発売中 価格:229,800円 「eX.computer GB30J Premiumモデル」(以下、GB30J)は、PCショップの九十九電機が受注生産で販売を行なっている、ゲーマー向けデスクトップPCだ。完成品ではあるが、マザーボードやケースなど、使用しているパーツのほとんどは店舗で購入できる自作PC用のパーツなので、組み立て済みの自作PCと考えると分かりやすい。自作PCの性能と拡張性に魅力を感じてはいるが、自作PCというものに不安を感じる人や、自分で作るのは面倒という人に最適なPCと言える。 PCショップのPCだけあり、直販サイトで注文する際には、CPU、メモリ、HDD、ビデオカード、光学ドライブ、FDD、OS、CPUクーラーにいたるまで細かくカスタマイズでき、自分がイメージしたスペックで注文できる。なお、GB30JはCPUにIntel製を採用しているが、AMD製を採用するGB30Aというモデルもある。今回は、パーツ構成を変更していない状態のIntelモデルを紹介する。
【基本構成】
●CPUとビデオカードとメモリは最高レベル GB30Jはゲーマー向けを謳うだけあり、使用しているパーツはどれもハイエンドに分類されるものだ。 では、順に見ていこう。CPUは、今年登場したばかりのIntel Core 2 Duo E8500(3.16GHz)を採用している。45nmプロセスの最新デュアルコアCPUで、FSBは1,333MHz、L2キャッシュを6MB内蔵する。現在発表されているCore 2 Duoシリーズの中では最上位のCPUだ。ほかにも、Core 2 Duo E8400(3GHz)や、65nmプロセス/L2キャッシュ4MBのE6850(3GHz)とE6750(2.66GHz)、クアッドコアのCore 2 Quad Q6700(2.66GHz)/Q6600(2.4GHz)も注文時に選択できる。しかし、このPCはゲーマー向けなので、もっとも動作クロックが高いE8500が最適な選択だ。現在のPCゲームでは、クアッドコアCPUよりも動作クロックが高いデュアルコアCPUのほうが多くの場合で快適なゲーム環境を実現できるからだ。 ゲーマー向けPCでもっとも重要なパーツと言えるビデオカードには、Leadtekの「WinFast PX8800 GTS」(512MB)を採用。GPUは、NVIDIA GeForce 8800 GTSだ。このGPUは、NVIDIAのGPUでは最上位の8800 Ultra、2番目の8800 GTX、3番目の8800 GTS(640MB/320MB)の次に来るGPUだ。しかし、コアクロックは2番目の8800 GTXの575MHzよりも高速な650MHzで、8800GTXとの性能差はあまりない。ストリームプロセッサの数も8800 GTXと同じ128個だ。メモリバスの幅が、8800 GTXは384bit、8800 GTS(512MB)は256bitなので、ビデオメモリに負荷がかかるタイプのゲームでは8800 GTXのほうが有利だが、そうでなければ8800 GTS(512MB)のほうが速い場合も多いだろう。コストパフォーマンスを考えた場合には、ゲーム用としてかなりオススメできるGPUと言える。注文時には、このほか8800 GTS(256MB)、8800 GT(512MB)、AMD ATI Radeon HD 3870(512MB)を選択できる。将来、CrossFire環境を構築したいと考えるなら、Radeonを選ぶというのもアリだ。 メモリは、PC2-6400(DDR2-800) DDR2 SDRAMの2GBを2枚搭載する。センチュリーマイクロのメモリで、型番は確認できないが仕様から考えると2枚セットの「CK2GX2-D2U800」だと思われる。レイテンシはCL-tRCD-tRPが5-5-5だ。メモリチップはHynix製を使用している。2GBをデュアルチャネルで使用するので搭載容量は4GBだが、OSがWindows XP Professionalのため、OS上で実際に使用できるメモリ容量は3.25GBだ。これはOSの制限によるもので、使用上は何の問題もない。ただ、少し損をした気分にはなるかもしれない。OSにWindows XPを採用している理由は、現段階においてはWindows Vistaのゲームへの対応に不安があるからだろう。実際、少し古いゲームやネットワークゲームなどはうまく動作しないことが多い。ゲーム用のPCと割り切るならWindows XPを選ぶことは賢明な選択と言える。なお、注文時にWindows Vistaを選択しても、4GBのメモリをすべて認識することはできない。これは、XPのみならず32bit OSの制限によるものだ。 ●自作PCで定評のあるパーツを使用 通常、完成品のPCのマザーボードはあまり特徴がないので、評価時にマザーボードそのものについて触れることはないのだが、このPCの場合には店頭で単体で購入できるマザーボードを搭載しているので紹介しておく。 本製品で採用したマザーボードは、ASUSTeK Computerの「P5E」だ。このマザーボードはASUSTeKのハイエンドマザーボードで、チップセットにはIntel X38 Expressを採用している。EPU(Energy Processing Unit)という電力管理用の専用チップを搭載し、CPUの消費電力を抑えられることが特徴だ。また、低負荷時と高負荷時で、電源回路のフェーズ数を4フェーズと8フェーズに自動で切り替えて電力供給の効率を上げる機能も搭載する。メモリ用の電源回路にまで2フェーズ回路を採用しており、電力周りにかなり気を配ったマザーボードだ。通常、PCに入っているマザーボードは、どこのどんなマザーボードかわからないことが多いが、このPCのように素性が明らかになっていると安心できる。将来、自分でPCを拡張したくなったときなどに、自作PCと同じ感覚で拡張を行なえる。 このPCのユニークな点は、USB 2.0やIEEE 1394のブラケット、マザーボードのマニュアルなども付属していることだ。USB 2.0ポートを背面に増設したい場合は、自分で付属のブラケットを取り付ける。この点は、本当に自作PCそのものだ。 HDDには、Seagateの「Barracuda 7200.11 ST3500320AS」を搭載する。SATA 3Gbpsの接続で容量は500GB、回転数は7,200rpm、搭載キャッシュ容量は16MBだ。垂直磁気記録方式の3.5インチHDDで、250GBプラッタを2枚使用している。連続データ転送レートは105MB/secに達し、高速なHDDだ。注文時にはこのHDD以外に、1TB、750GB、320GBのHDDを選択できるほか、Western Digitalの10,000rpm HDD「Raptor WD1500ADFD」(150GB)も選択できる。また、HDDの2台搭載も可能だ。 そのほか、光学ドライブにはプレクスターの「PX-800A/JP」を搭載している。このドライブはIDE接続なので、できれば注文時にSATA接続の「PX-810SA/JPB」を選択しておきたい。性能が変わるわけではないが、せっかく自作PCのような構成なので、将来の拡張時に作業をしやすいSATA接続がオススメだ。また、この2台以外にも、IDE接続のパイオニア「DVR-A15J-BK」も選択できる。このドライブもIDE接続だが、対応メディアへのレーベル印刷を行なえる「Labelflash」機能や、動作音を抑える静音設計が魅力だ。 ●200mmの巨大ファンを搭載するユニークなPCケース ケースにはAntecのミドルタワーケース「Nine Hundred AB」を使用している。Nine Hundredは、前面がすべてメッシュ、左側面が透明な板とメッシュで構成されたエアフローに優れたケースだ。標準では、前面にHDD冷却兼吸気用の120mmファンを2つ、背面の上部に120mmの排気ファンを1つ、さらに上面に200mmの大型排気ファンを搭載している。200mmのファンは大迫力で、このケースのデザイン上の大きな特徴にもなっている。ケースの上面に付いているため効率も良さそうで、低回転なので動作音も気にならない。このほかにも、左側面のメッシュ部分には120mmのファンを取り付け可能なマウントが付属し、後からファンを追加できる。 初期状態では、5インチベイ×3、3.5インチベイ×6という構成だが、パーツを組み替えて自由にベイの数を変更できる。たとえば、9つすべてのベイを5インチにしたり、5インチベイを6つに変更して3.5インチベイを3つ、という組み合わせも可能だ。よく考えられた、大変拡張性の高いベイ構造だ。 このケースは、基本的に机の下などに置くことを想定しており、電源スイッチ、USBポート、IEEE 1394ポート、ヘッドフォン、マイクの各端子を本体上面の手前寄りに搭載している。机の上に置く場合には多少不便かもしれないが、足元に置く場合には結構便利だ。HDDのアクセスランプなども端子類と同じ場所に用意されている。また、それらの端子よりも少し後ろ寄りの上面が大きくへこんでおり、へこみの中にUSBメモリなどを置けるようになっている。筆者は、このへこみがデザイン的に好きではないが、便利なことは確かだ。最初は変なへこみだと思っていたが、実際にUSBメモリやカードリーダなどを置いてみると、意外に便利なことに気付き、気に入ってしまった。 ほかにも、このケースは電源の場所がユニークで、電源を本体の下部に取り付ける構造だ。これは、上面に200mmのファンを搭載したために、下に電源を搭載するしかなかったのだろう。熱源となるものを一番下に設置するのはどうかと思うが、電源は自身で熱を外に排出するので、これでも問題はなさそうだ。そもそも、上で解説したようにこのケースはエアフローがかなり良いので、ゲームのプレイ中でもケース内の温度があまり熱くなることはなかった。見た目からキワモノのケースだと思っていたが、なかなか出来の良いケースだ。 最後に、電源のスペックも確認しておく。電源は、タオエンタープライズの「TAO-530MP VR」を搭載している。店頭などでの販売はないようで製品資料も見つからなかったのだが、基本部分のスペックは分かるので書いておこう。まず、総出力は530Wだ。各電力ラインは、+12V1が20A、+12V2が20A、+5Vが44A、+3.3Vが28Aとなっている。+12V1と+12V2の合計出力は最大31Aだ。このPCのスペックなら、この電源で十分安心して使える。 ●ゲーマー向けの独自要素はなし
本製品は自作PCに限りなく近いため、大変汎用性がある。使用しているパーツも前述したとおり、ほとんどがPCパーツショップで購入できる汎用のものだ。そのため、製品はゲーマー向けPCというカテゴリだが、ゲームをより楽しむための付加価値は特にない。過去に紹介してきたPCなら、たとえばゲーマー向けマウスやゲーマー向けキーボードが付属する、あるいは何かのゲームの推奨PCに選ばれているといった特別な項目があった。しかし、このPCにはそれがない。そもそも、マウスもキーボードも注文時に自分で選択しなければならず、標準構成には付いてこないのだ。とても割り切った構成を採用したPCだ。 唯一、ゲーマー向けと言えなくもない機能がサウンド機能だ。このPCはマザーボードのオンボードサウンド機能を使わず、「SupremeFX II」というサウンドカードを使用し、通常のPCよりも高音質で7.1chサウンドを楽しめる。だが、このサウンド機能も実はASUSのマザーボードの機能で、特別に付加したものではない。では、このPCの魅力とはいったい何なのだろうか。そのあたりはベンチマークテストの結果を見ながら解説していく。 ●自作PCを分かっている人が作ったゲーマー向けモデル ベンチマークテストは、このクラスのPCになるとあまり意味がなくなってくる。この記事では、毎回同じ比較対象機とベンチマークテストの結果を比較することになっているのだが、あまりに差が大き過ぎて比較にならないのだ。比較対象機の性能は、ミドルレンジの自作PCのスペックとなっており、今でも十分にストレスなく使えるレベルのPCである。ゲームも最新の重いゲームでなければ結構快適にプレイできる。
しかし、本製品のベンチマークテストの結果は、どのテストでも比較対象機に2倍近い差を付けており、比較自体が成り立っていない。今となっては少々古いと言わざるを得ないFINAL FANTASY XI Official BenchMark、真・三國無双BB ベンチマーク、フロントミッション オンライン オフィシャルベンチマークソフトは、いずれも実際に使われているゲームエンジンを使用したベンチマークテストだ。これらのゲームを本製品でプレイする場合、余裕のスペックで何の問題もなく快適にプレイできる。 3つのソフトだけですべてが分かるわけではないが、これらの結果を見ると、最新のゲーム以外ならほぼ問題なく最高の設定でプレイできると考えられる。OSにWindows XPを採用していることもあり、Windows XP世代のゲームなら安心してプレイできそうだ。 では、最新のゲームベンチマークテストではどうかと言うと、ロスト プラネット エクストリーム コンディションの結果を見ると、1,280×800ドット(WXGA)の解像度なら十分なフレームレートを出している。1,600×1,200ドット(UXGA)でも十分遊べるレベルだ。また、今回もいつもどおり実際にゲームで遊んでみたのだが、重いことで知られているエレクトロニック・アーツの最新の3Dシューティングゲーム「Crysis」のデモ版は、すべての画質設定をHighにした状態でUXGAの解像度でも快適に楽しめた。 本製品はWindows XPを採用しているため、DirectX 10対応のテストがすべて実行できなかった。このことから、Windows XPを使っている限り、最新のDirectX 10対応ゲームを楽しめないという、当たり前ではあるが結構衝撃的な事実が見えてくる。現在はまだWindows Vistaへの移行期であり、OSの選択は難しいといえる。本製品は注文時にOSを選択できるので、プレイしたいゲームがDirectX 10対応ゲームの場合にはVistaの選択も考えるべきだろう。 実際のところはゲーム用途でPCを使うなら、まだWindows XPで十分だ。その理由は、DirectX 10対応のゲームとDirectX 9世代に対応するゲームで、それほど大きな差がないからである。グラフィックス描画の技術的な面と描画内容を細かく見比べれば、結構な差はある。だが、実際にゲームをプレイしてみると、思っていたほど差がないことに気付くはずだ。筆者が鈍感なせいもあるのかもしれないが、今回のベンチマークテストで言えば、ロスト プラネットのDirectX 10版とDirectX 9版を自分のPCで遊び比べてみても、筆者には差が気になることはなかった。冷静に注意してみれば分かるのだが、熱中すると分からなくなってしまう。 これからのゲームは間違いなくDirectX 10に移行していくはずだが、現時点においてはDirectX 9でも十分に楽しめる。そのため、従来のゲームも安心して遊べるWindows XPという選択はゲーム用途に限って見れば良いのではないだろうか。そういう見方で考えると、本製品はゲーマー向けPCとしてツボを押さえた良い選択をしていると言える。マザーボードにマニアに人気のP5Eを選んでいたり、この時期にGeForce 8800 GTSの512MB版を採用していたりするあたりを見ると、本製品の企画者がPCにかなり詳しいということがよく分かる。 本製品は、ゲーマー向けPCとして評価した場合には、ゲーマー向けの特別な何かがまったくないので評価しづらい。しかし、では自分でゲーム用のPCを作るとしたらどうなるのか? と考えたときに、このPCが結構理想に近いものなのだ。 本製品には標準でマウスもキーボードも付属していない。しかし、ゲーマーならマウスやキーボードは自分で選びたいものだ。そのあたりの方向性に共感できるなら、このPCは最適な選択肢になるだろう。
□九十九電機のホームページ (2008年2月12日) [Reported by 小林 輪]
【PC Watchホームページ】
|