12月8日 発売 価格:オープンプライス 連絡先:お客様相談センター シャープの電子辞書「PW-TC900」は、業界初のワンセグ機能を搭載したカラー電子辞書だ。 40のコンテンツを持つフルカラー電子辞書である一方、ディスプレイ部分を180度回転させ、ワンセグ放送を受信する端末としても利用できるほか、MP3再生機能などのマルチメディア系の機能を搭載しているのが特徴だ。 ●カラー液晶モデルから連なる系譜 「ユーザーにサプライズを与える製品」としてシャープが投入した本製品は、業界初、ワンセグ機能を搭載した電子辞書である。これまでTV出力機能やJPEGデータの再生機能、音声再生機能などを持つ機種は存在したが、それが一気にワンセグチューナの搭載まで突っ走ってしまうとは正直恐れ入った。 もっとも、本製品の仕様をチェックしていくと、本連載の第1回で紹介したカラー辞書「PW-N8100」の系譜に連なる箇所が多くあり、マルチメディア系の電子辞書としては極めて順当な進化であることが分かる。本製品が位置付けられる生活総合モデルのジャンルはワンセグユーザーとはターゲット層も近く、一見奇異に思えるこれらの組み合わせも、実は極めて合理的であることが分かる。 今回は従来の記事構成とはやや趣を変え、ワンセグ機能を中心に本製品をレビューしていきたい。 ●180度回転するディスプレイなど、ザウルスライクな外観 まずは外観と仕様面をざっとチェックしておこう。 筐体色は、上蓋部がブラック、それ以外はシルバーで統一されている。シャープのノートPCにも見られるツートンの配色で、従来のシルバーを基調とした電子辞書とは明らかに異なっている。外見だけ見ると電子辞書と言うより、ザウルス「SL-C3200」などに似た印象だ。
液晶ディスプレイ部は180度回転できる仕様になっており、一般的な電子辞書スタイルでの利用のほか、反転させた状態の「テレビスタイル」、液晶画面を上向きにして折りたたんだ状態の「ハンドスタイル」の3つのスタイルで利用できる。従来の電子辞書にはなかった機構であり、この設計もザウルスに近い印象だ。 このスタイルで1つ難があるとすれば、上蓋を中途半端に開けた状態でも回転できてしまうため、蓋の端がキーボード面に接触しがちなことだ。理想を言えば、上蓋を90度開けた時点で初めて回転できる仕様がよかったのではないかと思う。
筐体はピアノ調の塗装で高級感がある。厚みは21mmと、従来の電子辞書と大きな差はないが、筐体がスクエアなこともあり実寸よりも厚ぼったく感じる。ちなみに上蓋はピッタリ閉じるわけではなく、正面および左右から見るとスキ間が空いているのが特徴だ。 表面積は、同時期に発表された手書きパッド搭載モデル「PW-AT750」に比べ1回り小さい。スーツの内ポケットには入るが、そこそこ重量があるため、常時ポケットに入れて携帯するには向かない。カバンの中に入れるのがベストだろう。
画面サイズは480×272ドット、4.3型ワイド。従来のカラー液晶モデル「PW-N8100」と同じサイズだが、世代的には1世代新しいものとなり画質が向上したとしている。電子辞書としては決して広くはないが、320×240ドットのワンセグ視聴に十分である。ちなみに、ワンセグ視聴機能を備えた同社製AQUOSケータイの第2世代モデルこと「911SH」は3インチなので、単純比較で2回りほど大きいことになる。 スピーカーはヒンジ部にレイアウトされており、奇しくも前回レビューしたSIIのVGA液晶モデル「SR-G10000」と同じ位置に落ち着いた。もっとも「SR-G10000」と異なり、本製品は直径16mmのダイナミックスピーカーを2基搭載と、電子辞書としては考えられないパワフルさを誇っている。ちなみにイヤフォンジャックは汎用の3.5mm径なので、カナルタイプなど自分のお気に入りのヘッドフォンが使えるのはありがたい。 キーボードの手前部の配列は、従来の同社製品に比べるとやや余裕がある。これはスピーカーがヒンジ部に移動してキーボード下段のスペースに余裕ができたことによる。キーの配置自体は検索/決定キーが中央、上下左右キーが右下と、電子辞書のキーレイアウトとしては一般的である。右上に装備された辞書/テレビの切替ボタンがやや目立つ程度だ。ちなみにキーピッチは約13mmである。
重量は283gと、カラー電子辞書「PW-N8100」の295gに比べるとまだ軽いが、電子辞書としてはかなりズッシリ来る重さだ。もっとも、ワンセグ搭載のDVDプレーヤーなら1kg前後の機種もあるわけで、ワンセグケータイはともかくとして、ワンセグを搭載した端末として法外に重いわけではない。 電源はACアダプタによる充電方式で、電子辞書として利用した場合は約20時間、ワンセグ端末として利用した場合は約5時間の視聴が可能だ。ワンセグ機能を中心に通勤/通学時に利用するのであれば、ほぼ毎日の充電が必要になる計算だ。なお、1回のフル充電にかかる時間は約4時間とされている。
●自在なスタイルで利用できるワンセグ機能
ではワンセグ関連の機能をチェックしていこう。 前述の通り、液晶ディスプレイは水平に180度回転するため、辞書スタイルのほか、反転させた「テレビスタイル」、折りたたんだ「ハンドスタイル」の3スタイルで利用できる。ヒンジ部の裏側には、電源ボタンのほか、選局や音量設定ボタンが装備されているので、ディスプレイを折りたたんだ状態でも基本操作が可能だ。ちなみにヒンジ部裏側で選局する場合は順送りのみとなり、逆送りはできない。 ワンセグの起動は、キーボード右上にある「辞書/テレビ」ボタンを押すだけ。ハンドスタイルで利用している場合は、前述のヒンジ部裏側のボタンを押すことでも起動が可能だ。 320×180ドットもしくは320×240ドットの標準サイズでワンセグ放送を表示する一方、480×272ドットいっぱいに拡大して全画面表示する機能も備える。
画質については、映像ソースに埋め込まれた細かい字幕こそ読み取れない場合はあるが、全体的に発色もよく、エッジも締まっている印象だ。チャンネル切替にかかる時間も3秒ほどで、ストレスは感じない。画面下に最大16文字×3行の文字放送の字幕を表示する機能も装備しているので、電車内で音を出さずにワンセグ視聴を楽しむことも可能である。 視聴中にバッテリ残量が低下してくるとアラートが表示される。アラートはやや余裕を持った状態で表示されるので、ワンセグが視聴できなくなった以降も電子辞書としての機能は利用できる。ワンセグを観過ぎて肝心な時に電子辞書が使えなかった、ということはなさそうだ。全体的によく考えられた仕様であることが分かる。
一般的なワンセグ製品と比べて欠けているのは、EPG番組表の受信には対応していないことと、データ放送に対応していないことだ。特に前者は、一般的なワンセグ端末の多くが装備している機能だけに、ぜひとも実現して欲しかったところだ。また、また録画機能やタイムシフト機能は搭載しておらず、リアルタイムでの視聴のみとなる。 PinPのような機能はないため、ワンセグ機能と電子辞書機能を同じ画面に表示して同時に使うことはできない。 ●ワンセグの受信感度は極めて良好 ワンセグ対応機器の受信性能については、製品によって大きな差があることが最近になって認知されてきており、本製品でも大きなポイントとなるのは明白だ。そうした事情もあり、今回は複数のエリアで受信性能の測定を実施した。 まずは編集部のある東京都千代田区のビル内だが、パーティションで区切られた会議スペースの中でも問題なく視聴が行なえた。障害物の性質上ワンセグ放送の受信にはあまり好ましくない環境であるが、特に支障は見られなかった。液晶の画質も高く、ワンセグ表示にともなう動画ブレなどは感じられない。 さらに今回は、新宿を基点とする3路線でワンセグの感度測定を行なった。まず初めは中央線の三鷹-新宿間で、中野駅の前後でやや電波が乱れた以外は、走行中、停車中を問わずいずれのチャンネルも問題なく受信できた。 続いて山手線を一周してみる。大塚~駒込の区間でやや電波状況が弱くなった以外は、こちらも問題なく受信が行なえた。電波が弱くなった上記の区間にしても、番組を視聴していてストレスが溜まるというレベルではなく、こうしたテストだからこそ気になるという程度の画像の乱れだ。日常利用においてはまったく問題ないだろう。 最後は、京王線の新宿-調布間でのテストである。僚誌AV WatchにおけるW-ZERO3[es]用ユニットのレビューでも測定対象となった区間だが、本製品では走行中もまったく問題なく視聴が行なえた。明大前、上北沢、仙川の各駅で一時的に電波が弱くなる傾向が見られたが、これも前出の大塚~駒込間と同様、ストレスが溜まるというレベルではなく、実用度においては何ら問題がない。完全に同一条件で測定したわけではないものの、上記の結果を見る限り、本製品の受信感度はかなり高いと見てよさそうだ。 ちなみに、本体左後部に収納されるアンテナはロッド式で、ワンセグ製品としては至って一般的な2段可変の仕様。拡張アンテナはオプションも含め用意されていないので、室内など電波状況が悪い場所で見ようとした場合は、本体を持って窓際などに移動する必要がある。室内利用がメインの場合は注意したい。
●テキストや画像の再生機能に加え、MP3再生機能を装備 ワンセグ機能と並び、本製品の特徴であるデータ再生機能にも触れておこう。 本体右側面に装備されているSDカードスロットは、コンテンツの追加だけにとどまらず、市販のSDカードに書き込んだテキストデータや電子ブック(XDMFデータ)、JPEGデータを読み込み、再生することができる。これらは従来のカラーモデル「PW-N8100」にも搭載されていた機能だが、ワンセグ機能と併せ、かなり強力なマルチメディアプレーヤーとしての機能を備えていることになる。 本製品で目新しいのが、MP3ファイルの再生に対応した点だ。これは学習モデル「PW-V9550」で初搭載された機能で、MP3ファイルを書き込んだSDカードを本製品に挿入し、「カード」のメニューから「MP3を再生する」を選ぶと、カード内のMP3ファイルを再生できるというものだ。オリジナルのリスニングコンテンツを用意することもできるし、簡易な音楽プレーヤーとして使うこともできる。 上で「簡易な」と書いたのは、ビットレートが32~192Kbpsまでと、ややタイトな制限があるからだ。試しに256KbpsのMP3データを再生しようとしたが、認識はされるものの再生されないまま終了してしまった。このほか、再生の一時停止機能がなかったり、ファイル数は1フォルダあたり198個まで、ファイル名の長さも制限があるなど、MP3プレーヤーとして見た時はやや不満もある。 また、上蓋を閉じると再生が止まってしまうため、最低でもハンドスタイルで聴く必要があるのだが、ワンセグ視聴時に利用できるヒンジ部裏側の音量ボタンがMP3再生時にはなぜか利用できない上、楽曲をスキップする「次見出し」ボタンも上蓋を倒したままでは操作できないため、基本的にはフォルダ内のMP3ファイルを延々とリピート再生するだけになってしまう。 ワンセグ機能の陰に隠れてあまり目立たない機能ではあるが、もうひと工夫すればMP3プレーヤーとしても十分使えるだけに、個人的には非常に惜しいと感じた。現状でも、SDカードにアルバム単位でMP3ファイルを放り込んでおき、机の横に置いてBGM代わりに再生するといった用途には十分使えるので、個人的にはプッシュしておきたい。 ちなみに、本製品の内蔵スピーカーは人の声がよく聞こえるようプリセットされているようで、楽曲を再生するとボーカルの声だけが浮き上がったように聞こえる。もともとが語学学習用の機能であり、これは順当な仕様だろう。一方、イヤフォンで聴いた場合はまったく音質が異なり、一般的なMP3プレーヤーと遜色のない音質である。
●ビジネスマン向けのコンテンツ群。脳力トレーニング機能も装備 従来の本連載とは順序が逆になったが、電子辞書としての特徴についても簡単に触れておこう。
本製品のコンテンツ数は40。いわゆる生活総合モデルとしては少なめであるが、オールマイティなコンテンツが取り揃えられており、専門的な用途でない限り大きな不満を感じることはないだろう。収録コンテンツはカラー液晶モデル「PW-N8100」とほぼ同一で、流行の脳力トレーニング系のコンテンツもしっかりと装備されている。 また、新たにスーパー大辞林にカラー写真が収録されたことにより、画像からの検索が可能になるなど、カラー電子辞書ならではの使い方が強化されているのも特徴だ。ワンセグ機能に隠れて目立たないが、こうした細かな進化は高く評価したい。
このほか、ターゲットがビジネスマン向けということで、経済新語辞典06が追加された点が新しい。個人的には、ビジネスマン向けということであれば、シソーラス系の辞典を追加してほしいと感じた。 ●ワンセグユーザーを取り込む確信犯的な製品 本製品の切り口はあくまで「ワンセグ機能付の電子辞書」であり、メーカーのカタログやWebサイトでも一貫して電子辞書としての訴求がなされている。しかし実際に消費者からするとワンセグ機能がメインになることは確実で、販売店にしても電子辞書売場にだけ本製品を陳列するかというと、おそらくそんなことはないだろう。同社もそれは十分に理解しているはずで、確信犯的な位置付けの製品であることは間違いない。同社が言う「サプライズ」の意味合いも、それを踏まえてのものであると考えられる。 コンテンツの数に限れば最新の電子辞書より見劣りするものの、初めて電子辞書を手に取るユーザーにとっては必要十分なラインナップが揃っており、仮にワンセグ機能がなかったとしても入門機以上の出来だと評価できる。そのワンセグ機能にしても受信感度が高い上、画質の良さや視聴スタイルの豊富さなど、極めて高いレベルにある。ワンセグ機能、電子辞書機能いずれを取っても、長く安心して使える製品であると言えるだろう。 何はともあれ、まったく別の機能が加わることで、製品として一気にブレイクするのはこの業界にはよくあることだ。ワンセグ機能が購入の動機付けとして作用し、電子辞書として使えることが購入の敷居を下げる。これから当分、業界内で台風の目になることは間違いない製品である。
【表】主な仕様
□シャープのホームページ (2006年12月11日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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