複数のPCで共有できるネットワーク上のストレージスペースであるNASは、1度使い出すと2度と手放せなくなるほど便利なアイテムだと思う。確かに使っているPCが1台きりなら、あまり必要はないのかもしれないが、ノートPCが増え、古いデスクトップPCをTV番組録画機や光ディスクライティング専用機にリサイクルしたり、といった具合にPCが増えていくと、どんどん便利になっていく。ファイルサーバーとしてのPCサーバーに比べても、場所をとらないこと、低消費電力であること、メインテナンスフリーに近いことなど、メリットは多い。なんやかんやで、筆者の手元にもNASが3台あり活躍している。 このうち2台はRAID 5をサポートした1TB(実使用可能量は750GB)のNASで、週に1度、全フォルダを同期している。これでデータがなくなるような事故(落雷など、その可能性はゼロではないのだが)ならあきらめよう、という感じである。もう1台はシングルドライブのNASで、特に保存する必要のないものを含めた音楽や動画のファイル置き場である。ここでも残しておきたいファイルを置いたフォルダは、RAID 5のNASに、これまた週1で同期している。 やはりRAID 5のような冗長性を持ったNASは、使っていて安心感があるので、少なくとも精神安定上良いのだが、どうしても価格は高くなる。最近は、アイ・オー・データ機器の「HDL4-G」シリーズのように、かなりリーズナブルな製品も出ているのだが、多くの個人ユーザーにはまだハードルが高いようだ。もちろん、シングルドライブのNASであろうと、同じデータをPCとNASの2カ所に持つようにすれば、データを失う可能性はグンと減る。 確かにバックアップに使うだけなら、より安価なUSBの外付けドライブでも用が足りる。だが、上述したように、PCが2台、3台と増えてくると、NASの便利さが身に染みてくるハズだ。それにRAID対応型ほどではないにせよ、シングルドライブNASの価格もかなり下がった。 バッファローのローエンドモデル、この夏リリースされた「LS-LGL」シリーズは、価格が23,100円から(250GBモデル)とかなり手頃になっている。同じ250GBのUSB外付けHDD「HD-HSU2」シリーズの価格が16,800円だから、差額は7,000円。実効データ転送速度はUSBの方が速いから、システムの丸ごとバックアップの用途にはこちらが良いかもしれない(ただしeSATAやIEEE 1394はもっと速い)。が、データのバックアップと複数PCからの共有というメリットを考えればLS-LGLシリーズのNASも、かなり魅力的なのではないかと思う。
●機能を絞って価格を抑えた「LS-LGL」シリーズ このLS-LGLシリーズの特徴は、利用する際にOSを選ばない汎用のNASであることだ。従来のローエンドNAS製品であったHD-HBGLU2シリーズは、NDASと呼ばれる専用OSを用いており、アクセスには専用のクライアントアプリケーションが必要だった。しかし、LS-LGLシリーズであれば、クライアントアプリケーションの新OS対応を気にしたり、といった心配はない。価格的にも後発のLS-LGLシリーズの方が安価である。 となると気になるのは、LS-LGLシリーズがなぜ安価なのか、安価だけれど使い勝手や性能の面で大きな犠牲を払わなければならないのではないか、といった点だ。そこで、500GBモデル(LS-L500GL)を購入してテストしてみることにした。メーカー希望小売価格は32,800円で、購入価格は30,800円のポイント10%還元だった。 箱から取り出してまず感じたことは、小さい、ということだ。NASというのはストレージ製品ではあるものの、内部でネットワークOSが稼働しており、そのためのCPUやメモリを搭載している。いわば超小型のコンピュータであり、USB接続などの外付けHDDより複雑かつ大型になるのが常である。その目から見て、LS-LGLシリーズの筐体は非常に小さく、手元にあったバッファロー製の外付けUSB HDD(HD-HU2シリーズ)より小さいくらいだ。 マニュアルを読んでみて気づいたのは、従来のバッファロー製NAS製品に比べて設定項目が極端に減っていること。本機ではWebベースの設定もサポートされない。IPアドレスの変更やディスクのフォーマットといった、NASを利用する上で欠かせない機能はあるが、ユーザー管理やジャンボフレームの設定といった機能はない。それどころかワークグループ名も“WORKGROUP”で固定のようだ。 ハードウェアのスペック的にも、Gigabit Ethernetには対応するものの、従来製品でおなじみだった拡張用のUSBポートがない。USBポートのコストというより、それをサポートするソフトウェアを削りたかったのではないか、という印象も受ける。いずれにせよ、セキュリティやアクセス制御の必要がほとんどない家庭向けを前提に、ソフトウェアの機能をギリギリまで絞り込んだ印象が強い。 確かに、ソフトウェアの機能を絞れば、サポートの手間は減るかもしれない。が、ソフトウェアの機能を減らすのにもコストはかかる。同社の場合、フル機能のNASもリリースしているから、2ラインになることによるコスト上昇もあるかもしれない。
果たして、ソフトウェアの機能を絞ることのコスト削減効果は、などと考えながら本体を分解してみて、コスト削減効果が理解できた。写真を見れば分かるように、LS-LGLシリーズに使われているメイン基板は、筐体同様、非常に小さく、部品点数が少ない。USBの外付けHDD並み、というとちょっと大げさかもしれないが、そう思うくらいのインパクトがある。 基板の中核となっているのはMarvellの88FB6082A1とマーキングされたチップ。本稿執筆時点でインターネット検索を行なってもほとんど情報が得られなかったが、どうやらNAS向けのSoC製品のようだ。驚くのは、外付けのDRAMチップが見あたらないことで、エンベッドされたメモリだけで動作しているのだろう。そうであればソフトウェアの機能を絞り込んだのも納得がいく。どうやら低価格の秘密はこの辺にありそうだ。 では性能はどうだろう。すでに述べたように、本機はジャンボフレームの設定がない。ということはジャンボフレームは利用できないわけだが、一応、PC側のジャンボフレーム設定は有と無の両方を試すことで、確認することにした。 また比較には、筆者が現用中のNASの中から、「HS-DGL300」と「HDL4-G1.0」の2台を選んでみた。HS-DGL300は、同じバッファローのシングルドライブNASで、iTunes対応のメディアサーバ機能やDLNAサーバ機能を備えた、コンシューマ向けの製品。ただし最新モデルではない。HDL4-G1.0はアイ・オー・データ機器の新しいRAID 5対応NASで、しばらく前にこの連載でも紹介した製品だ。
【表1】クライアントPCの構成
【表2】Windows XP SP2でのテスト結果
さて、そのテスト結果だが、基本性能は悪くない。というより、世代的には一番新しい製品だけに、ジャンボフレームを使わない、という同一条件ではむしろ優秀な性能だ。ジャンボフレーム機能を使われると比較対象の2機種に遅れをとるが、それはやむを得ないところだろう。 というわけでLS-LGLシリーズの性能は決して悪くはない。セキュリティやアクセス制御の必要な環境に適さないが、あえてそれを省くことで低価格を追求したというのであれば、責められるものではない。逆に家庭向け、それも1台目のNASと考えれば、余計な機能がない分、迷うところもないハズだ。何より外付けUSB HDDとほとんど変わらない小ささは魅力なのではないかと思う。すでに2台のPCを利用していて、近々3台目が、というユーザーは、そろそろNASの導入を検討してみてはどうだろうか。
□製品情報 (2007年7月30日) [Reported by 元麻布春男]
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