なんとなく毎年恒例となっている気もするが、2007年もPFUはScanSnapをバージョンアップした。2007年1月22日に発表され、2月10日より販売開始が予定されているPFUの「ScanSnap S510」を、発売開始に先駆けて試す事ができたので、その出来栄えをご報告したい。 ●主要な違いはソフトのみのS510 前モデルであるScanSnap S500もレビューを行なったが、今回発表されたS510と比較した場合、ほとんど違いが無い事がパッと見ただけでおわかりいただけよう。 外見上の違いは、ロゴがオレンジになっただけと言っても過言ではない(写真01、02)。実際表1に示す通り、スペックを見ても違いは見当たらない。読み取り速度なども全く変わらず、そういう意味ではハードウェアに関する限り完全に同じと見なしてよいだろう。では何が違うのか、というと ・Acrobat 8 Standardが同梱(S500はAcrobat 7 Standard) 上記のようにソフトウェアのバージョンアップが行なわれている。それとWindows Vistaへの完全対応を謳っているのも大きな特徴の1つだ(*1)。 ほかにも体験版ソフトウェアが数多く添付されるが、概ねS500と違いが無い(バージョンアップされたものもあるが、変わらないものも多い)し、これらは体験版ということで個別に入手することも可能なので、ここでは特に取り上げない。
【表1】主要スペック
このうち、添付ソフトのAcrobat 7 StandardがAcrobat 8 Standardに変更されたことは既に報じられた通りだ(写真03)。主な違いはアドビのサポートサイトにまとめられているが、ホームユーザーに関係する部分では、ほかのアプリケーションとの連携が高まったこと、背景やフッタ、透かしなどへの機能強化などが主要なポイントとなる。またNVIDIAのGeForce 6xxx/7xxxシリーズやAMDのRadeon X1xxxシリーズを使っている場合、GPUアクセラレーションが有効になり拡大縮小や移動がスムーズに行なえる点はAdobe Reader 8と同じであり、実際かなり高速化された(写真04)。 筆者の意見としては、「これで多少アップデートが楽になると助かる」というのが率直なところ。というのは、S500に付属してきたAcrobat 7 Standardをインストール後、アップデートを行なった際に、7.0.0→7.0.1→7.0.2→7.0.3まではスムーズにアップデートできたのだが、その先で7.0.3→7.0.5→7.0.7→7.0.8→7.0.9に関しては毎回「バージョンが合わない」というエラーが頻発、まともにアップデートができなかった(写真05)。何度かやり直したり(このためにOSのインストールからやり直した事もある!)、Adobe Acrobat Update Managerを使わずにAdobeのサイトからアップデートをダウンロードして実行しても状況は変わらず。根本的にどこかでバージョンミスマッチが起きているのだとは思うが、理由は不明である。こうした問題が今度のAcrobat 8では再現しないことを祈るのみだ。 【お詫びと訂正】初出時、「S500付属のAcrobat 7.0は一部CDでアップデートが正常に行なわれない不具合がある」と記載しておりましたが、不具合のあるCDはfi-5110EOX2およびEOX3付属のCD番号PA43201-0351/PA43402-D00301のみであり、S500付属のAcrobat 7.0では不具合は発生しません。お詫びして訂正させていただきます。なお、該当のCDでインストールされている場合、上書きインストールしても症状は改善されません。一度アンインストールを行なう必要があります。 (*1) ただしAcrobat 8 Standardが現時点ではまだWindows Vista対応を謳っていない関係で、Acrobat 8のみVistaのサポートは無い。ただサポートは無いとはいえ、今回試した限りでは問題なく動作した。恐らくAcrobat 8のVista正式サポートを待って、ScanSnapでもサポートが表明されると思われる。
●ScanSnap Manager 次にScanSnap Managerをもう少し見てみたい。Vistaへ完全対応とある通り、Windows Vistaへのインストールも問題なく完了した(写真06)。ScanSnap Managerは相変わらずタスクトレイにアイコンとして常駐し、右クリックでコンテキストメニューが出現するという構造だ。ただしメニュー構造自体は少し変化がある。 S500に付属していたScanSnap Manager 4.0のメニューと比較すると、項目が増えていることがわかるだろう。もっとも、実際の設定画面の方はそれほど違いがない(写真08~写真13)。では何も変わらないのか? というとそうでもない。写真07で“クイックメニューを使用”という項目にチェックが入っているのがわかる。これを外すと「アプリ選択」というメニューが出現する(写真14)。このメニューそのものは以前からあったが、今回からはクイックメニューを外さないと出てこないように変わっている。もっとも、これは表にあったメニューを裏に回したという程度で、それほど大きな違いではない。 アプリケーションの選択に関しては大幅に増えている(写真15)。Excel/Wordについては後述する「ABBYY FineReader for ScanSnap」の機能なのでこちらで触れるとして、指定したフォルダに保存/メールで送信/プリンタで印刷というあたりが新規に追加になっているのがちょっと新しい点だ。
そのほかの項目にはあまり大きな変更はなく、そういうわけで機能的にはABBYY FineReader for ScanSnapへの対応が大きな違いということになる。では、読み取り性能の方にはどの程度の違いがあるか、を次に確認してみることにした。 S500に対応したScanSnap Manager 4.0は2006年10月27日にアップデートパック3がリリースされている。これを当てたScanSnap S500とどの程度の品質差があるか、を確認してみたいと思う。題材は前回同様、ビビちゃんとワーズさんの画像を300dpiのグレースケールに変換し、レーザープリンタで出力したものである。これを、前回同様に 画質選択:ノーマル/ファイン/スーパーファイン/エクセレント という12通りの組み合わせで読み込んでみた。 まず読み取り後のファイルサイズであるが、表2にS500の、表3にS510のスキャン後のPDFファイルのサイズをそれぞれ示すが、結構ファイルサイズが異なる事がわかる。これをわかりやすく示したのが表4で、S500からS510に変えると何%ファイルサイズを節約できるかを示したものだが、ファイン/スーパーファインはともかくノーマル/エクセレントではかなりファイルサイズの削減が可能になっている。
【表2】S500
【表3】S510
【表4】ファイルサイズ節約率
では肝心の画質のほうは? というわけで、同様に画質を比較してみたのが写真16~39である。細かく見ると多少違いは見受けられるが、おおむね大きな違いは見当たらないというのが筆者の感想である。であれば、画質を落とさずにデータ量を減らすことに成功したというわけで、これはちょっと嬉しい結果と言えるだろう。全ての出力結果をまとめたものはこちらとなる(約30MB)。
●ABBYY FineReader for ScanSnap 3.0 今回追加された新しいソフトがABBYY FineReader for ScanSnap 3.0。この製品はもともと「ABBYY Fine Reader OCR」として米ABBYY Software Houseから販売されている。同社の最新の製品はVersion 8.0で、さらに2007年1月24日にVersion 8.1のEngineもアナウンスしているが、今回追加された製品もエンジンにはVersion 8.0.1を使っており(写真40)、こと認識能力では同等と考えられる。 ではオリジナルのABBYY Fine Readerとの違いは? というと、オリジナルの方はPDFや画像ファイルを直接認識してOCRをかける事ができるが、FineReader for ScanSnap 3.0ではあくまでScanSnapで読み取ったもののみが対象となる、という話である。また出力フォーマットにも制限があり、オリジナルがWord/Excel/PowerPoint/RYF/Text/HTML/DBF/CVF/PFD/eBook/XMLとかなり多くの種類のフォーマットに変換できるのに対し、FineReader for ScanSnap 3.0はWord/Excelのみが対象となっている。 無料で利用できる代わりに機能制限が入るのは致し方ないことだろうし、製品の位置付けを考えれば妥当な制限だろうと思う。ちなみにオリジナル(FineReader 8.0 Professional Edition)は399ドルという価格で販売されている。 FineReader for ScanSnap 3.0の使い方だが、先の写真14の選択の中で“Excel文章に変換”ないしは“Word文章に変換”を選択するか、いったん出力をScanSnap Organizerにしておき(写真41)、ここから改めてWord/Excel文章に変換することもできる。 設定項目は割とシンプルである。一般の設定で言語を選ぶ(写真42)わけだが、日本語はその他の言語を併用できない(写真43)そうで、英語と日本語の入り混じった文章とかだとちょっと困る気がする。WordとExcelのオプションはそれぞれ写真44、45の通り。わりとあっさりしている。 さて、まずはWordの成果を試してみたい。題材はかつての筆者の原稿である。このページをIE 6.0で開き、全ページをカラーインクジェットプリンタに印刷したものを読ませてみた。対応するWordであるが、せっかくWindows Vista上での動作確認なので、Microsoftが提供するthe 2007 Microsoft Office system評価版を入手してインストールしてみた。ちなみにABBYY FineReader for ScanSnap 3.0は“Word 2007/Excel 2007”という表現ながらthe 2007 Microsoft Office systemへの対応を既に表明しており、問題なく動作するはずである。実際、こちらも試用した範囲では全く問題なく動作した。これも、PDFに書き出したものを別途用意した。 結果だが、あまり芳しいとは言えない。とりあえず第一段落の「AOpenから登場したAX4B-533 Tubeは、同社製品であるAX4B-533(日本では未発売)をベースとし、サウンド出力部に真空管アンプを搭載したPentium 4/Celeron向けマザーボードである。」の一行を変換してみたところ、 画質:ノーマル 圧縮:1 画質:ノーマル 圧縮:3 画質:ノーマル 圧縮:5 画質:ファイン 圧縮:1 画質:ファイン 圧縮:3 画質:ファイン 圧縮:5 画質:スーパーファイン 圧縮:1 画質:スーパーファイン 圧縮:3 画質:スーパーファイン 圧縮:5 画質:エクセレント 圧縮:1 画質:エクセレント 圧縮:3 画質:エクセレント 圧縮:5 といった具合だ。とにかく無駄に改行が入ってしまう(どうもリンクを示す下線部を別に1行取ることにしたらしい)ほか、「サウンド」の「ド」の字がちゃんと認識されているのは画質:ノーマル 圧縮:1の場合のみ。また全てのケースでマザーボードの写真はちゃんと認識されるが、“Tube Sound TECHNOLOGY”のロゴ写真が認識されたのは画質:ファイン 圧縮:1の場合のみといった具合に、あまり成績が良くない。 OCRにどの程度の精度を期待するか、は人によるのだろうが、「全部手で打ち直すよりはマシ」程度に考えておくのが妥当だろうし、であればWordよりもTextに出力してくれたほうが便利な気がする。結果のWordファイル(Word 97-2003互換モードで出力している)をファイルにまとめたので興味ある方はご確認いただきたいが、あまり過度な期待は禁物である。 次にExcelへの変換である。表なら何でもいけるか? とか思い、AKIBA PC Hotline!のCPU最安値情報 2007年1月19日のページをやはりカラープリンタに出力、読み込ませてみたが、結果は散々なもの(写真46)。やはりきちんと表を作ったほうがよさそうだ。そこで、以前玄箱の評価を行なった時のベンチマーク結果を改めてExcelで整形し、1ページに収まるようにモノクロレーザープリンタで出力、これを読み込ませてみた。これも元ファイルと、PDFに出力した結果をそれぞれ用意した。 結果であるが、こちらはファイルサイズを3に固定し、画質をノーマル~エクセレントに変化させて見てみた。表の先頭部分を写真47~50に示すが、ご覧の通りこちらも手加工がかなり必要だ。ちなみに写真45の“数字(文字)を数値に変換”にしても、ほとんど差が無い。どうしてもきちんと認識させたければ、日本語を捨てて英語モードにしてやることで、少なくとも数字が全角に化ける事だけは避けられるだろう(写真51)。こちらもExcelへの出力結果をファイルにまとめたので、興味ある方はご確認いただきたい。
●まとめ 今回はマイナーバージョンアップの域を出ないものであるが、Acrobat 8やABBYY FineReader for ScanSnapの添付を目玉として打ち出したかったものと思われる。ただAcrobat 8はともかく、ABBYY FineReader for ScanSnapは、使える用途が限定されそうだ。 ほかにも「ScanSnap Organizer」や「名刺ファイリングOCR」もバージョンアップされていたが、概ね使い勝手などはS500に添付されていたものと変わりが無いので、今回レポートは省略させていただいたが、これらにしても大きく改善された部分があるわけではない。ただ、既にS500に添付されていたこれらは十分に良い機能と使い勝手を提供してくれていたから、別に今回余り変更点がないといってもそれは問題にならないだろう。少なくとも試した範囲では、使い勝手や機能を損なうような変更は一切なかった。 価格はというと、PFUダイレクトでは相変わらず49,800円。機能的には申し分ないだけに、もう少し価格が下がれば……というのは毎回書いている気がするが、今回もまたこれを繰り返すことになる。ちなみに今回は楽2ライブラリパーソナルV4.0のセットモデルが59,800円でも用意される。ただこの楽2ライブラリパーソナル、以前評価した事があるが、ここで指摘した問題は今回もそのまま当てはまる。少なくとも筆者は魅力を感じない。そんなわけでやはり49,800円のモデルをお勧めすることになる。 ちなみに既存のScanSnapのユーザーに対しては、ScanSnapアップグレードが6,090円で2月下旬から提供される。こちらを使うと既存のS500ユーザーもS510相当になる。Adobe Acrobat 8は別売になるので、必要なら別途入手する必要がある(Adobeストアからアップグレード版をダウンロードする場合、12,500円)から合計では2万円近くかかるのはちょっと痛い気はするが、Acrobat 8のアップグレード無しなら6,000円なのでそれほどきつくは無いだろう。ただ、圧縮率の向上だけで6,000円を払う価値があるか、もこれまた微妙なところ。筆者は今回のアップグレードは見送っても良いかな? と思っている。 そんなわけでアップグレードユーザーにはやや微妙であるが、逆に言えば新規ユーザーにはかなり魅力的な製品構成となっていると言える。特にAcrobat 8 Standardの製品版がダウンロードでも34,800円もすることを考えると、割安感自体はかなりある。ただ絶対的な金額の50,000円が、もう少し安くなればよいのにと思うのだが。 □PFUのホームページ (2007年2月1日) [Reported by 槻ノ木隆]
【PC Watchホームページ】
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