米NVIDIAは12月11日(現地時間)、65nmプロセスのコアで製造されるリフレッシュ版のGeForce 8800 GTSの発売を開始する。製品名は90nmプロセスと同じだが、スペックは大幅に見直されている。このパフォーマンスを見てみたい。 ●G92をベースに128基のSPを搭載 今回投入されるGeForce 8800 GTSは、いってみれば「G92版GeForce 8800 GTS」と形容できる製品だ。つまり、GeForce 8800 GTで採用された、65nmプロセスのGPUをベースとした製品となる。 その主なスペックは表1にまとめたとおり。GeForce 8800 GTとの違いは、コア/Streaming Processor(SP)/メモリの各クロック上昇と、SP/テクスチャユニット数の増加となる。後者に関していえば、GeForce 8800 GTではSP×16基とテクスチャユニット×8基を持つ1クラスタを無効化しているが、このGeForce 8800 GTSで有効化したという解釈が成り立つ。
G80コアをベースとした旧GeForce 8800 GTSとの差異で見ると、新GeForce 8800 GTSは各クロックが上昇したほか、SPやテクスチャユニット数が増加。逆に、G92コアではROPユニットなどを含むクラスタが4個に減っているため、ROPユニット数の削減やメモリインターフェイスの縮小といったスペック低下も発生している。 ちなみに、旧GeForce 8800 GTSは320bitメモリインターフェイスの1,600MHz相当での動作となるのでメモリ帯域幅は64GB/sec。新GeForce 8800 GTSは256bitの1,940MHz相当動作なので62.08GB/secとなり、メモリ帯域幅は多少狭くなったものの、メモリクロックの増加である程度は相殺された格好になっている。 機能面では、GeForce 8800 GTと同等のものを有している。PCI Express 2.0への対応、第2世代PureVideo HDやDualLink HDCPのサポートなどは、GeForce 8800 GTXや旧GeForce 8800 GTSに対するアドバンテージとなる。 こうしたスペックは、GeForce 8800 GTXに匹敵するものとなった。GeForce 8800 GTXとの比較では、ROPユニット数、メモリ帯域幅、メモリ容量で劣る以外は、すべて同等以上のスペックを持ったことになるのだ。このあたりが、どの程度パフォーマンスに影響するかは後ほど紹介したい。 さて、今回テストするのは、Inno3Dの「I-8800GTS-H5GTCDS」と、XFXの「PV-T88G-YDD」である(写真1、2)。前者はコア/メモリクロックともに定格動作するモデルで、後者はオーバークロックモデルである(画面1、2)。 両製品ともNVIDIAのリファレンスデザインに準拠した作りで、2スロットを占有するクーラーを搭載するGeForce 8800 GTXに似た外観となっている。ただし、旧GeForce 8800 GTS同様、GeForce 8800 GTXより一回り小さい。 また、GeForce 8800 GTXではヒートパイプがむき出しになったクーラーが使われており、旧GeForce 8800 GTSも似た形状のクーラーとなっていたが、新GeForce 8800 GTSはヒートパイプがむき出しになっておらず、ヒートシンクが簡素化されている(写真3、4)。 このほか、ブラケット部は両製品とも共通で、DVI×2とビデオ出力の構成となっている(写真5、6)。 なお、電源端子は旧GeForce 8800 GTS同様に6ピン端子を1基備える。リファレンスボードの消費電力は不明だが、NVIDIAから提供された資料による「26Aの12Vラインを持つ400W以上の電源」とされている。この条件は旧GeForce 8800 GTSから変更されていない。 ●8800GTXとのパフォーマンス傾向差を見る それでは、ベンチマークテストの結果を紹介したい。テスト環境は表2に示したとおりで、スペック面での上下関係が不透明となったGeForce 8800 GTXと比較してみたい。なお、今回は時間の関係で、3DMarkシリーズ以外はDX10アプリケーションに限定してテストを行なった。
ちなみに、以下の本文およびグラフ中で“GeForce 8800 GTS”と表記した場合はInno3DのI-8800GTS-H5GTCDSを示し、“GeForce 8800 GTS(OC)”と表記した場合はXFXのPV-T88G-YDDを示す。 では、まずは「3DMark06」(グラフ1~4)と「3DMark05」(グラフ5)の結果から見ていきたい。結果の傾向ははっきりしており、低負荷であればあるほどGeForce 8800 GTS両製品が高速で、高負荷になるとGeForce 8800 GTXが盛り返すといった結果となっている。 このあたりは、メモリ帯域幅やROPが致命的に影響しない範囲であればコアクロックやSPクロックが高いGeForce 8800 GTSが速く、負荷が高まるにつれてメモリ帯域幅の広いGeForce 8800 GTXが威力を発揮したことになる。 3DMark06のFeature Testも、コアクロックが高いためにPixel ShaderやVertex ShaderのテストではGeForce 8800 GTSが好結果を出している。Perlin Noiseの結果も、このクロック差による結果と考えられる。 Shader ParticlesではGeForce 8800 GTSがGTXに劣る結果を見せている。このテストはPixel Shader性能への依存度が高いものの、細かいパーティクルの処理が次々と行なわれて結果が出力されていく性格上、その結果を出力する段の影響も受けやすい。GeForce 8800 GTSはROPユニットの削減とメモリ帯域幅縮小の影響を受け、パフォーマンスが伸び悩んだものと想像される。
続いては「Crysis」である(グラフ6)。今回より製品版を用いてテストを行なっている。1,280×1,024ドットにおいて、GeForce 8800 GTS(OC)がGeForce 8800 GTXを上回る場面も見られるが、解像度が上がるとOC版といえども太刀打ちできていない。 Crysisはかなり重い3Dアプリケーションの代表的な存在となっている。このクラスのゲームを楽しもうと思うと、やはり最上位モデルのメリットがはっきり表れる格好になっている。
「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ7)は、逆にGeForce 8800 GTSのメリットがいかんなく発揮され、ノーマル版でも全条件においてGeForce 8800 GTXを上回るフレームレートを見せた。 1,920×1,200ドットの4xAA/8x異方性フィルタの条件でも最高フレームレートが60fpsを軽く超える、DX10アプリケーションとしては軽い部類に入るため、高負荷になってもGeForce 8800 GTSのコアクロックの高さが活き続けたことになる。
「World in Conflict」(グラフ8)の結果は、明暗はっきりした結果で、フィルタを適用しなければGeForce 8800 GTSが健闘するが、フィルタを適用するとGeForce 8800 GTXが圧勝している。 これは、GeForce 8800 GTのレビューのときにも見られた傾向で、このアプリケーションは爆撃によって飛び散った破片のようにフィルタを適用するオブジェクトが多い。そのため、フィルタを適用した条件ではROPユニット数やメモリ帯域幅でアドバンテージを持つGeForce 8800 GTXの強さが際立つと想像される。
「Call of Juarez DirectX 10 Benchmark」(グラフ9)は、1,600×1,200/1,920×1,200ドットのフィルタ適用時に、メモリ帯域幅の影響と思われるGeForce 8800 GTXの強さが目立つが、ほかは拮抗した結果となっている。 面白いのは、ノーマル版ではGeForce 8800 GTXに劣るがOC版であれば上回るシーンが多い点である。それだけ、両製品のパフォーマンスは拮抗しているということがいえる。
続く「Unreal Tournament 3」もOC版の面白さが出た結果だ(グラフ10)。Call of Juarezほど重いアプリケーションではないので、低負荷時はオーバークロック版のパフォーマンスの伸びが大きい。高負荷時はやはりGeForce 8800 GTXの良さが出るが、それでもOC版であればよい勝負ができる範囲になっている。
「LOST PLANET EXTREME CONDITION」(グラフ11)は、全般にGeForce 8800 GTXが好結果を残した。このアプリケーションもCrysis同様にDX10のフィーチャーをふんだんに盛り込んでおり、こうした最新アプリケーションを利用するにおいてはGeForce 8800 GTXがアドバンテージを握っている印象を強くしている。
次にPureVideo HDの性能を見るべく実施した、HD DVD再生時のCPU使用率の測定結果である(グラフ12)。いつもどおり、本テストのみCPUはCore 2 Duo E6550に乗せ換えている。再生コンテンツはMPEG-4 AVCで収録された「VirtualTrip 地球の大自然」のチャプター12と、VC-1で収録された「SPY GAME」のチャプター21の、それぞれ先頭から3分間である。 Video Processor 2を搭載するGeForce 8800 GTSのメリットが目立つ。なお、VP2はコアクロックに同期した速度で動作するとされているが、OC版とノーマル版において目立った差はない。この点においてOC版のメリットはないことが分かる。
最後に消費電力のテストである(グラフ13)。GeForce 8800 GTで評判の良い、65nmプロセスの省電力性であるが、GeForce 8800 GTSでも顕在という印象を受ける。GeForce 8800 GTXと比較すると、およそ30Wという差だ。
ただ、この差は、昨年(2006年)に行なったテストにおける、GeForce 8800 GTXと、G80コアベースのGeForce 8800 GTSの差とあまり変わらない。先述のとおり、電源ユニットに対する要求は変わっておらず、ボードレベルでの消費電力差は新旧GeForce 8800 GTSであまり差はないと見ていいと思う。 しかし、新GeForce 8800 GTSは動作クロックが全般に引き上げられている。ここで参考にしたいのが、コア650MHz/メモリ2GHz(1GHz DDR)で動作する旧GeForce 8800 GTSのオーバークロックモデルと、GeForce 8800 GTXの違いを紹介した記事だ。 この旧GeForce 8800 GTSのオーバークロック版は、新GeForce 8800 GTSと動作クロックが非常に似ているが、GeForce 8800 GTXとの消費電力差は10W程度であり、新GeForce 8800 GTSよりも消費電力が高いのは明らかである。 これらの比較をまとめると、新GeForce 8800 GTSは、旧GeForce 8800 GTSから動作クロックが上げられているが、消費電力は従来レベルに抑制されている、という見方が正しいだろう。 ●GeForce 8800 GTXのライバルになり得る存在 65nmプロセスでリフレッシュされたGeForce 8800 GTSのパフォーマンス傾向をまとめると、低負荷ではコアクロックの高さが活きてGeForce 8800 GTXを上回る性能を見せる一方、高負荷条件ではGeForce 8800 GTXを下回ることが多いという結果となった。スペックの違いからいっても妥当な傾向だろう。 ただ、GeForce 8800 GTXに強力なライバルが登場したことは間違いない。GeForce 8800 GTSには価格面での魅力があるからだ。この新GeForce 8800 GTSはノーマル版が5万円前後、オーバークロック版も5万円台前半で登場する見込みだ。7万円以上が相場となっているGeForce 8800 GTXに比べ、かなり安価に感じられる。 クオリティを追及するユーザーであれば、GeForce 8800 GTXやSLIといった選択肢になるのだろうが、多少の妥協を許せるのであればGeForce 8800 GTSのコストパフォーマンスに魅力を感じるユーザーも多いだろう。 コストパフォーマンスという観点ではGeForce 8800 GTという存在もあるが、クオリティレベルによってはGeForce 8800 GTXを上回るパフォーマンスを出せる新GeForce 8800 GTSは、明らかに1セグメント上の層を狙った製品だ。 消費電力やVP2の魅力も加味すれば、NVIDIAの新たなハイエンド製品としては、GeForce 8800 GTX以上の魅力を感じさせる製品になっている。 □関連記事 (2007年12月12日) [Text by 多和田新也]
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