1月26日 発売 メーカー希望小売価格:オープンプライス
シャープの電子辞書「PW-AT770」は、100コンテンツを搭載した生活総合モデルだ。従来モデルに比べて高精細な液晶を搭載するほか、メニュー画面や筐体などが全面的に刷新された意欲作である。 ●液晶が高精細化し、メニューも刷新。バックライトも搭載 春商戦に向けて発表されたシャープの生活総合モデル「PW-AT770」。型番を見る限り、従来モデル「PW-AT760」からわずかに進化しただけだが、その実はフルモデルチェンジと言っていいくらいの変化を遂げている。画面周り、次いでハードウェアの順に見ていくことにしよう。 まず、液晶の高精細化が図られ、480×320(ハーフVGA)ドットの表示が可能になった。詳細は写真をご覧いただきたいが、従来機種(320×240ドット)との差は歴然である。これにより、図版などを表示する際に、従来よりも鮮明な表示が可能になった。これまで競合製品と比較するとどうしても粗さが目立っていた部分なので、これは素直に歓迎したい。 また、メニュー表示についても、これまでの上→下にカテゴリを選択していく方式から、カシオ製品と同じく左→右に並ぶ方式に変更された。タブは大きなアイコン表示が用いられており、Office 2007のリボン式メニューを彷彿とさせる。これも液晶の高精細化による恩恵と言えるだろう。 ただ、アイコン表示にスペースを取られるあまり、文言が隅に追いやられ、視認性がそれほど高いと感じられないのは残念だ。インターフェイスとしては今回が初搭載になるわけだが、こなれるまでにはもう少し時間がかかるのではないかと感じた。 ちなみに、これは従来モデルもそうなのだが、シャープの電子辞書では、メニューなどで文字量が多く収まりきらない場合、'80年代後半~'90年代前半のワープロのように、半角の平仮名・カタカナで無理に横幅を収めようとする傾向がある。せっかく液晶が高精細化したのだから、フォントサイズを調整するなどの方法で整えてほしいものだ。 画面周りでもう1つ、本モデルからは、待望のバックライトが搭載された。これまで競合であるカシオ製品には搭載されていながら、シャープ製品が追いつけていなかったポイントである。特に、カシオ製品に先駆けて手書きパッドにもバックライトを採用したのは、大きなメリットと言っていいだろう。
●筐体が一新。キーサイズも大幅に拡大 続いて、画面周りを除くハードウェアを中心に見ていこう。 本モデルでは筐体のデザインも一新されている。全体的に直線主体のデザインになったほか、ヒンジの部分はダイヤモンドカット加工が施されるなど、これまでの電子辞書にはない高級感あふれる処理が筐体の随所に見られる。今回試用したモデルがワインレッドに近いレッドだったこともあるが、とにかく重厚感がある。従来製品とはかなりかけ離れた面影だ。 何より特徴的なのが、平たいイメージのあった従来機種PW-AT760に比べると、本体の厚みが増したことだ。突起部を含めた数値で見ると3mm程度の厚みの差でしかない(18.7→21.2mm)のだが、最薄部では6mmも差があり(11.9→17.5mm)、手で持った際の肉厚感は相当なものだ。分解していないので正確なところは分からないが、おそらく前述のバックライトの搭載が理由なのではないかと思われる。薄さが魅力でシャープの電子辞書をチョイスしていたユーザーにとっては、やや抵抗があるかもしれない。 本題に戻ろう。本モデルで特筆すべきなのは、キーサイズが大幅に拡大され、打鍵しやすくなったことだ。従来モデル、正確にはもう一世代前のPW-AT750になるが、手書きパッドが導入されたことでキーの上下サイズが極端に小さくなり、タッチタイプは非常に困難なままとなっていた。本モデルでは手書きパッドのサイズはそのままに、キーの上下幅が従来モデルのなんと1.6倍となり、押しやすさは格段に向上した。 ただ、それに伴って、上段にレイアウトされていた数字キーが1行まるごと省かれた。これはこれで使い勝手がよかったので残念ではあるが、競合であるカシオ製品では以前からアルファベットキーと共用となっており、ライバルメーカーとの比較という意味ではそれほど支障がない。これに代表されるように、今回のモデルでは、競合メーカーのモデルを多分に意識したリニューアルが図られているように感じられる。
また、これまではサイズが大きく押しやすかった電源キーが小ぶりなサイズに変更となったほか、クリアキー、後退キーの配置も変更されている。従来の同社製品を使用していたユーザーが乗り換えた場合、当初は違和感を感じるかもしれない。 もう1つ、スピーカーについては、これまでキーボードの左下に1カ所だけ搭載されていたのが、左右2カ所に変更になった。手書きパッドの搭載によって省略された格好だったが、ここにきて復活した形である。ただ、そもそもの音声がモノラルであるので、例えばMP3プレーヤー機能で迫力のある音が聴けるようになったかというと、そういうわけではない。 重量は約290gと、従来モデルに比べ30g増加した。競合となるカシオの新モデル「XD-SP6600」とはほぼ同様だが、これまでシャープ製品を使っていたユーザーからすると、体積そのものが増していることもあってか、重くなったことがはっきりと実感できる。ただ、よほど薄さや軽量化にこだわりがない限り、厚みや体積増といったデメリットを上回る機能追加がなされていると、個人的には思う。 ●英語のリスニング学習に適した「字幕リスニング機能」に注目 次にコンテンツについて見ていく。 コンテンツ数は100。内容は基本的に従来モデルを踏襲しているが、百科事典のマイペディアがブリタニカに置き換わり、さらに経済関連の事典が追加されている。また、中国語関連のコンテンツが強化されているのもポイントだ。 利用頻度の高い一括検索機能では、これまでの日本語、英語に加え、中国語、韓国語からも検索が行なえるようになった。これらの検索には手書きパッドが利用できるので、読めない漢字やハングル文字を直接入力することができる。また、中国語についてはピンインを入力して検索することも可能になっている。 ユニークなのは、業界初と言われる「字幕リスニング機能」だ。これは、英語音声に合わせて再生中のテキストを反転表示するというもので、リスニング学習に適したコンテンツである。とかく能動的に検索を行なわなければいけない電子辞書のコンテンツの中で、浴びるように英語を聴きたい場合に手軽に聴けるため、リスニングを中心とした英語学習に興味がある人にとっては重宝するコンテンツである。手書きパッドを利用してスピード調整が直感的に行なえるのもポイントだ。ちなみにこの機能は、本モデルで初搭載されたコンテンツ「英単語・熟語ダイアローグ1800」で利用できる。 また、本モデルでは、大修館書店によるネイティブ音声辞典「ジーニアス・サウンズ」が収録され、約50,000語のネイティブ音声が他のコンテンツから利用できるようになった。従来モデルであれば、例えばジーニアスで特定の単語を再生した場合はネイティブ音声である一方、OXFORD英英辞典から同じ単語を再生するとTTS(合成音)ということもあったが、本モデルでは共通のネイティブ音声が利用できる。すでにカシオ製品には搭載されていた機能であるが、本機能が実装されたことにより、音声コンテンツの価値は大いに増したと言ってよいだろう。 ちなみに冒頭で、メニュー画面が刷新されたと書いたが、これら個々のコンテンツの操作画面は従来モデルとほぼ変わりなく、特に使い勝手の違いを意識せずに利用できる。従来の同社製品から乗り換える場合は、こうした画面構成の違いによる違和感は、特に心配しなくてもよいと思う。 ●ハード・ソフトとも大幅進化した意欲作 これまで商戦期に新モデルが登場する際は、やれ手書き入力だ、やれ脳を鍛えるコンテンツだ、といった具合に目玉となる新機能やコンテンツが追加されるのが恒例であった。今回のモデルはそうした目玉はないものの、ハード/ソフトとも、一から作り直したと言っていいほどの変化が見られる。まさにフルモデルチェンジと言っていいくらいの大幅進化だ。 中でも、競合製品との比較で常に槍玉にあげられていたバックライトが追加されたり、手書きパッド搭載に伴って縮小されたキーサイズが再び大きくなったことは、他社と比較しながら機種選定を行なう際に非常にプラスになる。営業現場としても売りやすいはずだし、ユーザー側から見ても歓迎すべきだろう。液晶の高精細化も、他社を追い越すには至っていないものの、搭載された意義は大きい。 個人的に評価したいのは、メニュー画面の抜本的な変更が行なわれたことだ。普通、いったんフォーマットとして完成された部分を一から見直す行為は、「労多くして功少なし」と見なされ、なかなか手がつけにくいものだ。変更の直接のきっかけは液晶の高精細化にあるのだろうが、新しい機能やコンテンツで従来製品との違いを訴求するのではなく、こうした本質的な部分の改善に本腰を入れて取り組んだメーカーの姿勢は、見習うべきものだ。 もっとも、コンテンツ自身を使い込めば使い込むほど、せっかくの高精細液晶のメリットがまだまだフルに活かされていないように感じられる。現時点で十分購入価値のあるモデルであるのは事実だが、PW-AT750で初搭載された手書きパッドが次期モデルPW-AT760でブラッシュアップされたように、今後さらなるブラッシュアップが行なわれていくことを期待したい。
【表】主な仕様
□シャープのホームページ (2008年2月26日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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