●外付けストレージに求められる条件 外付けのストレージというのは、PCと同じくらい長い歴史を持つ製品かもしれない。黎明期においては、ストレージデバイス(HDDやFDD!)があまりに高価で、本体に内蔵することが難しかったことが理由だった。もちろん、今はそんなことはないし、HDDを内蔵していないPCなど、まず考えられない(フラッシュメモリしか搭載しないVAIO type Uのような「特別」なものは別として)。 しかし、PCにHDDが内蔵されるのが当たり前になった今も、外付けストレージという製品は存在を続けている。かつての、システムを起動するプライマリストレージという役割は内蔵HDDに譲り、そのバックアップ用が主な用途だ。 バックアップといっても、さまざまな意味合いがある。それこそ、システムのプライマリストレージを丸ごと1つのイメージファイルとして保存する用途から、システム内の貴重なデータをPCと外付けストレージの両方に保存することで、万が一にもデータを失うことはないように、という用途もあるだろう。 PCをはじめとするデジタル機器が普及するにつれて、ストレージに蓄積されるデータの重要性も増している。以前なら紙焼きやフィルムという形で残った家族の思い出(写真)も、今ではPCのHDDにだけ残っている、ということも珍しくない。もしPCのHDDに何かあったら、家族の思い出はそっくりなくなってしまう。PCと外付けストレージの両方にデータを保存するようにしておけば、ハードウェアの故障で大事なデータを失う可能性はグンと低くなる。 そうでなくても、PCの寿命は2~4年程度しかない。言い換えれば、2~4年のサイクルで重要なデータを次のPCへと移し続けていく必要がある。重要なデータをPCと外付けストレージの両方に置いても、いつかは次のハードウェアへの移行が生じる(PC同様、外付けストレージの寿命も有限)わけだが、PCの買い換えサイクルとデータの移行を非同期にすることが可能になる。これは、PCの環境移行という「大仕事」のドタバタにまぎれてデータを失う、というリスク(うっかり特定のフォルダをコピーするのを忘れた、など)が劇的に減ることを意味する。そうでなくても一時的なデータの待避など、環境の移行作業に、外付けストレージがあると便利なことが少なくない。 こうした外付けストレージに求められる要件は、まず大容量であること、そして信頼性が高いことだろう。もちろん、接続インターフェイスが長期的に利用できるものであることも重要だ。こうした条件に合致しそうなデバイスとして、バッファローの「HD-W500IU2/R1」を取り上げてみることにした。実勢価格は36,000円前後の製品だ。 ●3つの動作モードを備えたHD-W500IU2/R1
HD-W500IU2は、2台のHDDを内蔵する外付けストレージ製品。ここで紹介する500GBタイプ(250GB×2)に加え、400GBのHDD2台を内蔵した800GBモデル(HD-W800IU2/R1)も用意される。接続インターフェイスとしてUSB 2.0とIEEE 1394の両方をサポートする(ただし同時使用は不可)。 特徴は、2台のHDDの動作モードを3種類から選べること。2台を2台のまま利用するノーマルモード、2台のHDDで1つのボリュームとするスパニングモード、そして2台のHDDをミラーリングペアとして利用するRAID 1モードだ。RAID 1モードを利用すると、容量は1台分になってしまうが、万が一どちらかのドライブがクラッシュしても、残ったドライブでデータが保全される。これらの切り替えは付属のRAID設定ユーティリティで行なう。 本機が対応するOSは、Windows 98以降とMac OS 9.1以降。ただし、Intelプロセッサを搭載したMacでは、今のところ上のRAID設定ユーティリティが動作しない(設定済みのドライブを利用することは可能)。今後のバージョンアップが待たれるところだ。 複数OSサポートに合わせて、本機では3つのファイルシステムがサポートされる。デフォルトのFAT32、Windows 2000/XPで利用されるNTFS、そしてMac OS拡張フォーマット(HDFS+)だ。それぞれの長所と短所については、概要を表1にまとめておいた。4GBを超えるファイルを作成しないならFAT32(デフォルト設定)のまま、4GB以上のファイル作成が必要なら、システムに合わせてNTFSあるいはHDFS+にすることになるだろう。 HDFS+にすると、Mac OS以外のOSからのアクセスができなくなるが、NTFSの場合Mac OSから読み出すことは可能だ(Mac OSからNTFSをマウントするサードパーティ製ツールもあるが、筆者自身は使ったことはない)。
【表1】本機でサポートされる3種類のフォーマット
さて本機だが、2台のドライブを内蔵していることもあって、手に取るとズッシリした感触。電源を内蔵しており、ACアダプタが不要なかわりに、冷却ファン(直径5cm)を内蔵する。背面には電源スイッチに加え、IEEE 1394ポート(4ピン/6ピン)、USB 2.0の各ポートが用意される。本機を同時に2台のPCに接続することは許されておらず、IEEE 1394とUSB 2.0の同時使用、2つあるIEEE 1394の両方にPCを接続することはできない。IEEE 1394の片方にPCを接続し、もう片方に別のIEEE 1394機器を接続すること(周辺機器のデイジーチェーン接続)は可能だが、電源のない4ピンコネクタを使う関係上、本機の電源を落とすと、デイジーチェーンした周辺機器の利用もできなくなる。 RAID 1をサポートした本機は、当然のことながら故障したHDDの交換ができなければならない。HDDの交換は簡単で、前方底部の2本のネジを外すとフロントパネルが開き、ドライブにアクセスすることができる。今回試用した製品では、Western DigitalのCavier SEが使われていた(表2)。HDDは専用金具と1本のネジでケースに固定されており、交換作業は容易だ。ネットワーク接続型のストレージと異なり、HDDにOSなどが記録されているわけではないので、ドライブの交換はそのまま物理的な交換作業を意味する(ネットワークOSの再インストールなどは不要)。
【表2】内蔵されていたドライブ
(すべての製品にこのドライブが使われているとは限らない)
バッファローでは、純正交換ユニットの使用を勧めているが、製品保証を失うことを覚悟すれば、一般的なシリアルATAのHDDを用いることもできる。もちろんRAID 1で運用中にHDDを交換する場合は、使用していたHDDと同じかそれ以上の容量のドライブでなければならない。RAID 1の場合、ドライブを交換するとリビルド作業(新しく交換したドライブに、もう1台のドライブからデータをコピーし、ミラーリングペアを復旧する作業)が自動的に開始されるが、それには500GBモデルで10~11時間、800GBモデルで17~18時間を要する(リビルド作業自身は、本機のファームウェアで処理されるため、PCで何かをしなければならない、ということはない。むしろ、リビルド完了まで何もしない方が良い)。 ●ベンチマーク結果 このHD-W500IU2について、標準的なベンチマークプログラム(WindowsはHDBENCHとPCMark 05、Mac miniはXbench)を用いて、簡単なテストを行なってみた。ホストに使ったのは表3に示したWindows PCと、表4に示した2台のMac miniだ。テスト結果については表5と表6にまとめておいたが、表5にあるベアドライブというのは、本製品に内蔵されていたCavier SEをマザーボードのシリアルATAポートに直接接続した場合のスコアである。同様に、表6の内蔵HDDのスコアは、Mac miniが内蔵しているドライブでXbenchを実行した結果であり、2台は異なるドライブ(表4参照)を用いている。
【表3】テストに用いたWindows PC
【表4】テストに用いた2台のMac mini
【表5】Windows PCによるテスト結果
* 実際に利用可能な容量は、設定可能なパーティションサイズ等に依存する
【表6】Mac miniによるテスト結果(Xbench 1.2)
* 実際に利用可能な容量は、設定可能なパーティションサイズ等に依存する
まず結果全般から分かることは、ファイルシステムの違いによる性能差はほとんどない、ということだ。したがって、本機でどのファイルシステムを利用するかについては、表1の長所と短所で決めて問題ないものと思われる(ディスクの断片化の起こりやすさなど、ほかにも違いはあるだろうが、どれかのファイルシステムにしたからといって、ディスクの断片化が完全に防げるわけではない)。なお、Windows版のRAID設定ユーティリティを実行し、動作モードを変更すると、ファイルシステムは必ずFAT32にリセットされる(データも失われる)。NTFSで利用する場合は、Windows 2000/XPのディスク管理を用いて、別途フォーマットする必要がある。 ファイルシステムと同様に、本機の動作モードによる性能差もほとんど見られない。したがって動作モードも容量と信頼性のトレードオフのみで決定して良いだろう。信頼性が重要ならRAID 1、容量が重要ならノーマルかスパニングだが、スパニングの場合、片方のドライブが故障すると、両方のドライブのデータが失われることに注意が必要だ。250GBを超える単一ボリュームが必要でないのなら、ノーマルモードで使った方が安心だろう。RAID 0(ストライピング)と異なり、スパニングに性能面でのアドバンテージはない。 最も顕著な性能差が見られた、というより唯一顕著な差が生じたのは、接続インターフェイスの違いだ。Windows PCでおおよそ50%から100%、Mac miniではそれ以上の性能差が見られた。特にMacでは、差がハッキリと体感できるほど大きく、できればIEEE 1394接続で利用したい。 また、Mac miniではIEEE 1394接続ではIntelプロセッサとPowerPCで差が見られないのに対し、USB 2.0接続ではIntelプロセッサの方が良いスコアを出す傾向が見られる。やはりIEEE 1394に比べ、USB 2.0はホストプロセッサの処理能力に依存する部分が大きいようだ(その代わり、USB 2.0の方が実装に必要なトランジスタ数が少なく、チップセットなどへの統合に適する)。 さらにMac miniではIEEE 1394接続した本機の方が、内蔵HDDより良いスコアをたたき出した。これは、Mac miniの内蔵HDDが2.5インチドライブで、3.5インチドライブとの差が出たものと思われる。その一方で、3.5インチドライブの発熱量は大きく、HDDでも熱と性能はトレードオフの関係にある。 ●より大容量のHDDに交換
さて、以上は本機の工場出荷状態でのテストだったが、試みにHDDをさらに大容量のものに交換してみた。用いたのは日立グローバルストレージテクノロジーズのDeskstar 7K500(500GB)だ(表7)。 交換作業は簡単で、HDD固定金具を元のドライブから新しいドライブへ移し、再び固定するだけ。後はRAID設定ユーティリティでの設定と、フォーマットを行なえば良い(Windows XPの場合)。ベンチマークのスコア(表8)は、交換前の状態とほとんど変わらないが、ランダムリードの性能で若干上回る傾向が見られた。これはDeskstar 7K500の基本性能の高さ、およびがCavier SEの2倍のバッファサイズ(16MB)を持つことによるものではないかと思われる。 いずれにしても、HDDの交換が容易な本機は、将来さらに大容量の必要が生じても、自分でドライブを交換して使い続けることができそうだ。ドライブの接続インターフェイス(内部)もシリアルATAだから、ドライブの供給に困ることもないだろう。 長期的に見れば、外付けストレージのインターフェイスも徐々にeSATAに切り替わっていくだろうが、現時点でeSATAを標準サポートしたメーカー製PCは存在しない。マザーボードの背面I/OパネルにeSATAを標準搭載した製品もまだ少ない。つまりeSATAへの移行は、これから起こるところであり、現時点で最も広く使われているのはUSB 2.0だ。仮にeSATAが普及したとしても、それによってUSB 2.0が不要になるわけではないから、インターフェイスが理由で本機が使えなくなるとは思いにくい。
【表7】交換に用いたHGSTのドライブ
【表8】Deskstar 7K500換装後のテスト結果
* 実際に利用可能な容量は、設定可能なパーティションサイズ等に依存する
外付けストレージのもう一方の雄として普及しつつあるのが、ネットワーク接続型の製品(NAS)だ。クライアントに専用ドライバやアプリケーションをインストールする必要のあるもの(NDASなど)、汎用のものなどさまざまな製品が提供されている。 ネットワーク接続型、特に汎用型の長所は、デバイスとしての独立性が高く、クライアントPCへの依存性が低いことだ。たとえば本製品では、上述したようにPCのOSに合わせてファイルシステムを選択せねばならない。また、本製品の接続中、パワーマネージメントを無効に設定するよう求めている。が、ネットワーク接続型であれば、このような制約はない。その代わり、本機のように直接PCに接続可能な製品は、性能が高く、ネットワークのインフラがなくても利用できるというメリットがある。それぞれのメリットとデメリットを踏まえて使い分ける、というのが最も望ましい利用法だろう。
□バッファローのホームページ (2006年8月1日) [Reported by 元麻布春男]
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