2月初旬 発売 価格:オープンプライス セイコーインスツル(SII)の「DB-J990」は、PCに接続して電子ブックやニュースなどのコンテンツをダウンロードし、購読することができる製品だ。内蔵の電子辞書を用い、単語の意味などを調べながら、コンテンツを読み進められるのが特徴である。 ●電子辞書の皮をかぶった読書端末 本製品は、PCに接続して電子ブックやニュースなどのコンテンツをダウンロードし、購読することができる電子端末だ。発売元のSIIでは、従来の電子辞書と区別し、本製品を「ネットワーク電子辞書」と呼称している。 正直なところ、本製品に「電子辞書」という名を冠することについては、やや違和感を覚えないではない。確かに本製品は、広辞苑、漢字源、ジーニアス英和/和英、マイペディアといった辞書を収録してはいるが、コンテンツを購読する際の補助として辞書機能を利用するのが主な用途だからだ。例えば、本製品で英語の電子ブックを読んでいて、わからない単語が出てきた時、辞書機能を利用して訳を調べるといった具合だ。 つまるところ本製品の実態は「辞書機能が使える電子ブック端末」であり、わからない単語をキーボードなどから入力して検索する従来の電子辞書端末とは、まったく別系列に属する製品であると言える。 ●スライド式筐体を採用。サイズは従来の電子辞書と同等 機能を紹介する前に、まずハードウェアから見ていこう。 本体重量は約260g、サイズは約150×90×20.5mm(幅×奥行き×高さ/最厚部)と、従来の電子辞書とほぼ同じ。胸ポケットに入れるにはやや大柄なサイズだ。 液晶ディスプレイの下にQWERTYキーボードが隠れており、利用時にはスライドさせる構造になっている。ソニーの「VAIO type U」とよく似た設計だ。シンメトリックなデザインも美しく、ピアノ調の表面処理ともあいまって、ガジェットとして物欲をそそられる。
QWERTYキーのサイズは8×6mm、ピッチは約10mmと、ウィルコムの「W-ZERO3」とほぼ同じサイズ。もっとも、一般的な電子辞書と比べて文字入力の機会が少ないため、このサイズでもそれほど支障はない。
ボディの左端には5つのホットキーとスピーカー、右端にはジョイスティックに似た4方向キーを中心に、基本操作のためのキーがレイアウトされている。キーボードを利用しない場合は、液晶ディスプレイをスライドさせることなく、左右両端のボタンのみで操作できる。が、残念ながらこれらのボタンはユーザビリティ的に難があり、本製品の評価を下げる一因になっている。詳しくは後述する。
液晶の画面サイズは480×320ドット。モノクロ16諧調、バックライトなしというスペックだ。コントラストの調整は30段階で行なえるのだが、輝度の調整はできない。これについてものちほど詳しく述べる。 音声は本体左上の内蔵スピーカー、もしくはイヤフォンで聴く仕組みになっている。ボリュームダイヤルおよび調節キーがないため、いちいち環境設定→ユーザー設定で設定しなければならず、ややストレスが溜まる。 バッテリはリチウムイオンで、持ち時間は約28時間。充電はACアダプタで行なう。PCからコンテンツを転送する際はUSBケーブルを用いることもあり、充電もUSB 1本で行なえたほうがよかったのではと思う。
●わからない単語を内蔵辞書で調べながら英語eブックが読める さて、ようやく本題のeブック機能である。これは、付属CDおよびネット上から英語の電子ブックをダウンロードしてPC→本製品に転送し、購読する機能だ。 まず、iPodでいうところのiTunesに相当する管理ソフト「Mobipocket Reader」を、母艦となるPCにインストールする。本製品では数十冊の無料版eブックが付属しているので、これらがデフォルトで選択可能な状態になる。本製品をUSBケーブルでPCと接続し、ライブラリーの中から読みたいeブックを選んで転送すれば、すぐに読むことができる。
本製品ならではの特色の1つが、わからない単語が出てきた際、内蔵の辞書を使ってすぐに調べられることだ。手順は簡単で、画面スクロールモードから単語選択モードに切り替えたのち、4方向キーを使って単語を選択しダブルクリックすると、該当の単語が複数辞書で横断検索され、意味が表示されるという寸法だ。英和辞典がジーニアスしかない難点はあるものの、これまでの製品にはあまりなかった機能であり、英語学習の新しい形としても魅力的だ。 また本製品では「Mobipocket.com」など複数のeブックストアから、eブックを追加購入することもできる。「Mobipocket.com」はAmazonの関連会社であり、サイト上では膨大な量のeブックを販売している。これらをダウンロード購入して本製品に転送し、内蔵の辞書機能を使いながら読み進めることができるというわけだ。 今回は試しに村上春樹の「海辺のカフカ」の英語版「Kafka on the Shore」のデモ版、つまりページ限定の立ち読み版をダウンロードしてみた。文字サイズを最小にした場合、横72文字×24行が表示される。ペーパーバックの1/2ページずつ読んでいく感覚だ。後述する液晶の問題を除けば、かなり快適に読書が楽しめる。
●ポッドキャスト風のインターフェイスを持つeニュース機能 次は、本製品のもう1つの目玉、eニュース機能についてみてみよう。 この機能は、さまざまなニュースサイトが提供しているヘッドラインを、本製品にダウンロードして読めるというものである。iTunesで言うところのポッドキャスティングに近い仕組みで、購読の設定にしておくと定期的に同期を取って最新版に置き換えてくれる。こちらもやはり、英語に慣れ親しむという意味で魅力的な機能だ。 この機能、実のところは各サイトのRSSフィードを取り込んでいるに過ぎず、エクスプローラで見るとRSSフィードが変換されたと思われるXMLファイルなどが確認できる。いったん「Mobipocket Reader」側で独自形式に変換しているため、現状では自分で指定したサイトのRSSフィードを読み込ませるのは難しいようだが、お気に入りのサイトのRSSフィードを登録しておき、毎朝同期したものを外出先で読むというのも、そう難しいことではなさそうだ。今後大いに期待したい機能である。
●テキストやWord、PDFなど任意のファイルを取り込むことも可能 上でRSSフィードの読み込みは困難と書いたが、本製品では手持ちのテキストファイルやHTML、Word文書、PDFファイルを変換して取り込む機能がある。同期は取れないものの、ファイル単体であればこの方法で本製品に取り込み、外出先で購読することができる。 変換方法は簡単で、「Mobipocket Reader」のメニューから「ファイル変換」を選択し、具体的なファイルを指定するだけ。あとは端末に転送すれば、eブックなどと同じように購読できる。モノクロながら画像を含んだ文書にも対応している。青空文庫を取り込むことも可能だ。 今回は試しに本連載のバックナンバー(連載第11回)をローカルに保存したのち、上記の手順で変換→端末に転送してみたが、問題なく表示された。液晶の性能がチープなため、図版の鮮明度はいまひとつだが、十分に実用的である。 ちなみに本製品の内蔵メモリは50MBと、カシオのハイエンドクラスと同等の容量を確保している。また、SDカードも利用できるので、日々購読するコンテンツをインストールしておくには十分だろう。なお、このSDカードスロットについては、同社の追加コンテンツカード「シルカカード」には対応していないので、同社の電子辞書ユーザーは注意が必要だ。
●ハードウェアとしての使い勝手にやや難あり ただ、こうしたユニークな機能は高く評価できるものの、それらをフルに活かすところまでハードウェアが考えられていないというのが、本製品をしばらく試用した率直な感想である。 まず1つは、操作ボタンの配置。通常、こうした横長のデバイスを両手で持つ際は、もっとも利用頻度の高いキーがホームポジションに来て、この位置から指を運びやすい位置に、別のキーを配置するのがセオリーになる。本製品で言うと、もっとも利用頻度が高い4方向キーが、通常の持ち方をした際に右手親指で操作できる必要がある。本製品も、ここまではきちんとクリアしている。 が、本製品では、4方向キーに次いで利用頻度の高い「決定/ジャンプ」、「戻る」、「メニュー」、「ライブラリ」といった4つの主要キーが、4方向キーとともに縦一列に並ぶようレイアウトされてしまっており、直感的な操作を阻んでいる。とくに本体右隅に配置された「戻る」ボタンについては、親指で押そうとすると、持ち方そのものを変えなくてはならず、大いにストレスが溜まる。 また、本体左側のA~Eのホットキーも難ありだ。この5つのキーは、画面でメニューを表示した際に下段に並ぶ5つのタブに対応している。画面上で横一列に並んでいるタブが、ボタンになるとなぜか縦一列にレイアウトされているのだ。さすがにこの状態では、直感的な操作が行なえるとは言い難い。 もう1つの難点は液晶だ。視野角の狭さや写り込みの激しさは何とか我慢するとして、問題なのは応答速度の遅さ。1行スクロールするたびに目がチカチカするのは、電子ブックなど長文を読むための端末としてはかなり致命的だ。行単位ではなく画面単位でスクロールすることもできるのだが、それでも相当の残像が残ることに変わりはない。バックライトを装備しない点も、見づらさに拍車をかけている。 分解して内部構造を見たわけではないのではっきりしたことは言えないが、コンテンツ読み込み時の挙動から察するに、おそらくCPUそのものの処理速度が遅いのではないかと思われる。SIIの電子辞書といえば、VGA対応モデル「SR-G10000」の液晶の美しさは電子辞書のモノクロ画面として最高峰にあるわけだが、本製品ではあまりの落差に愕然とさせられる。 なお、これらはデモ機に触れれば個人で確認できる内容なので、自分にとってこれらが許容範囲かどうかは、本稿を鵜呑みにせず、実機をもって判断されることをオススメする。 ●電子ブックとしての進化に期待
筆者個人、かつて英語の勉強のためにペーパーバックを英和辞典片手に読んでいた時期があった。想像いただければ分かると思うが、ペーパーバックを読みながら、分からない単語が出てきたら辞書で引くというのは、正直なところ面倒なことこの上ない。 その点、電子端末自体に辞書が内蔵されており、わからない単語はダブルクリックするだけで意味を引けるというのは、この上なく便利である。しかもそれが市販のeブックだけにとどまらず、eニュース、さらにダウンロードしたWebページや自作の文書にも適用できるなど、応用範囲も幅広い。英日翻訳だけでなく、日本語の意味について広辞苑を使って調べるといったワザも可能だ。製品のコンセプトは非常に優れていると言えるだろう。 となると、やはり本製品の問題点は、インターフェイス面にあると言わざるを得ない。実売価格が3万円を切っているとはいえ、さすがにこの液晶の品質と操作性では、購入意欲が減退してしまう。この製品にWords Gear並みの液晶があればと残念に思う次第だ。 余談だが、本製品を「電子辞書」としてラインナップしたことは、個人的には間違っていないと思う。というのも、そうでもしなければ、メーカーが量販店に売り込みに行けないからだ。電子辞書の亜流と位置付けることで、電子辞書のバイヤーにはアプローチすることができる。この判断は正しい。 しかしその結果、本製品は同社はもちろん他社の電子辞書と、インターフェイスや機能面でガチンコ勝負をする羽目になってしまった。不幸なのは、本製品が持つインターフェイスや液晶画面のクオリティが、従来の電子辞書に比べて大幅に見劣りすることにある。筆者はFranklinの他製品を利用したことがないので、本製品が特別なのかどうかは分からないが、こと本製品に限ってみると、国産の電子辞書の品質の高さが目に付く結果となっている。このレベルのハードウェアで納得してくれるほど、日本のユーザーは甘くない。 従って本稿の結論としては「電子辞書としても読書端末としても、今後の進化に期待させられる製品」というオチになってしまうのだが、企画そのものは非常に魅力で、ちょっとしたきっかけでブレイクするきっかけは秘めていると感じられた。電子辞書として競合する製品は現状のマーケットにはなく、どちらかというとポッドキャスティングが可能な携帯端末や、電子ブック端末が競合になる。この製品の登場を受けて、電子ブック市場がどう動くかにも注目していきたい。
【表】主な仕様
□SIIのホームページ (2007年3月28日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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