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日本HPのインクジェット複合機「Officejet Pro L7580」を試す




●進むインクジェット複合機の省スペース化

 かつてインクジェット複合機といえば、単品プリンタの1世代前のプリンタエンジンに、単品スキャナの1世代前のスキャナ機構を組み合わせた、製品が主流を占めていた。プリンタやスキャナ、それぞれの単品製品の開発が先行する上、複数の機能をまとめるソフトウェアの開発にどうしても時間を要する。それを考えれば、個々の機能を見る限り、複合機があまり魅力的と言えなかったのも、当然だったかもしれない。

 しかしそれも昔の話。近頃の複合機は、最新の単品プリンタやスキャナに相当する技術が、ほとんど後れることなく導入される。複数の機能が1台で済むことによる省スペース効果は、もともとプリンタやスキャナが場所をとる製品だけに、極めて大きい。ますます製品としての複合機の魅力が高まるというわけだ。

 今、日本HPのインクジェットプリンタ/複合機の世界で進行中の技術革新は、インクヘッドのインクカートリッジからの分離だ。従来、同社のプリンタ/複合機の多くで、プリントヘッドとインクカートリッジが一体化されていた。

 このシステムは、一定サイクルでプリントヘッドが新品交換されるため、メインテナンスが簡単で、トラブルが少ないという利点がある。また、同社の前面給排紙システムと合わせ、プリンタをコンパクトにすることにも貢献していた。がその一方で、どうしてもインクカートリッジの値段が上がりやすく、また高速化(インクノズル数の増加)を行ないにくいという欠点もあった。今後も、速度が重要でない製品や、プリンタを小型化する必要がある製品には、一体型のインクヘッドシステムが使われるものと思われるが、上位モデルにおいてはヘッドとインクを分離したシステムが主流になっていくと考えられる。

 このプリントヘッドとインクカートリッジを分離したシステムはSPT(スケーラブル・プリンティング・テクノロジー)と呼ばれ、2005年秋に発表されたコンシューマ向けおよびビジネス向けの単品プリンタ、そしてコンシューマ向けの複合機(HPの用語ではオールインワンプリンタ)で初めて採用された。SPTでは、ヘッドを分離することによる経済性の向上だけでなく、ヘッドカートリッジ間の配管における気泡管理技術と、ノイズフィルタを併用することで、従来の一体型カートリッジと同様の高い信頼性(メンテナンスフリー)を実現している。

Officejet Pro L7380(左)とL7580(右)

 このSPTを採用したビジネス向けの複合機が、2007年春から発売になった。4月に発表された「Officejet Pro L7380」と「同L7580」の2機種(同時発表の下位モデルJ5780は従来と同じ一体型カートリッジシステム採用)で、それぞれOfficejet 7210とOfficejet 7410の後継機と考えられる。直販サイト「HP Directplus」による直販価格はそれぞれ24,990円(L7380)と34,860円(L7580)となっている。

 この2モデルは、SPTベースのプリントエンジン、CCDセンサーベースのフラットベッドスキャナ(ADF付き)など、主要な構成は同じ。プリントエンジンがSPTベースになった恩恵はノズル数の増加による印刷速度の改善に顕著に表れており、Officejet 7410に採用されていたヘッド一体型カートリッジでは、単色の顔料黒色カートリッジで672ノズル、カラー印刷用の3色カートリッジでは各色200ノズルで、最高印刷速度が20枚/分(カラー)もしくは30枚/分(モノクロ)だったのに対し、Officejet Pro L7580/L7380では、各色1,056ノズルで最高印刷速度はモノクロで35枚/分、カラーで34枚分に達している。

 これだけ印刷速度が向上すると、プリンタ内部でのヘッド移動に起因する振動が無視できなくなる。これを解消するためOfficejet Pro L7580/L7380ではAVS(アンチバイブレーションシステム)が搭載された。AVSはプリントヘッドに相当する質量のバラスト(おもり)を、プリンタヘッドと対称に動かすことで、振動を軽減するもの。このAVSのおかげで印刷中もOfficejet Pro L7580/L7380の揺れは大幅に軽減されている。

 一方、SPTを採用することで、カートリッジ交換による多色プリントというオプションは失われた。従来の一体型カートリッジモデルでは、写真印刷時に文書印刷用の顔料黒色カートリッジの代わりにフォトカラーカートリッジをセットすることで、6色印刷が可能だったが、Officejet Pro L7580/L7380では4色固定となっている(コンシューマ向けのSPTシステム機では6色対応モデルがある)。6色印刷ができなくなったのは残念だが、ビジネス向けという性格を考えれば、納得のいくところだろう。

実際に国内販売される製品では操作パネルは日本語化されている 本体側に移ったプリントヘッドだが、モジュール化されており、交換/メンテナンスは容易 4色独立のインクカートリッジは、用紙トレイの右側にある

 CCDセンサーベースのスキャナ機構は、基本的に従来のOfficejet 7410/7210と同じ。ちょっと違うのは、スキャンした後の処理。Officejet Pro L7580/L7380ではスキャンしたデータを、PCなしでPDFに出力することが可能になった。たとえばCF/SDカード/MMC/メモリースティック(PRO)/xD-Picture Card対応カードスロットを持つOfficejet Pro L7580なら、スキャンしたデータをPDFにして直接メモリカードへ貯める、といったことができる(従来はJPEGのみ)。6色印刷オプションがなくなったOfficejet Pro L7580だが、メモリカードスロットは別の形で役に立つというわけだ。

 このメモリカードスロット以外でL7580とL7380で違うのは、前者のみがEthernetをサポートし、自動両面印刷ユニットを標準搭載する、という点だが、自動両面印刷ユニットはオプションとして後から追加することもできる。今回、1世代前のOfficejet 7410にあった無線LANへの対応は省略されてしまったが、オフィス環境であればそれほど困ることではないだろう(コストはかかるが最悪、メディアコンバーターを使えば無線対応はできる)。

●機能は満足もユーティリティにやや難あり

 筆者は6月あたりから、かれこれ1カ月半あまり、このOfficejet Pro L7580を使っている。以前利用していたOfficejet 7410は、時々、フリーズしていることがあった(すべてのランプが点滅して利用できない状態。電源スイッチを押せばすぐに回復する)が、このL7580についてはそうした不審な挙動は見られない。AVSのおかげで、印刷時に静か(設置しているFAX台が共振しないためだと思われる)なのも助かる。

 メモリカードに直接出力できるスキャナ機能も便利で、ちょっとした文書のスキャンなどはこれで済ませることも多い。長い文書、特に両面印刷の文書とかだと、断然PFUの「ScanSnap」を使った方が速くて便利なのだが、冊子のような印刷物をスキャンしたり、ちょっとした文書を本機でスキャンしておいて、PDFの形でメモリカードにためておけるのは、筆者のようなズボラな人間には重宝する。

PC FAX機能(送信のみ)もサポートした付属ユーティリティのソリューションセンター。もう少し軽くなってくれると良いのだが

 あえて難点を挙げれば、本機を利用するためのドライバ/ユーティリティということになるだろう。以前から重いと悪評だったこのシリーズのドライバ/ユーティリティに、飛躍的な改善は残念ながら見られない。ほんの少し軽くなったような気もするが、劇的なものではない。

 また、このOfficejet Pro L7530/L7580からドライバサポートがWindows XP以降になってしまった(64bit editionも可。ほかにMac OS X 10.3.8以降、10.4以降)。幸い、筆者の環境にはもうWindows 2000は残っていないが、今でもWindows 2000のシステムが残っているユーザーは、気をつける必要がある。

 いずれにしても、ネットワーク対応で、35枚/分の高速プリンタに、PDF出力できるカラースキャナと、G3 FAX機能がついた複合機が35,000円を切るというのは、なかなかの高コストパフォーマンスだと思われる(L7580)。ADFや自動両面印刷ユニットも付属しているから、時間のかかる処理も、放っておけば済む。もう少し筐体が小さくなれば、とは思うが、それは望みすぎなのだろう。ドライバ/ユーティリティの重さだけが難点だが、これがどの程度のものか、購入前に試す方法がないのが辛いところだ。

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(2007年7月17日)

[Reported by 元麻布春男]


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