昨年(2007年)末にアナウンスされていたIIJのMVNOサービスの詳細が少しずつ明らかになってきている。春頃にはいろいろな環境が出そろうといっていたら、思ったよりも展開が早くなりそうだ。いつでもどこでもつながるインターネットはすぐそこにある。 ●IIJモバイルのサービスイン 2007年12月17日付けのプレスリリースで、インターネットイニシアティブ(以下IIJ)とNTTドコモは、IIJがNTTドコモから卸電気通信役務によるFOMAサービスの提供を受け、MVNO(仮想移動体通信事業者)としてサービスを開始すべく基本合意したことを発表した。そして、その発表に基づき、1月21日にIIJモバイルのサービス提供開始がアナウンスされた。法人向けのサービスで、現在は、見積もり、申し込みなどの受付中で、実際のサービスインは2月になってからだそうだ。 IIJモバイルは、NTTドコモのHSDPA網を使った下り最大3.6Mbps/上り最大384kbpsのモバイルインターネット接続サービスで、当初は「定額」、「パケットシェア」、「接続シェア」という3種類のプランが用意される。このうち「定額」は、ISP料金込みで8,500円/回線と、ドコモの定額データプランの天井額より安く設定されている。しかも、プロトコル制限もない。 さっそく、IIJに問い合わせてみた。 まず、契約するとアカウントとパスワードが発行され、NTTドコモのデータ通信カード(A2502)がレンタルされる。カードをレンタルせずに、自分で調達するという選択肢はないそうだ。また、端末内のFOMAカードを、別のHSDPA端末に装着して接続できるかどうかは無保証で、そうした使い方は遠慮してもらっているという。IIJとしては、レンタルした端末での接続のみを前提としたサービスであるとしている。なお、端末レンタル料は1,500円程度だそうだ。また、今後、提供される新機種を中心に、レンタル対象端末のラインアップを揃えていく予定であるという。 NTTドコモのサービスと違い、接続には専用ソフトがいらない。ここもポイントが高い。ただし、最初に使い始める際に、端末同梱のFOMA PC設定ソフトを使い、指定されたAPNのアドレスを端末に書き込む必要がある。それさえ済ませれば、あとは、接続先エントリを作成して、OSの機能だけで接続できるとのことだ。PCにはできるだけ余分なソフトを入れたくないという法人ニーズに確実に応えられている。なお、基本的に帯域制限や時間制限などはないが、想定以上に過度なトラフィックを流して、IIJやNTTドコモのネットワーク、あるいは、他のユーザーへ影響が出る(影響が不可避と判断される)場合には、当該の通信を制限する場合があるということだった。 無保証ではあっても、任意の端末で接続ができるのかどうかは、メーカーブランドのHIGH-SPEED対応PCなどの使用を考えると気になるところだ。このあたりも気になるし、ドコモのサービスと比べたときの使い心地はどう異なるのかなど、知りたいことはたくさんあるので実際に契約して試してみることを検討している。 ●ワンストップを願う 日本のインターネット商用サービス黎明期から質の高いサービスで定評のあるIIJだから安心感も高い。法人サービスとして、接続先限定や接続元限定、リモートアクセスVPNなどのオプションが用意されていることを評価するユーザーも多いだろう。実際、多くの企業ユーザーから試験利用の申し込みが殺到しているという。 個人には関係のない話かというとそうでもない。IIJのサービスが、この価格でサービスインしたことは、大きな意味がある。というのも、完全にNTTドコモのインフラに依存したサービスが、この価格でサービスを提供できるということは、それができる価格でインフラが提供されているということだ。ということは、今後、イー・モバイルなどの事業者が自社のインフラを持たない一部の地域で、NTTドコモのインフラを使うようになったときのサービス価格は、それよりもさらに安くなることが期待できる。これは個人ユーザーにとっても悪い話ではない。うまくいけば据え置き、あるいは、1,000円程度の上乗せオプションで全国で利用できるようになるのが理想だ。 ただ、NTTドコモですら、すべてのモバイルコミュニケーションをワンストップで提供していない。つまり、音声通信とデータ通信を1つの契約ですませることができないのは、なんとかしてほしいと思う。それができない理由がよくわからない。まさか、端末を余分に売りたいからという理由であるとは思えない。 IIJが用意する接続シェアプランというのも興味深い。これは、アカウントを共有する複数の端末を提供し、同時接続可能な回線数を限定するプランだ。こちらの月額は3,900円~とされているが、こうしたサービスは、他の事業者にも見習ってほしい。複数の端末を使い分けるユーザーが、いちいちSIMカードを差し替える手間をかけずにすむように、いわば、親SIM、子SIMといった具合に複数枚のSIMを発行し、同時接続を禁止するだけでよいのだから、さらに、廉価な設定でできそうなサービスだと思う。 ●地下鉄駅も変わる こうした動きに加えて、地下鉄駅構内にも変化が出てきた。先週のコラムで、地下鉄駅構内の無線LANサービスではESS-IDをブロードキャストしていないために自動接続ができないことを書いた。 この現象をもう少し補足しておこう。現在、多くのノートPCに内蔵されている無線LAN用チップセット、Intel PRO / Wireless 3945ABGとIntel Wireless WiFi Link 4965AGNでは、Vistaで作成した無線LAN接続エントリで、ブロードキャストしていないアクセスポイントであっても自動接続するように設定しておいても、自動接続が行なわれないことを確認している。これは、地下鉄駅構内に設置されたアクセスポイント機器との相性問題だと、設置管理に関わるNTT-BPから聞いている。 だが、この問題が解消に向かって動き始めている。というのも、NTTコミュニケーションズのホットスポットサービスが、都営地下鉄全線でESS-IDが表示されるようになったからだ。また、東京メトロに関しても2月末日作業完了の予定で全駅で対応できるという。 NTTドコモは正式なアナウンスをしていないが、この設定変更により、NTTドコモ公衆無線LANサービスのアクセスポイントも見えるようになるはずだ。ただし、NTTドコモのサービスは、Vistaで接続した場合、再接続するたびにネットワークが変わり、Vistaがネットワークの場所を問い合わせてくる。それがうっとおしくてシームレス感覚がスポイルされている。ホットスポットサービスはそのようなことがないのがうれしい。 自動接続ができないことがわかっていたので、ぼくは、自分のPCの設定を自動接続をしないようにしていた。手動接続に設定しておけば常に接続先一覧に表示されるため、任意のタイミングで接続ができる。こうして使っていたため、ESS-IDがブロードキャストされるようになったことに気がつかなかったのだ。 実際に、都営地下鉄で試してみた。電車に乗る前にPCを開きホットスポットに自動接続したことを確認し、Webまたは自動ログインソフトで認証し、インターネットに接続したことを確認して到着した電車に乗り込む。電車が発車してしばらくすると、駅間では接続が切れてしまうが、次の駅に到着すると自動的に再接続する。以前はこうなってほしいのに、ならなかったのだ。 ただ、PC個体のアンテナ感度等の問題だと思うが、自動接続に時間がかかりすぎて、停車中には再接続できず、つながったと思ったらすぐに発車してしまうことも少なくない。プロパティでローミングの積極性を最高に設定しておいてもあまり変わらない。つながらないよりははるかにいいが、地下鉄車内でのFOMA端末は、圏外から圏内への復帰が早く、どちらかといえば、そちらの方が使い勝手がよいように感じる。 個人的には携帯電話のみなし音声通信機能を使ってインターネット接続をしていたのが'94年頃からだった。その後、'97年にPIAFS接続によるPHSのデータ通信サービスが始まり、そちらに乗り換えた。32kbpsというスピードだったがみなし音声通信に比べれば夢のようだった。 そして、2001年にFOMAのサービスが始まり、また乗り換えた。いつでもどこでもインターネットにつながるインフラは、この10年で大きく変化しているが、これからまだまだ環境はよくなる。そしてそのことが、社会にも大きな変化を与えるに違いない。
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(2008年1月25日)
[Reported by 山田祥平]
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