山田祥平のRe:config.sys

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 携帯電話がもたらした功績の中で、もっとも注目すべきものは、電話番号を場所へのポインタから、人へのポインタに変えたことだろう。いわゆる固定電話は、文字通り、特定の場所に固定されているため、特定の電話番号をダイヤルした場合、ベルが鳴るのはそこに設置された電話機であり、さらには、誰が出るかも保証されない。かつては、それが当たり前だった。でも、携帯電話はその常識をくつがえしたのだ。

●ようやく始まるMNP

 もうすぐMNP(モバイルナンバーポータビリティ)が始まる。ご存じの通り、携帯電話番号のポータビリティを提供するサービスで、一定の料金を支払えば、携帯電話事業者を乗り換えても電話番号は変わらない。つまり、人へのポインタというべき電話番号のアイデンティティに磨きがかかるわけだ。電話番号を変えたくないばかりに、他事業者の端末に魅力を感じながらも、乗り換えられないでいた方には朗報だ。それに、事業者間の競争も激しくなり、サービスや料金の向上も期待できる。

 冒頭に、固定電話は誰が出るのか保証されないと書いたが、携帯電話はおおむね本人が出る。少なくともぼく自身は、携帯電話宛にダイヤルしたら家族が出たという経験はない。

 携帯電話番号は今のところ11桁。以前は10桁だったが、1桁増えたという経緯がある。電話番号の形式は、090-CDE-FGHJKで、今のところ、090または080に続くCDEの部分3桁が事業者ごとに指定され、さらにそれに続くFGHJKの部分5桁が端末を特定する。

 つまり、実質的には8桁で端末が識別され、00000000から99999999まで1億通りを区別できる。日本の人口が1億2千万だとしても、先頭の3桁を別に用意すれば、完全に個人を特定することができるはずだ。1人が複数の電話番号を持っていたとしても余裕で対応できるだろう。

 特定の人物の携帯電話番号を知ることができれば、その人が引っ越そうが、移動中であろうが、海外にいようが、確実に、その人物に連絡をとることができる。もちろん、高いローミング料金を払うかどうかは別問題だが、ほんの20年前には、こういう状況は想定されていなかった。もし、想定していたら、最初から事業者識別のための数字が番号に含まれるような設計はしていなかっただろう。

 携帯電話のユーザーにとって、相手の使っている事業者など知る必要もないし、知ったところで何のメリットもない。現に、固定電話は、番号が固定されていても、その回線事業者を自由に選べるのだから、できて当たり前の話なのだ。

●新しいのに古いメディア

 MNPは電話番号のポータビリティを可能にしたが、その一方で、メールアドレスのポータビリティについては積み残しになった。NTTドコモがiモードのサービスを開始したのは'99年で、その当時はすでにインターネットはかなり一般的なものになっていたはずだ。当然、メールアドレスが個人へのポインタであることや、世界中どこにいても受け取れる電子メールの利便性なども理解されていたと思う。

 だが、NTTドコモはiモードのユーザーに対して「携帯電話番号@docomo.ne.jp」形式のメールアドレスを割り振った。ビジネス的に考えれば、当たり前のことだが、それが今になってメールアドレスポータビリティを阻む障壁となってしまっている。

 電子メールというものが一般的になってずいぶん経つが、電子メールを利用し始めてから、一度もアドレスを変更したことがないというユーザーは、そんなに多くないと思う。たとえばプロバイダを乗り換えればアドレスは変わるし、小学校、中学校、高校、大学、各種学校、企業、転職すれば次の企業と、所属する組織が変わるごとにアドレスも変わる。本来は、移転通知や変更通知とは無縁でいられるはずのメディアなのに、その特性の恩恵を被ることができない状況が続いている。

 企業の一員として使うメールアドレスはともかく、プライベートのメールアドレスくらいは、一生変わらないことの保証が受けられてもいいんじゃないだろうか。e-Japanを構想するなら、本人が望めば、国民の1人1人が生涯通じて使える電話番号とメールアドレスを持てるようなインフラくらいは想定してほしいものだ。もちろん、そのときには、番号やアドレスに自治体の識別コードが含まれるようなことがあってはならないし、変更の自由、取得するしないの自由も認められるべきだ。

●組織前提のインターネット

 携帯電話事業者に限らず、メールアドレスポータビリティの実現は、インターネットがドメイン構造をとっている限り、ちょっと難しそうだ。今にして思えば、そもそも、メールサービスが接続サービスのオマケのような形で提供されてしまったことがいけなかったのだと思う。黎明期のパソコン通信サービスのように、あくまでも閉じた環境であるならあきらめもつくが、ドメイン間でメッセージが行き交うことが前提のインターネットメールでは、もう少し別のやり方があったに違いない。

 現在のインターネットの構造の中で、未来永劫使えるメールアドレスを取得しよう思うなら、汎用ドメインを個人で取得するのがもっとも簡単だ。ドメインという言葉からも想像できるように、インターネットが組織を前提に階層化されている以上、たった1人で構成された組織としてドメインを作るしかない。特定の企業のサービスに依存すると、倒産や事業縮小、合併や買収などで、そのサービスが終了してしまう可能性がある。銀行さえつぶれてしまう世の中だから、何があってもおかしくない。その点、自分専用のドメインなら、登録を更新する限り、存続は保証される。

 問題はコストだ。ちなみに、ドメイン名登録管理サービスのJPDirectによれば、現在、汎用jpドメイン名の登録申請には9,450円、1年ごとの登録更新料が7,350円かかる。レジストラを選べば、もう少し安くはなりそうだが、これが10分の1くらいの価格ならいいのになと思う。さらに、そのドメインをどこかにホスティングしなければならないが、それは、プロバイダのサービスの一環として気軽に利用できるようになっていればいい。これならプロバイダを変更することになっても、ホスティング先を変更するだけですむ。

 携帯電話もインターネットも、ごく普通の市民が当たり前に使うようになって、まだ10年程度しか経っていない。将来の見通しが甘かったことを、今から嘆いても仕方がない。どうすれば、次の10年がうまく機能していくのかを考え、豊かな未来を夢見たい。

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(2006年9月8日)

[Reported by 山田祥平]


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