工人舎のSAシリーズは、7型ワイドのタッチパネル液晶を搭載したモバイルノートPCで、重さ990gと持ち運びに適した重量となっている。印象的なのはその価格で最下位モデルの「SA5SX04A」では、“小さいのに高い”というこれまでの小型モバイルノートの印象を覆す低価格に設定した。 今回は、そのSA5SX04Aの上位製品、「SA5SX12A」という79,800円のモデルを取り上げ、どのような製品であるかを紹介していきたい。 ●AMDのGeode LXを採用することで大幅なコストダウンを実現 今回紹介するSA5SX12A(以下本製品)は、79,800円とこれまでの小型モバイルノートPCに比べると安価に設定されていることが最大の特徴と言える。というのも、これまでのモバイルノートPCは、スタンダードなノートPCに比べて液晶のサイズも小さく性能も低いのに価格は高いという“パラドックス”な状況に置かれていたからだ。 もちろん、それにはきちんとした理由がある。というのも、モバイルノートPCに採用されているコンポーネントは、スタンダードノートPCに採用されている製品に比べて小さく、性能も低いのに価格が高かったからだ。例えばCPUを例にとって考えてみよう。モバイルノートPCに採用されているのは、いわゆる超低電圧版(ULV版)などと呼ばれる、消費電力が10Wを切るくらい低消費電力だが、通常電圧版(SV版)と呼ばれるような通常版の最上位SKUの駆動電圧を下げたものなので、性能と比較すると価格はどうしても高めになってしまう。 モバイルノートPCでは、小さなボディに納めるため、どうしてもこうした“特別版”のコンポーネントを使用しなければならないため、スタンダードなノートPCに比べて小さいのに高いという状況になってしまっていたのだ。 そこで、本製品では、そうした部分を見直し、できるだけ低価格なコンポーネントを採用することで、“小さいのに高い”というパラドックスから抜け出す工夫がされている。それが、AMDの家電向けCPU「Geode LX」を採用していることだ。 ●モバイル向けCPUよりもさらに低消費電力なGeode LX 800 Geode LX 800は、AMDが家電向けに開発したx86命令に対応したCPUとチップセットを組み合わせた製品だ。動作周波数は500MHzで、熱設計消費電力と呼ばれるTDPはわずか3.9Wと、いわゆる超低電圧版CPUの9W(デュアルコア)や7W(シングルコア)に比べてもさらに低い。 かつ、このGeode LX 800は、CPUのみではなく、CPUにメモリコントローラとGPUが内蔵されたSoC(System on a Chip)になっている。つまり、CPU+サウスブリッジの2チップでPCを構成できる。このため、CPUの中には、いわゆるノースブリッジの機能も含まれており、その低消費電力は一般的なモバイルノートPC製品に比べて1/4程度に過ぎないことがわかる。また、本来3チップ必要なところを2チップで構成できるため、半導体をマザーボードに実装する際の実装面積を小さく設計できる。結果的にマザーボードの小型化に貢献するのだ。 もう1つのメリットとしては、CPU+ノースブリッジという、PCのコンポーネントの中で最も発熱する2チップ分をあわせても3.8Wなので、冷却用のファンが必要ないという点だ。実際、本製品にはファンは用意されておらず、通風口に耳を近づけると聞こえてくるのはHDDのモーターの動作音ぐらいだ。 ただし、処理能力という点では、従来のモバイルPC向けの超低電圧版CPUを搭載した場合に比べて心許ないのは事実だ。その理由は2つある。1つはCPUの動作周波数が500MHzと低いこと。そしてもう1つは、内蔵されているGPUが2D機能にフォーカスし、3D機能をほとんど持たないからだ。 また、動画再生支援機能も実装されていないため、特にWMVやMPEG-4 AVCといった圧縮率の高いフォーマットを利用して動画を再生する場合には、CPUの処理能力も充分ではないため、コマ落ちが発生する。 もっとも、それでもメールやWebサイトなどの文字中心の文章を閲覧したり編集するという用途であれば充分な処理能力は備えており、メインの用途がそれらの場合には特に不満を感じることはないだろう。
●メモリは最大で1GBまで。HDDは2.5インチ/120GBを採用 本製品では標準でメインメモリは512MBだが、サードパーティから発売されているメモリモジュールを利用することで最大1GBまで増設できる。ただし、メモリソケットは1つしか用意されていないため、標準で装着されているメモリモジュールと交換して利用する必要がある。また、Geode LXは、メモリの種類としてDDR SDRAMをサポートしており、本製品でもDDR SDRAMを搭載したSO-DIMMを利用する必要がある。現在ノートPCのメモリの主流はDDR2に移行しており、DDRは入手性が悪くなりつつあるので、メモリモジュールを交換するのであれば購入時に一緒に手配するといいだろう。 HDDは120GBで、2.5インチのドライブが採用されている。こうした製品では、入手性があまりよくなく、かつ容量も小さい1.8インチドライブが採用されることが多いのに対し、2.5インチのドライブが採用されていることは評価に値するだろう。残念ながら本製品は簡単にHDDを交換できない構造になっているため、HDDを交換するには分解する必要がある。だが、難易度は高いものの、保証期間終了後にHDDが故障した場合でもユーザーが自分で交換することは不可能ではない。特にHDDのような部品は故障しやすいため、この点は嬉しいと言えるだろう。
●タッチパネル機能付きの明るいWSVGA液晶 本製品の搭載液晶は7型ワイドで、解像度は1,024×600ドット(WSVGA)だ。1,024×768ドット(XGA)よりやや小さいが、メールやWebブラウザを利用するには十分な解像度と言えるだろう。ドットピッチは0.15mmだ。 この液晶は感圧式のタッチパネルになっており、スタイラス以外に指でも操作できる。ただし、本体にスタイラスを格納する場所は用意されていない。OSはWindows XP Home Editionを搭載し、タッチパネルの機能は独自ソフトウェアで拡張が行なわれている。液晶はタッチパネル式だが、OSがXP Tablet PC Editionではないため、いわゆるタブレット機能は利用できないので注意したい。
液晶は右方向に回転が可能で、回転させて相手に画面を見せたり、スレートモードにしてペンタブレットのような形で使ったりなどができる。なお、GPUのドライバに画面回転機能はないため、スレートモードにしてもWindowsの解像度を縦長にしたりはできないので注意したい。なお、液晶の左には、スティックタイプのポインタを備え、クリックボタンとスクロールボタンは液晶の右に用意されている。電車の中などで両手で液晶の左右を持ち、親指などでこのポインタを利用するとPCをしっかりとホールドした状態で操作できるので便利だ。
もう1つ特筆できるのは、液晶の輝度が高いことだ。こうしたモバイルノートの液晶、特に感圧式のタッチパネルは暗いことが多いが、本製品は簡易輝度計で簡単に計測しただけで389cd/平方mだった。液晶のスペックとしては、おそらく400cd/平方mを超えていると考えることができ、充分すぎる明るさを実現していると言えるだろう。輝度は液晶左側のボタンで調節できるので、もちろん携帯時には輝度を落としてバッテリ駆動時間を延ばすことも可能だ。 ●小さなノートながらカードスロットなどで拡張性充分 本製品は小型のモバイルノートながら、充分な拡張性が確保されている。フルサイズのPCカードスロットこそ用意されていないものの、Type2 CF対応スロットが用意されており、通信キャリア各社が用意しているCFカードタイプの通信カードを利用できる。さらに、SDカード/MMC/メモリースティック対応スロットが用意されており、xD-Picture Cardを除けば、ほとんどのメモリカードに対応するのもメリットと言える。なお、SDカードスロットはSDHC/SDIOにも標準で対応しているのは嬉しいところだ。 ただ、カードスロットの蓋がいずれもダミーカードであるのはちょっと残念だ。ダミーカードはどうしても無くしてしまうという点で使い勝手があまりよくないからだ。また、カードスロットはカードがすべて収まらず、カードがはみ出す形になってしまうので、カードを挿したまま持ち運ぶことはできないので注意したい。 このほか、左側面にはEthernetとUSB 2.0、右側面にはミニD-Sub15ピンとUSB 2.0が用意されている。さらにIEEE 802.11b/g無線LANとBluetooth 2.0+EDRが標準で用意されており、必要なポートや通信機能などは揃っていると言える。
筆者の中で唯一、気になったのはキーボードだ。キーピッチが11mm程度であるのは致し方ないとしても、必要なキーがいくつかFnキーとの組み合わせになってしまっているのが惜しいところだ。例えば、日本語入力を有効にする半角/全角キーはFnキー+数字の1の組み合わせに割り当てられ、F9~F12キーはFn+F5~F8キーとの組み合わせで利用する。半角/全角キーは一度押すだけでいいが、筆者は日本語入力中にF9キーをよく使うことがあったので、それがFnキーとの組み合わせになっているのはやや気になった。人によってはこれらのキーを使わない場合もあるだろうから、その場合は無視してよいと思うが、そうでない場合には注意が必要だ。もっとも、このサイズにあれだけのキーを押し込まなければいけないことを考えれば、致し方ないとも言える。 本製品では前述のように液晶にタッチパネル、液晶横にスティック型ポインタ、さらにはキーボードにはパッド式のポインタと、今のところ考えられる限りのポインティングデバイスが用意されている。そうしたことからもわかるように、どちらかと言えば出先でちょっとメールに返信したり、Webサイトを閲覧したりという使い方に焦点が当てられている。そうした使い方であれば長時間文字を入力したりということもないと考えられるので、特に気にする必要は無いとも言えるだろう。 ●PDAには満足できない、フル機能を持ち歩きたいモバイルユーザー向け 最後にベンチマークに関してだが、本連載でベンチマークに利用しているPCMark05、3DMark06などはすべて動作しなかった。特に3DMarkに関しては、3DMark03まで戻ってみたのだが、いずれも動作しなかった。Geode LX 800は、拡張命令セットとしてMMXと3DNow! Technologyをサポートしているが、SSEには対応していないため、SSE対応が必須の3DMark03以降が動作しないのだ。PCMark05に関してもグラフィックス関連のテストでエラーになってしまい、先に進まなかった。このように、性能に関してはあまり期待しない方がよいというのは事実だ。 しかし、Windows XPが動作するということからもわかるように、メールを読み書きしたり、動画の再生もYouTubeで利用されているような、解像度やビットレートが低いものであれば充分に再生することができる。そう考えれば、本製品のライバルは、ULVのCore 2 Duoを搭載したノートPCなどではなく、イー・モバイルの「EM・ONE」やウィルコムの「W-ZERO3」のようなPDAなのではないだろうか。最下位のモデルであれば69,800円で、EM・ONEが39,800円であることを考えると+3万円でHDDとx86の機能が手に入る、そう考えた方が検討しやすいと思う(データ通信カードはほとんどタダのような値段で入手できるし……)。 そうした意味で、常に持ち歩けるようなデータ端末が欲しいけど、メールやWebの機能をフルに利用したいという欲張りなユーザーこそ、本製品を検討してみる価値があるのではないだろうか。 □工人舎のホームページ (2008年2月19日) [Reported by 笠原一輝]
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