11月30日 発売 価格:90,000円 連絡先:CPサービスセンター セイコーインスツル株式会社(SII)の「SR-G10000」は、業界初のVGA(640×480ドット)液晶を搭載した電子辞書だ。ジャンルとしては英語モデルに属する本製品は、圧倒的に高精細な画面を生かし、2コンテンツを同時に開いたり、メニューの表示方式を自由に変えられることが特徴だ。 ●業界初のVGA液晶搭載モデル 2006年冬にきて、ハードウェア面で各社の方向性に違いが見え始めてきた電子辞書。シャープのワンセグ対応モデル、そして前回紹介した手書きパッド搭載モデルなど、特徴的なモデルが続々と登場してきている。かつての音声出力モデルの登場以降、大きな進化が見られなかった電子辞書の世界において、久々にビッグバンとも言っていい変化が到来している印象だ。 さて、今回紹介するSIIの「SR-G10000」は、電子辞書としては業界初、VGAの解像度を持つTFT液晶パネルを備えた製品だ。ワンセグモデルのような付加価値をつけたり、手書きパッドという第2の入力インターフェイスを備えたモデルに比べれば、電子辞書としては至って正当な進化を遂げた製品である。逆に言うと、前述の2機種に比べた場合、やや地味である印象は否めない。 もっとも、実物を目の当たりにした際、これだけ強烈なインパクトを与えてくれる製品も珍しい。特に現在電子辞書を使っているユーザーが本製品を手にした場合、従来機種との明確な違いに誰もが驚くはずだ。それはひとえに、本製品が採用している「くっきリアル」と銘打たれたTFT液晶画面のクオリティによるものである。 ●本体サイズは従来の電子辞書並み。電源はACアダプタによる充電方式 液晶画面については詳しく後述するとして、まずはいつものように基本スペックからチェックしていこう。 筐体は外装、内装ともにブラックに統一されており、ヘアライン加工とも相まって高級感を醸し出している。指紋がつきやすいのが難点ではあるが、シルバーが中心の現在の電子辞書の中では、販売店の展示コーナーでもひときわ目を引くカラーリングと質感である。
VGA液晶を備えるからには本体サイズもさぞかし巨大なのだろうと思いきや、意外なことに従来の電子辞書と変わらない。前回のシャープ製手書きパッド搭載モデル「PW-AT750」と比べると、ほぼ同じと言っていい筐体サイズだ。比較写真を掲載しておくので参考にしてほしい。
キーボードは従来と同じく、パンタグラフ方式の「カイテキー」が採用されている。ちなみにキーピッチは13mmと、本連載の第3回でレビューした「SR-E8500」と同じ。打鍵はしやすいものの、競合製品に比べるとやや狭い印象だ。 キーボード上段のファンクションキーは、機能によってキー形状が異なっていたり、色分けされているといったことはなく、横一列はすべて同じ外観で統一されている。かろうじて電源キーだけが赤色で印字されているくらいで、筐体カラーと相まって、シンプルかつスタイリッシュな印象を醸し出すのに貢献している。とはいえ、電源キーとファンクションキーが同じサイズで並べられているのは、やや違和感を感じないではない。ユーザビリティよりもデザインを優先した印象だ。
電源は単4電池ではなく、リチウムイオン充電池を利用している。充電はACアダプタで行なう。ACアダプタを利用する電子辞書は、本連載で取り上げた機種の中ではシャープ製のカラー辞書「PW-N8100」に次いで2機種目で、それだけ珍しい存在といえる。ACアダプタであることから分かるように、本製品はあくまで据え置きでの利用が前提であり、モバイルを中心とした利用形態にはやや難があるということになる。ちなみにリチウムイオン充電池での連続駆動時間は25時間と、かなり短い部類に入る。 ヒンジ部分はメッシュになっており、AC電源接続時に点灯するLEDが左側に、スピーカーが右側に備えられている。これまで同社製品はスピーカーが外部に露出せず、音声が本体内部にこもって聞こえる難点があったが、今回の製品でようやく他社製品に追いついた感がある。「カイテキー」のレイアウトに影響を及ぼさないよう、ヒンジ部分にスピーカーを配置した点に、設計上の苦心の跡が見て取れる。 本体重量は252g、ACアダプタはおよそ90gほど。本体右側面に搭載されるSDカードスロットは同社の追加コンテンツカード「シルカカード」にのみ対応し、市販のSDカードを認識することはできない。
●高精細さと高コントラストを両立させた「くっきリアル」液晶 さて、何はともあれ本製品の特徴は「くっきリアル」と銘打たれたVGA液晶である。画面サイズこそ5.2型と競合製品とほとんど変わりないのだが、その圧倒的な高精細さには舌を巻く。
その最たる例が文字サイズだ。本製品では文字サイズは5段階に可変するのだが、これが実に細かい。他社製品の5段階表示の場合、どちらかというと文字サイズが大きい側に強く、小さな文字を表示するのには向いていなかった。本製品の場合、文字の最小サイズでは1文字わずか2mm程度という驚くべき細かさであり、最大でなんと34行もの表示が可能である。
さらに、この高解像度を生かす表示方法として、本製品は「ツイン検索」と「表示スタイル変更」という機能を備えている。前者は検索ウィンドウを画面に2つ表示できる機能で、例えば英英辞典を引きながら英和辞典を利用するといった使い方ができる。一方の辞書を閉じずに済むので、検索効率が大幅にアップするというものだ。 後者は画面表示を適したスタイルに切り替える機能で、見出しの一覧表示画面ではプレビュー画面の表示位置を下段←→右列と変更することができる。また、本文表示中は行のピッチを変えたり、行間に罫線を入れて表示することができる。 これらはいずれも、画面がVGAになるとこれだけ余裕ができますよ、と言わんばかりの機能である。実際、これらの機能は使っていても非常に快適で、いったん慣れてしまうと他の電子辞書が不便に思えてしまうほどの魅力を備えている。既存の電子辞書を使っているユーザーが本製品を店頭で試用する場合は、それなりに覚悟を決めておいたほうがいい。 だが、本製品のキモとなるのはむしろこの画面サイズよりも、画面のコントラストの高さにあると筆者は考える。本製品の液晶画面は、まるで文字をシルク印刷したかと思うほどの美しさで、視野角も同社従来製品に比べて驚くほど広い。バックライトこそ装備しないが、それがまったく気にならないコントラストである。どちらかというと電子ペーパーに近い印象で、その表現力は同社の従来機種とは比べものにならない。 これまでSIIの電子辞書といえば液晶画面の評価は芳しいとは言えなかったが、今回の製品で完全に他社を凌駕した感がある。おそらく従来のやり方を全面的に見直したのだろう。興味をもたれた方は、店頭で実際にデモ機に触れて確認するとよい。
●地道に強化された英語コンテンツ。広辞苑は差し替え 後回しになったが、搭載コンテンツとメニューについても触れておきたい。 本製品は英語モデルということで、搭載されている25のコンテンツのうち19が英語系で占められている。従来の同社の英語モデル最上位機種である「SR-E10000」と比べると、研究社の新英和大辞典を新たに搭載した点が目立つ。また、広辞苑が省かれた代わりに、デジタル大辞泉と明鏡国語辞典が加わるなど、いくつかの変更点が見受けられる。 英語関連で便利な新機能は、キーワードのセンタリング表示機能だ。これは特定の単語を含む例文を一覧表示した際、特定の単語が中央に来るよう、例文をセンタリングして表示してくれるというものである。主語や動詞などとの位置関係が一目瞭然になるので、用法を調べる際に非常に役立つ。また、リーダーズ英和辞典など3辞書を用い、訳語から語句を検索する「訳語検索」も新たに装備されている。
ちなみに、本製品の搭載コンテンツのほとんどはキーボード上部のファンクションキーから直接呼び出す形になっており、残りのコンテンツは「メニュー」キーを押すことで一覧表示される。これまでのモデルもそうだったが、SII社の電子辞書は「メニュー」の考え方がやや特殊で、ファンクションキーに割り当てられていないコンテンツを表示する機能という位置付けになっている。他社製品のように、搭載コンテンツすべてを表示するキーというわけではない。 また、お気に入り辞書として、最大2つのコンテンツをファンクションキーに割り当てられる。最大2つというのは他社製品に比べると少ないが、そもそものコンテンツ数が少ないこともあり、これで問題ないだろう。
●実機を見ないと分からない「くっきリアル」画面の魅力 本製品は、VGA液晶という強力な表現手段を得ているものの、搭載コンテンツに劇的な変化があったかというと、そうではない。例えばシャープのカラー電子辞書が登場した際は、フルカラー写真を含む百科辞典系のコンテンツが追加されるなど、ハードウェアの進化に合わせてコンテンツ側も刷新されていた。そうした大きな変化は、本製品に関してはない。 もちろん、英語モデルという方向性に背く機能は不要だろうし、本製品に興味を持つユーザーの多くは、マルチメディア関連の機能にはあまり興味がないはずだ。とはいえ、実機を目の当たりにするまではメリットがなかなか伝わりにくい機種であるのは事実であり、メーカーサイトの製品ページでもその違いをきちんと訴求できているとは言い難いし、それは本レビューおよび写真でも同じことだ。本製品の弱点を敢えて指摘するとしたら、そうしたセールス的な部分だろう。百聞は一見にしかず、興味がある方は売場に足を運んで実機を見ることをお勧めする。 余談だが、SIIはこれまでのところ、他社で言う「生活総合モデル」のセグメントにはそれほど注力していない。もちろんラインナップ上は存在しているのだが、収録コンテンツ数を追求した他社製品に比べると、どうしても見劣りしてしまうのが現状だ。 しかし、本製品に搭載されている「くっきリアル」液晶がこれらの製品に搭載されてくると、他社にとっては脅威となる。もちろん、そのためにはバッテリの持続時間など、改善すべき問題はあるが、見た目の美しさでは他社のモノクロ液晶を完全に凌駕しているだけに、注目を集めることは間違いないだろう。今後この「くっきリアル」液晶がどのように進化していくのかに注目したい。
【表】主な仕様
□セイコーインスツルのホームページ (2006年12月6日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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