8月30日 発売 価格:47,250円 連絡先:お客様相談室 カシオの電子辞書「XD-ST6300」は、前回紹介したシャープのPW-A8410と同様、100コンテンツ搭載の普及モデルに位置付けられる製品である。カシオの電子辞書としては初めて脳力トレーニング系のコンテンツである「百ます計算」を搭載したのが特徴だ。 ●100コンテンツを搭載。XD-GT6800の弟分にあたるモデル 今回紹介する「XD-ST6300」は、連載第2回で紹介した100コンテンツ搭載モデル「XD-GT6800」の弟分にあたる製品だ。ジャンルとしては生活総合モデルだが、メーカーは「大人向け」の電子辞書と謳っており、ビジネスマン向けのコンテンツが充実している。ラインナップ上は、人気モデル「XD-ST6200」の後継機という位置付けだ。 筐体色は、写真のシャンパンゴールドのほか、ブラック、レッドの3色がラインナップされる。シルバー系の筐体がほとんどを占める電子辞書にあっては異色のバリエーション展開であり、カジュアルユースを強く意識したものと考えられる。光沢のあるブラック、レッドの塗装は高級感があり、チープさを感じない。 本体面積は、上位モデルのXD-GT6800よりはやや奥行きが小さく、競合にあたるシャープのPW-A8410よりは若干大柄。ポケットに入れるにはやや厳しいサイズだ。蓋を開けると電源がONになる機構などは、上位モデルのXD-GT6800からそのまま引き継がれている。
画面サイズは5型と、上位モデルのXD-GT6800の5.5型にこそ及ばないものの、ドット数はXD-GT6800と同じ480×320ドットと妥協のないスペックだ。液晶のコントラストもモノクロモデルとしては十分に高く、画面の見やすさについては他社製品に比べ一日の長があると感じる。バックライトも搭載しているため、薄暗い場所での利用も可能だ。 キーボードは、ボタン形状、サイズ、キーピッチともXD-GT6800と同じく余裕があり、タッチタイプも十分に可能だ。XD-GT6800では上段のファンクションキーが2段になっていたが、本製品では1列しかなく、そのぶん筐体の奥行きが若干短くなっている。
文字サイズは3段階切替と、競合にあたるシャープ「PW-A8410」の5段階に比べるとやや心もとないが、電子辞書としては至って標準的なスペックである。480×320ドットと高精細なことも合わせて考えると、特に問題にはならないだろう。
重量は約250g。上位モデルのXD-GT6800と比べると約40g軽い。ファンクションキーが減って筐体の奥行きが短くなった分、総重量が軽くなった格好だ。電源は単4電池×2本で、電池寿命はおよそ130時間と、標準的なスペックだ。 音声出力機能については、XD-GT6800同様ネイティブ発音に対応するほか、合計6言語での合成音声読み上げに対応している。シャープPW-A8410は音声出力機能を搭載していないため、同じ100コンテンツモデルで機能を比較する場合、最大の違いはここになると思われる。 コンテンツの追加は従来機種と同様、USBでPCと接続するか、SDメモリーカード経由で行なえる。追加コンテンツを本体もしくは市販のSDメモリーカードに保存することで、複数の追加コンテンツをカードの差し替えなしで利用できる機能は、カシオ製品だけのメリットだ。
内蔵メモリは20MBと、上位機種XD-GT6800の50MBに比べるとやや少ないが、単体で30~40MBの容量を必要とするリーダーズや新編英和活用大辞典といった大容量コンテンツを追加するのでなければ、十分に実用的である。本体内蔵メモリが不足した場合は、SDメモリーカードに保存して利用すればよい。 複数コンテンツの一括検索機能は、連載第2回のXD-GT6800で指摘したように、最初に検索対象のコンテンツを指定しなくてはいけないなど、ややクセがある。しかも本製品では、上段のファンクションキーが2列→1列に減っているため、複数かな検索機能が呼び出しにくくなってしまっている。何らかの対策が望まれる点だ。 ●脳力トレーニング系コンテンツ「百ます計算対応機能」を初搭載 本製品はXD-GT6800の弟分に当たるが、製品が発表になったのはXD-GT6800の半年後ということもあり、ブラッシュアップされた機能や新しいコンテンツがいくつか見受けられる。主な点を見ていこう。 本製品で初めて搭載されたコンテンツとして、「百ます計算対応機能」が挙げられる。「百ます計算」とは、単純な四則演算を繰り返すことで脳の働きを活性化させる、いわゆる脳力トレーニング系のコンテンツだ。電子辞書における脳力トレーニング系コンテンツは、これまでシャープ製品の独壇場だったわけだが、今回カシオ製品がこれに追従した形となる。
もっとも、カシオとシャープの両社はこれまでにも電卓というジャンルにおいて、脳力トレーニング機能をめぐって熾烈な争いを繰り広げてきている。今回搭載されたコンテンツも、いずれも両社それぞれの電卓に搭載されているコンテンツの強化版であり、電子辞書の世界にこれらの争いが持ち込まれたという印象が強い。 さて、本製品に搭載されている脳力トレーニング系コンテンツでは、ハードウェア的に数字の入力がしづらいことがネックとして挙げられる。というのも、独立した数字キーが装備されているシャープ製品に対し、カシオ製品はQWERTYキーの最上段と数字キーを兼ねる形になっているからだ。特に、数字の「0(ゼロ)」とアルファベット大文字の「O(オー)」が隣接して配置されており、誤入力につながりやすい点は気になる。 辞書コンテンツが中心だったこれまでの製品では、数字キーの使いやすいさはあまり問題にならなかったが、脳力トレーニング系コンテンツが搭載されるとそうはいかない。今後、ハードウェア的に何らかの改良が加えられることを期待したい。 最後になったが、機能が強化されたコンテンツとしては、旅行会話集の日本語検索が可能になったことが挙げられる。これまでは「泊まる」、「食べる」といったジャンルから目的の会話文(になるべく近いもの)を辿っていかなくてはならなかったが、本製品ではフリーワードによる検索が可能になり、例えば「痛む」と入力すると、「どこが痛みますか」「ズキズキと痛みます」といった「痛む」を含む文章と、その訳文が表示されるようになった。他社製品にはすでに搭載されている機能であり、例文の数も多くないのは難だが、細かいながらも着実に進化を遂げていることが分かる。 ●上位モデルと比較すると「広く浅く」のコンテンツ 一般的に、100コンテンツを搭載した電子辞書は、本製品に限らず店頭で人気が高い。セールスポイントとして「100個もの豊富なコンテンツ」と示された場合、これほど説得力のある数字はないのが大きな理由だろう。電子辞書を初めて購入するユーザーにとっては、この訴求は強力だ。 本連載で繰り返し言及してきたように、コンテンツの見かけの数にだけ注目すると製品の評価を誤る危険が高い。とはいえ、仮に製品の価格帯や機能が同等であるならば、コンテンツ数は少ないよりは多いほうがよいのは明らかだ。 そんな中、カシオ製品については、本製品以外にXD-GT6800という、同じ100コンテンツ搭載の上位機種が存在する。同一メーカーの製品、さらにコンテンツ数も同一となると、それらの差はどこにあるのか、興味が沸くところである。両者の具体的な違いを見ていこう。 両者の最も大きな違いは、XD-GT6800に搭載されている明鏡国語辞典や日本語大シソーラス、ブリタニカ国際百科辞典といった大ボリュームのコンテンツが、本製品では省かれている点だ。これらはいずれも10万見出し語を超える大型辞書であり、製品原価に占めるライセンス料も相当の額になると考えられる。本製品ではこれらを省くことで、コストダウンが図られている格好だ。ちなみに、これらのコンテンツの代用になるのは、両モデル共通のコンテンツである広辞苑やマイペディアということになる。
また、英和/和英のコンテンツについても、XD-GT6800はロングマンとジーニアス、本製品ではジーニアスのみとなっているなど、同じカテゴリに分類されるコンテンツについて一方を省く傾向が見て取れる。つまり、上位モデルで「広く深く」だったのが「広く浅く」になっているわけだ。決して「広く」が「狭く」になっていないところがミソである。 前出の「百ます計算機能」の有無も違いの1つだが、これはむしろ発売時期の違いによるものであって、おそらくXD-GT6800の次期モデルには同様のコンテンツが搭載されると予想されるので(筆者の個人的な予想である。念のため)、違いとしては微々たるものだろう。余談だが、カシオ製品については、この「百ます計算機能」は100のコンテンツ数に含まれておらず、プラスαという位置付けである。100のうち脳力トレーニング系が6つを占めるシャープPW-A8410とのスタンスの違いが分かって面白い。 ハードウェア的には、XD-GT6800に比べて上段のファンクションキーが1列減っているが、これによって筐体の奥行きが短くなるメリットもあるので、一概に良し悪しは決められない。むしろ、画面が小さくなっているにもかかわらず表示可能なドット数が変わっていないことを考えると、本製品のほうがハードウェア的には洗練されているとも言える。 結果として、本製品は上位モデルのXD-GT6800に比べ、標準価格ベースで5,000円、実売価格ベースではおよそ1万円ほど安い価格設定に落ち着いている。かなり微妙な価格差だと言えるが、ここに音声出力機能のないシャープPW-A8410が加わることで、しっかりと3段階のグレードができあがっているのが面白い。いずれにせよ、同じコンテンツ数であるこれらの製品の違いを見ていると、どの機能が価格に反映されているかが分かって興味深い。
●トレンドを押さえつつ実用性、拡張性でも死角のないモデル 最後になったが、シャープの100コンテンツモデルPW-A8410との違いもざっとまとめておこう。本製品のアドバンテージとして真っ先に挙げられるのは、音声出力機能とバックライトを装備している点である。また、カシオ製品の特徴でもある追加コンテンツの保存機能により、複数の追加コンテンツを同時に利用できるのもポイントが高い。 「初めて購入する電子辞書」という位置付けは両者ともに変わらないが、使い続けるうちに特定のジャンルに興味を持った場合でも、複数のコンテンツを追加できるのは本製品の大きなメリットだ。同時に使える追加コンテンツが1種類のPW-A8410と違い、内蔵メモリやSDメモリーカードに複数のコンテンツを保存できる本製品は、そのぶん長く使える製品である。また、割高になるコンテンツの追加購入はなるべく避けたいというのであれば、あらかじめ上位モデルのXD-GT6800をチョイスする方法もある。
内蔵コンテンツに目を向けると、PW-A8410がスーパー大辞林なのに対し、本製品は広辞苑であるといった細かな違いがある。あらかじめ利用頻度が高いと分かっている分野のコンテンツについては、購入前にしっかりと詳細を確認しておいたほうがよいだろう。全体的な傾向としては、ライフサポート系のコンテンツを中心に「生活/雑学」寄りのシャープPW-A8410に対し、本製品は「ビジネス/教養」寄りという分類が、的を射ているかと思う。 本製品を総括すると、コンテンツのボリュームは上位モデルのXD-GT6800には及ばないものの、高い実用性と豊富な拡張性を備え、かつ電子辞書のトレンドもしっかり押さえた、大人向けのスキのないモデルという評価になるだろう。専門性の高い電子辞書を使いこなす自信はないが、あまりに薄っぺらい内容の製品はちょっと、という方にもオススメできる製品だ。
【表】主な仕様
□カシオ計算機のホームページ (2006年9月19日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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