イー・モバイルの「EM・ONE」がWindows Mobile 6(WM6)を搭載し、「EM・ONEα」(S01SH II)となった。サービス開始当初、筆者宅はエリア外だったので、興味のなかったイー・モバイルだが、いつのまにかサービスエリアになっていた。今回、EM・ONEαがWM6になったこともあり、購入してみた。 同社のデータカードも検討したが、筆者の用途としては、Bluetoothで接続できるものがベストな選択だ。まずケーブルが不要だし、PC以外の機器からも利用可能だ。そう考えると、EM・ONEしか選択肢がなかった。EM・ONEは、USBモデムとしても動作するので、Bluetooth接続(EM・ONEはV1.2のBluetoothを装備)で速度的に問題があるなら、USBで接続すればよい。 販売店には、Windows Mobile 5(WM5)を搭載したEM・ONEと、WM6を搭載したEM・ONE αの2機種が販売されていた。価格は旧機種となったEM・ONEのほうが1万円ほど安いが、WM6へのアップグレード費用が9,990円とアナウンスされており、実質的な価格差はないに等しい。しかもアップグレードを行なうには郵送でイー・モバイルに本体を送らなければならず、返送されるまでに約2週間かかる。イー・モバイルに預けている間はEM・ONEを使えないし、その間日割りで基本料金を割り引いてくれるわけでもない。そういうわけで、やはり新しいものにした。 購入して気がついたが、契約開始月は料金無料というキャンペーンを行なっており、しかも料金計算は月末〆切りなので、月初に購入したほうがよかったのだ。EM・ONEαを購入した10月は、キャンペーンでオプションのクレードル(直販価格7,140円)が付いてきたが、翌月(11月)からは、マイクロソフトとの共同キャンペーンなども始まったようだ。つくづく運が悪い。 契約は、2年契約で本体が39,800円ともっとも購入価格の安い「データプラン(にねん)」にした。どうせ2年ぐらいは使うだろうし、解約が自由な「データプラン(ベーシック)」は、95,000円とかなり高い。契約後2年が経過すれば「データプラン(ベーシック)」と同じ扱いになり、その後は1年契約で月額料金が1,000円安くなる「年とく割」が使えるようになるという。 計算してみたところ、1年以内に途中解約したとしても、総支払額は、どのプランもほとんど変わらない。だとしたら、初期投資額が低い「データプラン(にねん)」の方が良いだろうと判断した。 ●自宅では電波状態が悪いものの、通信サービス自体は問題なし このEM・ONEαだが、イー・モバイル自体のサービスには、特に問題はない。筆者宅は、どうもセル(基地局カバー範囲)の端になるのか、電波状態はあまりよくないが、それでもそこそこの通信速度は出る。自宅では無線LANで接続するので、都内などへ外出したときに通信できればよいと割り切っている。イー・モバイルのサービスは、携帯電話と同じW-CDMA/HSDPAを使うが、現時点では通話サービスは提供していない。しかし、すでに別キャリアで携帯電話サービスが提供されているので、イー・モバイルがサービスを提供していないこと自体はそれほど問題には感じない。通信料金が定額制なので、外出先や自宅でも気軽に使え、携帯電話を使ったデータ通信に比べるとなにか解放されたような気分になる。ウィルコムの「W-ZERO3」でもプラン選択で同程度の価格になるが、通信速度の違いは大きく、Webページの表示でイライラすることも少なくなった。 ブロードバンド向け速度測定サイトを使って筆者宅で実測すると、EM・ONEα本体で350kbps程度は出る。しかし、USBモデムとしてPCで利用するとその倍程度の速度になる。Bluetooth経由の接続では200kbps程度と、EM・ONEα単体で通信するよりも遅くなった。EM・ONEαに搭載されたBluetoothはVer.1.2で、HSDPAの通信速度よりも遅いことと、USB経由での接続に比べWindows Mobile内で動作するコードが増える(Bluetoothのサポートコードなど)が多くなるため、オーバーヘッドが発生しているのだと考えられる。
【表1】転送速度(単位:kbps)
●ハードウェアは全般的には悪くないものの、細かい点には多少不満も やはり、液晶が大きめというのは見やすくていい。解像度がWVGA(800×480ドット)と高く、いくつかのアプリケーションは、この解像度で表示を行なう。Windows Mobileでは、文字などが小さくなりすぎないように、旧来のアプリケーションなどはQVGA(320×240ドット)で設計されている。しかし、WM6からは、Mobile IEなどが高解像度に対応し、解像度に応じた表示ができるようになった。そうなると、液晶自体が大きい方が有利だ。多少筐体が大きくなるが、同じ解像度で3インチの液晶を使うウィルコムの「Advanced W-ZERO3[es]」とは、縦の長さがほぼ同じで、横幅が1.5倍程度しか違わない。だが、一度このサイズに慣れてしまうと、同程度の解像度であっても、3インチ程度の液晶の小さなマシンは文字のサイズが気になってしまって使えなくなってしまう。携帯電話としては、小さい方が好まれるようだが、以前紹介したNokia N800と同様、VGA以上の「高解像度」だと、この4インチあたりがスイートスポットという感じがする。 全体として、筐体のデザインはここ最近登場した機種の中では良い方ではないかと思う。ただ、カメラや縦横切替のボタンなどが小さく、特に電源スイッチはあまり扱いやすいとはいえない。指の引っかかりが悪く、ときどき指が滑って電源投入に失敗する。起動はスイッチを指で上に押し付けたまま、液晶左側の3つのLEDが点灯するまで数秒待たねばならないので、余計に失敗しやすい。頻繁にON/OFFするのだから、もう少し簡単なスイッチにして欲しかったところだ。しかも、専用クレードルに装着すると、側面のプラスチックが当たって電源スイッチに指が届きにくくなる。あまりに操作しづらくなるので、筆者は早々にクレードルの側面部分を切ってしまった。なお、スイッチに依存せず電源のON/OFFを実現するソフトウェアがいくつか作られているので、少なくとも電源スイッチの使い辛さは改善できるようだ(クレードルを切り取る前にGoogleで検索すればよかった……。つくづく運が悪い)。
●駆動時間は短め。大容量バッテリは必須か 持ち歩いて気になるのは、バッテリ駆動時間である。標準のバッテリは容量1,200Ahで、電源ONの状態で駆動時間は約3時間半から4時間というところだ。外出先でちょっとメールをチェックしたり、予定を確認するといったPDA的な利用はともかく、単体でWebブラウズを行なう、あるいはPCと接続して通信を行なうような用途では、あっという間に電池がなくなってしまう。朝出かけて、昼頃帰るような外出なら十分だが、戻りが夕方になるような一日がかりの外出はちょっときつい。毎日充電が必要という感じで、一昔前の携帯電話を思い出させる。 このEM・ONEαでは、電源状態は常にONかOFFしかなく、W-ZERO3のようなスタンバイ状態が用意されてない。メモリなどはOFFのときにもバックアップされているようだが、CPUや周辺装置は完全にOFFになっている。これに対してW-ZERO3などは、通話の待ち受けがあるため、電源ON/OFFと別にスタンバイ状態が用意されており、CPUがONのままでも数日動き続けることができる。せっかくBluetoothで無線接続ができるのに、スタンバイ機能がないために、いちいちEM・ONEαの電源をONにしなければならないのは少々面倒だ。 Outlook Mobileのメール機能を用いて、15分に1回IMAP4でメールサーバー(GMail)にアクセスして測定を行なったところ、HSDPAのみをONにして連続4時間15分程度、無線機能をすべてONにして無線LANで接続して4時間53分という結果を得た。筆者宅は、イー・モバイルの電波状況はあまりよくないが、無線LANは同じ部屋にアクセスポイントがあるので条件はよい。カタログスペックでは駆動時間が4時間となっているのでほぼその通りの結果だが、実際に使ってみた感じでは少し駆動時間が短すぎるように思える。 オプションで用意されている、2,000mAhの大容量バッテリを購入した。直販価格は8,820円だ。大容量バッテリは標準バッテリと比較して、厚みが倍ぐらいになっているので、専用の電池カバーが付属する。これを付けると本体が5mmほど厚くなってしまう。Linux Zaurusのときにも、こういうバッテリ増設方法だったが、シャープって、こういうの好きなんだろうか? そもそも大容量バッテリが用意されているということは、作る側にも“少し時間短いかなぁ”って思いがあって、本当は標準バッテリの容量を増やしたいのだが、コストや発注企業からの要求、あるいはそれに気がついた時期が遅すぎたなどといった理由で増やせないため「じゃオプションで」ってことになったのではないか思われる。プラスチック筐体を作るための金型はかなり高価で、一度作ってしまうと一定数以上作って元を取らない限り、ケースのコストがかなり高くついてしまう。その点、フタを別に作ってバッテリと一緒に売れば、フタのほうは早い時期に金型のコストが回収できる。まあ、そういう理由なのだろう。 おそらく多くのユーザーは、結局大容量バッテリを使うことになるのではないかと思う。はっきりいって、標準バッテリの駆動時間は実用ギリギリのところで、大半のユーザーの要求を満たすようなスペックではない。できれば、最初から大容量バッテリ付きで売って欲しいものである。 この大容量バッテリでも同様にテストしてみた。HSDPAによる接続では、標準バッテリの4時間15分に対して、大容量バッテリでは、6時間43分となった。無線LANの場合には、4時間53分に対して、8時間29分である。また、実際に数日、持ち歩いてみたが、大容量バッテリでは、一日ががりの外出でも帰りまでしっかりと動いてくれた。
【表2】バッテリ動作時間測定
ただ、この測定は、各1回のみ(測定と充電で数時間以上かかってしまうので……)で、バッテリや本体のバラツキで違いが出る可能性があるので、あくまでも参考程度にしておいて欲しい。 このテストで気になったのは、EM・ONEαのバッテリ残量表示である。設定メニューにある「パワーマネジメント」の表示では、バッテリ残量は、5段階で表示される。実際にはパーセンテージではなく、100/75/50/25/10(および0%)の数値で表示される。しかし、各段階は、バッテリ残量に正しく比例しているのではなく、25%となった段階で急激に進み、数分でバッテリ切れの表示が出て、自動OFFになってしまう。特に通信中だと、標準バッテリ場合、バッテリ切れ表示が出てから1分程度でOFFとなる。このため、運用上は、25%表示が出たらもうほとんどバッテリがないと思わねばならない。 ただ、自動OFFになっても、メモリなどのバックアップは継続している。バッテリ残量警告や自動OFFは、充電を開始するまでこれらをバックアップし続ける程度の余力を残して行なわれているようだ。なので、外出中にバッテリが切れたとしても、自宅に戻って、充電を開始すれば、実行中のプログラムのデータが失われるようなこともないし、再起動にもならない(とはいえ用心はしたほうがいい)。 50%表示になったらバッテリを半分以上使っていると考え、25%表示なら作業はすべて終了させてバッテリ切れに備えるべきだろう。予備の電池に交換するなら、25%表示の段階で、アプリケーションなどをすべて終了させ、データを保存し、交換を開始するとよいだろう。
【表3】バッテリ動作時間測定(25%→警告→OFFまで)
●WM6は改良されたのだが、やや難あり WM6は、WM5に比べるといくつかの点で改良が行なわれている。しかし、その目玉の1つである「HTMLメールの表示」では、表示できないメールが結構あった。何が原因かわからないが、手元に来ていたHTMLメールのうち半分ぐらい(国内、国外からのもの)が何も表示されず、真っ白なままだった。これならまだ、昔のようにテキストで表示されるほうがマシである。これはEM・ONEα固有の問題ではなく、Advanced W-ZERO3[es]でも表示されない。つまり、WM6の問題なのだ。バグといえなくもないが、メールメッセージにHTMLを入れる場合、MIMEの古い仕様や解釈の違いが入ることがあるので、送信側に問題がないとも言い切れないところだ。 ただ、WM6で表示されなかったメールも、デスクトップ上のOutlook Exprssでは問題なく表示できる。ある意味、HTML形式のメールは、OutlookやOutlook Expressで表示できるかどうかが、基準といえるだろう(なにせHTMLメールを広めた当事者だから)。だとしたら、表示できないのはWindows Mobileの問題として対応すべきであろう。 ZIPファイルへの対応や、予定表の1週間表示の改良など、良くなったと思える点もあるが、メールが読めないというのはかなり痛い点だ。まあ、通信料金を気にしないでいいので、付属のOperaでGMailなどを使えば問題は解決できるのだが、マイクロソフトにはもう少しがんばって欲しいところだ。今後のバージョンアップなどに期待しよう。 EM・ONEα独自のソフトウェアとしては、以下のようなものがある。
SpriteBackupは、以前、日本HPの「iPaq」シリーズに搭載されていたこともある。ただ、EM・ONEαに付属するのは専用の機能縮小版で、自動バックアップ(スケジュールバックアップ)機能がないのが残念なところだ。オリジナルのSprite Backupの良さは、指定した時間に自動でバックアップしてくれる点なので、何かあったときに最近の状態に戻すことができてすごく便利だった。相性の悪いソフトをインストールしてしまって、どうしようもない状態に陥ったり、外出先で急に調子が悪くなった場合など、かなり助けられた記憶がある。スケジュール機能のある製品版へのアップグレードパスなどが用意されているとよかった。 DicLandとPDF Viwerは、それぞれブラザー、Pixselのソフトウェアで、国内のWindows Mobile機ではわりとバンドルされることが多いもの。カードリーダ、バーコードリーダ、ブンコビューアは、W-Zero3に搭載されているものと同じで、内蔵カメラを使うアプリケーション。SHメールは、W-ZERO3メールとほぼ同じインターフェイスを備えている。 EM・ONEαの独自ソフトは、ランチャーのホームメニュー、Webサイトをダイヤルで切り替え可能な「ネットウォーカー」、そしてオンラインコンテンツとローカルファイルの3Dブラウザである「3D Box」、およびVoIP(通話)ソフトの「JAJAH Phone」である。なお、インターネットの接続共有の機能は省略されているようである。 ●使い方のあれこれ PCとUSB接続して使うときには、PCのUSB端子から電源を供給することで、稼働時間を延ばすことができる。とはいえ、EM・ONEαはUSB充電に対応していないので、先がUSBミニBとDC電源ジャックになった二股のケーブルを使う。これは、PSP用などで利用されているもので、比較的簡単に手に入る。これをUSBと電源の両方に挿して使えば、PC側から充電が行なわれる。 このEM・ONEαは、サイズが任天堂のDS Liteとほとんど同じだ。なので、DS Lite用のケースがほとんどそのまま利用できる。実は、以前紹介したN800もそうだ。専用ケースに比べるといろいろバリエーションがあるし、ちょっとした付属品などを入れる場所もある。価格的にも安価だし、近所のスーパーなどでも扱っていて入手も容易だ。 また、EM・ONEαのUSBポートは、USBホスト機能を備えているため、周辺機器を接続できる。オプションのクレードルのUSB端子もホストコネクタ対応である。USBキーボードや、メモリカードリーダ、USBメモリなどが接続できた。なかでもUSBキーボードはちゃんとしたものから折りたたみ式まで利用でき、画面の大きなEM・ONEαとの組み合わせは意外と使える。漢字キー(全角/半角キー)または、“`”(逆シングルクオート。英語キーボードの場合)で全角ひらがなと半角英数の入力切替ができるので、英文混じりの文章作成には便利だ。F1、F2キーが左と右のソフトキー、F6、F7キーが音量のアップダウンに、Windowsキーがスタートメニューに対応していた。入力速度にはかなり追従するようなので、折りたたみ式キーボードはもちろん、持ち歩き可能な小型キーボード(Happy Hacking Keyboardあたり)と組み合わせてもいいかもしれない。 USBやBluetooth経由でHSDPA経由の通信を行なうときには、EM・ONEα自体が非通信状態(タイトルバーのアイコンが接続状態ではないとき)である必要がある。しかし、WM6付属のWindows Liveにアカウントを登録すると、頻繁に接続しに行くようになる。このため、EM・ONEをUSB/Bluetooth経由で利用する場合には、Windows Liveの動きには注意したほうがいいだろう。少なくともLive IDを登録しなければ、通信は行なわないようだ。 Operaを使うと、Google系のサービスは、デスクトップと同じ表示が可能だが、メモリ量やCPUパワーの点で、Windows Mobile機にはまだ少し負担が大きい感じだ。Google MapはBluetooth経由でGPSによる現在位置表示にも対応した専用クライアントが用意されている。Googleホームページ、Gmail、カレンダーには、それぞれモバイル用のページがあるので、これを使うと負担が軽く、ストレスなく利用できる。たいていのGoogleサービスは、デスクトップで使っているURLに“/m”を付けるとモバイル版になる。対応しているのは、ホームページ/カレンダー/ノートブック/リーダー/ドキュメント/Webアルバム(Picasa)/Newsである。ただし、Newsなどは英語のみの対応である。Gmailは簡易HTML表示/携帯電話表示が選択できるが、GoogleブックマークはIE MobileからPC表示を選択して利用する。 前述したように、サービスには満足だが、EM・ONEαというハードウェア自体には少し不満を感じる。イー・モバイルの他のアダプタなどに比べても高価だし、プラン選択によっては、10万円弱にもなるマシンである。もう少し使い勝手などを考えていただきたいものである。この機種は、イー・モバイルのサービスと一体でなければ筆者は買わなかったかもしれない。大きな液晶や縦横にスライドする機構、ポインティングデバイスなど、悪くない部分もあるが、ワンセグ搭載やバッテリ容量など、PDAとして疑問を感じる仕様もある。もう少しユーザーやその使い方を考えて欲しいところだ。
□イー・モバイルのホームページ (2007年11月29日) [Text by Shinji Shioda]
【PC Watchホームページ】
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