山田祥平のRe:config.sys

プロバイダがやっていいこと悪いこと




 インターネット接続プロバイダサービスは、本来、トランスペアレントな存在であってほしい。だが、実際には、トラフィック制御のために、さまざまな制限が付加されているようだ。この傾向は、このまま当たり前のものとして受け止めざるをえないのだろうか。

●プロバイダの手中にある通信ポート

 プロバイダのトラフィック制限としては、アウトバウンドポート25ブロックが有名だ。スパムメール対策のために、外部プロバイダのSMTPサーバーへの通信をブロックするためのものだ。多くのプロバイダが実施しているブロックだが、スパムメールを防止するという名目のもと、多少の設定変更で回避できることもあり、特に問題にされることなく、ユーザーに受け入れられている。

 でも、このままでいくと、ファイル交換ソフトの使うポートを閉じたり、ヘビートラフィックを監視して、ユーザーに注意を促すといったことまでも、善良なる多くのユーザーのためという免罪符のもとに実施される可能性もある。実際、そうした条項を規約に同意しなければ契約できないプロバイダもあるようだ。

 心ない一部のユーザーのために、帯域が占有され、多くのユーザーが迷惑を被ったり、本当なら、もっと安い料金で利用できるはずのサービスが、事業者側が設備増強などを強いられるために、高値安定してしまう弊害につながっていく。それを回避できるのなら、ある程度の制限は仕方がないだろうというのも正論かもしれない。

 ただ、やはり、プロバイダはトランスペアレントであってほしい。自分のPCのファイアウォールが各種のポートを閉じて、特定の通信ができなくても、それは自分で解決できるが、プロバイダの制限は、トラブルが発生したときに、どこに原因があるのかを特定するのがとても難しいからだ。実際、プロバイダのサイトを見ても、新規に入会しようとしているユーザーにはとても親切にできているのに、すでにサービスを利用中のユーザーに対しては、最低限の情報しか与えられていないことが多いし、しかも、それらの情報がとても見つけにくい。

●VPNでブロックを回避

 こういうことを考えるようになったのは、最近の2つの動きに端を発する。

 最初の動きは、NTTドコモが定額データプランを提供開始し、利用したデータ量に応じて2段階の定額課金で利用できるようになったことだ。対応プロバイダは、今のところ、ドコモ自身が提供する「mopera」のみだ。また、接続には、定額データプラン接続ソフトが必要で、通信内容に関して、「メール送受信およびテキスト/静止画のWeb閲覧など(一部を除く)」という制限がある。様子を見ながら、利用できるサービスを増やしていく予定だそうだが、これでは話にならないと思って契約を思いとどまった。

 ケータイWatchの報道によれば、「SkypeのようなVoIPサービス、FTP、Peer to Peer(P2P)、オンラインゲーム、Windows Media Playerは利用できない。映像ストリーミングについては、Flashによる動画配信は利用できるという」とあり、あまりにも制限が多すぎると判断したからだ。

 それに反応するかのように、ソフトイーサが、「MobileFree.jp VPN実験サービス」を開始するというニュースが飛び込んできた。

 これは、https通信が通るモバイル回線であれば、すべてのプロトコルが利用可能になるというサービスで、具体的には、VPNを使ってトンネルを作り、ソフトイーサのサーバーをゲートウェイとしてインターネットを利用するというものだ。

 ソフトイーサは、このサービスを「VPN 関連技術の研究と実証のために非営利の学術実験目的で提供」するとのことで、利用に関して料金が発生することはなく、誰でも無償で使用することができる。

 そのQ&Aのページがおもしろい。このサービスが、モバイル回線のISPによって遮断されている可能性がある場合の苦情の申し立てを、自己の責任の範囲内において実施することを検討してほしいと、遮断の有無を判断する方法や、正当な権利を主張しようと、その申し立て理由にまで(あくまでも参考事項として)言及している。早い話が、ドコモがサービス遮断をすることを想定しているのだ。

 ドコモは通信事業者であり、インターネット接続プロバイダでもある。安定したトラフィックを提供するためとはいえ、サービス開始に際してプロトコル制限という手段をとったのは、正しいことなのかどうなのか。ここはひとつ、世論と実態がどのように推移するかを冷静に観察していきたいと思っている。通信のことがよくわからないユーザーは、できないことに困り、よくわかったユーザーはあの手この手で制限を回避するというのでは、制限をする意味がないようにも思う。

●ポケットに入るモバイルルータが欲しい

 結局、モバイル環境でのインターネット接続は、イー・モバイルの通信カードに頼りっぱなしだ。ドコモとNTTコミュニケーションズ、Yahoo BBの無線LANサービスを契約しているが、イー・モバイルが使えるところでは、そちらを使ってしまう。認証等の手間がかからないので、そちらの方がラクだからだ。もちろん、上り方向の帯域が必要な場合は、無線LANを使うが、短時間の利用で、メールの送受信やWebページの閲覧程度なら帯域の狭さはさほど気にならない。

 ぼくが使っている通信アダプタは、CFタイプのもので、CardBusインターフェイスではないのがネックだ。PCのスリープ中に、カードが抜けてしまっていることに気がつかずにレジュームさせると、ブルースクリーンが出るなど困ったことも多い。それに、PC Cardタイプのものよりは出っ張りが少ないとはいえ、やっぱり、ノートPCのカバンの中での収まりが悪く邪魔になる。

 プリンストンテクノロジーのBluetooth USBアダプタを使うようになって、普段使っているLet'snoteのようなBluetoothを内蔵していないPCでも、比較的邪魔にならないアダプタでBluetooth通信ができるようになったので、接続方法を、ちょっと検討してみようと、Windows Mobile 6搭載で新しくなったイー・モバイルのPDA「EM・ONE α」を試用させてもらった。

 実機の使い勝手とWindows Mobile 6については、別の機会に少し詳しく取り上げることにするが、やってみたかったのは、EM・ONE αをインターネット接続のゲートウェイとして使った場合、どのくらい実用になるのかという試みだ。

 Let'snoteに装着したBluetoothアダプタとEM・ONE αをペアリングし、DUNプロファイルでダイヤルさせてみる。特に問題なくダイアルし、インターネットに接続できる。これは当たり前だ。CFカードを装着した場合に比べれば、多少は遅いが、特に不満は感じない。

 問題は、約250gあるEM・ONE αを、常に待機状態にして持ち運ぶ気になれるかどうかだ。ぼくは、日常的にノートPCを持ち歩いているため、いわゆるPDAをあまり必要としない。そうはいっても、訪問先のビルの前で、スケジュールを再確認し、訪ねる相手の部署名や内線番号をちょっと見るといったときにはPDAがあると便利だ。それにしたって、やっぱり250gは重いし、そういう用途なら、最近では予定表を同期したiPod Touchでも十分に役にたってくれる。

 そして、思いついたときにすぐにインターネットに接続するためには、常に、EM・ONE αがBluetooth待機していてほしい。接続するたびに、電源を入れるのはめんどうだからだ。そう思って、オート電源断を禁止した状態でフル充電直後のEM・ONE αを持ち運んでみた。1分でバックライトが消灯するように設定しておいたが、バックライトは最低輝度になるだけで、完全に消灯することはないようだ。その状態で身につけて持ち歩いたところ、やっぱり5時間程度しかバッテリは持たない。一度も接続しないのに、カバンから取り出すと強制シャットダウンしていた。大容量バッテリを使えば、もう少し何とかなると思うが、これ以上重くなるのは避けたい。完全にバックライトを消灯できれば、多少はバッテリを延命できるのだろうか。

 バッテリ節約のために、必要に応じて電源を手動でON/OFFするという手間を惜しまないのなら、EM・ONE αはとても便利だ。さらに、無線LAN経由でEM・ONE αをゲートウェイにするという手もある。フリーソフトウェアとして公開されている「ZEROProxy」を使えば、無線LANでEM・ONE αとアドホック接続し、イー・モバイル経由でインターネットを利用できる。無線LANなら、ほとんどすべてのノートPCに内蔵されているので、Bluetoothがあるとかないとか気にする必要もない。ただし、httpプロキシであることから、ブラウザ以外のアプリケーションを使うのは難しいかもしれない。

 理想的には、スタンドアロンのバッテリ駆動無線ルータのようなデバイスをイー・モバイルが用意してくれればと思う。本体には、接続状況を示すインジケータ程度があれば、それで十分だ。100g以下なら持ち歩く気にもなれるというものだ。iPod Touchのようなデバイスも出てきたことだし、EM・ONE αのような高機能端末以外に、こういうのもありじゃないかと思う。無線LANはバッテリの消費が大きいだろうが、12時間程度待ち受けできて、USB充電ができるようになっていれば十分実用になると思う。

 イー・モバイルの登場以前は、手持ちの携帯電話であるドコモのP902iを使い、Bluetooth待ち受けさせておき、必要に応じてPCからBluetooth経由のダイヤルアップをしていた。スピードは遅かったし、パケット料金にもビクビクだったが、それがもっとも自然で使いやすかったし、持ち歩くデバイスも少なくてすんだ。欲を言えばキリがないが、イー・モバイルには、モバイルの新たなユセージモデルのためのソリューションとして、多彩なデバイスとリーズナブルな料金による端末追加サービスを期待したいところだ。

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【10月24日】ソフトイーサ、「MobileFree.jp VPN実験サービス」を開始(INTERNET)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/10/24/17288.html
【10月2日】【元麻布】小型Bluetoothアダプタ「PTM-UBT3S」を試す
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1002/hot509.htm
【9月20日】イー・モバイル、Windows Mobile 6搭載の「EM・ONE α」(ケータイ)
http://k-tai.impress.co.jp/cda/news/2007/09/20/36354.html
【9月13日】ドコモ、最大10,500円でPC向けの定額データプラン(ケータイ)
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/36277.html

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(2007年10月26日)

[Reported by 山田祥平]


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