レノボ・ジャパンの「ThinkPad X61 Tablet」は、12.1型液晶を搭載したコンバーチブル型タブレットPCである。ThinkPad X61 Tabletには、2007年6月に発売が開始されたXGAモデル(7764B4J)と、7月に発売が開始されたSXGA+モデル(776411I)の2製品があるが、今回は、より注目度が高いと思われるSXGA+モデルをレビューする(以下、ThinkPad X61 Tablet SXGA+モデルと呼ぶ)。 ●12.1型でSXGA+表示を実現 ThinkPad X61 Tablet SXGA+モデルの最大のウリは、SXGA+(1,400×1,050ドット)表示対応の12.1型液晶を搭載していることだ。モバイルノートPCで主に使われている12.1型液晶や13.3型液晶の解像度は、通常XGA(1,024×768ドット)であり、SXGA+表示は、14.1型以上の液晶となるのが普通だ(14.1型XGA液晶を採用した製品もある)。WindowsのようなGUIベースのOSは、デスクトップの解像度が高いほど快適に利用できる。一度、高解像度のデスクトップ環境に慣れてしまうと、低解像度にはもはや戻れない。 筆者は、原稿書きなどを行なうメインマシンとしてパナソニックの「Let'snote Y5」を使っているが、この機種を選択した最大の理由は、SXGA+表示が可能なことだ(Let'snote Y5の前は、同じくSXGA+表示対応のLet'snote Y2を利用していた)。SXGA+では、XGAの約1.87倍もの情報量を一度に表示できる。最近は、ワイドタイプの液晶を搭載したノートPCが増えているが、例えば、1,280×800ドット(WXGA表示)でも、一度に表示できる情報量はSXGA+の7割程度に過ぎない。 12.1型SXGA+液晶を搭載したノートPCは、非常に珍しい。2003年12月に東芝から発売されたタブレットPC「dynabook SS M200 140/L2X」では、12.1型SXGA+液晶を搭載していたが、標準価格が381,200円と高価であり、あまりコンシューマ向けとはいえなかった。今回レノボから登場したThinkPad X61 Tablet SXGA+モデルの直販価格は279,300円(9月27日現在)であり、安いとはいえないまでも、タッチパネルを装備したタブレットPCであることを考えれば、納得できる範囲であろう。 ThinkPad X61 Tablet SXGA+モデルは、液晶の解像度が高いことが魅力だが、その代わり、ドットピッチが狭くなるため、表示される文字は小さくなってしまう。12.1型SXGA+液晶の精細度は143ppiで、10.4型XGA液晶の124ppiや15型UXGA(1,600×1,200ドット)液晶の133ppiを上回る。とはいえ、UMPCなどに比べれば、まだ精細度は低い。視力が弱い人は、やや厳しいかもしれないが、その場合は、フォントやアイコンなどのサイズを大きめにすればよいだろう。 ●タッチパネル液晶として最高水準の屋外視認性を実現 ThinkPad X61 Tablet SXGA+モデルは、モバイルノートPCとしては基本スペックも高い。CPUとしてCore 2 Duo L7500を、チップセットとして統合型チップセットのIntel GM965 Expressを搭載。メモリは標準で1GBだが、SO-DIMMスロットが2基用意されており、1基空いていることも評価できる。メモリは、最大4GBまでの増設が可能だ。なお、XGAモデルの場合、CPUやチップセット、メモリ容量は同じだが、メモリが512MB SO-DIMM×2という構成になっており、SO-DIMMスロットが空いていないため、メモリを増設する場合、出荷時に装着されているSO-DIMMを取り外す必要がある。
試用機はHDDに、2.5インチの80GB HDD(販売モデルは160GB)を搭載しており、容量的にも余裕がある。HDDの両サイドには、衝撃吸収用のゴムが取り付けられており、衝撃が直接HDDに伝わらないようになっている。HDDはネジを1本外すだけで取り外せるため、換装も容易だ。なお、1スピンドルノートPCなので、光学ドライブは内蔵していない。OSは、SXGA+モデルがWindows Vista Ultimate、XGAモデルがWindows Vista Businessとなっている。
ThinkPad X61 Tablet SXGA+モデルの液晶は、電磁誘導式タッチパネルを装備しており、付属のスタイラスでの操作が可能だ。タッチパネル液晶は、液晶表面にタッチパネルのガラス板が追加されるため、外光が反射しやすくなってしまうという欠点がある。しかし、ThinkPad X61 Tablet SXGA+モデルでは、カメラレンズと同じARコートをガラス表面に施し、ガラスを直接液晶表面に貼り付ける「Glass direct bonding」の採用により、反射率0.8%という超低反射と高コントラストを実現。レノボでは、この技術を「SuperView」と名付けており、明るい屋外でも高い視認性を実現している。
なお、ThinkPad X61 Tablet XGAモデルでは、指でもスタイラスでも操作が可能であったが(こちらの反射率は1.8%で、MultiViewと呼ばれる)、SXGA+モデルでは指での操作には対応していない。スタイラスにはサイドボタンが用意されており、サイドボタンを押しながらタップすることで、右クリック相当の操作になる。 ThinkPad X61 Tabletはコンバーチブル型であり、液晶を開いて、通常のノートPCとして使うだけでなく、液晶を180度回転させて折りたたむことで、ピュアタブレットとしても使うことができる。
●指紋センサーを搭載し、ドッキングステーションの装着も可能 ThinkPadシリーズは、キーボードやポインティングデバイスの使い勝手がよいことでも定評がある。ThinkPad X61T Tabletのキーボードは、ThinkPad伝統の7列配列であり、キータッチもしっかりしている。キーピッチは約18.5mmだが、「む」や「け」など右側の一部のキーのキーピッチが狭くなっているのがやや気になる。液晶の下には、タブレット操作用のボタンとして、ESCボタンや画面ローテーションボタン、タブレットショーカットメニューボタン、Windowsセキュリティボタン、NaviDial、指紋センサーが用意されている。 指紋センサーは、どちらの方向にスライドさせても、読み取りが可能になっており、ピュアタブレットタイプとして使う場合も問題なく認識される。また、キーボードの左上には、ThinkVantageボタンやボリュームボタン、ミュートボタンが用意されている。
ポインティングデバイスとしては、おなじみの拡張版トラックポイントを搭載。インターフェイスは、USB 2.0×3、IEEE 1394(4ピン)、Gigabit Ethernet、ミニD-Sub15ピンなどの端子を搭載する。カードスロットは、Type2 PCカードスロットやSDカードスロットも搭載している。ただし、PCカードスロットのフタは、ダミーカード方式なので、紛失するおそれがある。
本体背面には、オプションのドッキングステーション「ThinkPad ウルトラベース X6 Tablet」接続用のコネクタが用意されている。ThinkPad ウルトラベース X6 Tabletには、USB 2.0×4やパラレル、シリアルなどのポートや、光学ドライブを装着できるウルトラベイ・スリムが搭載されており、多彩なデバイスを利用することが可能だ。 ワイヤレス機能として、IEEE 802.11a/b/g/nドラフト対応無線LANを搭載するほか、Bluetooth 2.0もサポートする。本体手前には、ワイヤレススイッチも用意されており、素早くワイヤレス機能をON/OFFできるので便利だ。
バッテリは、14.4V/4.55Ahの8セル仕様と、14.4V/2Ahの4セル仕様の2種類が用意されており、回転ヒンジをサポートするためにかなり変わった形状になっている。今回試用したモデルには、8セルバッテリが装着されていたが、4セルバッテリを利用した場合、背面へのバッテリの飛び出しが小さくなる。公称バッテリ駆動時間は、8セルが7時間、4セルが3時間である。4セルバッテリでの駆動時間は、モバイルノートPCとしてはやや不満があるが、8セルバッテリなら、バッテリ残量をあまり気にせずに使うことができる。なお、4セルバッテリ装着時の本体重量は約1.85kgだが、8セルバッテリを装着すると、重量は約2.07kgになる。ACアダプタも小型で、携帯性は良好だ。
●携帯性と快適な操作環境を両立 参考のために、ベンチマークテストを行なってみた。利用したソフトは、Futuremarkの「PCMark05(Build 1.2.0)」と「3DMark06(Build 1.1.0)」、「フロントミッションオンラインオフィシャルベンチマークソフト」の3種類だ。また、Windows Vistaのパフォーマンス評価(Windowsエクスペリエンスインデックス)の結果も加えてある。省電力設定は「高パフォーマンス」モードにして行なった。比較対象用に、dynabook Satellite WXWやLet'snote Y7、VAIO type T VGN-TZ90Sの結果もあわせて掲載している。 結果は表に示したとおりで、高性能GPUを搭載したフルサイズノートPCであるdynabook Satellite WXWにはさすがに敵わないが、重さ2kgを切るモバイルノートPCとしては、十分な性能を持っているといえる。
【表】ベンチマーク結果
ThinkPad X61 Tabletは、12.1型SXGA+液晶を搭載することで、携帯性を犠牲にすることなく、快適な操作環境を実現していることが魅力だ。XGAモデルとの価格差(直販価格)は18,900円だが、液晶がSXGA+になり、HDDも倍増していることや、メモリスロットが空いていること、OSがBusinessからUltimateになっていることなどを考えれば、SXGA+モデルのほうがお得感がある。
Windows Vistaでは、標準でタブレット機能をサポートしており、ジェスチャー操作が可能な「ペンフリック」や画面の一部をスタイラスで指定するだけで手軽に切り取りができる「スニッピングツール」などの新機能が搭載されているため、タブレットPCとしての使い勝手はさらに向上している。3歳になったばかりの娘も、特に教えずとも、すぐにスタイラス操作を覚えて付属ゲームで遊んでいた。 タブレットPCは、コンシューマには期待したほど普及していないようだが、画面をダイレクトに触って操作できるというのは、わかりやすいインターフェイスだ。屋外での視認性も高く、モバイルノートPCとしての完成度は高い。もう少し軽く、安くなってくれれば、言うことはないのだが。
□レノボ・ジャパンのホームページ (2007年9月28日) [Reported by 石井英男]
【PC Watchホームページ】
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