6月15日 発売 価格:オープンプライス 連絡先:お客様相談センター いま、電子辞書が熱い。搭載コンテンツ数を巡る熾烈な争いが続く中、数年前に搭載された音声出力機能はほぼ標準装備となり、さらにカラー液晶やSDカードスロットなど、PDA並みの仕様を持った機種も出現してきている。また、電子書籍への対応や、USBポート装備でPCと直結してコンテンツを読み込める製品も登場するなど、高機能化に拍車がかかる一方だ。これら電子辞書の市場が拡大していることは、大手PCアクセサリーメーカーが電子辞書ケースを続々とラインナップし始めていることからも分かる。 そもそも、電子辞書ほど、ユーザーによって使い方が異なる製品も珍しい。学生だと授業での利用やセンター試験対策、海外旅行をするユーザーにとっては音声出力機能や翻訳機能がガイド代わりに役立つ。類語辞典は編集者やライターに欠かせないコンテンツだし、法律や情報処理、宅建など資格試験にも重宝する。最近では、職場のパソコンへの辞書ソフトのインストールを禁止され、やむなく業務用に電子辞書を自腹で購入するケースもあると聞く。 スタンドアロンな製品であるにもかかわらず、使い方のバリエーションだけ見ると、パソコンやPDAに決して引けをとらないのが現在の電子辞書が置かれた状況だ。しかしその機能の豊富さ、またインターフェイスがメーカー独自であることから、一般のユーザーには違いが分かりにくく、選びにくい製品であることも事実である。 そんなわけで、市販されている各メーカーの電子辞書を実際に使い比べ、スペック表などからは分からない使い勝手を確かめてみようというのが、本連載の主旨である。 ●「収録コンテンツの絶対数」で選ばれやすい傾向 製品レビューに入る前に、現在の電子辞書のトレンドについて簡単に触れておこう。
電子辞書を選ぶポイントとして真っ先に挙げられるのが「どれだけ多くのコンテンツが収録されているか」である。カタログや店頭POPで、多数の辞書を並べた写真とともに「これだけ多くの辞書が1台に内蔵されています」というキャッチコピーを見たことのある方も多いだろう。小さな筐体の中にどれだけたくさんのコンテンツが収録されているか、まず注目されるのはここである。そもそも電子辞書の最大のメリットは可搬性であり、収録コンテンツ数が注目されるのは当然だと言えよう。 しかし現実的には、受験目的で電子辞書を購入する中高生が「日本酒ハンドブック」や「社会人のマナー」を使うことはないだろうし、海外旅行が趣味の老夫婦が「センター試験リスニング・トレーニング」を利用することは考えにくい。いくら3ケタのコンテンツが含まれていても、ターゲット層に合致していなければ意味がないわけだ。電子辞書はそうそう買い替えの機会がある製品ではないので、つい数が多いほうがよいと考えがちだが、明らかに自分に不要なコンテンツは除外して考える必要がある。 とはいえ、コンテンツの絶対数で電子辞書の価値を判断してしまう傾向はユーザー/販売店共に根強い。販売店に行っても、店員の説明がコンテンツ数に終始してしまい、機能の相違点には触れられなかったという笑えない話もある。実際には、単体の辞書としてカウントするにはやや疑問符が付くコンテンツや、辞書として市販されていないメーカーオリジナルのコンテンツも多い。一時期のルーターのスループット値ではないが、電子辞書のコンテンツ数というのは、メーカーのセールストーク色が強いことは理解しておくべきだ。 また、収録コンテンツが増えると、そのぶんライセンス料が必要となり、製品価格に上乗せせざるを得なくなる。そのため、専門性の高いコンテンツ、例えば宅建の問題集や六法、レアな外国語辞書は内蔵コンテンツに含めず、あとから追加できるようにしてある場合が多い。今回紹介するシャープ製品はSDカードでコンテンツの追加が行なえるし、カシオ製品の一部ではパソコン経由で本体のメモリ領域にコンテンツをコピーできる。収録コンテンツの内容と価格が見合うかどうか、また足りないコンテンツを容易に追加可能であるかが、電子辞書選びのポイントといえそうだ。 最後にもう1つ、カタログスペックからなかなか読み取れないのが、収録コンテンツを横断検索するための仕組みだ。収録コンテンツの数が増えれば増えるほど、どの辞書で検索すればよいかという悩みはつきまとう。また、ある単語を調べた結果、ほかの辞典での検索結果も見たくなったり、英語での表記を調べたくなった場合、どれだけシンプルな操作で他コンテンツにジャンプできるかが重要になってくる。これらの検索性は実際に使い比べてみなければ分からない場合が多く、口コミか、実際に店頭で試用して確かめるしかないのが実情だ。 ●ズッシリ重い295g。旅行時にはさらにACアダプタも必要 前置きが長くなったが、第1回目の今回は、6月に発売されたばかりのシャープのカラー電子辞書「PW-N8100」を取り上げたい。まず外観から見ていこう。 筐体はスタイリッシュで、上蓋にはヘアライン加工も施され高級感が漂う。ベゼル部が黒く、光沢式の画面とも相まって、モバイルタイプのノートパソコンをそのまま縮小した印象だ。本体の高さは後ろに行くほどせり上がっており、書類などを重ねて置いた場合はやや不安定。完全にフラットな他社製品と比べるとややズングリしている感がある。 全体的に突起がなくツルッとしているため、片手で持った際のホールド感はあまりよくない。旅行先で急いで取り出そうとして滑って落としてしまうことは十分に考えられる。左後部にストラップホールが付属しているので、持ち歩く機会が多ければこちらも活用するとよい。
重量は295g。ニンテンドーDS(約275g)とほぼ同じ、第5世代iPod 30GB(136g)でいうと2台強の重さということになる。筐体がコンパクトなぶん、見た目よりも重量感があり、かなりズッシリくる。また、長期の旅行などではACアダプタの約60gを加算して考える必要があるので、事実上「約355g」を持ち歩く必要があると考えたほうがいい。 画面は480×272ドット表示の4.3型ワイドカラー液晶。同じシャープ製の「AQUOS」や、AQUOSケータイことVodafoneの905SHにも搭載されるASV液晶を採用している。視野角が170度と広いため、机の横に置き、手元の資料やパソコンの画面と見比べながら使うには便利だろう。 画面の文字サイズは5段階で変更ができ、最大で48×21文字が表示可能。下位グレードの製品や競合他社の製品と比べると多いレベルだが、行間がかなり詰まっているため少々読みづらい。カシオ製品のように、行間に罫線があれば読みやすくなるのにと思う。
キー配列はQWERTY方式。ピッチは12.5mmとごく標準的だが、キーが丸型ということもあり、やや押しにくい。手のサイズがやや大きい筆者の場合、タッチタイプをしようとしても指が乗り切らない。他社の電子辞書、例えばカシオ「XD-GT6800」の場合は、キーピッチそのものは本製品と2mmも違わないが、角型キーを採用していることもあり、タッチタイプは可能である。製品本体を両手で持ち、親指で入力するスタイルであれば問題はないが、若干気になる点だ。
キーボードはパンタグラフ式ではないため、中央部を押した時と端を押した時の感触がやや異なる。入力はローマ字方式のほか、「あ」を4回押して「あ→い→う→え」と呼び出す方式も備えている。携帯電話の文字入力に慣れている場合に便利だろう。 やや気になるのが、バッテリの持続時間が20時間と非常に短命であること。カラー液晶のせいもあろうか、モノクロ液晶モデルが200時間近く持つのに比べるとその差は歴然だ。入手が容易な単4電池ではなくリチウムイオン電池を採用しているのは、乾電池方式だと交換の頻度が目立つため、充電式にせざるを得なかったからではないかと思われる。
200時間の連続使用が可能なら、日常は電源の存在をほとんど意識せずに済むが、20時間となるとそうはいかない。携帯電話ほどではないにせよ、画面右上のバッテリアイコンは常に意識してしまう。本製品で初めて電子辞書に触れる人ならともかく、ほかの製品を使ってきた人にとっては少々つらい仕様だ。 オフィスや家庭で据え置き利用するなら同梱のACアダプタを使えばよいし、カバンの中に入れて講義のたびに電源を入れるスタイルであれば1週間は持つだろうが、長期の海外旅行ではACアダプタは必須である。旅行用のコンテンツが充実していることを考えると、ちぐはぐさは否めない。 ちなみに、電池残量はインジケータで容易に確認できる。バッテリ残量がゼロの状態からフル充電までに要する時間はメーカー公称値で4時間とされている。実際に試してみたところ約5時間かかったが、環境に左右されることを考えると、ほぼ公称値通りだと見てよいだろう。
●TV出力機能を装備。収録コンテンツを大画面TVで鑑賞可能 電源ONでの起動は一瞬。Windows CE機並みに速い。キーの反応速度、本体の処理速度もそこそこ早く、通常利用においてストレスは感じない。文字数の多い単語を複数検索した場合や、カラー画像のスクロール時はややもたつく感があるが、使用頻度が低ければ特に問題ではないだろう。 ただ、これは本製品に限ったことではないが、電子辞書の処理速度は全般的にPCには及ばない。そもそもハードウェアの性能が段違いなので、このあたりは割り切りが必要だ。むしろ、後述する検索のインターフェイスが、体感スピードに大きく関係してくるように思う。 電源を入れるには、入/切ボタンを押す以外に、上段に並んでいる特定のキーを押すことで目的のコンテンツを直接起動させることもできる。ただ、慣れるまではどのキーが電源オンに連動しているのか、非常にわかりづらい。最初のうちは、とりあえず押してみて立ち上がればよし、という使い方になる。 音量の大小はダイヤル式ではなく「音量大」「音量小」のキーを用いるため、とっさの場合に押しにくい。このほか「一括検索」「切替」「文字サイズ」「メニュー」など、使用頻度に明らかに差のあると思われるキーが同じサイズで並んでおり、やや不親切な印象を受けた。デザインが最初に決まっていて、そこに機能を割り当てたという印象である。 特に、SDカードを使わない場合は触れる機会すらない「カード」キーよりも「メニュー」キーのほうが小さいのは、やや理解に苦しむところだ。後述する検索関連のキーについても、利用頻度の高い「Sジャンプ」キーが左下にやや控えめに配置されておりせっかくの検索性を分かりにくくしてしまっている。
また、電卓機能をダイレクトに呼び出すキーがなく、いちいちメニューから選択する必要があるなど、収録コンテンツ数がそれほど多くない割には、メーカーが機能のプライオリティをいまいち決めかねている印象を受けた。計算機能がメインではないとはいえ、他社製品ではボタン一発で電卓機能を呼び出せる場合も多く、一考を促したいところだ。 ハード面で面白いのはTV出力機能だ。PCで言うところの外部ディスプレイに相当する機能で、本体左側面の音声/映像出力端子を通じ、コンテンツをTVなどに出力することができる。例えば「日本の世界遺産」や「ブリタニカ国際大百科」に収録されているカラー写真を大画面TVで見ることができるほか、後述の通りSDカード経由でデジカメ画像を出力することもできる。
ここ数年の電子辞書の普及に大きな役割を果たしている音声出力機能については、英語のほか、韓国語、中国語にも対応している。辞書購入の目的に直結してくる部分だけに、韓流ブームなどのトレンドに合わせ、押さえるべきところはしっかり押さえている印象だ。音声出力用のスピーカーは左手前に装備されているほか、付属のイヤホンも利用できる。 ●ハイパーリンクを用い、収録コンテンツを横断しての検索が容易 本製品の大きなメリットとして、検索性の高さが挙げられる。辞書本文のハイパーリンクから別の単語へジャンプが可能なほか、カーソルキーを利用して範囲指定をすることにより、収録コンテンツを横断検索する「Sジャンプ機能」がその代表例である。他社製品の中には、先にジャンプする辞書を選んでから検索を行なわなければいけない製品もあるため、本製品の検索性の高さは際立っている。1つの単語からジャンプを繰り返しながら関連語を読み物的に追っていくなど、電子辞書ならではの楽しみ方も可能だ。 また「一括検索」ボタンも便利だ。分からない単語があって、どの辞書で調べたらよいか判断が付かない場合、とりあえずこのキーを押して単語を入力するとよい。複数の辞書での検索結果が一覧で表示され、選択するだけで画面の下半分にプレビューが表示されるので、進んだり戻ったりする必要がない。 これら一括検索などでは、結果がタブで表示される。「絞り込み検索」と「完全一致検索」のタブが表示されるので、調べたい単語を入力していって、何文字か入力した時点で目的の単語が表示されればそれでよし、最後まで入力しても目的の単語がたくさんの熟語の中に埋もれてしまっている場合は「切替」ボタンを押して「完全一致検索」タブに切り替えるとよい。なかなか気が利いたインターフェイスだ。
検索はワイルドカードやブランクワードも指定できる。ワイルドカードでは「? 」、ブランクワードは「~」を用いる。11の辞書に対して検索が可能で、カナ、アルファベットいずれにも対応している。「一括検索」では、あいまいな語を検索するためのメニューが別途用意されており、抜かりはない。検索画面をそのままにして別の単語を検索する「W検索」機能も備えており、全般的に検索機能は豊富かつ使いやすい印象だ。 余談だが、本製品のハイパーリンクは、HTMLで言うところの<A>タグで該当の単語を囲む形式ではなく、該当の単語の手前に矢印アイコンを付与することでハイパーリンクの存在を表しており、PCユーザーからするとやや分かりにくい表現になっている。言うなれば、HTMLが存在しない世界で独自に作られたハイパーリンクシステムといった感じで、日頃いかにW3C準拠のHTML標準文法に慣れ親しんでいるかを実感する瞬間だ。 ●コンテンツ数は中の上。SDカードでデータの読み込み/追加が可能 収録コンテンツの数は、現在市販されている電子辞書の中では「中の上」程度。決して少なくはないものの、専門性の高い辞書は含まれておらず、コンテンツをやや絞り込んである印象だ。また、広辞苑ではなくスーパー大辞林を搭載したり、旧モデルPW-N8000に搭載されていた「類語新辞典」などが省かれているなど、コンテンツを厳選したというよりも、むしろコストダウンの要素も感じられる。 本製品にはSDカードスロットが搭載されており、あとからコンテンツカードを追加することにより、任意の電子辞書を利用できる。もっとも、SDカードは1スロットしかないため、コンテンツカードのうち常時利用できるのは1種類のみとなる。カシオ製品のように、本体のメモリ領域にコンテンツそのものを保存しておくことはできないので、複数の辞書を追加したい場合はその都度SDカードを差し替えなくてはならない。いくつものコンテンツを追加したいユーザーにとっては面倒な仕様だ。購入時に収録コンテンツと見比べながら、じっくりと検討する必要があるだろう。
ちなみにこのSDカードスロットは、市販のSDカードの読み込みにも対応している。デジカメで撮った写真を収めたSDカードをそのまま挿入して、ビューアとして閲覧することができる。また、TV出力機能を併用すれば、デジカメ写真を大画面TVにアウトプットして大人数で鑑賞することも可能になる。スライドショーも可能だ。 ただ、何枚かのJPEGファイルを試してみたところ、画素数の大きなJPEG画像では、エラーメッセージが出て表示されないこともあった。携帯電話で撮影した画像の観賞用としては充分に使える。 画像の読み込みと同様に、SDカード経由でテキストデータを読み込むことも可能である。シャープのホームページから電子書籍を購入して閲覧できるほか、青空文庫など任意のテキストファイルをSDカードに保存しておき、直接読み出すことができる。ホームページやブログの内容を保存して通勤中に読んだり、住所録データを保存しておいて参照するといった用途が考えられる。ただ、長文を読む場合、自動的にしおりをはさんでくれる点は評価したいが、全体の文章量と現在のページ位置が表示されないのはややつらい。
これ以外のコンテンツでは、いま流行りの脳力トレーニングのプログラムも付属している。同じシャープ製の脳力トレーニング電卓と同じ「脳を鍛える大人の計算ドリル」など8種が収録されており、ちょっとした暇つぶしなどに楽しめる。
このほか、カラー液晶を生かした「地図検索」も用意されているが、選択した地域の中にある名湯名山などを表示できるだけで、いわゆる住宅地図が表示されるわけではないので注意が必要だ。地図検索機能を名乗るからには、今後の拡充を期待したい。
●まとめ
他社製品に比べると、カラー液晶、TV出力機能を始めとしたマルチメディア系の機能の豊富さと、流行りの能力トレーニング系コンテンツへの対応が目立つが、収録コンテンツを横断しての検索性の高さなど、電子辞書本来の機能についても完成度は高い。また、最大の特徴であるカラー液晶は、百科事典などの収録写真に十分な説得力を持たせており、辞書の新たな楽しみ方を引き出すことに成功している。 PDAやフルブラウザケータイの場合、何か目的があって起動する以外に、Web閲覧を目的にとりあえず起動し、ヒマつぶしのコンテンツを探すといった使い方をすることがある。本製品についても、Wジャンプ機能を利用して興味のある単語から先へ先へと読み進めることができ、読み物的に使えるメリットがある。このほかにも、脳力トレーニングツールで気分転換したり、電子書籍や任意のテキストデータを閲覧することもできるなど、楽しみ方は幅広い。 マイナスとなるのが、同価格帯の製品と比べると収録コンテンツがやや少なく、拡張性も限定されていること。SDカードスロット経由で追加できるコンテンツは事実上1種類だけなので、購入の際には十分な検討が必要だ。 もう1つのネックは、やはりバッテリ持続時間の短さだろう。カラー液晶の美しさとバーターになっている印象だが、まめな充電が苦手という方は要注意だ。長期の旅行などではACアダプタを持ち運ばなくてはいけない点も考慮に入れる必要がある。 もっとも、これらの点のみ気にならなければ、これだけ充実した電子辞書もあまりない。いったん慣れてしまうとモノクロの電子辞書には戻れない魅力を備えており、ビジネスからホビーユースまで、幅広いユーザーにオススメできる製品だ。
□シャープのホームページ (2006年7月13日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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