山田祥平のRe:config.sys

その写真、捨てるな




 コンパクト、一眼レフを併せ、今、デジタルカメラの伸びが著しいという。ほとんどすべての携帯電話にデジカメがついているような時代にこれはどうしてなのか。デジカメメーカーのマーケティング担当者に聞いても、どうしてなのかわからないと首をかしげる。そして、コンシューマーの手元には膨大な枚数のデジタル画像が蓄積されていく。

●カレンダーフィルムはカレンダーメモリに

 カレンダーフィルムという言葉がある。1本たかだか36枚撮りのフィルムを買ったら最後、カメラに入れっぱなしで、正月から花見、ゴールデンウィーク、夏休み、紅葉、クリスマスまでのショットが、そのフィルムに写っている様子をいったものだ。まだ、フィルムも現像代も、プリント料金も高価だった時代の話だ。

 現在のデジカメの需要は、そのほとんどがアップグレード用途の買い増しなのだという。つまり、今まで使っていたカメラが壊れてしまったから購入するというのではなく、新たな機能や画素数などを求めて、新しいカメラを購入するわけだ。デジカメは、とりあえず、ランニングコストがかからないことになっているので、フィルムの時代に比べれば、とにかくショット数は増える。だが、それが追いつかないくらいにメモリカードの低価格化、大容量化も進み、カレンダーフィルムならぬ、カレンダーメモリのような状態になっているかもしれない。でも、それはそれでいい。多くのコンシューマーにとって、写真は自分で見て楽しむだけではなく、人に見せて自慢したり、感想を言ってもらったりするためのものでもあるからだ。だから、いつでもどこでも人に見せられるように、カメラの中には過去に撮影した写真がたくさん入っていた方がいいこともある。

 600万画素程度のJPEG画像のファイルサイズが約2MBとすれば、500枚で1GB、通信販売で1万円強も出せば買える8GBのSD(SDHC)メモリーカードなら4,000枚を記録できる。1日10枚撮っても1年分以上がラクに収まってしまうわけだ。これなら、メモリカードがいっぱいになったら、それを再利用することなく、別のメモリカードを購入するようなユーザーが少なくないというのもうなづける。

 ぼく自身も、常時身につけているコンパクトデジカメでは、PCに写真をコピーしたあとも、そのまま写真を残しておくことが多い。もっとも、あとでもう一度見るとためというよりも、バックアップ的な意味合いが強い。写真は二度と撮ることができないものがほとんどなので、常に、2つのコピーがないと心配だ。PCのHDDに保存した写真は、気が向いたときにミラーを更新しているが、数十枚の追加ごとに作業しなくても、メモリカードにファイルが残っていれば安心だ。

●偶然見つかる過去との出会い

 写真というのは不思議なもので、自分で撮った写真は一瞥するだけで、それを撮ったときの様子がすぐに思い出せてしまう。ほとんどの写真はそうだ。ただし、カンファレンスの基調講演で撮ったビル・ゲイツのアップなどは、それが、どのカンファレンスのものだったかは、日付を見て、スケジュール帳と照らし合わせなければ判別できない。そういうときには、Vistaの検索ボックスに日付を入れると、予定表が検索され、その日何をしていたかがわかるので、その写真が、どのカンファレンスのときのものかを特定できるわけだ。なまぐさなぼくは、このくらいのことは自動的にできてくれてもよいようにも思う。

 ぼく自身が、PCのHDDにデジカメ写真を保存するときには、おおまかにフォルダで分類して整理しているが、特に分類するまでもない日常的に撮影した写真などは、カメラの生成したフォルダごとコピーするだけだ。だから、確かにあの日撮ったはずのあの写真が欲しいというときに、なかなか見つからなくて困ることも多い。どんなに少ない枚数でも、きちんとしたフォルダ名をつけて保存しておくなり、タグをつけておけばよいのだろうが、なかなかそれができない。だからというわけではないが、ちょっと時間のあるときに、過去の写真をパラパラとめくって見ることがある。紙にプリントされた写真ではとうてい無理だが、モニタ画面であれば、数千枚、数万枚の写真でも、スクロールして見ていけば、意外に短時間で見ることができる。そのときに、自分で撮ったことも忘れていたような写真が偶然見つかったりして、楽しいものだ。厳格にフォルダ分類していては、こういうことが起こりにくい。

 フォルダ分類を無視し、すべての写真を平面に並べ、時系列で見ていくというのは、かなり楽しい。ぼくは、その楽しさを、現在はAdobe Photoshop Album Mini 3.2として無償配布されているアドビのPhotoshop Albumというソフトで知ったのだが、現在では、多くのソフトでそれができるようになった。Vistaの標準アプリであるWindowsフォトギャラリーでもできるし、Photoshop Elementsなども、事実上、Photoshop Albumの後継製品として大きなシェアを確保している。Windowsフォトギャラリーは、それなりによくできていると思うが、手作業で写真ファイルをコピーした場合、縦位置写真を縦にしてくれないところが気になって使うのをやめてしまった。

●バージョンアップが嬉しいLIGHTROOM

 ぼくの最近の写真ブラウズ用ソフトのお気に入りは、アドビの「Photoshop LIGHTROOM」だ。先日、バージョンアップされ、1.1となり、気のせいか、以前よりも多少レスポンスがよくなったように思う。

 大きな変更点として、従来は、登録済み写真をライブラリとして管理していたのだが、1.1からは、これがカタログと呼ばれるようになった。カタログは、拡張子 .lrcatを持つひとつのファイルで、ここに、各種のメタデータや写真の在処が保存されるようになっている。カタログには、別のカタログの内容を読み込んだり、現在のカタログからセレクトした写真を別のカタログとして書き出すことができるようになるなど、以前のライブラリ管理に比べてとても柔軟に写真の管理ができるようになった。このことを歓迎するユーザーもいるに違いない。ただ、基本的には手持ちの写真全部をひとつのカタログに入れておくのが便利であることに変わりはない。それよりも、データベースの名前がライブラリからカタログに変わったにもかかわらず、メニューやUIのあちこちに、ライブラリという用語が残っている点はちょっと気になる。

 ぼくは、一眼レフカメラではJPEGとRAWの同時記録をしている。JPEGは600万画素で、画質もBASICと控えめだが、ほとんどの場合はそのJPEGで用が足りる。RAWで撮っておくのは、保険のようなもので、ホワイトバランスが気になる場合や、露出をはずしてしまったような場合、Web掲載以外の用途でさらに高精細の写真が必要になる場合などに備えてのことだ。

 同時記録された写真はJPEG+RAWとしてあたかも1枚の写真であるかのように扱われる。実際にはJPEGファイルがサイドカーファイルとみなされるのだが、それを別の写真として処理するようにも設定できる。

 LIGHTROOMでは、機能カテゴリをモジュールと呼び、ファイル管理のためのモジュールである「ライブラリ」(ここも本当ならカタログと呼ぶべきだ)に加え、「現像」、「スライドショー」、「プリント」、「Web」が用意されている。つまり、読み込みから管理、セレクト、書き出しに至る、写真愛好家が望むであろうすべてのファンクションをワンストップソリューションとして提供してくれる。職業としても、愛好家としても写真を撮る一個人としては、現時点ではベストのソフトだと思う。

●意図せぬ結果が欲しいときもある

 LIGHTROOMに限った話ではないが、この手のソフトで気になるのは、写真がセレクトされるものであるということを前提にしている点だ。確かに、職業写真家は、自分で納得のできる気に入った写真が大量にあったとしても、よほどのことがないかぎり、クライアントが要求する枚数、指定したカットしか買ってもらえない。だから、最良のカットを選ぶために、試行錯誤して写真をセレクトしていくし、そもそも必要な写真しか撮らない。

 だが、愛好家にとっては、いらない写真などないはずだ。デジカメ写真は削除して撮らなかったことにできる点が新しいという論調もあるようだが、本当にそうなのだろうか。ぼく自身は、電源を入れっぱなしのデジカメが、カバンの中で勝手にレリーズした真っ黒な写真なども含めて、すべての写真を削除せずに保存している。そこまでやることはないにしても、普通の人の場合は、追加の写真を撮りたいのに、メモリカードに空きがないため、泣く泣く一部の写真を削除するというケースが多いのではないだろうか。ストレージに余裕があるのなら、削除すべき写真を探して実際に削除する手間をかけるよりも、全部残しておく方がずっとラクだ。GoogleのGmailが「メールの振り分けは不要」と言い切り、「メッセージを削除する必要はありません」とアピールするように、撮られてしまった写真をあらかじめ分類することなど不要で、基本的にはすべて残すものであるということを前提にした写真管理ソフトがそろそろ出てきてもよさそうな気がする。

 5年も6年も前に撮った写真をパラパラと見ていると、撮ったそのときは何とも思わなかったのに、今見ると、なんだか妙に気になる写真があったりする。それは忘れていた過去との偶然の出会いでもある。そうした体験を誘引する要素をソフトウェアで実現するにはどうすればいいのだろうか。ときには、意図せぬ結果に驚きたいこともあるということだ。

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(2007年8月3日)

[Reported by 山田祥平]


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