者層が多い。一部には、主婦、子供といった利用もあるが、その際にも、父親がPCに詳しいというケースになっている」とする。 Eee PCの3つのEには、Easy to Learn、Easy to Work、Easy to Playの意味を持たせており、「学ぶ、働く、遊ぶ。どれもお手軽に」という観点から訴求。これまでPCを所有していなかった顧客層や、子供、主婦、高齢者などを主要ターゲットとする方針を示していた。実際、台湾では、購入者の65%が女性となっており、そのターゲティングは成功している。 雛形マーケティングマネージャーは、「単身赴任のビジネスマンが、家族と手軽にメールをやりとりする端末として購入したり、カップルで店頭にやってきて、男性が使い方を教える形で女性が購入するという例は出ている」として、女性の利用があることを示すが、台湾ほど女性層の購入が多いとはいえない。 ビックカメラでも、「ほとんどが指名買いによるもの。事前に製品の仕様を熟知している人が多く、むしろ、こちらから詳しい製品説明をしないで済む製品。価格が安いからという理由だけで、あるいは簡単そうだといって、購入していく人はない」と、パワーユーザーの購入が先行していることを示す。
アスース・ジャパンに対する購入者からの問い合わせも、操作方法やインターネット接続に関するものは皆無であり、「ACアダプタをもう1台欲しいのだが、どこで購入できるのか」といったように、会社と自宅にそれぞれACアダプターを置きたいとするモバイル利用を想定した予備パーツ購入に関するものや、台湾で販売している8GBモデルの投入時期、ドイツで発表した8.9型ワイド液晶を採用したモデルの投入時期に関するものが多く、この点からも、やはりパワーユーザーが高い関心を寄せていることがわかる。 さらに、アスース・ジャパンでは、日本での独自サービスとして、常時点灯ドット(輝点)のある液晶パネルを購入後30日以内であれば無償で交換する「Zero Bright Dotサービス」、4GBのSDHCメモリーカードを付属するサービス、NTTブロードバンドプラットフォーム(NTT BP)が提供するWi-Fineを、今年5月末までの1日1回の接続ならば時間制限なしで、無料で利用できるサービスを用意したが、「なかでも4GBのSDHCメモリーカードの付属は、容量不足を懸念する購入者にはそれを解決する回答の1つとなり、高い評価を得ている。SDカードにデータ保存するだけでなく、アプリケーションを入れたりといった使い方もある。ユーザー自身が新たな使い方を見つけている」と、やはりここでもパワーユーザーならではの利用が促進されていることがわかる。 ●Linux搭載モデルの投入で新たなフェーズへ このように初期購入者層を分析してみると、ASUSが狙った顧客層は違うところで動いているともいえる。 だが、アスース・ジャパンには、あまり焦りがない。 というのも、台湾などで女性に高い評価を得ているのは、Linuxを搭載したEee PC。インターフェイス部分を初心者が使いやすい形にカスタマイズしていることが売れ行きにつながっている。それに対して、日本で出荷されているのは、Windows XPを採用したモデル。通常のWindows PCと同じインターフェイスであり、見た目は一般のノートPCとは変わらない。日本では、女性、子供といった顧客を狙うLinuxモデルがまだ投入されていないのだ。 「Linux搭載モデルを日本市場に投入できていないのは、インターフェイス部分やマニュアルのローカイズなどに時間がかかっているため。だが、日本語化の作業完了に目処がつきはじめており、次のステップとして、Linux搭載モデルを日本市場に投入できる。まだ時期は明確ではないが、これによって、女性層や子供、これまでPCを使ったことがない顧客層にも積極的に訴求していくことになる」と語る。 先行したWindows XP搭載モデルは、携行型のインターネットデバイスというEee PCならではの製品コンセプトの浸透や、ASUSブランドの認知向上、販売ルートの拡大という役割を果たしてきた。 そして、今後発売が見込まれるLinux搭載モデルによって、いよいよ本当の狙いである、新たな需要層の開拓に挑むことになる。 「Linux搭載モデルは、Windows XP搭載モデルとは似て非なるものと捉え、別の方向性を持った製品だと認識している。Linux搭載モデルの投入にあわせて、新たな需要層に向けた訴求方法を、量販店の方々と話し合っていきたい」とする。 初期2カ月間の動きを見ると、Eee PCは一定の評価と存在感を得ることに成功したといえよう。 だが、Eee PCが本来目指すインターネットモバイル端末としての普及や、女性層、子供への波及といった点では、まだ実績があがっていない。これは今後発売される予定のLinux搭載モデルに委ねられることになる。 6月以降の潤沢な供給状態になった時点で、また、Linux搭載モデルが投入された時点で、いよいよEee PCの真価が問われることになる。 □関連記事 (2008年3月25日) [Text by 大河原克行]
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