大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

デルが個人向けPCブランドを一本化した理由




8色のカラーバリエーションを採用したノートPC「Inspiron」

 デルは、個人向けPCのメイントリームブランドを、従来のDimensionおよびInspironの二本立てから、Inspironに一本化した。Inspironのロゴを一新するとともに、デルとしては初めてとなる8色のカラーバリエーションを採用したノートPCを投入。日本国内における個人向けPC市場でのシェア拡大を図る。これにより、同社の個人向けPC製品は、プレミアムブランドのXPSと2本立てとなる。

 「デルは、日本国内で個人向けPCを投入してから10年目の節目に当たる。日本市場にフォーカスした製品を継続的に投入し、シェア拡大を図る」と語る、同社クライアント製品マーケティング本部 中島耕一郎本部長にデルの個人向けPC事業戦略を聞いた。



--6月27日に都内で開催されたデルの個人向けPCの新製品発表会見は、まるでファッションショーを見ているようでしたね(笑)。

中島 今回の製品発表は、全世界共通のテーマとして「とにかくインパクトのあることをやろう」ということが掲げられました。米国では、老舗高級百貨店であるメイシーズのニューヨーク店で、製品発表会を行ないましたし、日本では、日本法人が独自に企画をして、ファッショナブルな製品イメージを打ち出そうという狙いから、こうした発表会を行ないました。

--メイシーズでの発表会は、「直販からの脱皮への布石か」と誤解させますね(笑)

中島 そういうことではありません。メイシーズで取り扱うわけではないですからね(笑)。また、日本での発表会も、登場したのが女性モデルばかりでしたから、女性向けの製品だと誤解した方がいるかもしれませんが、それは1つのターゲットですが、やはりあくまでも男性が主要ターゲットになります。いずれにしろ、これまでのデルからすれば、デルらしくない会見だったのではないでしょうか。

クライアント製品マーケティング本部 中島耕一郎本部長 国内で行なわれた発表会は、ファッションショーのように華やか

--確かに、こうした派手な会見は、「コストに厳しいデル」には考えられないものでしたね。マイケル・デル氏がCEOに復帰した影響、あるいは、モトローラからデルのコンシューマ部門担当に移籍したロン・ギャリックス氏の影響でしょうか。

中島 それも1つの要因かもしれません。しかし、全社的にそうした機運が生まれてきた、といった方がいいかもしれません。これまでにも、「こんなことをやりたい」という声は社内にもあった。しかし、それがなかなか形にならなかったのは事実です。そうした水面下で動いていたものが、いくつかの要因に触発されて表面化してきた。今回の製品づくりや、会見そのものも、やらされているというのではなく、社員が楽しんでやっているという感じはあります。毎回、こうした会見をやるわけにはいきませんが(笑)、当社の意気込みや、ワククク感のようなものが伝われば成功です。

--今回、Inspironにブランドを一本化した狙いはなんでしょうか。

Inspironのロゴも変更

中島 いま、デルの個人向けPCには、DimensionおよびInspironのほかに、プレミアムブランドのXPSがある。また、北米市場ではAlienwareというゲーマーのためのブランドもある。このようにいくつかのブランドが林立するなかで、とくに、DimensionおよびInspironの棲み分けが難しくなってきた。日本のユーザーの中には、Dimensionという名前は知っていても、デスクトップPCのブランドだと思っている人もいる。同様に、Inspironは、日本のユーザーから高い評価を得たInspiron 1501や、かつてのInspiron 700mの影響もあり、ノートPCのブランドだと思っている人もいる。複数のブランドがあることで、ラインアップが煩雑になり、ユーザーにメッセージが届きにくいという課題が出てきた。

 今回、個人向けのメインストリームPCのブランドを、Inspironへと一本化することで、ブランドメッセージをより強く、効果的に訴えることができますし、ライフスタイルに対する訴求を強く展開できるようになる。エンドユーザーにとっても、ブランドがシンプルになり、わかりやすくなる。デルという名前を知っていても、サブブランドまでは認知していないというユーザーは多かったと思っています。知る人ぞ知るブランドというのではいけない。それを是正していきたいですね。

--どんなイメージのブランドを形成するつもりですか。

中島 今回はまずブランドを一本化するところから始まっています。これから、その方向性を決めていくことになります。基本的には、ユーザーのニーズを、デルの解釈によって実現する製品づくりを目指しますから、ユーザーニーズの変化、市場動向の変化をしっかりと見据えていくつもりです。自動車に例えれば、レクサスに相当するのがXPS、そしてトヨタに相当するのがInspironということになるでしょうね。今回の一本化にあわせて、「YOURS IS HERE」というメッセージを使いはじめました。日本語に訳したメッセージはないのですが、Inspironでは、特定のユーザーにターゲットを絞った製品展開ではなく、多くのユーザーに使っていただける数多くの製品を用意していきます。そこから、自らのライフスタイルにあわせたものを選択してください、といったことが、このメッセージに込められた意味です。

--Inspiron 1420/1520/1720で採用した8色のカラーバリエーションは、各国ごとに異なるのですか。

中島 最終的には全世界で統一したものになりましたが、日本とアジアパシフィックの担当者が集まり、それぞれの国が欲しい色を投票しました。16色ほど用意された中から選択したのですが、建材や部屋の色調でよく使われている色が各国でそれぞれに異なるように、国ごとに人気の色が違いますから、これから需要動向を見て、色は変えていくことになるでしょうね。

--せっかく、8色も用意したのに、見られる場所が少ないですね。デル・リアルサイトも閉鎖が相次いでいるように見えますし。

中島 確かに見られる場所が少ないのは、課題といえます。すべてのデル・リアルサイトで、8色の展示をしているわけではありませんからね。多くの方々に見ていただける場所を作りたいとは思っています。また、リアルサイトの閉鎖は、東京メトロさんと連携して行なっていたMediaspotでの展開が終了したため、それによって、そう感じられているのかもしれません。大手町や銀座といった主要な場所での閉鎖は、目立ちますからね。決して、リアルサイトの事業を縮小しているわけではありません。一方で、中国・大連のコールセンターでのシフト体制を見直すことで、24時間365日のサポート体制も確立しましたから、個人向けの投資はむしろ加速していると考えていただいていいと思います。

--今回の製品では、丸みを帯びたデザインを採用しましたね。

中島 その点でも大きな変化を感じていただけると思います。これまでのデルにはないデザインだという声もいただいていますよ(笑)。スタイリッシュ、ファッショナブルという言葉が似合うPCだと自負しています。あわせて、Inspironのロゴも丸みを帯びた親しみやすいものに変更していますし、カタログなどにも丸をデザインしたものを使用しています。

--日本のユーザーの声は、製品化に反映されているのですか。

XPS M1330

中島 以前に比べると、その点ではかなり変革が進んでいます。これまでは、世界で一番になるためにはどうするかといったことが優先されていました。しかし、いまは日本で一番になるためには何が必要か、という議論が増え、実際に、それを反映した活動が行なわれています。XPS M1330も、日本のユーザーの要求を反映し、日本で発売されている製品を研究した上で製品化したものです。その姿勢は、さらに明確化していくことになります。

 例えば、地デジチューナは日本固有のものといえますが、従来ならば、日本固有のものはローカルなものとして退けられる傾向が強かった。しかし、いまは日本で勝つために必要だと判断されれば、それを搭載するためにはどうするか、といった議論へと進むことになります。実際、地デジチューナはサードパーティの製品を取り扱ったところ、大きな人気を呼んだ。こうした実績がありますから、日本の市場で勝つには必要だというデータ的な裏付けもあります。

--今後は、地デジチューナ搭載の個人向けPCがデルから登場すると。

中島 検討をしているのは確かですが、やることを決定したわけではありません。

--日本法人のジム・メリット社長が、日本市場の要求を反映したオールイン型PCを新たに投入する計画を明らかにしていますが、ここで搭載される公算が高そうですね。

中島 いまは、楽しみにしていてください、としかいえませんね(笑)。

--今回の製品発表会見では、10周年の節目という言い方をしましたが、これはなにを指しますか。

中島 '97年にDimension XPSおよびコンシューマ向けノートPCのInspiron 3000を投入し、それから10年を経過したという意味では確かに節目とはいえます。しかし、節目の意味は、単に10年という時間の経過より、むしろ、コンシューマPC事業が新たな挑戦を始めたということにあります。日本で勝つための製品を作る体制ができたということが、この節目における大きな変化です。「デルに、こんな製品があったらなぁ」と、日本のユーザーが強く感じたものをこれから投入できるようになる。デルはダイレクトモデルを持っていますから、ユーザーの声を最も聞くことができるベンダーです。その声が、以前よりも反映しやすい環境ができあがっている。それを反映した製品の投入によって、日本のマーケットで、ますます存在感を発揮できるはずです。

 組織的にも、現在、グローバル・コンシューマ部門を、ギャリックスのもとで編成しており、この仕組みが日本法人にも波及することになります。個人市場によりフォーカスできる体制が構築されつつあることも、大きな変化であり、節目であるといえます。日本におけるデルの個人向けPC事業は、これから加速することになります。いまはまだ5位のシェアですが、1位獲得に向けた施策を続々と展開していく計画です。

□デルのホームページ
http://www.dell.com/jp/
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(2007年7月3日)

[Text by 大河原克行]


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