デルのビジネスノートPC「Latitude」シリーズに、堅牢性に優れた新モデル「Latitude ATG D620」が登場。北米市場でLatitude ATG Notebookとして販売されているものと同じモデルで、過酷な環境での利用を考慮した仕様を備えるノートだ。 ●米国国防総省が定める基準をクリアする優れた堅牢性 Latitude ATG D620(以下ATG D620)の最大の特徴は、野外での使用を考慮した優れた堅牢性が実現されている点だろう。製品名のATGとは「All Terrain Grade」の略で、「全地形対応」、つまりどのような環境にも対応するという意味を持つ。実際にATG D620は、米国国防総省が定める軍事規格「MIL-STD 810F」のうち、振動、耐水性、湿度、高度、埃の5項目の条件をクリアし、外部からの振動が加わったり、ホコリや湿度の多い環境での使用にも十分に耐えられる堅牢性が実現されている。ただ、その堅牢性に関しては、いわゆる“ダイハードPC”と呼ばれるものとはやや異なる方向性のようだ。 ダイハードPCと呼ばれる高い堅牢性を特徴とするノートPCとしては、完全防水/防塵構造かつ外部からの強い衝撃にも耐える頑強なボディ構造のものを想像するだろう。それらは、各種コネクタや拡張カードスロットなどを蓋で覆い、使用時にほぼ完全密封構造を実現できるようになっている場合が多い。 それに対しATG D620では、PCカードスロットなどは一般的なダミーカードで保護するだけになっていたり、CPU用空冷ファンの吸気/排気口が開いたままになっているなど、完全密封構造にはなっていない。キーボードは防塵/防滴構造のものが採用されているものの、マシン全体で考えると防塵・防滴に関してはやや弱いと言っていいだろう。ちなみに、ATG D620が実現している耐水性は、多湿環境下での利用を想定したもので、本体に直接かかる水の侵入を防ぐことを想定しているものではない。それでも、USBコネクタを初めとする各種コネクタ類はゴム製のカバーで密封できるようになっているため、一般的なノートPCと比較するとホコリや水に対する耐性は高いはずだ。 それらに対し、耐衝撃性能は比較的優れている。本体シャーシには肉厚のマグネシウム合金を採用するとともに、天板部分にはバンパーのような樹脂製のプロテクターが取り付けられており、デル社内でのテストで75cmからの落下試験にパスする耐衝撃性が実現されている。また、液晶パネルを補強材で保護するだけでなく、高強度オーバーレイガラスを採用することによって、液晶パネル自体も従来のものと比較して約130%の強度を実現している。 加えて、1.8インチHDDをゴム製の衝撃保護材で包み込み耐衝撃性を高めた「ATGショックマウンテッドハードディスク」という特性のHDDユニットもオプションとして用意されている。こういった仕様により、オフィスのデスク上からACケーブルを引っかけて床に落としてしまった場合の衝撃にも十分に耐えられるというわけだ。 このようにATG D620は、水しぶきや砂埃などが直接本体に降りかかるような、本当に過酷な場所での使用を想定した堅牢性が実現されているわけではない。普段のオフィスワークで快適に利用でき、しかも比較的過酷な環境の現場に持って行っても安心して利用できる。そういった使用状況を想定した堅牢性を実現しているのである。そう言った意味では、ATG D620をいわゆるダイハードPCとして捉えることは難しい。ただ、こういった仕様のため、優れた堅牢性を実現しながら本体重量が約2.8kgと3kgを切っている点や、見た目のデザインも、それほどゴツゴツしたものではなく、一般的なノートPCに近い点などは利点だろう。
●高輝度バックライトで晴天下での使用でも優れた視認性を実現 ATG D620に搭載される液晶ディスプレイは、1,280×800ドット(WXGA)表示対応の14.1型ワイドTFT液晶だ。液晶パネルは、先ほど紹介したように耐衝撃性に優れる構造となっているものの、それだけでなく、直射日光があたる野外での使用を想定して、非常に高輝度なバックライトを採用することで、最大輝度500cd/平方mという非常に高い輝度が実現されている。これは、ATG D620のベースとなっているLatitude D620に搭載される液晶ディスプレイの約2倍の輝度となる。 実際に、ATG D620の液晶ディスプレイの輝度を最大にまで高めると、室内ではまぶしすぎるぐらいである。そして、実際に晴天時に野外で使用してみたが、視認性がほとんど落ちないというようなことはなかったものの、一般的なノートPCの液晶ディスプレイのように画面の情報が全く見えなくなってしまうというようなことはなく、ある程度の視認性は確認できた。液晶ディスプレイ表面のパネルはノングレア処理が施されているため、太陽光などが反射して見づらくなることも少ない。 また、この液晶ディスプレイのバックライトは、周囲の明るさに応じて自動的に輝度を調節する機能も盛り込まれている。液晶ディスプレイ下部に光センサーが搭載されており、明るい場所では自動的に輝度が高く、暗い場所では自動的に輝度が低くなる。もちろん、手動で輝度を調節することも可能だが、環境に応じて自動的に輝度が調節されるのはかなり便利だと感じだ。 ところで、液晶パネル上部には、キーボード面を照らすLEDが2個搭載されている。搭載されているLEDは赤色LEDだ。赤色ライトは、暗闇の中で利用した場合でも目への刺激が少なく、夜間のフィールドワークに欠かせない存在だが、ATG D620のキーボードライトとして赤色LEDが採用されたのは、こういった点を考慮してのことだろう。LED自体の輝度はやや低めではあるが、暗い場所で利用する場合にこのLEDを点灯させることでキーボード面がはるかに見やすくなるため、特に夜の野外での利用には非常に役立つ機能だ。
●Latitude D620のスペックをそのまま踏襲 製品名からもわかるように、ATG D620は、Latitude D620をベースとして優れた堅牢性を実現した製品である。実際に、ATG D620に搭載されるスペックは、Latitude D620をほぼ完全に踏襲しているとともに、周辺機器やパーツ類もLatitude Dシリーズ用のものがそのまま利用可能となっている。チップセットはIntel 945GM Expressを採用。グラフィック機能はチップセット内蔵のIntel GMA950が利用される。そして、搭載されるCPUの種類やメインメモリ容量、HDD容量などは、Latitude D620同様に自由にカスタマイズ可能となっている。 搭載可能CPUは、Inte Core 2 Duo T5500からT7600までの5種類。メインメモリはPC2-5300(DDR2-677)対応のDDR2 SDRAMを最大4GBまで搭載可能。また、HDDは2.5インチのシリアルATA対応ドライブ(最大120GB)を選択できるだけでなく、冒頭で紹介したように、80GBの1.8インチHDDをゴム製の耐衝撃材で包んだ「ATG ショックマウンテッドハードディスク」も選択可能。OSは、Windows XPまたはWindows Vistaが選択可能となっている。 ネットワーク機能は、Gigabit Ehternetを標準搭載している。無線LANやBluetoothなどのワイヤレスネットワーク機能はオプション扱いとなっているものの、どちらもオンボード搭載が可能となっている。ちなみに無線LANはIEEE 802.11a/b/g対応、もしくはIEEE 802.11b/g対応のものを選択可能となっている。これらワイヤレス機能は、本体左側面のスライドスイッチによって切り離し可能となっているため、無線機能を利用できない環境にも柔軟に対応できる。また、スライドスイッチは、無線LANアクセスポイントを検出するソフトウェアの起動ボタンも兼ねており、公衆無線LANアクセスポイントの存在をチェックしたい場合などに重宝する。 光学ドライブは、2層書き込み対応のDVD±R/RWドライブに加え、DVD-ROM/CD-RWコンボドライブやCD-ROMドライブなどから選択可能だ。この光学ドライブは着脱式となっており、光学式ドライブを外してダミーカバーを取り付けることも可能。ちなみに、ATG D620がクリアしている防塵性能は、光学ドライブを外してダミーカバーを取り付けた状態でのものなので、比較的ホコリの多い場所で利用する場合には光学式ドライブは外しておいた方がいいだろう。 本体左側面には、Type2 PCカードスロットに加え、スマートカードスロットも用意されている。こういった部分は、ビジネス用途を考慮した仕様といえる。 ところで、バッテリスロット内部に、携帯電話などで利用されているSIMカードスロットが見える。これは、米国でEV-DOまたはHSDPA対応の無線モジュールを利用するためのもので、日本では使用されない。
●扱いやすいキーボードとポインティングデバイス キーボードは、18mmピッチのフルサイズキーボードを搭載。縦横のピッチに差がないのはもちろん、いわゆる7列キーボードと呼ばれているもので、[Fn]キーとの併用も少なく、非常に扱いやすい。タッチは適度な重さがあり、デスクトップ用キーボードを使い慣れている人にも違和感なく扱えるはずだ。筆者個人としては、もう少し軽めのタッチが好みではあるが、キーボードの使い勝手には全く問題を感じることはなかった。 ポインティングデバイスは、キーボード中央に配置されたスティックタイプの「トラックスティック」と、パッドタイプの「タッチパッド」の2種類が搭載されている。ノートPCのポインティングデバイスは、スティックタイプとパッドタイプのどちらかに好みが別れることが多いが、その双方を搭載しているために、誰にでも対応可能と言える。ちなみに、トラックスティック、タッチパッドともに使い勝手は全く問題ない。 付属の標準バッテリは、容量56Whの6セルリチウムイオンバッテリだ。底面に用意されているボタンとLEDで残量をチェックできるSmartバッテリ仕様となっている。標準バッテリ使用時のバッテリ駆動時間は約3.5時間と、野外での使用を考慮しているマシンとしてはやや少ない。もちろん、容量85Whの9セル大容量バッテリを利用すれば、より長時間のバッテリ駆動が可能となる。野外での長時間使用を考慮するなら、大容量バッテリの利用も検討すべきだろう。
●堅牢性重視のビジネスノートとしておすすめ では、いつものようにベンチマークテストの結果を見ていこう。利用したソフトは、Futuremarkの「PCMark05 (Build 1.2.0)」と「3DMark05(Bulid 1.3.0)」、「3DMark06(Build 1.1.0)」の3種類。Windows Vistaに用意されているパフォーマンス評価の結果も加えてある。また、今回試用したマシンでは、ATGショックマウンテッドハードディスクが取り付けられていた。 試用機の構成の場合、CPUにCore 2 Duo T5500、メモリ1GB、80GB HDD(ATGショックマウンテッドハードディスク)、±R DL対応DVD+/-RWドライブ、OSにWindows Vista Businessを搭載し、価格は317,100円(4月9日現在)となる。 結果を見ると、チップセット内蔵機能を利用するためにグラフィック描画能力があまり優れていないことと、1.8インチドライブが搭載されていたことからHDDの結果もあまり優れていない。描画能力はともかく、HDDの性能を優先したいなら、2.5インチドライブを選択した方がいいかもしれない。その場合にはHDDの堅牢性が劣ることになるため、ATG D620の本来の目的が果たせない可能性が高くなるものの、野外での使用がメインではないというのであれば、性能重視で2.5インチのHDDを選択するというのも悪くないだろう。もちろん、堅牢性重視であれば、ATGショックマウンテッドハードディスクの選択が基本なのは言うまでもない。 とはいえ、CPUにCore 2 Duoが搭載されていることもあり、全体的なパフォーマンスは十分優れている。堅牢性重視のノートPCながら、CPUにCore 2 Duoを搭載し、ハイエンドクラスのノートPCに匹敵するパフォーマンスが搭載されている点は、ATG D620が完全密封構造を採用しなかったからこそ実現できているわけで、堅牢性とパフォーマンスのバランスが高いレベルで融合している部分こそATG D620の最大の魅力であろう。 雨や泥などが降りかかるような、飛び抜けて過酷な環境に対応できるような堅牢性を備えているわけではないものの、一般的なノートPCよりも数段優れた堅牢性が実現され、かつ幅広いビジネスシーンに柔軟に対応できる高いパフォーマンスを持つATG D620。デスクワークはもちろん、車に設置して利用したり、現場に持ち込んで利用するなど、過酷な環境での利用を目的としたノートPCを探している人にとって、かなり魅力的な選択肢になるだろう。
【表】ベンチマーク結果
□デルのホームページ (2007年4月10日) [Reported by 平澤寿康]
【PC Watchホームページ】
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