Microsoftが提唱する新たなフォームファクタ“Origami”ことUltra-Mobile PCが、日本国内でお披露目された。ハードウェア的にはまだまだだと思うが、これから登場するであろうアプリケーションを含めたプラットフォームとしてはどうだろう。フルWindows XPが動き、Vista稼働も照準に据えたコンパクトなPCだが、その先に未来はあるのだろうか。 ●安かろう悪かろうでは意味がない 米Microsoft Windows Mobile Platforms Division担当コーポレートバイスプレジデントのビル・ミッチェル氏は、スマートフォンやPocket PCと、Windows PCでは、落差が大きすぎることを指摘、その隙間を埋めるものがOrigamiであるとする。そして、携帯電話と同じくらいに有用なものになることを目指しているという。 携帯可能なフォームファクタを低価格で提供するというのがOrigamiの目的だ。いわゆる10インチユーザーインターフェイスを提供し、ISVとも協業、そこで使われるOrigami指向のアプリケーションが、今後、続々登場するとのことだ。また、日本はモバイルエレクトロニクスのリーダーであると指摘し、そこでさまざまな使い方を開拓していきたいとミッチェル氏はアピールする。 日本初の活用事例としては、立命館小学校における全校導入を視野にいれた試験導入が紹介された。ここは、京都にあるこの4月に開校したばかりの新しい小学校だ。 その副校長が“100ます計算メソッド”で知られる立命館大学教授の陰山英男氏だ。過去における広島県での教職時代、陰山氏はTablet PCを数十台導入した実績もあるらしい。ただ、ビジネス用途のマシンは児童には持ち運びが厳しく、小さいながらもペンをサポートしたデバイスを切望していたという。でも、実際に問題だったのは、どうやら1台あたり20万円を軽く超えてしまうコストにあったようだ。 今回は、Origamiを三年生の1クラス分導入し、1人1台の環境を整え、教育コンテンツを載せて授業に使っていくということだ。 児童はOrigamiを家庭に持ち帰り、自宅ではインターネットに接続して、学校のデータベースを参照、自分の長所や弱点をチェックしながら、効率的に学習を進めることができるようにするらしい。 でも、考えてもみてほしい。朝、フル充電したOrigamiを持って自宅を出た子どもたちは、学校に着き、国語と算数の授業でそれを使い、休み時間も自習をするような使い方をすると、今回、初対応機として紹介されたPBJのSmartCaddieの約2.5時間というバッテリ駆動時間はスッカラカンだろう。そして放課後、子どもたちは、バッテリ切れで動かなくなった900g近い物体をランドセルに入れて移動、塾などに向かうことになる。 ●Origamiの未来に日本での成功は不可欠 コードネームOrigamiには、コンパクトでエレガント、そして表現力が高いという意味が込められているという。美しくて小さいものを表しているらしい。コードネームとしてはHaikuというプランもあったらしいが、大きな紙から小さいものを作り出せるOrigamiに落ち着いたようだ。Microsoftとしても、日本で受け入れられないものに成功はなく、だからこそ日本での成功は不可欠だとしている。Origamiというコードネームからは、そんな日本を強く意識している同社の姿勢が感じられる。 PBJによるSmartCaddieは、Microsoftのリファレンスデザインに非常に近いものだそうだが、それは、Microsoftが強要したものではなく、PBJ自身が自由な形で展開した結果だという。 ただ、10万円を切る価格はがんばったと思うが、そのコストが仕様や製品の完成度、洗練度を大きくスポイルしているのは明白だ。 たとえば、2.5時間というバッテリ運用時間も、最新の省電力技術を持ってすればもっと延びただろうし、それができなくても、もう少し高容量のバッテリを搭載することだってできたはずだ。また、マグネシウム成型の肉薄素材などを使えば、ボディももっと軽量化できたにちがいない。7インチというディスプレイは、携帯電話とパソコンのスクリーンの間を埋めるサイズとしては妥当だと思うが、解像度は800×480ドットと、リッチ化が進むWebを楽しむには厳しい。エミュレーション機能を使って、XGAもどきの表示もできるようだが、ちょっとつらいものがある。 この製品を皮切りに、今後、続々各社の自信作が登場するというのであれば、期待もできるのだが、残念ながら、国内メーカーの参入宣言は、今回の発表会では聞くことはできなかった。売価が20万円になってもいいなら、もっともっといいものはできるのだろうが、10万円を切る価格ではつらいというのが、メーカー側の言い分だろう。それも理解できないわけではないが、今一つ、食指が動かない。 ●FuroshikiにできてOrigamiにできないこと すでにポケットの中は携帯電話に居場所を奪われてしまっている。となると、ハンドバックやデイパックの中をノートパソコンと争うことになるのがOrigamiの宿命だ。普通は両方を持ち歩こうとは思わないはずだ。 もし、学校や職場でフルスペックのPCを使えるのなら、無線LAN経由でリモートデスクトップという使い方はあるかもしれない。それなら移動中は操作に多少窮屈な思いをしても、自宅や出先では、自分のパソコンとして運用できる。そういう意味では、中身が見えて加工できるハードディスクという感覚だろうか。つまり、これ自体で完結させるのではなく、大事な中身を携帯するためのデジタルブリーフケースだと考えてもよかったんじゃないだろうか。Vistaの世代では、複数のPCのデータを同期させるのが、とても簡単になる。セキュリティをしっかり確保し、重要なデータは、自宅、UMPCの両方で同期させ、必要に応じて職場や学校でそれを活用する。職場で私物のPCをネットワークにつなぐのは難しそうだが、学校ならなんとかなるかもしれない。 コードネームをつけるなら、Furoshikiだ。それにしたって、900gは重すぎるように思う。実際、PBJの製品を手に取ってみても、ズシリ感は否めない。 FuroshikiがOrigamiにかなわないのは、鶴を折れないところだ。折れたとしても、できあがった鶴は自立してくれないだろう。その代わりに、Furoshikiは、とてつもない汎用性を秘めている。使わないときには小さく折りたためるし、モノを包むだけではなく、いろいろな用途に使える。しかも、紙と違って布である。折り目が別の用途のための再利用を邪魔することもない。 個人的に、ノマドとしてのモバイルユーザーであるぼくは、出先でフルスペックのパソコンが使えることはまれなので、常に、パソコンを持ち歩く覚悟が必要だ。だが、世の中はそういう人たちばかりではない。書きかけのレポートを入れ、内容を推敲しつつ、それにあきたら、録画済み番組を視たり、音楽を聴いたりできるようなモバイルPCならニーズもあるかもしれない。それにしたって、2~3時間でバッテリ切れをしてしまうようでは、とても話にならない。これをモバイルと呼んではならないと思う。 □関連記事
(2006年4月7日)
[Reported by 山田祥平]
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