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ソニー、バッテリ発火の原因を公開
~絶縁層に金属粉が混入し短絡

執行役 副社長、セミコンダクタ&コンポーネントグループ担当 中川裕氏

10月24日 実施



 ソニーは24日、バッテリ自主回収プログラムの開始を受け、都内で記者会見を開催した。会見では、同社執行役 副社長、セミコンダクタ&コンポーネントグループ担当の中川裕氏が出席し、自主回収プログラムおよび発熱/発火原因の概要を説明した。

 冒頭で中川氏は、今回の一連の同社製バッテリによる発熱/発火事件、および自主回収プログラムについて、「PCメーカー各社、およびユーザーに多大な不便をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます」と謝罪した。

 現時点で実施している東芝、富士通、シャープ、日立、Gateway、ソニー6社のバッテリ回収については、「デルやアップルとは異なり、安全上の問題はないと認識しているが、ユーザーの当社製バッテリに対する不安感が高まっているため、自主交換によりユーザーに安心感を提供するとともに、不信感を払拭したい」と説明した。

 さらに、「検証の結果、Hewlett Packardのようにバッテリ交換は不要としているメーカーもあるように、バッテリパックの構造やシステムの構成にもよる。当社の検証によれば、セル単体で発熱/発火に至るものは350万個中1個だけ」と付け加えた。

バッテリ交換プログラムの趣旨 バッテリ交換プログラムの概要

 9月16日に米国ロサンゼルス空港で発火したレノボ製PCのバッテリについては、「現在も調査を進めているが、6セル中4セルが紛失しており、原因の特定に難航している。また、この事故を受け自主回収プログラムを実施したことに対しては迅速な対応だったと自負している」とした。

 24日より全世界で実行された自主回収プログラムについて、中川氏は、「自主回収プログラムの推進については米国消費者製品安全委員会(CPSC)と各PCメーカーとの協議で決定したもので、ユーザーに理解を求めてもらうことが重要だと判断した」とした。

 デルとアップルを含めて今回の自主回収プログラムの対象は約960万個で、費用は約510億円。なお、代替のセル数は多く、ソニー1社ではまかなえないため、一部のPCメーカーでは他社のセルを利用しているという。

●製造過程で金属粉が混入した原因

 今回自主回収プログラムの対象となるのは、同社が製造した容量が2.4Ahまたは2.6Ahの円筒形リチウムイオン電池セルで、2003年8月から2006年2月までに製造され、PCのバッテリパックとして使われたもの。携帯電話などのモバイル機器に採用されるリチウムポリマー電池は製造工程が異なるため自主回収プログラムの対象にならない。

 バッテリが加熱し、発火する要因としては、過度な衝撃および外部からの過熱などの原因も考えられるが、これまでデルやアップルなどの一連の過熱/発火の原因は、セルの製造過程において金属粉が正極と負極の間の絶縁層に混入し、短絡(ショート)したことによるとしている。

 なお、電池パックの配列方法および各種保護機能はPCメーカー各社間で異なり、構成によっては短絡から保護する機能がある場合もある。ソニーはPCメーカー各社から指定した規格のバッテリパックの製造、および指定製品を使用したバッテリパックの製造、セルの単体販売の3種類の電池販売形態を持っているが、今回交換対象となるバッテリがいずれに相当するのかは公開されなかった。

今回の交換対象は円筒形リチウムイオン電池セルのみで、ポリマー型は含まれない バッテリパックの構成によっては、セルフバランス監視機能で短絡を未然に防ぐ機構もある ソニー製バッテリによる事故と対策の経緯

 金属粉が混入した原因については、組立工程の「缶加工」と呼ばれる段階の問題としている。缶加工では、治具で缶全体を回転しながら加工ディスクを回転させて素子を固定する溝を形成するが、治具と缶の摩擦により、微細な金属粉の一部がセル内部に飛び散ったとしている。

 また、金属粉が正極混入したとしても、電池機能が失われるだけで済むが、今回は電極のロール終端部に金属粉が混入したため、正極と負極が短絡し、過熱および発火に繋がった。これは電解液注入の段階で、金属粉が流動して絶縁部に到達したためとみている。

 なお、正極側から絶縁層を透過して負極側で再結晶し、正極と負極を短絡させることができるのはニッケルのみとしており、同様の理由で混入するアルミニウム、銅および鉄による短絡の可能性は低いという。

 同社は再発を防ぐため、2006年2月以降よりさまざまな施策をした。製造工程においては治具の改善により金属粉の発生を抑制したほか、吸引装置の追加により金属粉の吸入の強化を図った。また、セル構造上の改善としては、絶縁層を変形させることにより金属粉の混入を防ぐ「シーリング」の実施、および絶縁材料の高強度化などを図ったとしている。また、出荷検査をより厳しい体制にし、品質を高めたとしている。

発熱事故は外部要因以外に、内部短絡によるものがあり、今回の一連の事故は内部要因によるものと分析 正極側内周布に金属粉が混入しても電池機能を失うだけだが、絶縁層付近に混入すると浸透して負極側で再結晶する場合がある
組立工程の中で、缶加工工程で金属粉が飛び散り、内部に混入した 同社が施した製造過程および構造上の改善策

 記者会見では45分間もの時間が質疑応答に割り当てられ、多くの質問が挙げられた。

 2005年にデルが実施した自主回収プログラムについて、なぜ当時は対象を3万5千台に絞ったかという質問に対して、中川氏は「当時はできる限りの体制で問題を調査して、設備に不具合があったことが発覚し、対象範囲を決めたが、解析が不十分だったことは否めない」と説明した。

 また、デルはソニー製バッテリのセルに根本的な問題があるという見解に対しては、「他社では同様の事例があがっていないため、当社としてはあくまでもシステム全体の影響を受けると見ている」と答えた。

コーポレート・エグゼグティブ SVP、広報・渉外・CSR担当 原直史氏

 自主回収プログラムの発表に伴う経営陣の処分について、同社コーポレート・エグゼグティブ SVP、広報・渉外・CSR担当の原直史氏は、「現時点では円滑に自主回収プログラムを実施するため、減給、退職などの処分は一切考慮していない」と答えた。

 一方、バッテリパックの供給による年末商戦製品の供給量不足の懸念について、中川氏は、「自主回収プログラムでの不足分は他社が供給するため、新製品の供給量とのバランスをとりながら不足がないように提供していく」と答えた。

 また、今後のバッテリビジネスについて、中川氏は、「バッテリはソニーの重要な事業と認識しており、今回の事件によるビジネス縮小などは一切行なわない。リチウムイオンバッテリは現時点ではもっとも実用的、合理的であり、性能面、経済面にも優れている。今後は性能向上および安全性向上を目指し、さらに拡大していきたい」と目標を掲げた。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200610/06-100/
□米国消費者製品安全委員会(英語)
http://www.cpsc.gov/
□ニュースリリース(英語)
http://www.cpsc.gov/cpscpub/prerel/prhtml07/07011.html
□ソニー製リチウムイオン充電池問題 リンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/link/lithium.htm
□関連記事
【10月24日】ソニー、バッテリの自主回収プログラム開始を正式に表明
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1024/sony1.htm
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http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1017/sony.htm
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~VAIOのバッテリもリコールを検討
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0929/sony.htm

(2006年10月24日)

[Reported by ryu@impress.co.jp]

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