2月25日 発売 価格:52,500円 連絡先:お客様相談室 カシオの「XD-GT6800」は、100ものコンテンツを搭載した電子辞書だ。5.5型の大画面モノクロ液晶を搭載するほか、SDメモリーカードやUSBポートを通じ、追加コンテンツを辞書内に保存できることを大きな特徴とするハイエンドモデルである。 ●業界最多の100コンテンツを搭載
電子辞書というジャンルにおいて、名実共にシェアトップを維持しているのがカシオ計算機である。同社のシェアはBCN調べで5割を超えるなど圧倒的な強さを誇っており、前回取り上げたシャープとは熾烈な争いを繰り広げている。 そのカシオ製電子辞書のフラッグシップモデルに相当するのが、今回紹介するXD-GT6800だ。業界最大の5.5型液晶、100という収録コンテンツ数など、フラッグシップの名にふさわしい充実した仕様が特徴である。3ケタを超えるコンテンツを搭載した電子辞書は本製品を含め3製品しか存在しておらず、名実共に業界最多のコンテンツを内蔵した電子辞書ということになる。 今回は、これらの特徴をはじめとして、本製品の大きな特徴である、PCと連携してのコンテンツ追加機能についてもあわせて見ていこう。 ●本体は大柄ながら堅実な作り。行間の罫線もあって視認性は高い まずは外観周りからチェックしていこう。 筐体はやや大柄で、前回紹介したシャープ製電子辞書「PW-N8100」に比べると一回り大きい。ズボンのポケットに入れて持ち運ぶのはやや苦しいサイズだが、厚みがそれほどないのと、上面がほぼフラットということもあり、カバンの中でそれほどかさばる感じは無い。まさに手帳という感じで、持った際のホールド感もきわめて良好だ。 重量は290gと、PW-N8100の295gとほとんど変わらないのだが、見た目と持った重量がほぼ一致しているせいか、PW-N8100ほどの重さを感じない。 上蓋は指がかかりやすいデザインで、開けやすいのが特徴だ。上蓋の開閉に連動して電源がON/OFFする仕様になっており、直感的に使いやすい。このあたりの作り込みはさすが電子辞書の老舗という印象だ。
キーボードは一般的なQWERTY配列。前回のPW-N8100と同様、キーボード上部にファンクションキー、下段に「戻る」キーや「決定」キーが配置されている。キー数は62個と、PW-N8100の69個に比べるとやや少ないが、特に支障は感じない。キーは角丸型でキーピッチも約14mmと、タッチタイプも十分に可能なサイズだ。
画面は480×320ドット表示の5.5型と大きく、見易い。ただ、視野角がそれほど広くないのと、輝度がそれほど高くないので、机上で使う場合はほぼ正面に相対して置きつつ、バックライトを併用することになる。室内が明るい場合でも、バックライトは欲しいと感じる。 ただ、バックライトは未操作時間が30秒を超えると消えてしまう仕様になっており、この値も固定となっている。電池の持続時間を長くするための策だと思われるが、多少は調整できてもよいのではと感じた。ちなみに説明書に書かれたデータによると、バックライト点灯の場合、バックライトなしの状態に比べて電池寿命が1/3以下になることが記されている。 画面の文字は、行間に罫線があることもあって、視認性は非常に高い。コンテンツの種類、および罫線の表示/非表示によっても異なるが、最大で全角40×18文字の表示が可能となっている。 文字サイズの切替は3段階のみと、5段階表示のPW-N8100に比べるとやや寂しい感がある。仮にPW-N8100の表示サイズを小さい級数から順に「1~5」と表現するなら、本製品は「3~5」の級数に相当しており、小さめの文字への対応がやや弱い。電子辞書を使っていると、どうしても1画面内にたくさんの文字を表示しなくてはならない場合も多いので、もう少し小さな文字への対応を望みたい。
ちなみに、これら文字サイズの切替はコンテンツごとに個別に行なう方式で、異なるコンテンツ間で設定は引き継がれない。例えば、広辞苑で文字サイズを最小に変更してからブリタニカにジャンプすると、元の巨大なフォントで表示されてしまうといった具合で、やや戸惑ってしまう。個別設定できること自体は悪くはないのだが、広辞苑で最小サイズで見ていたユーザーがブリタニカでは最大で見るということは考えにくいし、なにより100ものコンテンツごとに個別設定させられるのはたまらない。一括で設定できる機能が欲しいところだ。 製品の底面には、イヤフォンとスピーカーを切り替える物理的なスイッチが装備されており、イヤフォンを挿した状態でもスピーカーから音声を聞くことができる。ボリュームの調節は、右側面のダイヤルを回して調整するので、直感的に操作しやすい。イヤフォン端子も含め、音声周りの操作系は右側面にまとめられている。 一方の左側面には、SDメモリーカードスロットとUSBのminiB端子を備える。いずれもコンテンツの追加に利用する。miniB端子であることからわかる通り、USBはあくまでダウンストリームであり、ホストとしてUSBメモリやHDDを接続するための端子ではない。コンテンツの追加機能についてはのちほど詳しく紹介する。 電源は単4電池2本で、PW-N8100の10倍、公称200時間の動作が可能とされている。電源をずっと入れっぱなしでも1週間持つ計算になるので、旅行や出張の際も安心だ。ACアダプタはオプションも含め用意されていない。
●タブ切替の採用で検索性は高い。お気に入り機能も便利 次に搭載コンテンツについて見ていこう。 100を超えるコンテンツを搭載した電子辞書は、現行製品の中では本製品のほか、弟分に当たる「XD-ST6200」、さらにシャープの「PW-A8410」の3製品しかない。コンテンツ数の多さで電子辞書をチョイスしようとすると、自然とこれら3製品に行き着く。
ただ、同じ100というコンテンツ数でも、カシオ製品とシャープ製品の方向性は大きく異なっている。脳力トレーニング系コンテンツの拡充を図りつつあるシャープ製品に対し、カシオ製品は経営/株式/流通/広告などビジネス向け用語辞典、さらに百人一首や日本国憲法などを搭載している。 かなり乱暴に分類するなら、ビジネス、学術系に強いXD-GT6800、生活/脳力トレーニング系に強いPW-A8410といったところになろうか。もっとも、いずれの製品も幅広いジャンルのコンテンツを網羅していることに変わりはないので、ユーザーの好み次第といったところだろう。 これらのコンテンツはメニュー画面にタブ形式でレイアウトされており、左右キーでジャンルを選択し、上下キーでコンテンツを選ぶことで呼び出す。100という膨大なコンテンツを内蔵しながら、スムーズな切替/呼出が行なえる。 ただ、メニューの表示サイズはどれも同じなので、例えば「広辞苑」と「ワインコンパニオン」が同格で表示されるなど、本来プライオリティに差があるコンテンツが同じ見出しサイズで表示される場合も少なくない。シャープ製品のように、ユーザー側でメニューの並べ替えを可能にするなど、なんらかの対策が望まれる。 よく使うコンテンツについては「お気に入り」に登録しておくこともできる。この「お気に入り」に登録したコンテンツはキーボード上部ファンクションキーと連動し、一発で呼び出すこともできる(最大5個)。長い間使い続けていると、上のメニューから呼び出すのではなく「お気に入り」やファンクションキーからダイレクトに起動する機会が増えてくる。
音声出力については、英和辞典など特定のコンテンツではネイティブ音声が用意されているほか、全ての辞書において6カ国語(英語/スペイン語/ドイツ語/フランス語/イタリア語/中国語)を合成音声で読み上げるモードを搭載している。余談だが、百人一首でネイティブ音声出力が用意されているのはユニークだ。ひと工夫すれば、百人一首大会での読み上げ用途などにも利用できそうである。
●独特の検索性。コンテンツ間の有機的な結びつきは弱め 複数コンテンツの横断検索は、電子辞書最大のメリットと言っても過言ではない機能だが、カシオ製品のそれは他社製品とは異なる独特の仕組みを採用している。 例えば、前回紹介したPW-A8400では、まず「一括検索」ボタンを押し、目的の語句を入力することで、収録コンテンツ全体に対して検索をかけ、見出しを一覧表示することができた。 本製品の場合、まずアルファベットかひらがなのどちらで検索するかを決め、「複数ABC検索」か「複数かな検索」のいずれかを押す。ここで検索対象となるコンテンツは、アルファベットの場合は「英英辞典」、「英和辞典」、「英語アクティベータ」など、ひらがなの場合は「広辞苑」、「国語辞典」、「日本語類語」といった具合にあらかじめ決まっており、全コンテンツに対して検索が行なわれるわけではない。つまり、本当の意味での横断検索とは異なり、特定ジャンルのコンテンツに対する検索となっているのだ。
その最たる例が「DVD」という単語を検索した場合だ。本製品には、DVDの規格の違いや仕組み/用語がまとめられた「DVDのカタログが理解できる本」というコンテンツが収録されているのだが、前出の複数ABC検索で「DVD」という単語を横断検索した場合、このコンテンツは検索対象から除外されており、検索結果一覧に表示されないのだ。 「DVD」という単語を検索した際に表示される見出しは、ブリタニカやカタカナ語新辞典、PC用語辞典など、専門性に劣るコンテンツばかりで、何のためにDVDに特化したコンテンツを搭載しているのか、首をひねらざるを得ない。これらのコンテンツを有機的に結びつける仕組みの搭載は、同社製品の大きな課題であろう。
●コンテンツへの「横入り」が困難なスーパージャンプ機能 検索については、もう1つ大きな課題がある。 特定の単語の意味を別コンテンツで調べる機能、つまりシャープ製品で言うところの「Wジャンプ機能」は本製品にも搭載されている(スーパージャンプ機能)。シャープ製品の場合、目的の単語を範囲指定して「検索/決定」キーを押すことで、それらの単語が収録されているコンテンツの見出しを一覧表示してくれた。例えば「甲子園」の場合、「甲」から「園」までを範囲選択して検索ボタンを押すと、「甲子園」「甲子園球場」「甲子園大学」といった単語が表示される。完全一致タブに切り替えると「甲子園」という見出しを持つ各コンテンツの見出しが一覧で表示されるという寸法だ。 本製品の場合、範囲選択を行なうという考え方はなく、検索したい単語の1文字目にカーソルを合わせて検索ボタンを押す仕組みになっている。つまり「甲子園」で検索したいのに、「甲(こう)(かん)」や「甲子(きのえね)」といった検索結果もリストアップされ、目的の見出しが埋もれやすい。当然ながら、目的の単語の文字数が長くなればなるほど、正確でない検索も行なわれるようになる。
また、このスーパージャンプ機能では、検索対象となるコンテンツを、リストから明示的に指定する必要がある。つまり、まず広辞苑で検索、一旦戻って次はブリタニカで検索、といった具合に、コンテンツの数だけ行ったり来たりする必要があるのだ。これでは手間がかかるばかりでなく、各コンテンツの特性をあらかじめ知っておく必要があることになる。
電子辞書に搭載される複数コンテンツの横断検索のメリットの1つに、検索結果を通して未知のコンテンツに「横入り」できることが挙げられる。コンテンツの種類を意識しなくても、検索結果に表示される見出しから未知のコンテンツに気軽に「横入り」ができ、それによって知識の幅が広がる、というわけである。検索エンジン経由で未知のWebサイトの下層ページにたどりつき、そこからWebサイトそのものに興味を持つという図式とよく似ている。紙媒体には絶対に真似のできないワザである。 本製品の場合、こうした新鮮な驚きに巡り会う機会が機能的に限定されてしまっており、せっかく100もあるコンテンツ数を生かしきれていない。特に、未知の単語を検索しようとしているのに、検索対象となる辞書をあらかじめ指定しろというのは、筋が通っていない。 ちなみに、これらの検索対象のコンテンツリストが、目的の単語を含むコンテンツだけリストアップされているならまだしも、実際に検索してみると該当の単語が掲載されていない場合も多々あるのが問題だ。わざわざ検索した結果「見つかりません」と表示された時は徒労感がある。1回検索するだけで、単語が掲載されているコンテンツとその見出しまで一覧表示してくれるシャープ製品との差は大きい。収録コンテンツの数が多いだけに、それらを有機的に結びつける仕組みの実装が望まれる。 ●本体メモリ領域およびSDメモリーカードにコンテンツの追加が可能 最後に、本製品の拡張性について触れておきたい。 現在の電子辞書において、SDカードスロット経由でコンテンツを増やせる機種は珍しくないのだが、本製品の場合、追加コンテンツを本体のメモリ領域に保存できる。つまり、追加コンテンツの入ったSDメモリーカードをスロットに常時挿しておく必要がないばかりでなく、本体のメモリ領域が許す限り、複数のコンテンツを追加していけるのである。 本体のメモリ領域は50MB。コンテンツ1つの容量は平均すると10MB程度なので、数個のコンテンツは追加できる計算になる。他社製品が1コンテンツしか追加できないのに比べると、大きなメリットである。さらに、本体メモリ領域がいっぱいになった場合は、市販のSDメモリーカードをスロットに挿入し、追加コンテンツをまとめて保存しておくこともできる。そのため、実質的にGB単位のコンテンツを追加することも可能だ。 コンテンツの追加は、SDメモリーカード経由で行なうか、USBポートを用いてPCと接続し、PCにインストールしたユーティリティ「EX-wordライブラリー」を用いて転送する方式になっている。追加コンテンツは、いまのところCD-ROMもしくはデータカードといった物理メディアでの販売のみで、ダウンロード販売は行なわれていない。自分好みの電子辞書を作っていける仕組みが実装されているだけに、コンテンツを容易に追加できるよう、今後の販売方法の拡張に期待したい。
また、追加コンテンツと同様、テキストデータを本体もしくはSDメモリーカードに転送して読むこともできる。この場合は、PC側にユーティリティ「EX-wordテキストローダー」をインストールして転送を行なう。これによって、青空文庫などのテキストデータをダウンロードして楽しむことができる。ただ、前回のPW-N8100と同様、しおりを挟むことは可能なものの、いま全体の何割まで読み進めているか分からない点など、長文が読みやすいとは言い難い。 ちなみに、SDメモリーカードへのデータ書き込みは、上記手順のみが推奨されており、カードリーダなどで直接書き込む方法は言及されていない。ただ、試してみた限りでは、SDメモリーカードのルートにカードリーダ経由で書き込んだテキストファイルはきちんと認識することができた。
●まとめ 大画面、100を超える豊富なコンテンツなど、フラッグシップモデルとしての特徴が際立つ本製品。前回のPW-N8100のような、カラー液晶やテレビ出力、JPEGビューアといった突出した機能はないが、電子辞書としてのベーシックな機能を追及し、家族の誰もが安心して使える機種に仕上がっている。 電子辞書として特定のジャンルに特化していないことがメリットでありデメリットでもあるが、これだけのコンテンツ数や機能を持ちながら3万円台前半という実売価格は格安であり、買ってハズレということはないだろう。コンテンツ追加機能も実装されており、学生から社会人まで、幅広い層が長く安心して使えるモデルであることは間違いない。 それだけに、複数コンテンツ間の検索性の低さは惜しまれる。ほかにも、文字サイズ切替をコンテンツごとに行なわなければならない点など、各コンテンツがバラバラに存在している印象が強く、コンテンツ全体をまとめて管理するインターフェイス部分に改善の余地がありそうだ。増え続けるコンテンツをユーザーが自在に活用できるよう、インターフェイスの使い勝手を向上させていくことが、本製品のようなフラッグシップモデルに課せられた重要な課題だと言えそうだ。
【表】主な仕様
□カシオ計算機のホームページ (2006年7月27日) [Reported by 山口真弘]
【PC Watchホームページ】
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