大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

富士通東日本福島リサイクルセンター訪問記
~PCリサイクルの現場を見る




富士通アイソテック内にある富士通東日本福島リサイクルセンター

 富士通のデスクトップPCの生産拠点である富士通アイソテック(福島県伊達市保原町)は、他社の生産拠点には見られないユニークな特徴がある。

 それは、PCやサーバー、プリンタの生産拠点と位置付けられるだけでなく、PCの修理拠点としての機能を持つこと、さらに、PCを廃棄する際のリサイクル工場としての役割を担っていることだ。

 PCの生産と修理を1カ所で行っている生産拠点は、他社にも例があるが、リサイクル工場まで併設している生産拠点は富士通アイソテックだけだといっていい。

 今回、富士通アイソテックの中にある富士通東日本福島リサイクルセンターを訪問する機会を得たので、その様子をレポートしよう。

●メーカーに義務化されているPCリサイクル

PCリサイクルマーク

 PCリサイクルマークを見たことがあるだろうか。

 これは、家庭で利用されて不要になったPCを、最終的に廃棄する際に、資源に変え、リサイクルしようという働きかけのために、PCメーカー各社などが参加している有限責任中間法人パソコン3R推進センターが制定したものだ。

 家庭用PCは、2003年10月から、資源有効利用法に基づいて、リサイクル/再資源化が義務付けられ、すべてのPCメーカーは、排出されるPCを自主回収し、部品や材料を再資源化しなくてはならない。

 このマークが貼付されたPCは、PCを購入した時点で、購入者が自動的にリサイクル費用を支払っており、メーカーに連絡すれば新たなリサイクル料金の負担がなく回収してくれる。

 一方、企業で利用される事業系PCも同様に、2001年4月から、資源有効利用法により再資源化が義務付けられている。

 今回、紹介する富士通東日本福島リサイクルセンターは、PCメーカーが法令で義務付けられているPCの再資源化を行うための拠点であり、富士通ブランドの家庭系PCおよび、企業から排出された事業系PCなどのリサイクルを行なう施設なのである。

 同センターの運用は、実際には、富士通グループの1社であるエフアイティフロンティアが行なっており、日本全国から回収された富士通製の家庭向けPCのうち、約7割がここでリサイクルされることになる。

製造、販売からリサイクルまで

 製造拠点と同一敷地内にあることで、製造ノウハウで培った技術力などを活用しながら、リサイクルが可能になるのが特徴だ。

 ただし、製造現場では、在庫を持たないJust In Time(JIT)方式が追求されるのに対して、リサイクルセンターでは、まず排出品を引き取る必要に迫られる。センター側の都合で在庫を持たないという手法は通用しない。しかも、引き取ったものを法令に基づいて厳しく管理する必要もある。

 富士通東日本福島リサイクルセンターでは、センター内に3段式の移動型ラックを設置。少ないスペースでも大量の在庫を収納できるような効率的な仕組みを導入。さらに、法令に基づいた管理基準を満たした施設とし、入荷重量と出荷重量をしっかりと管理し、それを行政へ報告する仕組みを構築している。これによって、リサイクルセンターを機能的に運用することに成功している。

 富士通アイソテック内の他の生産施設のフェンスに比べて、やや高い1.8mのネットフェンスを採用しているのも、福島県の廃棄物処理施設に関する条例で定められた管理基準に準拠したものにしているためだ。

 また、行政に報告するためのデータを管理するシステムについては、適切なものが無かったことから、独自に開発。入り口に設置している計量器と、バーコードを利用して在庫管理および工程内の管理を行なうシステムとを連動させることで、法令で定められた厳しい管理基準にも対応できるようにした。

 「センターに入荷した重量と、リサイクル作業後に出荷する重量とをパレット単位で計量し、行政へ報告するこのシステムは当社独自のもの。他のリサイクルセンターからも引き合いがある」(エフアイティフロンティア富士通東日本福島リサイクルセンター リサイクルビジネス部 関実部長)という。

 家庭や企業から排出されたPCは、富士通東日本福島リサイクルセンターに運び込まれ、ここで分解、分別作業が行なわれる。約2日前にはどれだけの排出品がセンターに入庫するかがわかり、そのデータと照合したものだけを受け取る仕組みとなっている。

回収から資源化までの基本的な流れ

 入庫した排出品は、すべてを手作業で分解、分別する。これらの作業は、製造工程で培った分解ノウハウや、材料ごとに的確に分別するノウハウを持った熟練した社員が行なうのが同センターの特徴だ。

 運び込まれたPCは、プラスチック部品、フィルム/ポリ袋、発泡緩衝剤、金属部品、ケーブルなどの線材、プリント基板、コネクタ、ディスプレイなどに分解され、一部部品に関しては破壊や溶融などの作業も行なわれる。

 また、分解、分別する部品の中には、富士通アイソテックの生産施設から排出される工場廃棄物も含まれる。

 分解されたのちに、ABSやポリカーボネイト、混在プラスチック、鉄/アルミニウム、貴金属含有材、ガラスなどに仕分けされ、それぞれプラスチック材料メーカー、製鉄所、金属メーカー、精錬メーカー、ガラスメーカーなどに再生用材料として出荷され、リサイクルが行なわれる。

 プラスチックに関しては、約20種類に分別。2つ以上の材料で構成された部品に関しても、専門知識を持った社員が的確に分別している。

 「循環型社会において、富士通が適切なリサイクル処理を行なう拠点として、これからも社会に貢献したい」(エフアイティフロンティアの高橋淳彦取締役)としている。

 では、写真で、富士通東日本福島リサイクルセンターの様子を追ってみよう。

リサイクルセンターでは、まず最初に、保管倉庫内にリサイクルされるPCなどを入庫する。効率的に利用するために階層化している。これだけで10tトラック20台分の排出品を収容できる 家庭系PCのリサイクル保管スペース。事業系PCとは区別されている
保管倉庫から分解/分別作業エリアに持ち込まれるPC。1台ごとにバーコードで管理されている。入庫時点から情報はすべてバーコードで管理。どこからどんなものを回収したかといった情報が、作業者などに明らかになることはない 家庭系PCの分解/分別ライン
最初の工程は、成型品の分解、分別とシール剥がし作業。手際よく分解される
事業系PCの分解/分別作業エリア。経験を積んだ社員が、手作業によって適切な分別を行なう
大型のブラウン管ディスプレイもここで分解される ブラウン管は、国内でのリサイクル業者が少なく、中国など海外で行なわれることが多い PCのプリント基板からは、天然の金鉱石に比べて、重量あたり10~100倍の金が回収リサイクルされるという。そのほか、銀、銅、パラジウムもリサイクルされる
分別された状態。これはプラスチック部分だけをまとめたもの 廃プラスチック材料判別機。ドイツ製。赤外線をリサイクルする部品に当てると、その反射などによって、どんな材料が利用されているかが認識でき、的確な分別ができる 鉄は、鉄だけに分類されたのち、製鉄所などに送られて、再利用されることになる
情報記憶媒体処理室で、HDDなどの記憶媒体を、リサイクル前にデータ消去などの処理を行なう。関係者以外は立ち入れないように厳重に管理されている HDDクラッシャーを導入 これにより、HDDの4箇所に穴があけられる
破壊により、データを再生できなくしてから、リサイクル作業を行なう 磁気テープもとりまとめて、再利用される。これも磁気消去装置でデータを消去してからリサイクル工程に流れる
分別された部品は、プラスチック材料メーカーや金属メーカーに向けて出荷されそこでリサイクルされる 分解、分別されたものは、プラスチック材料メーカーや金属メーカーでリサイクルされると、このような再生材に生まれ変わることになる

□富士通のホームページ
http://jp.fujitsu.com/
□富士通アイソテックのホームページ
http://jp.fujitsu.com/group/fit/
□関連記事
【5月19日】NEC、2005年度は28万2千台のPC/ディスプレイを回収/再資源化
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0519/nec.htm
【4月18日】【大河原】エプソンが純正インクにこだわる理由
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0418/gyokai157.htm
【4月12日】平成17年度の家庭向けPCリサイクル実績は29万台
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0412/pc3r.htm

バックナンバー

(2006年8月17日)

[Text by 大河原克行]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.