日本ヒューレット・パッカード(日本HP)のコンシューマ向けノートPC「Pavilion」シリーズのWindows Vista搭載モデルとして登場した「Pavilion Notebook PC tx1000/CT」(以下tx1000)。コンシューマ向けモデルでありながら、液晶面にタッチパネルを配置し、180度の回転機構も備える、本格的なタブレットPC仕様となっている点が大きな特徴だ。 ●感圧式タッチパネル採用で指でも操作可能 tx1000の最大の特徴となるのが、タッチパネルの配置および180度の回転機構を備えた液晶ディスプレイだ。電磁誘導式のデジタイザを搭載していないとはいえ、ノートPC型としてもピュアタブレット型としても利用可能なコンバーチブルスタイルを採用する本格的なタブレットPCであることは間違いない。ただ、tx1000はタブレットPCであるということがあまり強くアピールされていない。 日本では、これまでコンシューマ向けタブレットPCが成功した例はほとんどない。タブレットPC自体が認知されていなかったという点も大きな理由だが、タブレットPCの販売価格が比較的高価なことや、Windows XP Tablet PC Editionという異なるバージョンのWindows XPを搭載する必要があったために、一般的なノートPCとは異なるものというイメージを与えていたことなども、成功しなかった理由として考えられる。 それに対しWindows Vistaでは、Home Basic以外の全てのエディションでタブレット機能が搭載され、実質的にWindows Vistaの標準機能として盛り込まれている。つまり、タブレット機能はOSレベルでは特別な機能ではなくなったわけだ。 また、以前はタブレットPCの認証を受けるための基準が厳しく、タブレット機能を実現するためには高価なデジタイザを利用する必要があったため、タブレットPCが高価になる原因となっていた。しかし、1年ほど前にその基準が緩和され、安価なタッチパネルを利用した安価なタブレットPCも登場し始めた。 とはいえ現時点では、タブレットPCであるということを前面に据えてアピールしてしまうと、まだまだ身構えてしまう人のほうが多いだろう。そこでtx1000では、タブレットPCであることはほとんどアピールすることなく、基本的には一般的なノートPCとして扱っているのだろう。その上で、タッチパネルを利用した便利な使い方を紹介することで、新しい魅力を作り出そうとしているわけだ。 本来タブレットPCは、画面をペンで直接触りつつ直感的な操作が可能ということもあり、初心者にとって非常に魅力の高いものだ。しかもWindows Vistaのタブレット機能は、きちんとポイントされたことを知らせる視覚効果が追加されていたり、手書き文字入力や画面を直接ペンで操作することによるアプリケーションやファイルの操作だけでなく、画面スクロールや、進む・戻るといった操作を実現する、マウスジェスチャーに似た「ペンフリック」という機能が追加されたことで、さらに使いやすく進化している。実際に使ってみても、ペンを利用した操作は直感的でわかりやすいということを再認識した。 tx1000のタブレット機能を実現するタッチパネルは、比較的強くペンを押しつけないと反応してくれないという印象だ。液晶パネルを先端の尖ったペンで強く押しつける必要があるというのは、心理的にやや不安になるため、できればもう少し軽い力で反応してもらいたいところだ。またそのためか、指での操作もやや難しいという印象だった。今回は試作機での試用だったため、試用機固有の問題という可能性もあるが、できれば改善を期待したい。
●“ZEN-design”採用のスタイリッシュボディ tx1000は、その独特なデザインも特徴の1つ。新Pavilionシリーズ全モデルで採用されている“ZEN-design”というコンセプトのデザインが、tx1000でも採用されている。 ZEN-designとは、その名前からもわかるように“禅”をイメージしたデザインコンセプトだ。トップパネルは、光沢のある表面に、日本庭園などでよく見られる波うつ石庭の砂紋をイメージした模様が加工されており、独創的かつ高級感溢れる独特な印象を与えている。また、この模様は単に印刷されているのではない。ボディ成型時に金型に模様を印刷したフィルムを挟み、そこに樹脂を流し込んで成形と模様の転写を同時に行なっているという。そのため、キズや色はげにも強く、優れた耐久性も誇るという。 また、本体の角はほとんどが曲面になっており、一般的なノートPCよりもやさしい印象を与えている。加えて、電源ランプやHDDのアクセスランプなど、本体に用意されているインジケータが全て青色LEDとなっている点もいいアクセントになっている。 本体サイズは、308×223×33mm(幅×奥行き×高さ)。12.1型ワイド液晶を搭載していることもあるが、横幅がやや大きいという印象を受ける。また、重量も約2kg(4セルバッテリ、ウェイトセーバー搭載時)とやや重い。もちろん、A4フルサイズノートよりは小型/軽量で、ぎりぎりモバイルPCのカテゴリーに入るかもしれないが、個人的には、サイズ/重量ともにやや中途半端で、モバイルPCとして考えると今1つといった印象だった。とはいえ、家庭内やオフィス内での移動などに有利なのは間違いないため、常に持ち運んで利用するモバイルPCではなく、好きな場所に手軽に持ち運んで使えるノートPCと考えれば、サイズや重量も気にならないはずだ。 ところで、ボディの構造で一点気になったのが空冷ファンの排気口だ。ファン排気口は本体右奥角に配置されているが、通常時もかなり熱い空気が排出され、ボディもかなり熱を持つ。また、ノートPCモードで利用している場合はいいが、ピュアタブレットモードで利用する場合には右手前に位置するため、手に排気が直接当たり、結構熱く感じる。また、使用時に排気口を塞いでしまう可能性もある。ピュアタブレットモードで利用する場合には、排気口を塞がないよう注意しながら利用したほうがいいだろう。ちなみに、ファンの騒音はそれほど大きくなく、耳障りに感じることはほとんどなかった。
●12.1型WXGA液晶を搭載 液晶ディスプレイは、1,280×800ドット(WXGA)表示に対応する、ウルトラクリアビュー液晶を搭載。表面にタッチパネルが配置されているものの、光沢処理が施されていることもあり、発色は良好だ。デジカメ画像や動画データなども、十分鮮やかに表示される。マルチメディア用途にも問題なく対応できると言っていいだろう。 ただ、視野角はあまり広くないようだ。特に上下角の視野角はやや狭いようで、多少見る角度を変えるだけでも表示画像の色合いが変化してしまう。 液晶パネル部分は、180度回転できるというギミックを実現するために、中央1点ヒンジでの支持となっている。しかし、液晶パネルがぐらつくこともなく、強度の点での不安は全く感じない。また、回転もスムーズに行なえる。液晶パネルをピュアタブレットモードにすると、表示画像が自動的に90度回転し、縦型表示に切り替わる。 液晶パネル上部には130万画素のCMOSカメラとステレオマイクが、また左側面には指紋認証ユニットがそれぞれ配置されている。CMOSカメラと指紋認証ユニットはセットのオプション扱いとなっているが、初回500台限定で標準搭載となる。さらに、液晶パネル右下には、AV機能を呼び出したり、マルチメディアファイルやDVDビデオなどの再生コントロールを行なうボタンが配置されている。これらのボタンは、ノートPCモードでの利用時はもちろん、ピュアタブレットモードでの利用時にも役立つ。 ヒンジ部分左右にはスピーカーが配置されている。このスピーカーは、スピーカーメーカーであるALTEC LANSING製のもので、スピーカー部分にはしっかりロゴも印刷されている。再生される音は、確かに他の一般的なノートPCのスピーカーよりも高音質だ。 ところで、液晶パネルと本体とを固定するラッチは、通常はパームレスト側に内蔵されており、液晶パネル側のノッチ内に取り付けられている磁石によってラッチが飛び出る構造となっている。これは、アップルのPowerBookやMacBookなどで採用されているものとほぼ同じものだが、通常時ラッチが飛び出していないため、デザイン面はもちろん、利用時にもラッチが邪魔にならないという利点がある。ノッチ側の磁石はそれほど強力なものではないようだが、磁力による影響が全くないわけではないため、磁気カードなどをノッチ側に近づけないように注意した方がいいだろう。
●デュアルコアCPU「Turion 64 X2」を搭載可能 今回試用したtx1000は、CPUとしてAMDのモバイル向けデュアルコアCPU「Turion 64 X2 TL-60」(2.0GHz)、メインメモリとしてPC2-5300 DDR2-SDRAMが2GB、160GBのHDDがそれぞれ搭載されていた。これら基本スペックはカスタマイズ可能となっており、用途に応じて決定可能。ちなみに試用機のスペックは、搭載CPU、メインメモリ容量、HDDともに全て最高スペックである。 チップセットは、グラフィック機能統合型のNVIDIA GeForce Go 6150を採用している。DirectX 9.0準拠の描画機能を備えており、Windows Vistaの新UIであるWindows Aeroも利用可能。実際にAeroを動作させた状態でも、描画が重いといった印象はなかった。 ネットワーク機能は、Gigabit Ethernetに加え、IEEE 802.11a/b/g対応無線LANおよびBluetoothが標準搭載となる。無線LANおよびBluetoothは、本体手前のスライドスイッチによってOFFにすることが可能だ。 本体左側面には、SDカードやメモリースティック、xD-Picture Cardなど5種類のメモリカードに対応するメディアスロットと、ExpressCard/34対応スロット、スーパーマルチドライブが配置される。スーパーマルチドライブは着脱式で、付属のウエイトセイバーを取り付けることで本体の軽量化が可能。また、ExpressCardスロットには、付属のメディアリモコン「HPモバイルリモートコントローラ」を収納可能だ。 本体右側面にはミニD-Sub15ピンおよびSビデオ出力端子が用意されており、外部ディスプレイやテレビとの接続も容易だ。さらに、拡張コネクタ「Expansion Port 3」も用意されているが、対応するオプションは現時点では用意されていない。将来の拡張用として位置付けられているようだ。 キーボードは、キーピッチ19mmのフルサイズキーを備えている。また、上下のピッチも19mmとなっており、特にアルファベットキーの扱いは非常に優れている。ストロークは2.5mmと、ノートPCのキーボードとしては十分。タッチも適度な堅さとクリック感で、キー入力はかなり軽快に行なえる。ただし、ファンクションキーの列のキーがかなり小さく扱いにくい点は気になる。[\]キーなど一部のキーのピッチが狭くなっている点と合わせ、改善を期待したい。 ポインティングデバイスは、パームレスト一体型のタッチパッドだ。カーソル操作は軽快だが、境目がないため、やや扱いづらい印象を受ける。タッチパッド上部には、他の日本HP製ノートPCでも採用されている、タッチパッドの動作を切り離せるボタンが用意されている。マウスを接続して利用する場合などに重宝するだろう。
●優れたコストパフォーマンス性は魅力 今回も、パフォーマンスを検証するため、いくつかのベンチマークテストを行なった。利用したソフトは、Futuremarkの「PCMark05 (Build 1.2.0)」と「3DMark05(Bulid 1.3.0)」、「3DMark06(Build 1.1.0)」の3種類だ。それぞれWindows Vista対応の新リビジョンを利用している。ただし、今回試用したマシンは試作機だったため、この結果は参考値として見てもらいたい。試用機の仕様は、CPUがTurion 64 X2 TL-60(2GHz)、メインメモリは2GBで、チップセット内蔵描画機能に対しフレームバッファとして128MBを割り当てている。 結果を見ると、CPUやメモリ、HDDのスコアは悪くない数値となっているものの、グラフィックの結果はかなり低くなっている。Windows Vistaのパフォーマンス評価でも、グラフィックスの結果が1番低い。GeForce Go 6150の統合グラフィック機能がDirectX 9.0に対応しているとはいえ、さすがに厳しいようである。とはいえ、Aero時でもWindows Vistaの動作が重いと感じることはなく、3D描画のゲームをプレイすることがなければ、不満に感じることはほぼないと言っていいだろう。
【表】ベンチマーク結果
tx1000は、基本的な仕様はタブレットPCであるが、実際に利用してみると、タブレット機能以外はほかのワイド液晶搭載ノートとほぼ同じ仕様ということもあり、通常のノートPCとして全く違和感なく利用できる。しかも搭載OSは、Windows Vista Home Premiumである。日本HPは本機をタブレットPCとしてではなく一般的なノートPCとして扱っているが、その理由は実際に利用してみると非常に良く理解できる。その上でタブレット機能を活用した直感的な操作や、ピュアタブレットモードでビューアとして活用するなど、これまでのノートPCでは不可能だった使い方ももちろん可能なわけで、ノートPCとしての魅力は非常に高いと言っていいだろう。 また、価格が低く抑えられている点も魅力の1つだ。タブレットPCといえば比較的高価な製品が多かったが、tx1000では最小構成で129,900円、今回試用したスペックでも215,040円(500台限定特別価格)と、非常にお買い得だ。本体サイズはやや大きく重量も重いため、モバイルPCとしての魅力はあまりないものの、本機をタブレットPCではなくノートPCと考えて購入しても、十分満足できるはず。パーソナルで利用するタブレットPCの購入を考えていた人はもちろん、Windows Vista搭載ノートを購入しようと考えていた人にも広くおすすめしたい。 □日本HPのホームページ (2007年2月15日) [Reported by 平澤寿康]
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