●デルがAMD CPUを採用 まだAMDがIntelのセカンドソースを行なっていた太古の昔、あるいはサーバーに搭載されている管理用プロセッサといった例外を除いて、これまでデルはもっぱらIntel製のプロセッサを採用してきた。AMD製のプロセッサを採用するというウワサは何度も話題になったものの、それが現実になることはなかった。
そのデルが、ついにAMD製のプロセッサを採用すると正式に表明したのは、2007年第1四半期業績を発表した2006年5月19日のことである。このプレスリリースにおいて、年内にマルチプロセッサ・サーバー製品におけるOpteronの採用を明言した。これが製品(Opteron 8000シリーズを搭載した「PowerEdge 6950」)として発表されたのは、つい先日、10月31日のことだ(同時にOpteron 2000シリーズを採用した「PowerEdge SC1435」も発表されている)。 もちろんデルによるAMDプロセッサ採用はサーバーにとどまらなかった。話題としてはサーバーに先行されたものの、AMD製プロセッサを採用した製品として最初に正式発表にこぎつけたのはDimensionブランドのデスクトップPCだった。9月13日に発表されたAMD製プロセッサ搭載のDimensionは、ミニタワータイプの「E521」と省スペースタイプの「C521」の2機種。後者は薄型の筐体を採用した関係で、拡張スロットがLow Profile専用となる。ここでは、若干納期が早かったDimension E521を紹介することにしよう。 DimensionシリーズにおけるE521/C521シリーズの位置付けは「エントリー」。いずれもBTXフォームファクタをベースとており、15型液晶ディスプレイ込みで5万円台の低価格設定が行なわれている。わが国ではあまり人気のない(採用する必然性のあまり感じられない)BTXだが、米国では大手PCベンダを中心に、少しずつ採用が増えている。とはいえ、わざわざAMD製プロセッサのシステムでBTXを採用しなくても、という気もするが、Intelベースのシステムと筐体やパーツを共用化するなど、それなりに意味があるのだろう。 BTXでは、CPUの冷却ファンが筐体前面の冷却ファンを兼ねており、筐体前面に比較的大型のファンが取り付けられる。E521では、このファン取り付け位置が、筐体の前面パネルより若干奥まったところになっており、ファンの風切り音がユーザーの耳につきにくい。初期のBTXマシンでは、ファンがうるさいものもあったが、E521では(特に静かではないかもしれないが)耳障りということはない。 筐体でもう1つ気づいたのは、底部にゴム足がなく、金属製の足になっていること。特に筐体後部の足はかなり低い。設置場所によってはガタつきが気になるかもしれない。いくらエントリークラスといっても、ゴム足くらいはあった方が良いと思うのだが。 内部構成も、基本的にはエントリークラスを意識して、価格を重視したもの。チップセットもNVIDIAのGeForce 6150 LE + nForce 430 MCPという、ローエンド向けのチップセットが使われている。チップセットの機能としても、最初からビデオカード2枚挿しのSLIといったハイエンド機能はサポートしていないが、BTXというフォームファクタも、標準的な筐体内部のエアフローなどの関係上、消費電力が100Wを超えるようなハイエンドビデオカードの利用を想定していない(ただし排除もしていない)。したがって、本機のBTOメニューに用意されるグラフィックスオプションも、チップセット(GeForce 6150 LE)、ATI Radeon X1300 Pro、NVIDIA GeForce 7300 LE 256MB TCと、比較的安価なものに限定される。ちなみに今回試用したシステムは、ATI Radeon X1300 Proのカードを搭載した構成だが、ファンレスのカードが用いられていた(コネクタはDVI-I + D-Sub15ピン)。
同様に、ネットワーク(LAN)インターフェイスもオンボードのEthernetどまりと控えめ。こちらはチップセットとしてはGigabit Ethernetをサポートしているだけに残念なところだ。サウンド機能に用いられているのは、High Definition Audio(HDA)に準拠したSigmaTel製のCODECチップ。現状のWindows XPでは、HDAだろうがAC'97だろうが大差はないが、Windows VistaになるとHDAの方がベターなことも出てくるだろう。ただ、本機がHDAベースになっているのは、Vistaうんぬんというより、ほかのモデルとドライバサポートを統一する、といったより現実的な問題のせいかもしれない。 こうしたプラットフォームに搭載されるプロセッサは、Sempron 3400+(1.8GHz)、Athlon 64 3500+(2.20GHz)、Athlon 64 X2 3800+(2GHz)/4600+(2.4GHz)/5000+(2.60GHz)の計5種(E521の場合)。いずれもSocket AM2対応の、Rev.Fコア採用のプロセッサだ。エントリーといいながら、ちゃんとデュアルコアのX2シリーズもラインナップされている。 価格ベースをSempron 3400+として、これをAthlon 64 X2 5000+にすると35,000円のアップ。AKIBA PC Hotline!のCPU最安値情報によると、Sempron 3400+の最安値は8,280円、Athlon 64 X2 5000+の最安値が35,637円(バルク)となっている。メーカー保証うんぬんを考えると、デルの価格が割高だとは言えないが、もう一頑張りして欲しいような気もする(デルの場合、常時さまざまなキャンペーンを展開しているので、Webページに公示されている価格だけで判断してもいけないと思うが)。 ●メモリ交換はあまり効果なし
ご存じのように、AMDのプロセッサは、プロセッサ側にメモリコントローラを内蔵する。その仕様はSempronはDDR2-667どまり、Athlon 64 X2だとDDR2-800まで(いずれもデュアルチャネル)、ということだが、本機が採用するのはDDR2-533メモリ。試用したマシンには、512MBのDIMMが2本インストールされていた。BTOメニューでも、容量のオプションは提供されている(最小512MB~最大4GB)ものの、クロックのオプションは提供されていない。 となると、メモリをアップグレードすることで、本当はもっと性能が出るのではないか、と気になるのが人情というもの。そこで、筆者の手持ちのメモリを使って、簡単なテストを行なってみた。総じて言えることは、メモリを高速化することに全く効果が期待できないわけではないが、その差はそれほど大きくない、ということだ(正直いって、ベンチマーク実行ごとのバラツキの方が大きい)。これは、今回のテストに限らず、プラットフォームを統一し、メモリクロックのみを変えてテストした場合に多く見られる傾向であり、ここでも例外ではなかった。
【表】メモリを交換してのベンチマーク結果(PCMark 05 v1.01)
現在、秋葉原などの店頭で売られているメモリの価格は、DDR2-533とDDR2-667がほぼ等しく、DDR2-800にはプレミアムが乗せられている印象である。が、デルのような大手PCベンダ(大口需要家)はメモリメーカーと長期契約しており、市場価格(スポット価格)と同じ傾向とは限らない。DDR2-533とDDR2-667の間に価格差があることも考えられる。エントリークラスのPCで、ほんのちょっとの性能差のために、わざわざ高いメモリを使うより、安いDDR2-533を採用した方が合理的には違いない。そう言える程度の性能差であった(少なくとも、今回試用したマシンのように、外部ビデオカードを前提にした場合)。
内部を構成するパーツのうち、残るのはストレージデバイスだ。本機の特徴はストレージデバイスにパラレルATAを用いておらず、HDD(Western Digital WD3200KS)、DVD±RWドライブ(TSST Corp. TS-H553A)とも、シリアルATA接続のものを用いていることだ。マザーボード上にも、パラレルATAインターフェイスは用意されておらず、空きパターンとなっている。ATAデバイス(HD DVDやBlu-Rayなど、現時点でシリアルATA対応の製品が入手できないものを含め)を利用したいというユーザーは注意が必要だ。 また、背面のI/Oパネルを見ても、シリアルやパラレルといった、レガシーインターフェイスのコネクタはない。唯一残されているのがFDDインターフェイスで、マザーボード上にコネクタが実装されている(もちろんFDDは標準搭載されていないが)。おそらく官公庁など、FDDが購入要件として残る一部ユーザーのために残してあるのだろう。 ●シンプルさが持ち味 さて、デルのような外資系ベンダのPC(洋パソ?)の特徴の1つは、余計なアプリケーションソフトがプリインストールされていない点にある。本機も例外ではなく、プリインストールされていたのは、CD/DVDライティングソフト(Roxio Creater LE)、DVD Video作成ソフト(MyDVD LE)、セキュリティソフト(McCafeeセキュリティセンター試用版)、バックアップソフト(Norton Ghost 10)、それからGoogle Toolber & Desktopと、国内ベンダの店頭モデルに比べればかなりシンプルだ。 【お詫びと訂正】初出時にMy DVDの種別を誤って記載しておりました。お詫びして訂正させていただきます。筆者のように、これらでさえ不要と思うユーザーは少数派かもしれないが、試用版アプリケーションのアイコンがデスクトップにゾロゾロ並ぶのを好ましくないと感じるユーザーも多いのではないかと思う。そういう意味では、内蔵したハードウェアをサポートするだけの最小限のアプリケーションがプリインストールされた本機の状態は、まずまずなのではないかと思う。 というわけで、デル初のAMD製プロセッサ搭載PCだが、レガシー排除が平均より進んでいることを除けば、ごく普通のデスクトップPCという感じだ。今回は、ビデオカードを交換したりはしていないが、メモリを差し替えてテストした経験からして、安定性に不安は感じない。その点は安心して良いのではないかと思う。 ただ、言い換えれば、尖ったところのあまりないマシンであるのも事実で、このマシンならではという特徴はあまりない。プロセッサがAMDだ、Intelだ、というのではなく、やっぱりデルのPCって無難だよね、という文脈で語られてしまうPCなのかもしれない。だが、ボリュームの出るエントリークラスPCのプロセッサがIntelからAMDに切り替わったということが、購入者にとってたいした意味を持たなくても、AMDにとっては大きな意味を持つに違いない。 □デルのホームページ (2006年11月6日) [Reported by 元麻布春男]
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