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ラトナーCTO基調講演レポート 次世代データセンターの技術を紹介会場:米San Francisco Moscone Center West
IDF初日は、ポール・オッテリーニCEOによるオープニング基調講演に引き続き、Intel CTOのジャスティン・ラトナー氏によるR&Dに関する基調講演が行なわれた。「Over The Horizon:THE MEGA-CENTER」と名付けられた講演では、将来予想されるデータセンター像と課題を基に、Intelが開発中の技術が紹介された。 ●メガデータセンターが抱える課題と解決へのアプローチ 基調講演のタイトルとなっているMEGA-CENTERとは、100万台以上のサーバーを抱えるデータセンターのことだ。1日に1億以上のビデオ視聴が行なわれるYouTubeや、1日に30億のページビューに達しているYahoo!に代表されるように、オンラインサービスへの人気が高まっており、今後はさらに新しいオンラインサービスへの需要が発生する。 とくに現在ニーズが高まっているのが、アプリケーションやデータをオンライン上で保持するようなサービスで、このニーズが継続したならば、今後5年間で9倍もサーバーの数が増える。メガ・データセンターは現在でこそ小さな市場だが、将来的には膨れ上がる可能性を秘めた市場といえるわけだ。そして、このデータセンターという潜在的大規模市場は、プロセッサだけでなく、ストレージ、電力、セキュリティといった幅広い分野へインパクトを及ぼすことになる。 ここで、実際に大規模データセンターを運用しているGoogleのDistinguished Engineerであるルイズ・バローソ氏を招待。Googleではデータセンターにおけるコストの予測として、ローエンドサーバーにおいて、将来的には電気代がハードウェアにかかるコストを上回ると予測している。 現在の一般的な電源ユニットは、55~70%の電力効率であり、システムでもっとも電力を消費している。さらに、データセンターにおいては、UPSや配電装置などで何度もAC/DC変換が繰り返されているため非常に電源効率が悪化している点の2つを指摘。 そこでIntelは、DCを入力する電源ユニットを利用することで電源変換の回数を減らし、電力効率を上昇させるアイデアを発表した。これはすでに大規模データセンターでの実験も進められており、今回は実際にデモも実施され、14%の改善を見せた。 もちろん、この技術の実現においては、電力周りの装置がこれまでのACを前提としたものから、DCを利用するものへと変革しなければならない。こうした装置の規格化などについて関係コミュニティの協力を求めている。 また、データセンターにおける別の課題の1つとして、ファイアウォール内のデータセキュリティについても言及。こちらを改善するアプローチとして「Linksec」と呼ばれる技術を紹介した。従来より利用されているIPSecではサーバー-クライアントの2カ所で暗号化/復号化が実施されているが、Linksecは経路上の装置ごとで暗号化/復号化を行なう仕組みである。 ●メガ・データセンターを現実にするテラスケール・コンピューティング とはいっても、メガ・データセンターは現在5%にも満たないうえ、実現するためにはデータセンターに必要な面積は80万平方フィートに達し、必要な電力は5億ワットと27万8千件の家庭に相当するほどになる。そのため、より実現可能な状態へ近づけるには、サーバー性能密度の向上や、電力効率のさらなる向上が求められることになる。そこで言及されたのが、Intelが取り組んでいるテラスケールリサーチプログラムだ。 テラスケールリサーチプログラムでは現在、Tera OPS(FLOPS)のパフォーマンス、TB/secのメモリバンド幅、TbpsのI/O転送速度を実現しようとしている。 まず、Tera OPS/FLOPSの実現にあたっては、オッテリーニ氏の基調講演でも触れられた80個のコアを持つシリコンを紹介。3.1GHzで動作するこのチップは、浮動小数点演算に特化したインストラクションセットのみを持つ簡単なものだが、Tera FLOPSの性能を出せ、1Wあたり10GFLOPSの性能になるという。 そして、こうしたTera FLOPSの性能を持つチップは、それだけメモリのバンド幅への要求も大きくなる。そこで取られたアプローチが、プロセッサコアとメモリをスタック化する手法だ。今回の試作品ではSRAMを利用しているが、プロセッサとメモリが1対1で、しかも数千の電気的接続が発生するので、そのバンド幅は1Tbpsを超える。 そして、最後の課題である1TbpsのI/転送速度を実現するのは、先週発表されたハイブリッド・シリコンレーザーだ。これは、リン化インジウムによって発光されたレーザーと、レーザーを導くウェーブガイドを設けたシリコンを、酸化膜によって接着し、1つのチップに形成するものだ。リン化インジウムによる発光、シリコンによるウェーブガイド、酸化膜による接着は、いずれも従来技術の延長線上にあるので、大量生産への移行が簡単であることをメリットとして挙げている。 この、ハイブリッド・シリコンレーザーを利用し、25本のレーザーをマルチプレクサを利用して1本に集積。光ファイバーによって送受信を行ない、受信側は同様にデ・マルチプレクサ、レーザーによる転送を行なう仕組みとなる。 こうしたテラスケール技術が現実のものとなってきたことで、メガ・データセンターも現実的なものになってきた、というのが、ラトナー氏による今回の基調講演のまとめとなった。 R&D関連の話題で、しかもデータセンターを題材とした講演であるため、こうした技術が将来的にはPCでも利用される可能性があるとしても、いまひとつピンと来ないという印象を受けるかも知れない。ただ、テラスケール技術によってメガ・データセンターを持つサービスプロバイダが増えれば、それだけオンラインサービスも充実してくるはずだ。それは、間接的に一般ユーザーへのメリットとして享受できるのではないだろうか。 □IDF Fall 2006のホームページ(英文) (2006年9月28日) [Reported by 多和田新也]
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