今回のIDFで目立った話題、多くのテクニカルトラックがあったり、展示会(Tech Showcase)で大きくフィーチャーされていたものを選ぶとすると、クワッドコアプロセッサ、ビジネスクライアント(vPro)、Tera-Scale/Peta-Scale Computing、といったあたりだろうか。 クワッドコアプロセッサは、あと2カ月で発売になる新製品であり、力が入るのも当然のことだろう。だが、逆にあと2カ月で発売されるものだけに、ほとんどの情報がすでに明らかになっており、目新しさに欠けることも否めない。加えて、最初に登場するクワッドコアプロセッサが、1つのパッケージにすでに発売されているデュアルコアプロセッサのダイを2枚封入したものであることも、目新しさに乏しい理由の1つだろう。 今までとほぼ同じ価格帯で、ダイの数が2倍になるのだから、消費者にとっては決して悪い話ではないのだが、一部のユーザーを除いて、多くの人が不満に感じていることが性能の不足ではないであろうことを考えれば、どうもアピールに欠ける。これは4つのコアが1つのダイか、2つのダイか、といった議論より、よほど重要なのではないかと思う。今度はコアが4つになりました、で多くの人がPCを買ってくれる、買い換えてくれるだろうか、ということだ。
もちろん、プロセッサの処理能力が向上するのは悪い話ではない。プロセッサは量的な性能向上にとりあえずフォーカスし、それ以外の部分、Intelのいうプラットフォームで質的な変革を行ないます、ということなら、それはそれでアリかもしれない。Intelのプラットフォームとして最も新しいメンバーは、9月から発売が開始されたvProだ。プラットフォームとして先に発表されたViivより有利なのは、グローバル展開が容易なことにある。 どうしてもコンテンツに関わらざるを得ないViivでは、常にローカライズの問題に直面する。コンテンツの中身(好み)、コンテンツのプレゼンテーション(吹き替え、字幕など)、コンテンツの配信方法(DRM、ネットワーク帯域等)をすべて現地に合わせなくては、プラットフォームの成功は見込めない。が、コンテンツホルダーではないIntelが、これらすべてをコントロールすることはできない。 これに対して、ビジネスクライアントに求められる機能や性能は世界各地でそれほど大きく変わるものではない。特に先進国に限れば、セキュリティと管理性に関する要求は、優先度に違いがあっても、基本的には同じハズだ。 また、新OSの提供がクリティカルな(新しいOSがリリースされると、ほぼ同時にプリインストールOSが更新される)コンシューマPCが、どうしても発売を控えたWindows Vistaの影響を受けるのに対し、ビジネスPCでは検証の都合上、OSのリリースから採用まで時間があるのが普通だ。そういう意味でも、ViivよりvProの方が話をしやすいのではないかと思われる。ただ、管理やセキュリティという話題は、必ずしも万人受けはしない。 万人受けしないという点では、Tera-Scale Computingもそうかもしれない。技術的には興味深いことでも、来場者の大半を占めるであろうIHVのデベロッパが今「デベロップ」できることはほとんど何もない。学会のようなイベントならともかく、あまり実業向けでないことは間違いないだろう。 というわけで、どうも今回のIDFはこれといった目新しい目玉に欠ける印象が否めない。本来であれば、2007年のプラットフォームについて、もっと突っ込んだ話題があっても良かったと思うのだが、おそらく意図的に言わないことにしたのだろう。このあたりにAMDがATI Technologiesを買収した影響があるのかもしれない。 基調講演でも取り上げられたように、現時点で65nmプロセスによるプロセッサを出荷できているのはIntelだけだ。AMDで最初の65nmプロセスのプロセッサは、Revision Gコアを採用したプロセッサになると言われており、その登場時期は2007年に入ってからと予想されている。そういう意味ではIntelは1年以上、プロセスの微細化で先行しており、もしAMDの移行がこれ以上遅れるようだと、Intelの45nmプロセスとほぼ同じ時期になりかねない。AMDの製造プロセスはSOIであり、単純にIntelと比べることはできないが、丸々1サイクル違ってしまうと、厳しいことになるかもしれない。
ちなみに今回のIDFでIntelは、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)と共同開発した、ハイブリッドシリコンレーザーチップのデモを行なった。が、このチップの製造に使われたのはSOIプロセスで、Intelもその気になればSOIプロセスを利用できることが明らかになった。それでもプロセッサの量産には決してSOIを使わない、ということにIntelの哲学があるのだろう。 プロセス技術で大きく先行し、Coreマイクロアーキテクチャで消費電力あたりの性能でもトップクラスを実現したことで、Intelは少しばかりホッとしているのかもしれない。少なくとも今回のIDFから、1年前の必死さのようなものはあまり感じられなかった。珍しく、ひとときの勝利に浸っているのかもしれない。
□関連記事 (2006年10月2日) [Reported by 元麻布春男]
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