山田祥平のRe:config.sys

Windows Vistaのプロダクトキーとエディション




 Windows Vistaでは、コンピュータのプロパティを開くと、プロダクトキー変更のためのコマンドリンクが用意されている。このリンクをクリックすると、インストール時に入力を促されたのと同様のダイアログボックスが表示され、新たなプロダクトキーを入力することができる。さて、この実装は、本当にうまく機能するのだろうか。

●エディションの多さが混乱を招く

 Windows Vistaには、実に5種類のエディションが設定されている。具体的には、「Home Basic」、「Home Premium」、「Business」、「Enterprise」、「Ultimate」の5種類だ。ちなみに、Windows XPは、「Home Edition」、「Media Center Edition」、「Professional」、「Tablet PC Edition」、そして、日本国内ではなかったが、「Starter Edition」が設定されていた。

 Vistaでは、実質的にTablet PC EditionとMedia Center Editionの機能が統合されてしまうこと、また、Enterpriseがボリュームライセンスのみということを考えると、各社から出荷されるPCにプリインストールされたり、パーツショップで自作用に購入できるOEM版、そして、Microsoftからの正規パッケージとして入手できるのは、Starter Editionや64bit版まで入れれば、多少は選択肢は広がるものの、実質的にHome Basic、Home Premium、Business、Ultimateの4種類ということになるだろう。

 Microsoftは、Home Basicをエントリーレベルのコンシューマー向け製品として位置付けている。Home Premiumは、BasicにAero GUIやMedia Center、Tablet PCの機能を追加したものであり、Ultimateは、Vistaのすべての機能を実装したフラッグシップとなる。

 さらに、Businessは、Home PremiumからMedia Centerの機能を省略し、モビリティやドメイン参加、ファイルシステムの暗号化などを実装したものとなっている。

 整理すれば、Home Basicとその豪華版、Businessとその豪華版という4種類に整理できるわけだ。この発想でいくと、HomeはPremiumでもモビリティはあまり考えられていないことになる。それで、本当にいいのだろうか。たとえば、Home Editionプリインストール機を購入した大学生は、PCを学校で使ったりしないのだろうか。

 Windows XPは、当初、Home EditionとProfessionalでスタートし、Homeのプレミアム版としてMedia Center Edition、Professionalのプレミアム版としてTablet PC Editionが追加された。それと、似ているようではあるが、けっこうやっかいな問題を抱えているようにも感じる。

●プロダクトキーを変更すればエディションが変わって欲しい

 Windows XPにおけるHomeとProfessionalの大きな違いは、Windows Serverのドメイン参加機能の有無、リモートデスクトップサービスの有無、オフラインフォルダ機能の有無くらいのものだった。とはいえ、けっこう重宝する機能なので、ぼくは、できるだけProfessionalを使うようにしてきた。だが、メーカープリインストールがHome EditionやMedia Center Editionの場合は、わざわざ、それをアップグレードしてまで使う気にはなれないし、だいいち、メーカー側が各種のプリインストールアプリケーションの動作保証をしてくれるかどうかも怪しい。

 これは、予想にすぎないのだが、現在、Home Editionで出荷されているようなコンシューマー製品ではHome Basicが、Professionalで出荷されているようなビジネス向けPCではBusinessで出荷されることになるだろう。

 だが、製品の価格を抑制し、類似モデルの種類を減らすために、すべての製品がHome Basicで統一されて出荷されるようなこともあるかもしれない。上位のエディションが必要なユーザーは、別途、差額を支払ってプロダクトキーを各社から購入し、初期設定時、あるいは、使用途中で、エディションを変更するわけだ。

 Vistaでは、Home Basic、Home Premiumともに、システム全体のバックアップ機能は用意されていないし、BitLockerなどによるファイルシステムの暗号化もできない。また、余分な機能と思うかもしれないがFAX機能もない。逆にBusinessには、ムービーメーカーやDVDメーカー、デジカメ写真のテーマ付きスライドショーなどが省かれる。

 多くのユーザーは、仕事と趣味の両方でPCを使うだろうから、結局は、全部入りのUltimateを欲しいと思う。ただ、これをプリインストールしたPCが製品として並ぶというのは考えにくい。

 だとすれば、店頭で売られているどのようなPCを買ってきたとしても、冒頭の手順でシステムのプロパティからプロダクトキーを変更するだけで、環境を引き継ぎながら、別のエディションに移行できることが保証されているなら、それはそれで歓迎だ。

 現時点で配布されているβは、Ultimateで、この機能を試せないのが残念だ。そろそろRC1の配布も始まるようだが、そのときには、ぜひ、全エディションのプロダクトキーを発行し、この機能を評価させてほしいものだ。

 もっとも、問題は価格だ。Home BasicをUltimateに変更するための差額としては、どのくらいが妥当だろうか。各ベンダーのダイレクト販売サイトで試してみるとわかるが、XPなら、Home EditionとProfessionalで価格差はほぼ1万円だ。ショッピングサイトでBTOするように、自分が必要なOSのエディションへの移行用プロダクトキーを、ショップでの店頭でPCの購入時にOEM価格で追加購入できるのが望ましい。Home BasicからHome Premium、Businessへは5,000円、Ultimateには1万円といったところだろうか。もう少し安いのが嬉しいが、そうしたくても実現が難しかったXP時代のことを考えると、多少は、状況は改善されたともいえるだろう。

●得られたはずのユーザー体験を捨ててはいないか

 1つのOSに、多くのエディションが存在するのには、問題点もある。すべてがUltimateであれば混乱は起こらない。ところが、あるはずのユーティリティがなかったり、オブジェクトの右クリックで表示されるコンテキストメニューが違ったりすると、サポートする立場はけっこうたいへんだ。また、PCの入門書などを書く立場からしても、どのエディションに合わせればいいのか迷ってしまい、結局は、中途半端なカリキュラムになってしまうかもしれない。

 高校や大学でPCが授業に取り入れられていたとしても、店で売られているPCとは様相が違うというのもまずいと思う。

 PCをショップで購入するのは、PC Watchのような専門サイトを毎日欠かさず読んでいるようなパワーユーザーばかりではない。PC購入者の多くは、たとえ、それが2台目、3台目のPCであったとしても、最初に入っているエディションを、別のエディションに変更しようなどとは夢にも思わないだろう。そして、そのことによって、本当だったら得られたはずのユーザー体験を知らないままで、次の数年を過ごすことになるかもしれない。

 困っていることに本人が気がついていないのなら、それは、困っていないのと同じことだと言い切っていいのだろうか。PCの可能性はソフトウェアとハードウェアの協調によって大きく左右される。2007年の年明け、どのような状況になっているのか、ちょっと心配ではある。

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(2006年9月1日)

[Reported by 山田祥平]


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