玄人志向の「玄箱」は、初代製品およびGigabit Ethernet対応製品のレビューを以前お届けしたが(関連記事参照)、その後シリアルATA HDD対応にした「KURO-SATA」がリリースされ、そこそこコンスタントに売れていたようだ。 その玄箱シリーズの最新製品が、全てを一新した「KURO-BOX/PRO」(以下「玄箱PRO」)である。玄人志向内部でも扱いが変わったのか、従来の玄箱が「NASベアボーン」となっているのに対し、玄箱PROは「Linuxベアボーン」になっているなど、力の入れ方がちょっと変わっているのがわかる。 とはいえ、玄箱PROのベースがNASであることは間違いない。そこでまずはNASとしてどの程度使えるか、という話を今回はレポートしてみたい。 ●そっけないパッケージ パッケージそのものは、比較的コンパクトにまとまっている(写真1)。内容物は本体と電源ケーブル、LANケーブル1本、説明書とCD-ROM、それにドライブ取り付け用ネジである。ベアボーンキットであることから、HDDそのものは含まれていないので別途購入の必要がある。 フロントパネルの印象は、バッファローの「LS-GL」シリーズに近いものはあるが、フロントパネル部の造形などはかなり異なっており、金型を一部流用しつつもオリジナルといった雰囲気を見せる(写真2)。背面を見るとこれは更に明白で、ケース幅一杯に排気ファンが用意されており、空冷を念頭においていることがわかる(写真3)。側面は「玄箱」であることを雄弁に物語っている(写真4)。 フロントパネルの底面にあるネジを外すと、フロントパネル部がむき出しになる(写真5)。ここにはPCI-Express x1コネクタとSATAコネクタがあるほか、I2C/UART/GPIOの各ピンヘッダが並ぶ(写真5)。このフロントパネル部ごとHDDマウントを取り外すと、内部構造が見える(写真6)。フロントパネルとあわせてネジを3つ外すだけで前面からHDDの交換が可能になるわけで、このあたりの整備性は従来製品と比べても大幅に向上した。 側面パネルをあけるとメインボードと電源の位置関係がわかりやすい(写真7)。メインボードとフレームでうまくウィンドトンネルを作っており(写真8)、効果的に放熱を行なおうというものだ。その電源部はご覧の通りシンプルなものだ(写真9)。 メインボードはご覧のような構造(写真10)。中央に位置するのがMarvellの88F5182(写真11)である。これに接続されるメモリ(CPUの上側に位置する)はエルピーダの「EDE5116AHSE」(写真12)。一方CPUの左にはGigabit EthernetのPHYとしてMarvell 88E1118(写真13)が配される。一方、基板の左上に位置するのが電源や周辺機器制御用マイコンの「μPD78F0500」(写真14)。これはNECエレクトロニクスの「78K0/KB2」というマイクロコントローラで、電源ボタンやLED、ブザー、ファン制御などは全てこのマイコンが行なっている。
一方基板裏面はというと、フラッシュメモリが2つ配されている程度だ(写真15)。搭載されるフラッシュメモリはブート用の2MbitとOS/データ用の2Gbitの2つが用意される(写真16)。 ところでHDDマウントは写真17のようにサブボードと一体になって構成される。裏面にはシリアルATAと電源コネクタが突き出しており(写真18)、ここにシリアルATA HDDのコネクタ部を差し込んでHDDマウントの裏側からネジ留めする形だ(写真19)。そのサブボードであるが、基本的にはインターフェイスのみが搭載されており、コントローラといえばLEDの輝度コントローラが1個載っているだけである(写真20)。裏面はもっとシンプルだ(写真21)。
さて、実際の使い方だが、何もHDDをセットせずに立ち上げても2Gbitのフラッシュメモリのエリアが参照できるという「ディスクレスNAS」としても動作するが、これは余りに意味がないので、ちゃんとHDDをセットして使うことにする。この手順は簡単で、HDDを玄箱PROにセットし、電源を入れたあとで背面のリセットスイッチを長押し(5秒)すると、自動的にHDDを初期化してくれる。初期化が終わると立ち上がるので、あとはネットワークに繋いでOKという話である。 ここまでの話は一応紙のマニュアルに出てくるのだが、この先の話はCD-ROMに含まれる「製品仕様書.DOC」にしか入っていない。この時点ですでにWindowsユーザー以外お断りという感は強いのだが、更にWindows標準のワードパッドでは正しく読めないというおまけもついている。Wordを持ってないユーザーはマイクロソフトの「Word Viewer」を入手する必要があるだろう。この製品仕様書の中の手順に従うと (1) ネットワークに繋いだ後、“\\KUROBOX-PRO”という名前を検索する(写真22) といった形で詳細設定画面が起動する。ちなみにデフォルトのポート80は写真26のような具合だ。とりあえずドライブ名をつけて接続すると普通に使えるし(写真27)、日本語を含むファイル名も(筆者が試した範囲では)問題はなかった。telnetのログインも普通に行なえる(写真28)。
さて、実は用意されている事はこれで終わりである。共有設定とかを変更したいといった場合にはSWATの画面から操作することになるが、SWATそのものはカスタマイズされていないようで、後はSWATのドキュメントなどを探しながら勝手に設定せよ、ということになる。これはシステム設定も同じで、設定ユーティリティなどは皆無なので、telnetでログインするなどして、自分で修正せよということになる。このあたりは、従来の玄箱シリーズと比較しても明らかにサポートは薄い(というか、無い)。 その代わり、先に触れた製品仕様書にはハードウェア構成を含む詳細な情報と、主要なソフトウェア構成、ソフトウェア開発環境構築の手順やカーネルビルドのためのクロスコンパイル環境の手順などが含まれており、また一緒にある「マイコン仕様書」には、CPU(つまり88F5182)からマイコンを操作するための手順が含まれている。さらに主要なソースファイルもCD-ROMにまとめて同梱されており、要するに「自分でやれ」という意思を強く感じるパッケージングとなっている。こうなってくると、たとえNASとして使うとしても、初心者の方にはまるでお勧めできない構成ではあるが、ある程度わかっているユーザーには手頃なオモチャであるとは言えるだろう。 ●性能は……やはりハックは必要か? さて、使い勝手はともかくとして性能はどうか? という事をちょっと確認してみた。他のマシンと独立したLANを組み、ここでテストマシン(Athlon 64 X2 5000+/ASUSTeK M2N32-SLI/DDR2-677 1GB/Barracuda 7200.10 SATA 320GB/Windows XP Professional SP2日本語版)と玄箱PROを1対1で接続した。玄箱PROの方にも同じくBarracuda 7200.10 SATA 320GBを入れてある。この状態で ・FDBENCH v1.01 という3つのテストを順に行なってみた。ただ、単体でやっても比較にならないので、玄箱PROをLAN経由でアクセスした場合(玄箱PRO)と、玄箱PROからHDDを取り出し、NTFSでフォーマットしなおして接続した場合(ドライブ直結)を比較してみた。表1~表3がその結果だが、概ね転送速度は12~13MB/secあたりで上限を迎えている事がわかる。この数字は玄箱/HGにおけるMTU=1518Bytesでの結果に近いものがあり、あまりGigabit Ethernetのメリットというか、玄箱PROの性能を感じさせないものになっている。
【表1】FDBench 1.01
【表2】SiSoftware Sandra XI SP1a
【表3】2.31GBのファイルをエクスプローラでコピー
ちなみにSandra XI SP1aに含まれる「ネットワークの帯域幅」テストを行なうと、 帯域幅:41MB/sec という結果になっており、プロセッサ側がボトルネックとも判断しにくい。HDDの性能も、表1~3の「ドライブ直結」の結果を見ればわかる通りかなり高く、一番ありそうなのはMTUが小さすぎでパフォーマンスが出ない、というあたりである。 では次はMTUをもっと大きくして……という話になるわけであるが、これが簡単ではない。設定ユーティリティの類が無いから、2Gbitのフラッシュメモリの中に含まれるOSの設定を手で変更して……という作業になるわけだが、玄箱PROの場合「元に戻す」方法がない。悪いことにシリアルコンソールも無いから、たとえばMTUの周りをいじりそこなってEthernetが上がらなくなったりすると、元の状態に復旧させる方法すら無いことになる。ご丁寧にも紙のマニュアルの先頭には「出荷後のNAND FLASH内容の復旧サービスは承っておりませんので、ご注意ください」とあるので、メーカーに送り返すわけにも行かない。だからといって、失敗するたびに玄箱PROを買うわけにもいかないし、大体ばかげている。そこで次なる手は ・FlashからのブートでなくHDDブートに切り替え、この中をいじる あたりを試したほうが良い。このあたりを次回ちょっとお届けしたいと思う。 最後に余談であるが、消費電力を測定したところ 待機時:15W というきわめておとなしい数字が出てきた。この数字はHDDの消費電力を含めてのものだから、88F5182の消費電力はかなり低いと想像される。まぁヒートシンクも無しに実装されているのだから、CPU単体で1~2W程度、メインボード全体でも5W前後であろうとは思うのだが、常時ONにしていても気にならない低さである。背面の排気ファンの音もかなり静かで、排気温度もほのかに温いという程度。ハードウェアの素性はかなり良さそうであり、余計にもハックをする気にさせる、というわけだ。玄人志向があえてLinuxベアボーンと銘打つのもわかる気がした。 □玄人志向のホームページ (2007年3月27日) [Reported by 槻ノ木隆]
【PC Watchホームページ】
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