元麻布春男の週刊PCホットライン

さよならCompUSA




 IDFやMacWorld Expo、WWDCなど数多くのITイベントが開催されるサンフランシスコが便利であった理由の1つは、市の中心を貫通するMarket Streetに大型PCショップであるCompUSAがあることだ。ケーブルやアダプタ、メディア類を忘れたり、足りなくなったりしても、すぐに調達することができるし、最悪PCが壊れても、新品を丸ごと買って持ち帰ることができるのだ。

 米国の多くの都市において、大型のPCショップ、あるいは大型家電量販店というのは、コンベンションセンター等のある都心部にはまずない。たいていは、大きな駐車場を備えた郊外型の店舗であり、旅行者がアクセスするのは大変だ。このあたり、事情は日本の地方都市に似ているかもしれない。その点、San Franciscoは例外的な街だったことになる。

Market Streetに面したCompUSAのDowntown San Francisco店。足場が組まれているのはビル全体の改築のためで、CompUSAの閉店とは関係ない

 と過去形をまじえながら書いたのは、昨年(2007年)12月、同社が、ボストンのGordon Brothers Groupへ売却されることが発表されたからだ。Gordon Brothers Groupは、資産整理を行なう会社であり、CompUSA全店の閉鎖が明らかにされた。閉店セールは8週にわたって行なわれることになっており、本稿執筆ではまだ閉店セール中だが、もう間もなく17年弱の歴史(社名がCompUSAになってから)を終えることになる。

 もともとCompUSAは、'84年10月にテキサス州のダラスで、Soft Warehouseとして創業した。現在の社名になったのは'91年3月であり、Soft Warehouse時代から数えると歴史は24年にも及ぶことになる。時代はちょうどWindows 3.0がヒットした頃であり、PC市場は急速に拡大していた。'95年にリリースされたWindows 95は、インターネットブームにも乗り、全世界での大ヒットとなったが、同社も'96年10月からネット販売を開始する。だが、同社の歩みが順風満帆だったのはこのあたりまで。PC販売の主流はこのネットを活用した、Dellに代表される直販メーカーへと移っていく。

 '98年9月、CompUSAは同じPC専門大型チェーンであるComputer Cityを親会社のTandyから買収する。CompUSAのロゴが赤色であるのに対し、Computer Cityのロゴは黄色で、今から考えると注意から危険へ一段、危険度が上がった感じだが、実際コンピュータ小売業は業績が悪化しており、合併によるスケールメリットで生き残りを図る、的な意味合いが強かったように思う。

 比較的早期にComputer Cityを切り離したおかげか、Tandyは今も街の小さな電気屋さん的な存在として、ショッピングモールなどにこじんまりとRadioshackを出店している。Tandyはかつて、大型小売りチェーンのComputer Cityを全米に展開するほか、オリジナルのPC(こちらの方がComputer Cityよりも古い)も手がけていた。有名なのはPC創生期の8bit機である「TRS-80」で、日本にもユーザーがいたくらいだから、当時としては「ヒット」と呼んで間違いないだろう。変わったところでは、IBMのPS/2に採用されたMCAの互換機も出していたのだが、こちらがヒットしたという話はあまり聞かない(筆者も当時、新宿にあったラジオシャックに見に行ったような記憶がある)。

 しかし赤字のComputer Cityを買収したからといって、大幅な業績改善が果たせるわけもなく、CompUSAは'99年にメキシコの大富豪Carlos Slim Helu氏の出資を仰ぐことになる。彼は、旧国営電話会社であるTelmexの大株主で、南米各国の携帯電話事業会社の株主でもある。中南米の通信王とも呼ばれており、一説ではメキシコのGDPの8%を握るとも言われている。結局、CompUSAは彼の米国における事業会社であるU.S. Commercial Corp S.A.B. de C.V.に2000年に買収され、非上場となった。

 Slim氏傘下となっても、CompUSAは買収による拡大路線を歩み続ける。それまでのPC中心の事業形態に対し、TVやステレオ装置のようなAV機器を取り扱い商品のラインナップに加えた。2003年12月には、家電販売チェーンであるGood Guys! の買収も行なっている。Good Guys! は米国西部を基盤とした家電量販店チェーンで、最盛期は71店舗を数えた。

 しかし、CompUSAが拡大路線を採ることができたのもここまで。Good Guys! のうち、比較的業績の良かった25店舗の看板をCompUSAに付け替えたものの、残り46店舗は2005年10月に閉鎖することになる。さらに2006年8月には、90日以内に15店舗を閉鎖すると発表した。この15店舗の中には、シリコンバレーに行ったことのある日本人にはなじみの深いStore 443(El Camino RealとLawrence Expresswayの角にあった店舗)も含まれている。

【お詫びと訂正】CompUSAのStore 443の所在地について、Stevens CreekとLawrenceの角と記載しましたが、El Camino RealとLawrenceの角の誤りでした。お詫びして訂正いたします。

 続く2007年3月、残る229店のうち、一挙に126店を閉鎖、CompUSAは全米39州+プエルトリコの103店舗体制へと移行した。最盛期には隣国のカナダやメキシコはもちろん、ヨーロッパにも店舗があった見る影もない感じだが、ついに2007年12月にその終焉が発表された。Carlos Slim Helu氏はCompUSAに総額20億ドル近くをつぎ込んだと言われているが、年間2億ドル近くの赤字を垂れ流し続けるCompUSAを救うことはできなかったことになる。

 というわけで、MacWorld ExpoでSan Francisco滞在中、閉店セール中のCompUSAに行ってみた。Downtown San Francisco店は入り口だけ地上で、店舗は地下。ここ数年、多くのCompUSA店舗が明らかにお客の入りが悪くなっていた中で、このDowntown San Francisco店だけは比較的お客の入りも良く、閉店セール中のこの日もそれなりの賑わいを見せていた。入り口には「全商品15~30% OFF」、「完全在庫処分」といったポスターに加え、「家具、備品、什器売ります」の文字も見える。

 中に入ると、ほとんどすべての商品が、つけられている値札からさらに15~30% OFFで、iPodですら10% OFFとなっている。ただ、San Franciscoは比較的消費税(Sales Tax)の高い街(カリフォルニア州共通7.25%+地方1.25%の計8.5%)であり、日本人から見て価格的な魅力があるかと言われると微妙なところだ。本当の売り尽くしとなる、最後の2~3日間が勝負なのかもしれない。

Downtown San Francisco店の入り口。お客より店員が目立つ店が少なくなくなっていたCompUSAの中にあって、この店はお客さんが途切れることがほとんどなかった 入り口には「全在庫15~30% OFF」、「完全在庫処分」の文字が躍る 閉店に際して、家具や什器類を誰にでも売ってしまうというのが米国らしい

 商品も在庫処分で、新製品が補充されるわけでもないから、余計に微妙なところ。基本的に良い商品は、まだ高くて売れ残っているか、すでに売れてしまったかのどちらかが多い。また閉店してしまうせいか、Mail in Rebate(専用のフォームに領収書を添えて送ると、忘れた頃に決められた額の小切手で返金される仕組み。その場でディスカウントしてもらえるのはInstant Rebateと呼ばれる)がないのは地元の人には辛いだろう。米国では売り値が同じでも、店によってRebateが違うことが少なくない。PCに限らず、チラシに書かれている価格はMail in Rebate後の価格だったりするから、受け取るアテのない旅行者は要注意である。

 それはともかく、閉店の悲哀をいっそう感じるのは、商品が置かれた棚や椅子はもちろん、従業員の休憩室にあったであろう電気ポット(明らかに使い込まれている)や観葉植物の鉢にまで値札がつけられていることだ。確かに入り口のポスターに書かれていた通りだが、本当になくなるんだなぁとの思いを強くする。

 現時点で、このCompUSAの後が何になるのかは分からない。CompUSAができる前は、このすぐ近くにCompuTownという小規模なPCショップがあり、筆者はそこでWindows 95の英語パッケージやPCバッグを購入した記憶がある。できればPCショップか、それに準じた店舗ができると良いのだが、すぐ近くにApple Storeがある上、駐車場を確保できないこの場所ではもう難しいかもしれない。ネット通販に対する小売りのメリットは、直接商品を確かめられることと、気に入ったらその場で持ち帰られることにある。駐車場がなくては、持ち帰りは困難だ。CompUSAの閉店で、San Franciscoの魅力が、ほんのわずかだが失われたような気がしてちょっと寂しい。

【1月18日追記】全店舗閉鎖で、丸ごと消えてしまうかと思われたCompUSAだが、同社を買ってくれる会社が現れた。北米ならびにヨーロッパにおいて複数ブランドでコンピュータ関連機器の販売を営むSystemaxだ。SystemaxはCompUSAのブランド、登録商標、オンラインストアなどの権利と、最大16店舗のリテールストアを買収する。すでにCompUSAのWebサイトは“all-new COMPUSA.com”として運営されており、どうやらブランドは残る模様だ。

 買収されたCompUSAは、Systemaxの子会社であるTigerDirect部門により運営される。フロリダ州に本拠を置くTigerDirectは、オンラインストアに加え、現在フロリダ州、イリノイ州、ノースカロライナ州およびカナダのオンタリオ州で計11店舗のリテールストアを運営している。ここにCompUSAの最大16店舗が加わる予定だ。ただし、この16店舗は、フロリダ州、テキサス州、プエルトリコの店舗で、残念ながらサンフランシスコのCompUSAは含まれていない。

□関連記事
【2007年12月17日】【Infostand】PC小売店チェーンのCompUSAが閉鎖、世界一の大富豪でも再建ならず(Enterprise)
http://enterprise.watch.impress.co.jp/cda/infostand/2007/12/17/11873.html
【2002年9月19日】【元麻布】米国PCショップに見る今後のPCトレンド
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0919/hot221.htm

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(2008年1月18日)

[Reported by 元麻布春男]


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