笠原一輝のユビキタス情報局

Vistaのアップグレードキャンペーンを待ち受ける市場



正式リリースに向け準備が進むWindows Vista(※別ウィンドウで開きます)

 先週のことになるが、MicrosoftはWindows VistaのRC2(Release Candidate 2、出荷候補版の第2版)をβテスターなどに公開した。まもなく出荷版となるRTMを完成させる予定であるなどWindows Vistaのリリースへ向け着々と準備が進められている。

 OEMメーカー筋の情報によれば、MicrosoftはOEMメーカーに対してOEM向けの製品も、パッケージの製品も2007年1月末のリリースを予定していると説明しているとのことで、今後何か大きなトラブルが無ければ、ユーザーは1月の末には新しいOSをプレインストールしたPCやアップグレード用のボックス製品を入手することができるようになる。

 そうした中、PC販売の現場からは、Windows Vistaのアップグレードキャンペーンに関する情報が漏れ伝わるようになってきた。通常、新しいOSのリリースの数カ月前には、新しいPCにアップグレードクーポンが添付され、OSを安価にアップグレードできるキャンペーンが行なわれるが、今回もそうしたキャンペーンが展開されることになりそうだ。

●動き始めた流通チャネル、Windows Vistaのキャンペーンを独自に開始するところも

 “量販店の現場がVistaに向けて動き始めた”、これは多くのPC流通に関わる関係者の一致した見方だろう。ここ数カ月、PC、特にメーカー製PCの販売は昨年同時期に比べて落ち込んでいる。なぜか? それは言わずもがなだろう。多くの関係者が口をそろえて指摘するのは、多くの消費者が2007年の1月にリリースされるWindows Vistaを見据えて新しいPCの購入を控えている、そういうことだ。

 だから、これまで販売の現場では“Windows Vista”というキーワードはある意味タブーだった。Windows Vistaでの動作が見込めるPCには“Vista Capable”というシールが貼られているものの、それにも大々的に触れられることもなく、例えば店頭でWindows Vistaのポップをつけて具体的に説明したりという動きはあまり見られなかった。言うまでもなく、そんなことをすれば、“じゃあ新しいOSがリリースするまで待とう”というお客さんを増やすだけで、販売という観点から見れば逆効果だからだ。

 ところが、ここ最近秋葉原の量販店の中には、独自にWindows Vistaのブースを設けて、“Vista Capable”のPCをおいてアピールする店もでてきている。つまり、量販店の側も、もうVistaに舵を切らないといけない、そういう時期にきていると考え始めているのだ。

●発売に向けてまもなくクーポンアップグレードキャンペーンが始まる

 それでは、なぜ量販店などはWindows Vistaのキャンペーンへ舵を切り始めているのか? その背景を流通チャネルの関係者は「まもなくMicrosoftがクーポン添付のキャンペーンを開始するからだ」と説明する。

 PC販売の現場では、目玉ソフトがまもなくバージョンアップされる場合、アップグレード用のクーポンを製品に添付して、買い控えが起きることを防ぐことが一般的に行なわれている。こうしたキャンペーンの仕組みはこうだ。基本的にはライセンス料はソフトウェアベンダ側が負担し、CDやDVDなどのメディア代金や配送費などはOEMメーカー側が負担するか、消費者が負担するという仕組みになっている。ソフトウェアベンダからすれば、新しいソフトウェアを正式リリースに先行して販売している、そういうイメージであると考えればわかりやすいだろうか。

 こうしたキャンペーンは、Windows XPでも行なわれた。Windows Meが搭載されたPCに対して、Windows XP Home Editionへのバージョンアップクーポンをバンドルし、Windows 2000が搭載されたPCに対してはWindows XP Professionalへのバージョンアップクーポンが提供されたのを覚えていらっしゃる読者の方も少なくないだろう。

●SKUによってアップグレードの価格が異なる今回のキャンペーン

 では、Windows Vistaではどういう仕組みになるのだろうか? Windows VistaではWindows XPの時ほどは単純な話にはならない。というのは、Windows Vistaにはコンシューマ向けのSKU(製品種別)が2つあり、今回のアップグレードキャンペーンでも別々の扱いになるからだ。

 Windows XPの時には、前世代のOSとして、コンシューマ向けと位置付けられるWindows Meと企業向けと位置付けられるWindows 2000の2つがあり、それぞれをWindows XP Home Edition、Windows XP Professionalへとバージョンアップさせるだけで良かった。

 しかし、Windows Vistaではコンシューマ向けOSはHome BasicとHome Premiumの2つがあり、さらに企業向けのBusiness、大規模企業向けのEnterprise、さらにコンシューマ向け、ビジネス向けのすべての要素を備えたUltimateと5つのSKUが用意されている。情報筋によれば、Microsoftはまもなく開始すると見られているクーポンキャンペーンにおいて、以下のようなアップグレードパスを検討しているという。

XP Vista
Home Edition Home Basic
Media Center Edition Home Premium
Professional Business
Tablet PC Edition Business

 それぞれの製品の位置付けを考えると妥当なところだが、1つだけ注意を払うべき点がある。というのも、上の表でいうMedia Center Edition以下のSKU、つまり、Media Center Edition、Professional、Tablet PC EditionからVistaの相当のSKUにクーポンを利用してアップグレードする場合、OSのライセンス料は無料となっているのだが、Windows XP Home EditionからWindows Vista Home Basicへのアップグレードは、50ドル相当のライセンス料が必要になるという点だ。

 すでに述べたように、実際にはメディア代+配送費(おそらく4~5千円程度)が必要になるので、無料というわけではないが、Media Center Edition、Professional、Tablet PC Editionを搭載したPCを購入したユーザーは4~5千円程度ですむのに対して、Home Editionを購入したユーザーはさらに6千円強のライセンス料が必要になるので、1万円程度の負担が必要になるという計算になる。

 さらに言うなら、ボックス版のHome Basicへのアップグレード版の価格は米ドルで99ドル(日本での価格は未だ明らかにされていない、米国での価格)であるのに対して、Home Premiumアップグレードのボックス版は159ドルとなっている。Home Editionを搭載したPCを購入したユーザーはほとんどボックス版を購入するのと変わらないのに対して、Media Center Editionを搭載したPCを購入したユーザーは日本円で19,000円程度の価値があるHome Premiumへのアップグレードが4千円程度で手に入る計算になり、明らかに後者を購入した方が有利であるのは言うまでもない。

●Media Center Editionへの移行をしたメーカーとそうでないメーカーで明暗くっきりと

 Microsoftがこうした戦略をとる背景には、米国におけるMedia Center Editionの好調さがある。米国でのコンシューマ向けPCのメインストリームOSはすでにMedia Center Editionへの移行が進んでおり、さらにMedia Center Edition普及の追い風にしたいという意図があるものと考えられる。すでにかなり普及が進んだ米国では、こうした施策に対する不満の声はあまり大きくない。

 だが、日本市場の状況は大きく異なる。コンシューマPCの大手3社(NEC、富士通、ソニー)で見ても、NECの製品こそ大半がMedia Center Editionになっているので問題ないが、富士通では1ラインナップ、ソニーには1ラインナップも用意されていない。このため、クーポンアップグレードキャンペーンの開始後には、NECの多くの製品では安価にHome Premiumへのアップグレードができるのに対して、富士通、ソニーのほとんどの製品ではHome Basicへ1万円程度を払ってアップグレードしなければならないという事態が発生する。

 ただし、それでは実際の販売現場では混乱が起こる可能性があるので、量販店などからメーカーに対して、ライセンス料はメーカーが持つなどしてHome Editionを搭載したPCでも安価にVistaにアップグレードできるようにすべきだという意見が出ているという。現在、量販店側とメーカー側で折衝が続けられており、実際にどうなるかは、キャンペーンが始まってみるまでわからないというのが現状であるようだ。

●キャンペーンは大手PCメーカーだけでなくDSP版やホワイトボックスにも適用

 なお、こうしたクーポンキャンペーンは、大手PCメーカーだけでなく、DSP版と呼ばれるいわゆるOEM版と呼ばれるWindows XPやホワイトボックスのPCにも適用される。このため、ホワイトボックスのメーカーは、クーポンキャンペーン開始後には、OSをHome EditionからMedia Center Editionへの切替を検討しているところも少なくないようだ。

 また、自作ユーザーにしてみれば、クーポンキャンペーン開始後に新しいPCを自作する場合、明らかにHome Editionを購入するよりも、Media Center Editionを購入する方がお買い得になる。というのも、Home EditionとMedia Center Editionの価格差は1,000円するかしないかのレベルで、メディア代+配送費でHome Premiumがついてくると考えれば非常にお買い得だと言えるだろう。今後PCを自作する予定があるのであれば、そのあたりも考慮に入れてOSのSKUを決定すると良いだろう。

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(2006年10月17日)

[Reported by 笠原一輝]


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