先々週に開催された中国でのIntel Developers Forum(IDF)は、新しい経験の連続だった。 中国でのIDFは今回が初めてではないが、サンフランシスコでのIDFをキャンセルし、その代わりとしてワールドワイドから人を集めたことが1つ。中国の地元プレスを意識してか、やや易しく昨年(2006年)からの技術トレンドや最新技術の解説をふんだんに混ぜ込んでの解りやすいIDFだったことが1つ。それに、常にクールなIntelが中国政府に対して友好関係を熱烈にアピールするかのような演出が新鮮だったことが1つ。 そして、何より新しさを感じたのは、Intelがx86というメイン商材を、成功するかどうかわからない、新興市場に対して投入した上、最新製造プロセスをそこに割り当てることにしたことだ。これは今までにないことである。IntelにとってUMPCは単なる通過点で、さらにその先のスマートフォン市場を見て先行投資を行なおうとしているのかもしれない。 ●IDF 2007を振り返る 今回のIDF、そのメインコンテンツとなったのは、明らかにIntel Ultra Mobile Platform 2007と、Intel Ultra Mobile Platform 2008となる予定のMenlowプラットフォームを核としたUMPC関連の一連の発表だった。 UMPC向けプラットフォームは、フル機能のモバイルPC向けプラットフォームに比べ、パフォーマンスや最大メモリ容量、拡張性などの面で制限が加えられているが、モバイルPCに応用できなくもない魅力的なスペックを持っている。 IntelはUMPC向けプラットフォームを構成する製品の価格について、まだ発表は行なっていないが、機能と目的を切り分けた上で、小型デバイス向けにやや安価な価格付けを行なうと推測される。蛇足だが、これらUMPC向け製品を一般的なモバイルノートPCの開発に利用できるか? と質問したところ「OEM先の用途までをIntelが制限できるものではない」との答えが返ってきた。 しかし、UMPC向けのプラットフォームが意図しているのは、一般的なノート型PCの小型/軽量/長時間バッテリ駆動ではない。今年(2007年)のプラットフォームは、消費電力やパフォーマンスなどの面で、まだ中途半端な面は払拭できていないが、Menlowとその先にあるプラットフォームは、小型携帯端末の使われ方を一変させる実力を持っている。 ここで前回の記事で紹介した情報を、再度、簡単にまとめてみよう。まずMenlowについて。 ・メインプロセッサのSilverthorneは最新の45nmプロセスで製造 といったことが判明している。IDFの基調講演の中で、NTTドコモがIntel Ultra Mobile Platform 2007ではなく、Menlowについて言及してIntelの戦略に賛同していた(実はこのビデオが披露された時点ではMenlowについては正式に紹介されていなかった)ことなどの例を挙げるまでもなく、UMPC向けプラットフォームの本命がMenlowであることがわかるだろう。
しかし、Menlowが用意されているだけでは、単に1つの材料が示されただけだ。確かに優れたプラットフォームであり、45nmプロセスという半導体業界全体にとっても、非常に大きな進歩を示す世代でもある。だが、単発の製品開発では幅広い賛同は得られない。将来に渡る製品戦略を示せるかが重要だ。 ●Intel Ultra Mobile Platform 2009がスマートフォンを変える 何度か報道されたこともあるため、ご存知の読者も多いだろうが、IntelはA100/A110とMenlowに採用するSilverthorneの間に、65nmプロセスを採用する別のプロセッサを軸にしたプラットフォームを計画していた。 結果的にはリーク電流が多く静的な消費電力の大きい65nmプロセスをスキップし、一気に2世代も進歩するSilverthorneへとジャンプすることになったわけだが、これは現実の製品スペックと顧客(OEM先)が要求する仕様、開発したい製品の間のギャップを埋めるために、最新プロセスを用いた最新のプラットフォームが必要不可欠と判断したためだ。 加えてOEMからの要求や市場ニーズを踏まえた上で、UMPCだけでなくスマートフォン市場までを一気に狙う戦略への舵取りを強めたからだろう。それはMenlowの次の世代において、Menlowのさらに半分のTDP、半分の平均消費電力を実現するという情報からも予想できる。 比較的消費電力の大きいチップセット部分の省電力機能次第だが、ディスプレイやI/O(HDDを必要としないなど)の消費電力が異なるため、2009年の世代では携帯電話の中にx86プロセッサを搭載することも十分に可能だ。 もちろん、今からすべての戦略について決定を下しているわけではない。特に最新製造プロセスを用いたチップを、どのような優先順位で生産するかなどは、そのときの状況に応じて決められるに違いない。しかし2009年になれば、UMPCプラットフォームの将来性も、今よりは見通しがハッキリしているはずだ。 もしそこでスマートフォン向けの需要が明かである場合(たとえばiPhone後継機種がMenlowベースで開発され、ある程度の実績を残すなどは、いかにもありそうな話だ)、35nmプロセスをスマートフォン向けx86プロセッサに早期に投入してくる可能性もある。さらに、Intelが本気でこの市場に取り組むのであれば、低消費電力や実装面積の縮小を狙い、チップセットのロジックに携帯電話を構成するコンポーネントの一部を取り込むことも可能なはずだ。 確実に市場があると踏み、力を入れてプラットフォーム全体の進歩をIntelが早めようと考えるならば、スマートフォンの機能は様変わりする。OSやユーザーインターフェイスをどのように構築するかといった問題もあるが、ソフトウェアの問題を抜きにすれば、圧倒的に進歩した端末の開発が可能になる。 ●順風満帆で進歩するために必要なエレメント もっとも、Intelの戦略が、今後、すべて順調に進む兆候を示しているのかといえば、まだまだ不確定要素はある。UMPCにおいては、小型端末向けのユーザーインターフェイスを構築するソフトウェア開発が鍵になる、と以前に述べたが、それはスマートフォンでも同じだ。 仮にAppleのiPhoneが世界的な成功を収めるとするなら、Microsoftも同様のアプローチでWindows Vistaに改良を加えてくるだろう。現在のWindows Mobileは、ソフトウェアプラットフォームとしてあまりにプアだ。フル機能のx86ハードウェアが携帯電話サイズに収まるのであれば、Vistaを基礎に最適化する方が将来性もある。 しかし、何度も蒸し返すようだが、Microsoftはこれまで、小型端末向けに使いやすいOSを提供したことがない。携帯電話向けWindows Mobileは機能面、操作性の面でシンプルに過ぎるし、W-ZERO3などで採用されているPDAライクな構成では、柔軟性を重視するあまり、電話機という限られた入力ハードウェアの環境でスマートとは言えない操作性に甘んじている。 x86ベースのスマートフォンを幅広いベンダーに開発してもらおうとIntelが考えた時、もっとも苦労するのは、スマートフォン向けに最適化されたOSとその上に載る操作環境をどうするかだ。PCならばハードウェア設計を手伝えば、ソフトウェアはWindowsが動作するだけで解決するが、スマートフォンではそうはいかない。 もちろん、LinuxなどのOSカーネルを用い、その上にすべてのソフトウェアを載せていくというアプローチもあるが、そうなってくると開発できるベンダーは限られてくる。ワールドワイドではiPhone後継機という強力なライバルとも対峙しなければならない。IntelがiPhoneが生み出すだろう以上の市場規模を求めているならば、多様な製品が生まれる下地作りは不可欠。やはりMicrosoftに一踏ん張りしてもらうほかなかろう。これは大きな不確定要素だ。 日本ではスマートフォンが売れにくい市場環境(通常の携帯電話端末に比べ、実際のコスト差以上に表面上の価格に差が付く)という問題もあるが、そもそもマジョリティになりうる優れた製品が生み出されなくては話が続かない。 幸い、2009年までにはまだ時間がある。すべてMicrosoftだよりというのもどうかとは思うが、Vistaの改良を毎年加えていくという姿勢を示しているだけに、コンパクトなVistaベースのソフトウェアプラットフォームが生まれることに期待したい。 まずは5月15日から始まるMicrosoftのハードウェア開発者向け会議「WinHEC 2007」での発表内容に注目したい。
□関連記事 (2007年5月2日) [Text by 本田雅一]
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