米Amazon.comが販売を開始した「Kindle」(キンデル)は、電子ペーパーを使ったいわゆる「電子ブックリーダ」である。最大の特徴は、無線通信により、コンテンツを直接購入できるという点だ。早速Kindleを入手したのでレポートをお届けする。 ●くさび形のデザイン Kindleは、電子ブックリーダによくあるスレート型(板状)の筐体を持つが、均等な厚さではなく、左側が厚く、右側が薄くなったくさび形である。細かくいうと、さらに手前部分は上下左右とも少し絞った感じになっており、かなり複雑な形状だ。 本体正面には、電子ペーパーディスプレイとキーボードがあり、両サイドは、ページ送りのためのボタンが配置されている。また、電子ペーパーディスプレイの右側には、選択操作を行なうときなどに使うカーソルを表示するカーソルバーと上下方向に回転するSelectionホイールがある。 本体背面には、スピーカーと電源スイッチ、無線ON/OFFのスイッチがある。また背面の一部は、バッテリカバーを兼ねる少しやわらかいグレーの素材が取り付けられている。これは、表面にデザイン的な模様が付けられており滑り止めの役割を持つものと思われる。 本体下部には、ボリュームボタンとヘッドフォンジャック、USBポート(ミニBコネクタ)、電源コネクタがある。 重量は、10.3オンス(約292g)で、縦は7.5インチ(約19.05cm)、横は5.3インチ(約13.5cm)で、用紙サイズで例えればB6に近く、新書本を一回りぐらい大きくした感じ。電子ペーパーディスプレイは6型で、文庫本の1ページの印刷範囲に近いサイズだ。 このKindleは、Amazon.comからの直販のみで、価格は399ドル(送料込み)。現在では、米国内でのみ出荷している。 ●ペーパーディスプレイ、カーソルバー Kindleの電子ペーパーディスプレイ(EPD)は、米E Inkのもので、“Vizplex”と呼ばれている製品が採用されている。原理などは、以前ソニーの電子ブックリーダ「PRS-500」で説明したのと同じで、白と黒の粒子を電圧により上/下に集めることでドットの色を変化させている。だが、現在の製品では、ON/OFF(白/黒)の切り替え速度が向上し、以前の製品よりは進化している。この6型のものは解像度が600×800ドット、4階調表示となっている。 たしかに書き換え速度はPRS-500よりも速く、今回は、メニュー表示なども行なっている。速くなったとはいえ、液晶などのようには速くないため、今回はEPDの横に選択する項目を示すカーソルバーを配置、メニュー項目などの選択は、こちら側に表示する。メニュー項目自体は、EPDに表示されるが、どれを選んでいるのかを示すのはカーソルバー側である。このカーソルバーの操作には根本にある選択ホイール(Selection Wheel)を利用する。 カーソルバーは不透明の白い液晶で、カーソルを表す部分は透明となり後ろにある銀色の部分が見える。明るいところだと光っているようにも見えるが、光は出ておらず、反射しているだけだ。おそらくは液晶シャッターに使われているものと同じであろう。また、このカーソルバーは時間がかかる処理中に矩形が動くアニメーションなども行なう。 EPDは、表示を維持するために電力を必要としないため、書き換えてしまえば、あとは電源を切っておくことができる。このため、ブックリーダなど、書き換えよりも表示が固定している時間が長いものに向いている。しかし、書き換えに時間がかかるため、ユーザーインターフェイスなどを行なうには向いていない。ソニーの製品も端に10個のキーを並べ、選択動作をしなくても項目をダイレクトに選べるようにしてあったが、Kindleは、液晶を使ったカーソルバーを採用し、EDPと合わせてユーザーインターフェイスを構築できるようにしてある。
●リーダ機能 Kindleのリーダ機能は、専用フォーマットにのみ対応する。対応しているのはKindle専用の.AZW形式と、米MobiPocketの電子書籍フォーマットである.MOBI形式、.PRC形式である(MobiPocketは、現在ではAmazonの子会社)。このうちコンテンツ保護機能(DRM:Digital Right Management)があるのは.AZW形式のみで、その他のフォーマットではDRMなしのものしか受け付けない。テキストファイルなどの表示は可能で、MP3の再生機能もある。しかし、表示可能なのは、欧文の1バイトコードのみで、日本語などのフォントは持ってはいないようだ。日本語テキスト(Shift JIS、JIS、EUC、UTF-8、Unicode)をPC経由で転送してみたが、どれも表示することができなかった。 MP3の再生は、単に保存されているMP3データを順次再生するのみで、再生中の音楽のタイトルを表示する機能はない。この音楽再生機能は、Experimental(実験的)とされており、今後のファームウェアアップデートなどで、機能が追加される可能性はありそうだ。 本体下部にあるキーボードは、メモの追加やページ移動、Webアクセスなどに利用する。電子ペーパーは書き換え速度があまり速くないため、入力は少し遅れて更新されるが、メモ程度なら、素早く入力しても取りこぼすことはない。なお、キーボードにはクリック感があり、配置などから両手で持って親指で入力することを想定しているようだ。 そのほか、テキストのハイライト(マーカー)や、ページクリップ(本文をテキストファイルに書き出し)、辞書引き(New Oxford American Dictionaryを内蔵)が可能になっている。単に本を読むだけでなく、ちょっとした調べ物で本を見るような用途にも利用できる。メモやページクリップを入れたテキストファイルは、PCとUSB接続すると読み出しが可能なので、Kindleで一連の作業を行ない、その後、メモなどをPC側に取り込むことができる。 無線を内蔵しているのは、いつでもAmazonの電子書籍サイト(Kindle Store)に接続して、コンテンツをダウンロードしたり、購読した新聞などを受け取るためだ。汎用のPDFなどは、直接表示することはできず、Kindleを登録したときに利用可能になるメールアドレスへメールの添付ファイルとして転送、これをサーバーで変換して、無線経由でKindleへ保存する(無線転送に対して課金がある)。直接表示可能なのはテキストファイルと、専用のファイルであり、対応形式であれば、PCとUSB接続して転送できる(PCからはマスストレージとして認識される)。 この無線は、Amazon Whispernet wirelss Serviceと呼ばれている。これは、米Sprintの携帯電話ネットワークが使われているようである。Kindleは、CDMA2000 EV-DO方式に対応しており、通話できない携帯電話みたいなものだ。 本体内部に256MBのメモリを内蔵し、書籍はここに格納する。また、最大4GBまでのSDメモリーカードが利用可能となっている。長期間の利用を考えると不足しそうだが、Amazonから購入した書籍は、各ユーザーごとに記録されており、Kindle用のページで再ダウンロードが可能だ。
●これだけで完結した利用が可能 Kindleが、これまでの電子ブックリーダと違うのは、携帯電話と同じネットワークを利用していて、どこでも接続ができ、その場で電子書籍を購入できる点だ。また、Amazonのサービスと連携しており、再ダウンロードなども可能なので、Amazonのサイト自体を自分の「本棚」として利用できる。 電子書籍を作るのは、それほど難しくなく、Amazonのサイトに作成用のページが用意されている。ここによれば、HTMLファイルに変換したコンテンツがあれば、そこからKindle用の電子書籍ファイルを作成できるようだ。現状では、書籍などはDTPシステムを使って作られているが、そこからHTMLを出力させ、Amazonのサイトにアップロード、あとは、概要などの補足情報や価格などを指定するだけで販売が可能になるという。これをみる限り、出版の敷居はかなり低い。Kindleの電子ペーパーディスプレイは、動画の表示には向いていないが、逆に、オーソドックスな書籍、つまりテキストと図版だけならば、簡単に電子書籍化が行なえる。 携帯電話と同等の通信機能を備え、制限はあるもののWebアクセスなども可能なマシンが399ドルというのは、かなり思い切った値段という感じもある。もっとも、Amazonのサービスと一体化しており、ユーザーは、電子書籍を購入するといった前提のゲームコンソールのようなビジネスなのだろう。そのためか、PDFなどの汎用のドキュメントの利用は制限があり、Sony Readerのような感じで使うわけにはいかない。 今回は、国内での評価だったので、無線によるKindle Storeなどについては試していない(ちなみに、無線は終止OFFのまま評価している)。次回、米国取材時に実際のサービスを使ってみて、別途レポートしたい。
□Amazon.comのホームページ(英文) (2007年12月19日) [Text by Shinji Shioda]
【PC Watchホームページ】
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