NVIDIAから10月29日(現地時間)に発表され、即日発売されたGeForce 8800 GT。売れ行きも好調なようで、すでに手にされている方も多いのではないかと思う。遅ればせながら筆者も本製品を試す機会を得たので、ここでベンチマーク結果を紹介したい。 ●50mm角のクーラーを持つ1スロットクーラー GeForce 8800 GTに関する情報は、発表当日に説明会レポートをお届けしているので、詳しくはそちらを参照していただくとして、さっそく今回テストする製品の紹介を行なっていきたい。 今回利用するのは、XFXの「PV-T88P-YDFP」である(写真1)。XFXからは10月29日の発表と同時に、3製品が発売され、オーバークロックモデルも2製品含まれている。今回テストするのは定格動作の製品である(画面1)。
リファレンスボードに準拠した作りになっており、クーラー上のラベルはXFXブランドのものに置き換えられている。このクーラーは、GeForce 8800 GTの売りの1つでもある1スロットに収まる薄型のもの。ボードのほぼ全面を覆う化粧カバーも印象的であるが、中のヒートシンクは銅製のヒートパイプとアルミ製フィンを組み合わせたシンプルなものだ。ファンは50mm角のブロアタイプが採用されている(写真2、3)。 このクーラーに関しては各所で話題にされているが、確かに最大回転時の騒音はかなりのものになる。冷却に関しては測定はしていないが、リファレンスデザインとする以上、NVIDIAが考える一定以上の能力は持っているはずだが、そのトレードオフとしてこの騒音があるのは少々残念である。 過去の例でいえば、ベンダーが独自にクーラーを交換して発売する製品も今後は登場する可能性はある。設置スペースに余裕があるのであれば、例え2スロットを利用したとしても、より能力の高いクーラーを搭載した製品の方が魅力は高いと思われる。 外部電源端子は1基のみ備える(写真4)。資料によれば本製品のリファレンスボードの消費電力は105Wとされており、PCI Expressスロットからの供給分75Wと、電源端子からの供給分75Wで十分に足りる計算となる。 ブラケット部はDVI×2とビデオ出力の構成(写真5)。DVI端子はDualLink HDCPをサポートすることで、著作権保護されたコンテンツを再生する場合でも、2,560×1,600ドットなどの解像度を利用できる点がアピールされている。
●8800シリーズとRadeon HD 2900 XTを利用して性能比較 それでは、テスト環境の紹介に移りたい。今回テスト対象とするカードとスペックは表1、写真6~7に紹介する通りである。注意したいのは、GeForce 8800 GTSで、320MBのオーバークロック版となっている点。GeForce 8800シリーズの3製品はSPが少ないほどコアクロックが高いということになっており、こうした違いによる性能の違いがどう出来るか興味深い。 そのほかの環境は表2の通り。マザーボードはnForce 680i SLIを搭載するASUSTeKの「P5N32-E SLI」(写真9)を利用しており、GeForce 8800シリーズの3製品に関しては、SLI構成におけるテストも実施している。
【表1】テスト対象製品比較表
【表2】テスト環境
なお、本連載では約4カ月ぶりにビデオカード製品を取り上げることになるが、この間に多くのDirectX 10対応ゲームやプレイアブルデモがリリースされている。これに合わせて、テストアプリケーションを大幅に見直している。また、近々リリースされるビッグタイトルもあるので、さらなる見直しも今後行なっていく予定だ。 各ソフトウェアのテストパターンだが、これまでは基本的に3つの解像度と、各々の解像度で4xアンチエイリアスのみを適用した場合、4xアンチエイリアスと8x異方性フィルタリングを適用した場合の計9パターンでテストを行なっていた。 しかし、同じ時間をかけるのであれば、解像度などのテストパターンが多いよりは、テストするタイトルを増やした方がいいだろうという考えのもと、今回から4xアンチエイリアスのみ適用したパターンを割愛し、各テスト6パターンでのテストすることにした。 GPUのアーキテクチャに大幅な変更があった場合などに、4xアンチエイリアスのみを適用したパターンも測定することもあるだろうが、原則として各ソフトウェアで3解像度×2パターンの計6パターンでテストを進めていく。 それではテスト結果をお伝えしていきたい。まずは「3DMark06」(グラフ1~4)と「3DMark05」(グラフ5)である。3DMark05の1,280×1,024ドットに関しては負荷が小さいためか傾向が異なるが、それを除いてはGeForce 8800 GTXが頭一つ抜け出し、続いてフィルタの適用がなければGeForce 8800 GTSが速く、フィルタを適用するとGeForce 8800 GTが良好なスコアを出す傾向にある。 GeForce 8800 GTXのパフォーマンスが抜け出しているのは、これらのテストにおいてSPの数が勝負を決めていることははっきり分かる。ただし、GeForce 8800 GTとGTSの結果を見ると軽負荷状態の場合は、SP数だけでなくコアクロックも結果を左右する要素になり得るということになる。さらに軽い負荷であればGeForce 8800 GTXをGTが上回る場面もあるのかも知れない。 面白いのはGTとGTSの違いで、8800 GTはGTSに対してテクスチャユニット数は多いがROP数は少ない。フィルタ適用時にGTのスコアが良好になるということは、この仕様の違いから異方性フィルタリングの負荷が8800 GTSにとって相当な足かせになっている可能性も考えられる。 また、3DMark06のSM2.0のように全般に渡ってGeForce 8800 GTSの方が速いテストもあるが、後述する各種ゲームテストの結果を見るに、フレームバッファの容量が320MBである点が問題になっている場合もある。 Radeon HD 2900 XTとの比較では、軽負荷であるほどRadeon HD 2900 XT、高負荷であるほどGeForce 8800 GTがスコアを伸ばす傾向にある。Radeonシリーズは伝統的に異方性フィルタを適用するとスコアが大きく下がる傾向にあり、このあたりの差が影響しているのではないかと思われる。 SLI構成においては、軽負荷時にGeForce 8800 GTがGTXを上回るスコアを見せる場面も散見される。理屈の上では、これは上回るというよりも、差がないと見た方が妥当であるとは思うのだが、誤差と呼ぶには大きすぎる箇所もある。利用しているForceWare 169.01Betaが、GeForce 8800 GTのテスト用に開発されたベータ版ドライバであることも原因の1つではないかと思うが、8800 GTのSLIの方が安定して追加のパフォーマンスを得られやすいという印象だ。
続いてはF.E.A.R.である(グラフ6)。設定はすべてMaximumに指定したほか、SoftShadowsは無効にしている。また、本連載ではこれまで1,280×960ドットの解像度を指定していたが、ここでは1,280×1,024ドットの解像度を利用している。ここの注目は何といってもSLI時のパフォーマンスであろう。GeForce 8800 GTのSLIにおいて、8800 GTXのパフォーマンスを大きく上回っている。もちろんゲームのクオリティセッティングは同一で、このあたりからも先の3DMarkのところで触れたドライバの影響を感じている。 シングルビデオカードに関していえば、おおむね8800 GTXが良好で、次いでコアクロックが高い8800 GTS、8800 GT、Radeon HD 2900 XTの順に並ぶ。ここではフィルタを適用した場合でも8800 GTSが安定した性能を発揮できている。
次は「Call of Duty 2」である(グラフ7)。設定はテクスチャクオリティ周りの設定をすべてExtraに指定している。11月5日にはPC版にもCall of Duty 4が発売されるが、現時点で未入手のため今回はCall of Duty 2を使っている。入手でき次第、Call of Duty 4へテストを切り替える予定である。 このテストはCPUがボトルネックになりやすいテストなのだが、GeForce 8800 GTSが明らかに一歩劣る結果となった。コアクロックよりも、シェーダ処理ユニット数の影響が大きい結果となっている。こうした傾向が出るテストにおいて、8800 GTは8800 GTXには劣るものの、8800 GTSはもちろん、Radeon HD 2900 XTにも勝る結果を出せることが分かる。
ここからはDirect X10アプリケーションのテストである。まずは先日公開された「Crysis Single Player Demo」の結果だ(グラフ8)。このデモには2種類のベンチマーク用バッチファイルが収録されているが、ここではGPU用のバッチファイルを用いている。クオリティはすべて「Very High」に設定した状態であるが、この状態では非常に負荷が重いテストとなるため、このアプリケーションのみフィルタ適用パターンのテストを見送っている。 結果を見ると、8800シリーズに関してはSP数の順に結果が並ぶ結果となった。この結果においてもGeForce 8800 GTは、やはりRadeon HD 2900 XTより良好な性能を出している。 なお、Crysis Single Player Demoについて、NVIDIAからはマルチGPUに対応していないというアナウンスがされており(製品版では対応予定)、SLIの結果も効果の有無はバラつきがある。まったく影響がないわけではないが、確実に好影響を得られるわけではないので、現時点ではSLIなどを利用する効果はないといっていいだろう。
続いては「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」である(グラフ9)。Direct3D 10レンダリングを有効にした以外は、すべて「HIGH」に設定した状態でテストしている。 この結果はCrysisに似た傾向を示しており、SP数に左右される結果となっている。Radeon HD 2900 XTのフィルタ適用時にパフォーマンスが大幅に落ち込む現象もほかのテストで見られる傾向である。 SLIに関しては、フィルタを適用したり、WUXGA解像度を選択した場合に効果が見られている。ただし、8800 GTSのみは1枚利用時のパフォーマンスが不足気味であるためか、低い負荷の状態でSLIの効果が見られる一方、高解像度時にフレームバッファ不足と想像される大幅なパフォーマンス低下が発生している。
次は「World in Conflict」である(グラフ10)。クオリティは「HIGH」に設定している。このテストは、デモ版などで映像を見ていただけると分かるが物理演算が多く、CPUへの負担が非常に多いようである。結果として、SLIの効果は高解像度時に限られる結果になっているのが特徴だ。 低負荷では8800 GTもGTXと同等以上の好結果を出せるが、フィルタを適用することで8800 GTXの強さが際立ってくる。飛び散る破片など、フィルタを適用する対象となるオブジェクトが多くなるのにつれて、GTXのROP数やテクスチャユニット数の多さが功を奏しているのではないかと思われる。
「Call of Juarez DirectX 10 Benchmark」も、8800 GTが好結果を残す結果となった(グラフ11)。ただし、UXGA以上の解像度でフィルタを適用すると、Radeon HD 2900 XTに逆転を許す結果となった。フレームレートを見ると相当負荷が高いことが分かるが、こうしたアプリケーションにおいてはフィルタ適用時の8800 GTのスコアの落ち込みが大きいということになる。 SLIの効果も非常に大きい。おおよそ1.5倍程度は期待できる結果で、今回テストしたDirectX 10対応アプリケーションの中で、マルチGPUの効果は一、二を争うものとなっている。
次に「Unreal Tournament 3 Demo」の結果である(グラフ12)。設定はクオリティをすべて「5」に設定している。FlyThrough、Botmatchともに時間は60秒に指定。Bot数は12体に指定している。 アンチエイリアスに関して、GeForce 8800シリーズはドライバ側でOverride指定することでAAが適用されたが、Radeon HD 2900 XTはCATALYST側で指定しても実際には適用されない状態であったためテストを割愛している。また、GeForce 8800 GTSに関しては、WUXGAのフィルタ適用時にテストが完走しないトラブルが発生したため、やはりテストを割愛した。 結果はほかのDirectX 10アプリケーションに比べると8800 GTが苦戦する傾向が見られている。ただ、フレームバッファに余裕がある分、8800 GTSに比べて高解像度/フィルタ適用でもパフォーマンスが安定しており、ゲームをプレイするのに現実的なフレームレートが出ている。
3Dベンチの最後は「LOST PLANET EXTREME CONDITION」である(グラフ13)。モーションブラー、フィルタリング、ファーの設定をDirectX 10に設定したほかは、すべて「高」に指定している。なお、このテストのみ1,280×1,024ドットが指定できなかったため、代わりに1,280×720ドットでテストしている。 このテストも8800 GTSと一進一退の性能差となっている。フィルタを適用しない状態では8800 GTS、フィルタを適用すると8800 GTが、それぞれ好結果を残す結果となる。また、SLIの効果も非常に高いものとなっているのが印象的なテストとなっている。
さて、GeForce 8800 GTには、GeForce 8600 GTSなどに組み込まれているVideo Processor 2(VP2)を搭載している点も大きな特徴である。このパフォーマンスを確認すべく、HD DVDの再生テストも行なった。このテストのみCPUはCore 2 Duo E6550(2.33GHz)へ変更している。 再生ソフトはPowerDVD Ultraで、2007年6月14日発行のパッチ(3104)を適用した状態である。ただ、設定でハードウェアアクセラレーションを無効にしても、再生を開始すると自動的に有効になってしまう状況であった。そのため、テストはハードウェアアクセラレーションの効果を見るというより、各製品のハードウェアアクセラレーションの性能差を見るものとなっている。 再生したタイトルはMPEG-4 AVCで収録された「VirtualTrip 地球の大自然」のチャプター12と、VC-1で収録された「SPY GAME」のチャプター21。1秒ごとにCPU使用率をトレースし、3分間の平均を結果として表している(グラフ14)。 結果を見ると、MPEG-4 AVCで収録されたコンテンツを再生したとき、8800 GTのみが明らかにCPU使用率が低くなっている。VP2のMPEG-4 AVCコンテンツに対する効果が反映された結果といえる。ただし、VC-1に対してはハードウェアアクセラレーションの範囲が限定されるため、8800 GTX/GTSと同等のCPU使用率に留まる。 Radeon HD 2900 XTは、下位モデルに実装されているUniversal Video Decoderではなく、従来のAVIVO HD相当のハードウェアアクセラレーションとなる「Universal Video Acceleration」が実装されている。この効果は薄く、MPEG-4 AVC/VC-1ソースともに50%近いCPU使用率となっている。
最後に消費電力のテストである(グラフ15)。この環境のCPUはCore 2 Extreme QX6850である。結果はGeForce 8800 GTの素行の良さが目立つものとなった。シングル利用時の消費電力の低さも素晴らしいが、SLI時にRadeon HD 2900 XTを下回る消費電力となっているのは魅力で、65nmプロセス化によってパフォーマンス対消費電力の効率は非常に高いものになっているといえる。
●パフォーマンス、消費電力、コストの絶妙なバランス 先にも触れた通り、本連載でビデオカードを取り上げるのは4カ月ぶりとなるわけだが、言い換えれば、それは数カ月間、ビデオカードに関する話題が乏しかったともいえる。こうした状況の中、GeForce 8800 GTは高い話題性とともに登場した製品であるが、その期待を裏切らない製品であったといえるだろう。 パフォーマンスに関していえば、8800 GTXには及ばない結果となっている。また、DX9対応アプリケーションにおいては、オーバークロック版8800 GTSの後塵を拝するケースも多い。だが、DirectX 10対応アプリケーションにおいては、オーバークロック版の8800 GTSを上回るケースが多い。SPの数が多いことのメリットが表れている結果であり、リリースタイトルが急増しているDirectX 10対応アプリケーションを利用するビデオカードとして、8800 GTのスペックは要点を押さえた作りになっていると判断できる。 消費電力に関しても、65nmプロセスへシュリンクしたことで大幅な低減が実現されている。今回のテスト対象中、8800 GTSはオーバークロック版であったため、ひょっとすると定格動作では差が縮まることになるが、パフォーマンスとのバランスでいえば優れた結果といって差し支えない。 ただし、消費電力の小ささによって減ったであろう発熱に対し、そのクーラーの騒音はいただけないものであるのも事実だ。今後のボードベンダー各社によって高性能(静音)クーラーの搭載がなされることを期待したい。 最後にコストに関してであるが、8800 GTは512MBモデルが3万円台中盤~後半程度になっている。3万2千円前後という製品もあることから、今後3万円台前半に落ち着く可能性は高く、8800GTX/GTSの価格に対してインパクトの強い価格設定になっている。 こうしたコストパフォーマンス、パフォーマンス対消費電力のバランスに優れるのが8800 GTの大きな魅力である。そのパフォーマンス傾向からしても、DirectX 10対応アプリケーションのためにビデオカードの交換を検討している人にとって、非常に有力な選択肢になる製品だ。 □関連記事 (2007年11月8日) [Text by 多和田新也]
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