元麻布春男の週刊PCホットライン

WinHECに垣間見る入力方式の行方




 2日目を終えたWinHECだが、Mike Nash副社長のキーノートスピーチは、それほど踏み込んだ内容のもの、期待したようなService Pack 1の方向性や内容を示したもの、ではなかった。キーノートスピーチも、直前に急遽30分だけ、朝のスタートを早める形で設定されたもの。Nash副社長は、比較的最近、Windows製品担当になったこともあり、「ごあいさつ」的な意味合いが強いものだったと思う。

●手書き入力の可能性を模索するMicrosoft

タブレット機能を持つUMPCの紹介を行なうBill Gates会長

 さて、前回記したようにBill Gates会長は、PCの向かうところ、ということでいくつかのトピックを取り上げている。ここでは、それについて触れてみたいと思う。Gates会長は、音声入力や手書き入力などのナチュラルインプット、特に手書き入力の熱心なファンであるようだ。MicrosoftはWindows for Pen Computingに始まり、熱心に手書き入力をサポートしたWindowsのリリースを続けてきた。最新のWindows Vistaでは、ついに手書き入力がOSの標準機能の1つにまで昇格している。

 とはいえ、Windows XPベースのTablet PCが若干の成功をおさめた、特にバーチカル市場で受け入れられつつあるものの、大きな成功を遂げた、とは言いにくい状況にあるのは間違いないところだ。それでもMicrosoftが決して手書き入力をサポートしたOSをあきらめないのは、会社として手書き入力の可能性を信じているのはもちろん、Gates会長自身が熱心なファンだったからではないかと思っている。

 Microsoftのカンファレンスなどで手書き入力が紹介される際に、よく言われることの1つは、中国や日本において手書き入力が強く求められている、ということだ。今回のWinHECにおいてもGates会長から、キーボードによる入力が最適であるとは言えない中国や日本向けに、手書き入力のサポートは重要である、といった趣旨の発言があった。

●手書き入力はキーボードに取って代わるか

 確かに一時期、わが国で「キーボードアレルギー」なることが言われた時期もあった。現在も、キーボードアレルギーはゼロではないのかもしれないが、学校教育にPCが浸透しつつある状況を考えれば、今後、患者数が激増するとは考えにくい。逆に、「支持」という漢字を小学校6年生の1割しか書けないという先頃の新聞報道が確かなら、むしろ手書きは廃れていく(それが良いことだとは思わないが)技術である可能性さえ考えられる。そして、その原因になっているのは、間違いなくPCに端を発したキーボード入力と「かな漢字変換」技術なのである。

 よく手書き入力は、キーボードと違って習熟する必要がないと言われる。これはすべての人が文字は書ける、ということを指しているのだと思うが、PCのデジタイザ上で文字を書くことは、必ずしも快適なことではない。紙と違いPCのデジタイザ表面はツルツルしていることが多いし、必ずしも解像度が十分でないから画数の多い漢字を書くのはコツが要る。誤認識された時に、修正しなければならないのも面倒だ。

 筆者のように手書きが苦手で、字を書くことにコンプレックスのあった人間は、せっかくPCで手書きから解放されたのに、どうしてまたPCで手書きしなければならないの、とさえ思う。そんな筆者でも手書きのメリットを感じるのは省スペース性だが、携帯電話の普及を考えると、あの親指1本での入力の方が、手書きより好まれるようになるのではないか、という気がしてくる。

●まだまだキーボードサポートに難あり

 もちろんキーボード、特にWindowsのキーボードサポートに問題がないわけではない。たとえば日本語キーボードと英語キーボードの誤認識問題だ。接続したのが日本語キーボードなのに、英語キーボードとして認識された(あるいはその逆)ため、記号等の入力がうまくできない、一部のカナが入力できないというのは、10年以上前、Windows 95の頃から変わらない問題だ。

 この問題を解決する方法としては、いまだにデバイスマネージャを用いて、ドライバを強制的に入れ替える方法が紹介されているが、このやり方も基本的にWindows 95時代のままである。しかも、このやり方が必ずうまくいくとは限らず、最悪の場合、レジストリを自分で変更する必要がある。

 幸いなことに、この変更を行ってくれるフリーのユーティリティなどもあり、そこまで大事にいたらないで済む。が、いったいこの10年間の進歩というのは何だったのだろう、と思うことも事実だ。

 キーボードが交換された場合、その配列が分からないのであれば、どうしてユーザーに聞いてくれないのだろう。Mac OS Xは、キーボードの接続を認識し、その配列を判断できない場合(PC用キーボードのほとんどが該当する)、ユーザーにシフトキーの隣のキーを押させて配列の判断を行う。Windows Vistaもセットアップ時にはキーボード配列を聞いてくれるが、キーボードを交換してもそのキーボードの配列を聞いてくれることはない。

 もっと厄介なのは、配列の異なる複数のキーボードを利用する場合だ。たとえば日本語キーボードのノートPCに外付けの英語キーボードを接続する、あるいはその逆のケースである。Windowsは、なぜか接続されたキーボードのキー配列は1種類だと思い込んでいて、異なる配列のキーボードを接続した場合、日本語か英語(あるいはその他の言語でもいいが)どちらかに統一した配列として利用しなければならない。もちろんMac OS Xなら内蔵キーボードと外付けキーボードで、異なる配列のキーボードをそのまま利用することが可能だ。

 こうしたWindowsの古い仕様は、おそらくメモリが高価で貴重だった時代は、やむを得なかったのだろう。が、普通に利用するのに1GB、快適に利用したいなら2GBのメモリが望ましいなどと言われるWindows Vistaでは言い訳にならない。幸い、メモリ(DRAM)のエンドユーザー価格は暴落しており、1GBが5,000円を切る時代である。複数の言語配列のキーボードをサポートすることで数MBメモリの使用量が増えても誰も文句は言わないハズだ。

 入力デバイスの将来として、自然言語入力に注目するのはいい。それは必ず必要になるだろうし、自然言語を認識することは、プロセッサがマルチコア化、メニイコア化する時代に、大きな期待が寄せられるアプリケーションの分野でもある。が、その前に今ある、そして当面は入力デバイスの主流であり続けるであろうキーボードのサポートにも改善の余地があることを忘れないで欲しい。

 少なくともMicrosoftは、キーボードに配列誤認識の問題があることを把握している。だからこそ、Knowledge BaseはOSの名前を更新しながら、誤認識した場合の解決方法を提供し続けている。もうそろそろ根本的な解決策、配列の異なる複数キーボードの同時サポートと、キーボード配列のダイナミックかつ正しい認識を可能にするべき時だ。

□Microsoftのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/
□WinHECのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/whdc/winhec/
□関連記事
【5月17日】【WinHEC】ビル・ゲイツ会長基調講演レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0517/winhec02.htm

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(2007年5月18日)

[Reported by 元麻布春男]


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