●CPUコアが非常に小さいSilverthorne Intelが開発しているもう1つのIAプロセッサライン「LPIA(Low Power Intel Architecture)」。現在提供されている第1世代のLPIAである「A100/A110(Stealey)」は、実際には90nmプロセスの「Dothan(ドタン)」を低クロック&低消費電力にした派生バージョンに過ぎない。しかし、来年(2008年)前半には、LPIAとして開発された最初のCPUである「Silverthorne(シルバーソーン)」が登場する。 Silverthorneのマイクロアーキテクチャは、現在のCore Microarchitecture(Core MA)とは全く異なる。ローパワーにさらに最適化した新しいマイクロアーキテクチャになるという。真のLIPAは、Silverthorneから始まることになる。Silverthorneでは、0.5WレベルのTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)になる。また、パフォーマンスレベルも、ほぼ現在のLPIA並を維持するという。
先週北京で開催された「Intel Developer Forum(IDF)」で公開されたSilverthorneは、実際、Core MAのCPUとは全く異なる外観をしていた。ダイ(半導体本体)サイズは、同じ45nmプロセスのCore MA CPU「Penryn(ペンリン)」の約4分の1と、非常に小さい。CPUコアのサイズはPenrynの半分。CPUコアの規模としては、Pentium IIIの時代に戻ることになる。 これまでも、x86系の低消費電力の組み込み向けCPUは存在した。しかし、LPIAが異なるのは、LPIAが、その市場向けに最初から設計された製品である点だ。従来なら、組み込み系の低消費電力製品には、古いマイクロアーキテクチャのCPUを流用することが多かった。だが、LIPAは、最新のPC向けCPUとほぼ同等のフィーチャを全て備え、かつ、そこそこのパフォーマンスレンジも達成する。 TDPで見るとPC向けCPUとLPIA系ラインは棲み分ける。今のPC向けx86 CPUは、5W台から100W台のTDPレンジだ。それに対して、ローパワーx86 CPUは3W以下のTDPレンジをカバーすると見られる。つまり、機能はほぼ同じで、TDPと性能のレンジが完全にずれたCPUがLPIAとして提供される。
●既存CPUを使ったStealeyに対して新規に設計されたSilverthorne Intelは、ノートPCより小さなフォームファクタを狙うウルトラモバイルプラットフォーム(Ultra Mobile Platform)を、1年置きに段階的に充実させて行く。Intelは公約として、2006年のULV(超低電圧)モバイルプラットフォームに対して、2007年のStealeyでCPU TDPを2分の1、CPUパッケージサイズを4分の1に、2008年のSilverthorneでCPU TDPを10分の1、CPUパッケージサイズを7分の1にするとしていた。この公約は果たされつつある。 これまで、この市場向けにIntelはローパワーCPUとしてULV版のCeleron M(Dothan ULV)を提供して来た。このDothanは、TDPが5.5WでFSB 400MHz、L2キャッシュが512KB(使っていないキャッシュエリアは無効化されている)のバージョンだ。チップセットは915GMSとICH6の組み合わせとなる。 それに対して、今年(2007年)のプラットフォーム「McCaslin(マッキャスリン)」は、CPUがA100/A110(Stealey)、チップセットが「945GU(Little River)」、サウスブリッジがICH7Uの組み合わせ。来年(2008年)の「Menlow(メンロー)」では、CPUがSilverthorne、チップセットが「Poulsbo」の組み合わせとなる。さらにその先では、ワンチップのSoC(System on a Chip)ソリューションも提供する。 2007年のStealeyは、実際には90nmプロセスのDothan ULVの派生品だ。CPUのシリコン自体はほとんど変わっていない。同じダイサイズ、同じ400MHz FSB、同じ512KB L2キャッシュだが、CPUのクロックは900MHzから800/600MHzに下がり、TDPも3Wに下がっている。
「2007年のウルトラモバイルプラットフォームは、既存の超低電圧(ULV)版ノートPC向け製品の派生品だ。見て分かる通り、2006年と2007年の(CPUの)シリコンは同じだ。しかし、CPUパッケージは全く異なっている。 McCaslinでは、(CPUを)より低い電圧で駆動することで、目標の電力消費量を達成している。しかし、McCaslinでの顕著な作業はパッケージエリアで行なわれた。それが2007年のプラットフォームだ」とIntelのAnand Chandrasekher(アナンド・チャンドラシーカ)氏(Senior Vice President, General Manager, Ultra Mobility Group)は語る。 つまり、Dothan ULVを低電圧駆動&低周波数にして、パッケージを大きく変えたバージョンがStealeyだ。 それに対して、SilverthorneではCPUが完全に変わる。Silverthorneは、Banias(Pentium M)系ともCore MAとも異なるマイクロアーキテクチャを持ち、ウルトラモバイルに最適化されているという。 「2008年のMenlowでは、CPUは新規に起こした設計となる。目覚ましい改良がなされる。命令セットレベルでは、Meromと100%互換だ。Meromが備えるものは、Silverthorneも備えている。しかし、マイクロアーキテクチャは、全くMeromとは離れている。Meromは非常に高いパフォーマンスに最適化されている。それに対してSilverthorneは、GHzイシューレベルだが、電力消費を非常に考慮したパフォーマンスに最適化されている。 2007年のプラットフォームは、ノートブックPCファミリからの派生品で、その性格もノートブックPC製品に非常に近い。しかし、2008年の製品は、ずっとモバイルネットワークデバイスに近くなる。モバイルネットワークデバイスに最適化されているのが、2008年のプラットフォームだ」とChandrasekher氏は説明する。 ●SilverthorneのダイサイズはPenrynの約4分の1 IntelはSilverthorneをどのようにモバイル向けに最適化したのだろう。それは、Silverthorneを、同じ45nmプロセス世代のCore MA CPUである「Penryn(ペンリン)」と比較すると見えてくる。 IDFでは、PenrynとSilverthorneを並べたスライド(写真1)が提示された。しかし、実際にはこの2つのCPUはスケールが合っていない。両CPUマイクロアーキテクチャを比べるには、まず、Silverthorneのダイの大まかなサイズを割り出す必要がある。
IDFでは、プレスブリーフィングで、3世代のウルトラモバイルプラットフォーム向けCPUを並べた展示も行なわれた。写真2は、その展示を撮影したものだ。そして、同じ写真に映っているCPUチップを、物差しと並べた修正写真が写真3だ。
これを見るとスケールは明確になる。左のDothan ULVがスタンダードな35mm角パッケージ。Stealeyが14mm×19mmパッケージで、CPUダイは12.54mm×6.99mmとDothan ULVと同じ。それに対してSilverthorneは、約13mm×約13.5mm程度のパッケージだ。ちなみに、Dothan ULVのパッケージ面積が1,225平方mmに対して、Silverthorneのパッケージは約169平方mmなので、7分の1にするというIntelの約束通りということになる。 パッケージのおよそのサイズがわかると、パッケージとの比較で、Silverthorneのおよそのダイサイズ(半導体本体の面積)は割り出せる。実測では、縦が3.1mmちょっと、横が8.3mm程度に見える。厳密には違うかもしれないが、大まかにはこの程度で間違えていないと思われる。すると、ダイ面積は約26平方mmと推測される。 それに対してPenryn 6Mは、12.4mm×8.68mmで、ダイ面積は107.6平方mm。すると、Silverthorneが、Core MAの4分の1程度のダイサイズという情報と符合する。そこで先ほどのPenrynとSilverthorneの比較スライドに戻ると、Silverthorneの方を88%程度に縮小すると同じスケールで比較できることがわかる。そこで修正を加えたのが下のスライドだ。
次に、このスライドをベースに、両CPUをダイを大きなブロック単位に分解して比較してみる。わからないブロックも多いが、明瞭にわかる部分の比較だけでも、面白いことが見えてくる。 下が両CPUのブロックをラフに比較した図だ。見ての通り、SilverthorneのCPUコアは、Penrynの1 CPUコアの約半分、L2キャッシュは約10分の1、I/Oバスはほぼ同じ面積となっている。これは何を意味するのか、次回は、PenrynとSilverthorneの両CPUの比較から推測できるSilverthorneのアーキテクチャをレポートしたい。
□関連記事 (2007年4月25日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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