Intel Developers Forum 2007 Chinaの基調講演で、Intel上席副社長でウルトラモビリティグループ事業部長のアナンド・チャンドラシーカ氏が示したUltra Mobile PCの計画は、ハードウェアの面では非常に具体性を増した現実性の高いものになっていた。計画の発表から1年を経て、Intelは自らが進むべき道筋を見つけたようだ。 “超小型のPCを常に携帯してもらう”という壮大なプランには、まだまだ大きな壁が立ちふさがりそうだが、しかし、最初の前進として具体性のあるビジョンは示すことができているように見える。こうしたメインストリームではない分野に対する扱いとしては、異例なほど力の入った設計が行なわれている。 チャンドラシーカ氏の話は、前日の家電向けIAプロセッサと戦略的に非常に似た部分が多いものの、市場環境やユーセージモデルの違いが、IntelのUMPC計画に明るい光を照らしている。 ●不足していた材料をキッチリ揃えてきたIntel
チャンドラシーカ氏の基調講演の詳細については、別掲の記事を参照していただきたいが、重要なことは従来、存在していなかった鍵となる材料をIntelがキッチリそろえてきたことだ。 Intelは従来より、UMPC向けに新しいプロセッサとプラットフォームの開発を行なっていることを公言していたが、今回、Intel A100/A110プロセッサ、それにUMPC向けに機能を最適化したi945GUチップセットを用いたIntel Ultra Mobile Platform 2007という製品を年内には出荷すると発表することで、その約束を果たした。 A100/A110は、コードネームStealeyの名で知られていたローエンドのシングルコアプロセッサで、クロック周波数(600および800MHz)とキャッシュサイズ(512KB)、FSB速度(400MHz)などが低下しているが、基本的にはIntel Coreのアーキテクチャを用いたプロセッサである(ただしVirtualization Technologyや64bit命令は実装されていない)、グラフィックスやI/Oもチャネル数、メモリクロック、メモリ容量(最大1GB)に制限はあるものの、十分にフル機能のPCレベルと言っていい機能と性能を備えている。 このプラットフォームを用いた製品を、日本メーカーでは発表されている富士通のほか、あと1社が開発している。ASUSなどOEMの多いメーカーも開発を行なっているため、自社開発している2社以外にも、日本で発売される可能性もありそうだ。 しかし、あくまでも今年(2007年)のプラットフォームは前座にしか過ぎない。本命は来年の前半、予定を半年前倒しにして投入するSilverthorne(A100/A110の後継プロセッサ)を核としたMenlowプラットフォームだ。
●最新プロセス採用で気合いの入ったMenlowはフルスペックのIntel Core搭載に Intelの本気度が伺えるのが、採用される製造プロセスである。Ultra Mobile Platform 2007のA100/A110は、すでに世代遅れの90nmプロセスで製造されるが、Menlowプラットフォームに搭載される「Silverthorne」は来年、最新の45nmプロセスを採用する。製造プロセスに関しては、65nmをスキップしていきなり2世代の進化となる。 また、A100/A110のコアが基本的にはIntel Coreとしながらも、32bitのみ、VTなしなどDothan世代の機能しか持たなかったのに対して、SilverthorneはHyperThreading、VT、64bitなど、すべてのT'sをサポートするフル機能のIntel Coreとなる。動作クロック周波数も大きくジャンプアップし、2GHzに近いクロック周波数で動作する。ただしキャッシュメモリは512KBのままに留まるようだ。 チップセットはSanta Rosa世代のプラットフォームを、UMPC向けにアレンジしたものになるとみられ、FSBは533MHz。プラットフォーム全体のTDPは現世代の4分の1、パッケージサイズも4分の1、平均消費電力が4分の1となり、いわゆるスマートフォンサイズのPCも開発が可能になる。それでいて、クロック周波数は2倍以上になるのだから、こちらが本命中の本命なのは間違いない。 ここでの進歩が大きいのは、45nm世代の革命的なトランジスタの変化がちょうど間に挟まっているというのも理由だが、Intel自身がUMPCに相当力を入れているからに他ならない。 進化の速度はその後も緩まず、Menlowのさらに翌年のTDPはさらに半分になるとの情報もある。ここまで進歩してくると、UMPCはもちろん、IAコア内蔵の携帯電話もあながち夢ではなくなってくる。 【お詫びと訂正】初出時に年の表記を誤っておりました。お詫びして訂正いたします
●それでも残る大きなハードル このようにIntelのUMPCプラットフォーム戦略は、非常にアグレッシブである。問題はPCであることの意味(PCを中心に発展しているインターネット上のコンテンツやサービス)を、小さなディスプレイの端末で活かせるか否かというソフトウェア面でのハードルと、システム価格の問題だろう。 これはエリック・キム氏が担当した家電向けIAプラットフォームの問題とも似ている。家電向けIAプラットフォームも、PC向けインターネットコンテンツ/サービスをテコにした戦略での売り込みを示唆していた。普及を加速させるためのキーエレメントは、UMPCでも同じだ。 それでもUMPCの方が見込みが遙かに大きいのは、携帯情報端末という製品が、インターネットへのインタラクティブなアクセス、データ通信に大きな価値を見いだしている点である。 とはいえ、人々は“遅いけど小さなPC”には、パフォーマンスが低い分のお金しか払ってくれないだろう。UMPCベースの情報端末は、そのパフォーマンスに見合う価格でなければ、消費者の賛同を多く集めることは難しいだろう。どの程度の付加価値に対して、どれぐらいの価格であれば消費者は購入したいと考えるのか? その試金石として、近くiPhoneが発売される。これが1つのベンチマークになるはずだ。Intelがプラットフォームとして、UMPCをスマートフォンのレベルにまで落とし込むのなら、プラットフォームの価格を抑えるためにも最新のプロセッサを、それなりに安い価格で提供しなければならない。 実はこれは単に価格を下げればいいという単純な問題でもない。なぜなら、UMPCプラットフォームは、ほぼそのまま小型/薄型のモバイルPC用としても利用できてしまうからだ。小型情報端末向けにチップの価格を下げると、今度はIntelが意図しないカテゴリで、UMPCプラットフォームを利用するメーカーが出てくる可能性がある。 そして、一番大きな問題は、やはりユーザーインターフェイスとUMPC向けのサービスを、どう立ち上げるか。ここでMicrosoftのWindowsに依存することが、本当にベストな戦略なのか。それとも独自にWindowsの上にユーザーインターフェイスを構築するのが良いのか。議論のあるところだろう。 ●本当にWindowsアプリケーションは必要なのか? せっかくPCなのだから、フル機能のWindowsを動かし、その上でWindowsのアプリケーションを動かせば、すべて通常のPCと同じことができる。それはもちろん正しいのだが、小型の端末に搭載できるディスプレイは、当然ながら小さなものでしかない。加えて現在WindowsのアプリケーションやPC用Webサービスのほとんどが、XGA(1,024×768ドット)以上の解像度を前提として設計されていることを考えれば、それをどのように小さなディスプレイに適した見栄えにするのか。キーボードとマウスに最適化されたユーザーインターフェイスをどう処理するのかといった問題が出てくる。 そのためにMicrosoftはUMPC向けのWindowsを開発しようとしているわけだが、Microsoftが提供しようとしているのは、Windows Vista用の小型端末向けバージョンである。UMPCにVistaの機能が必要かと言われれば、大きな疑問符が付くと言わざるを得ない。 もしWindows上にサードパーティが独自のユーザーインターフェイスを構築するとしても、Windows XPの方が(システム要求スペックの上でも)作りやすく、ユーザーにとっても使いやすいのではないだろうか。しかしMicrosoftが、Windows XPベースに軽量版を作る可能性はほぼゼロだ。 本当にWindowsアプリケーションが動く必要性があるのか? という疑問もある。ExcelやWordのファイルが表示できる方が良いに決まっているが、果たしてそれらを編集するフル機能のOfficeが必要だろうか? Intelのロードマップを見る限り、小型端末にIAアーキテクチャを載せることは技術的には可能になる。ハードウェアのスペックとしては十分以上のものになだろう。問題は小さくなったことで必要な機能を、どのように付加していくかだ。Intelはほとんど手出しができない分野なだけに、マニア向けに留まらない一般的なビジネスツールとして、UMPCやIAベースの携帯端末が普及していくには、不足するピースがまだ多い。 □Intel Developers Forumのホームページ(英語) (2007年4月19日) [Text by 本田雅一]
【PC Watchホームページ】
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