●半透過型液晶搭載を英断した新Dynabook SS 歴代のDynabookの中で、ぼくがもっとも気に入って使っていたのは、二度目に驚かされたDynabook SS S4だった。最薄部という点では、今回のRX1の19.5mmよりも、さらに薄い14.9mmだった。それでいてキータッチも素晴らしかった。この製品は今も手元にあるが、タイプしてみると、これにかなうキーボードを持つノートPCは、あれ以来登場していないなあとさえ思うくらいだ。 発表会場で、今回、発表されたdynabook SS RX1を少しさわってみて思ったのは、薄くてほぼフラットなボディはやっぱり使いやすそうだいうことだ。それは、5年前のS4が証明している。S4は本体奥にセカンドバッテリを装着するとフラットボディが犠牲になってしまったが、RX1は大容量バッテリをつけてもフラットさを維持する。これは魅力的だ。 64GBのフラッシュメモリディスクなど野心的なスペックで話題を呼んでいるが、今回採用されたデバイスでぼくがもっとも注目しているのは、12.1型ワイドWXGA半透過型TFTカラー液晶だ。キーボード右上には、バックライトスイッチが装備され、これを押せば、LEDバックライトをワンタッチでオフにすることもでき、屋外使用時のバッテリ消費を抑制することができる。こうした心遣いも行き届いている。 反透過型液晶は、NECの「LaVie MX LX60T/6S1EC」(2001年)が搭載していたので、個人的にも経験済みだ。炎天下での視認性というか、明るければ明るいほど見やすいというのは画期的だった。この前機種にあたる初代の「LaVie MX LX60T/51EC」(2000年)は、SVGA完全反射型で、それも使っていたが、さすがに暗いカンファレンス会場や記者発表会場での視認性が悪かったので、XGA化され、バックライトがついた進化型の反透過型液晶はとても重宝していた。 ただ、表示の品位はお世辞にも美しいとはいえなかった。でも、さすがに6年の歳月が流れればテクノロジは進化する。薄暗い記者発表会場で光るRX1の表示は、十分に鑑賞に堪える品位を保っていた。 ●明るいところでPCを使いたい 明るいところでPCを開くということはかなり頻繁にある。Vistaの省電力機能では、バッテリ駆動時と電源アダプタ接続時でディスプレイの輝度を別々に設定しておくことができる。デフォルトでは、電源アダプタ接続時は輝度最大、バッテリ駆動時はその半分程度となっているだろう。バッテリ駆動時に輝度を下げるのは、もちろん省電力のためだ。バックライトが消費する電力を少しでも抑えることで、バッテリでの駆動時間を延命させようとしているわけだ。 ところが、実際にノートPCを持ち歩いて使ってみると、バッテリ駆動時のほうがバックライトを明るくしたくなることが多い。晴天時の地上駅のホーム、電車内、同様にタクシーの車内などは想像以上に明るく、バックライト輝度が半分程度では画面がよく見えないと感じることが多い。たとえ曇天であっても、太陽光というのはかなり明るく、街角で立ったままPCを開いて地図を見たり、訪問先のビル名を確かめたりといったときにも視認性が著しく損なわれる。でも、半透過型液晶なら平気だ。スペック表を見ていて、この液晶に気がついたとき、この製品を企画した人たちはモバイルに必要なものが何なのかをちゃんとわかっているなと感じたものだ。 ちなみに、HPのPDA「iPAQ」のデフォルト設定を見てみると、電源接続時とバッテリ駆動時では、バッテリ駆動時の方がバックライト輝度は明るく設定されている。電源を接続できるところでは、さほど明るくなくても大丈夫ということだ。モバイルデバイスとは、そういうものだと思う。同じWindows Mobile機でも、ウィルコムの「W-ZERO3 es」などはそうはなっていない。あくまでもデフォルト設定なのだから、自分で変更すればすむことだが、モバイルに対する考え方が根本的に違うのだろうか。 UMPCのようなデバイスが話題になることが多い昨今だが、屋外での使用時に際してこうした配慮を考えるべきだといったリファレンスデザインは聞いたことがない。モバイルPCとしてそれでいいのかどうか。RX1が採用したのに便乗し、各社のモバイルPCが反透過型液晶の採用に踏み切ってくれることを願いたい。 ●不満なところもないわけではない まるでベタ褒めのようだが、不満なところもある。たとえば、ラインアップの中で、メモリが512MB×2となるモデルがある点だ。この場合、最大容量は1.5GBで、装着済みの512MBを捨てて1GBを追加しなければならない。Vistaを前提としたときに、これではちょっとつらい。もっとも、フラッシュメモリディスクモデルを選べばオンボード1GB+スロット1GBで、計2GBのメモリを使うことができるが、価格も相当高くなる。 ここは1つ、バイオ Type Tのように、2GBのSO-DIMMを使えるようにするべきではなかったろうか。ハードウェア的に絶対に使えないものなのかどうかは、今後、市場に出てくるであろう2GBのモジュールを実際に装着してみなければわからないが、気になるところではある。それができなくても、1GBモデルが標準であるなら、オンボードで1GB標準にしてほしかった。 その他の気になる点としては、Bluetoothを搭載していないことくらいだろうか。マルチバンドアンテナ技術によって、ディスプレイの上部には、3G、WLAN、WiMAX、Bluetoothの4種類に対応できるように5本のアンテナが実装済みであるだけに残念だ。ちなみに、本体内に2つ用意されたmini PCI スロットのうち、1つにはWLANモジュールが実装済みだが、もう1つは空いているとのことだ。 いずれにしても、使い勝手は、実際に持ち歩いて使ってみなければわからない。あくまでもファーストインプレッションであって、思いもかけぬワナが潜んでいるかもしれない。 ●モバイルを阻む重すぎるカバン 先日、ふと思いたって、普段、使っているカバンの重さを量ってみた。何の変哲もない布製のバッグだが、実に450gもあった。その中に入れて持ち歩いているパナソニックのレッツノートR6が約940gなので、カバンがPCの約半分の重さだ。1g、2gを減量するために懸命になっている技術者の努力って、いったい何なのだろうと思ってしまった。ノートPCの減量化よりも、バッグの減量化に努力する方が、トータルの重量を抑えるためには有効なんじゃないかと真剣に考えてしまうくらいだ。 もし、ノートPCに一眼レフカメラのように両吊りのストラップをつけられるようになっていたら、ぼくは、PCを裸で持ち歩くかもしれない。もちろん、すぐに使えるように、吊り金具は本体の手前についていてほしい。 それなら使いたいときにすぐに開いて使えるし、別に持ち歩いているiPodなどのオーディオプレーヤーの携帯もやめて荷物を少なくすることができるかもしれない。そのためには、バッテリがほぼ一日持つ必要があるし、本体の堅牢性も求められる。耐ショック性も必要だ。外観の美しさだって重要だ。もちろん、むき出しのPCが堅牢でも、その堅牢さが他人を傷つけるようなことがあってはならない。 PCを裸で持ち、出先で荷物が増えたときのために、ハンカチ程度の重さしかない薄っぺらな布製のエコバッグをパンツの尻ポケットにでもつっこんでおけば、それで十分だ。ほとんどの外出は、むき出しのPC一台で用が足りる。撮影を伴う取材などで、どうしても一眼レフカメラが必要なときは別のバッグが必要になるが、そう頻繁にあるわけではない。 ずっと外出にはデイパックを使っていた。何かあったときのためにと、中にはいろいろなケーブルやアダプタ類が入っていた。携帯電話の充電器なども入れていたし、その日の予定によってはスペアのPCバッテリも入っていた。もちろんそれだけで、けっこうな重さになる。 デイパックは両手が自由になって便利は便利なのだが、その反面、中身を取り出しにくいという欠点がある。電車の中で立ったままちょっとPCを開きたいとしても、わざわざデイパックを背中からおろしてPCを取り出さなければならない。はっきりいって、これはめんどうだ。それに、デイパックに入れて持ち歩いている道具類の多くは、通常の外出時にはほとんど使う機会がないということにも気がついた。問題があるとしたら、デイパックの奥底に潜ませた超軽量の折り畳み傘と、飲みかけのペットボトルの収納くらいだろうか。だったら、PCだけをカバンにいれて持ち運んでみようと思ったのだ。そして、探して買った軽そうなカバンの重さが450gである。それがPCを裸で持ち歩きたいと思ったいきさつだ。 ポケットから携帯を取り出して開き、メールをチェックするのと同じくらい簡単にPCが使えるようになったら、世の中は、大きく変わると思うのだ。そのための技術的な障壁はそんなに多くはないと思うのだが。
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(2007年6月8日)
[Reported by 山田祥平]
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