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富士通、新川崎サポートセンター見学記
~好立地の高層ビルにある24時間稼働の不夜城

新川崎サポートセンター

3月31日 見学



 PCという商品にとって、サポートという業務は欠かせない要素で、サポートの善し悪しによってメーカーへの信頼感は大きく左右される。

 いくつか行なわれているユーザー満足度調査においても、サポートセンターが改編されただけで大幅に順位を落とした例は珍しくない。設計や製造に比べると裏方という印象があるサポート業務だが、現状では製品の品質以上に、他社との差別化の大きな要素となっている。

 その一方で、サポートは、一定の部分までは無償で提供されるサービスであるため、無制限に人材や資金をつぎ込むことができる分野でもない。つまり、コスト管理を常に意識しながら、顧客の満足度を向上させなければならないという難しい分野なのだ。

 今回、富士通のパソコンサポートの拠点である新川崎サポートセンターを見学する機会があったので、その業務の一端を紹介したい。ここでは、富士通のPCのうち個人ユーザーを対象とするDESKPOWERやBIBLOのサポートが行なわれている。

●好立地の高層ビル

ツインタワーの高層ビルに入居している

 富士通の新川崎サポートセンターの一番の特徴は立地かもしれない。

 少なくとも、従来、見学してきたいくつかのサポートセンターとはかけ離れた、異色の存在だ。

 所在地は神奈川県下の31階建ての高層ビル内にある。このビルは、JRの2つの駅に挟まれたツインタワー形式のビルで、どちらの駅からも徒歩で数分だ。

 サポートセンターは、JRでは東京駅や新宿駅からも約30分ほどであり、首都圏内からの通勤圏内にある。もともと、この周辺は富士通やNECの工場地帯であり、富士通の本拠地からも電車で1本だ。

 東京都内ではないとはいえ、通常サポートセンターが、このようにコストの高い場所に置かれることはない。ある程度の敷地が必要なことや、労働集約的な要素も強いため、土地や賃金が安い場所を求めていく傾向が強い。場合によっては日本と時差の少ないオーストラリアや、中国などの海外に展開する例すらあるほどだ。

 富士通の説明によれば、人材の確保がキーとなっているようだ。首都圏という国内最大の人材供給源が背景にあるだけに、「人の集まりが良く、スキルが高い。ナレッジ(知識)の水準が維持できる」という。


3つの拠点はすべて国内

 立地についてはさらに、複数路線が利用可能で、数分の徒歩圏内にあることで、鉄道事故などのリスクを回避できるという。個人向けパソコンのサポートは、ここ以外に北陸と西日本(九州)の3拠点体制で、複数拠点にしているのは天災などのリスクを避ける意味もある。

 海外への移転については、「コスト面では有利かもしれないが、生活習慣などの違いから言葉や気持ちがうまく伝わらない。富士通は製造も国内拠点で行なっているように、メイドイン・ジャパンということや、お客様との関係を重視している」という。

 しかし、コストは無視できない。「サポートコストを下げる努力はもちろん必要で、サポート時間の短縮化を目指している。これは何でも早く終了させるという意味ではない。そんなことをしてもお客様の納得が得られなければ、また電話が掛かってきてしまうだけだ。困っていることはきちんと聞くのが基本で、ナレッジをサポートするシステムで、短縮できる部分の作業を減らしていく」というのだ。


●その場で解決することを目指したシステム

 実際にサポートを行なっているフロアも公開された。ここでは2フロアが充てられている。

 サポートフロアのセキュリティは厳重で、ICカードによるセキュリティチェックのほか、私物の持ち込み制限が行なわれ、入退室管理カメラも配されている。顧客の個人情報を扱う分野だけにセキュリティについては、厳しく配慮されている。

セキュリティ用のICカード TVカメラによる管理

 広いフロアは、サポートエリアのほか、管理、検証、品質調査などの部門が用意されている。Q&A事例作成の部署に人が多く割り当てられているのが注目される。

 フロアの中央には、顧客の待ち人数と待ち時間をリアルタイムで表示する大型のディスプレイが配置されている。

 サポートエリアは、8人のスタッフを1人のリーダーが管理する島型になっている。スタッフの席には、イントラネット用のPCとインターネットアクセス用のPCの2台が置かれている。個人情報保護のため、2つのPC間は断絶されており、ファイルのやりとりなどはできない。また、PCには指紋認証システムが設置され、ログイン時には認証が必要となっている。PCを操作しながら通話を行なうために、ヘッドセットが使用される。

スタッフ席。個々の席はパーテーションで囲まれている 席の配置は島型になっている。奥の天井から下がっている大型のディスプレイに待ち時間が表示されている オペレータースタッフ席の例。左側のPCが社内DBのアクセス用、右手のノートPCがインターネットアクセス用。指紋認証システムも見える。左の写真と別フロアだが、2台のPCと電話という構成は統一されている

 驚いたのは、社内のネットワークに用意されている知識DBの量だ。サポートのデモの手順を追いながら説明しよう。

 顧客から電話がかかってくると、最初に氏名などいくつかのキーとなる個人情報を聞き、電話を掛けてきている人が、ユーザー本人であることを確認する。ここで、ユーザーであることが認証されると、ユーザーの登録内容が表示される。

 ここでユーザー所有のPC本体の型番が確認できるわけだが、このPC本体についてのハードウェア仕様、インストールソフトのバージョン、マニュアル内容などが、すべて画面上で確認できる。また、PC本体の背面や底面、パッケージ梱包時の写真も用意されており、すぐに確認できる。

 デモは、デジカメの画像をCD-Rに焼くという内容だったのだが、ライティングソフトのシミュレーターも用意されており、スタッフも実際に画面の変化を確認しながら会話ができる。

顧客が所有している機種のサポート情報画面。多数の情報がリンクされている パッケージに入っているマニュアルの種類もすぐに表示できる 該当機種の実物写真や梱包状況も確認できる

ライティングソフトのシミュレーター。これで操作を確認しながら電話対応できる 蓄積されたQ&A情報は、顧客向けのWebサイトにも反映される 統一された応答手順が用意されている。バージョン管理され、アップデートされていることがわかる

 また、サポートの最後には5桁の数字が告げられ、同じ内容で問い合わせをした場合は、サポートが継続できるようになっている。

 もちろん、各社のサポートセンターでも内部の知識共有のためのシステムは構築しているが、ここまで徹底している例は初めて見た。構造的に言うと、顧客情報の「お客様登録DB」、Q&A事例や技術情報の「サポート情報DB」、対応履歴の「対応履歴DB」の3つがあるのだが、そのうちの「サポート情報DB」が良く整備されている印象だ。もちろん、データベースは3つの拠点で共有されている。

 これだけの用意をしてもすべての顧客に対して、すぐに解決が与えられるわけではないことは重々承知しているが、即答できる水準を上げようという意欲は十分に感じられた。

フロアの周囲には、動作確認用のPCがストックされている。かなり懐かしい機種もある

●24時間サポートの理由

 富士通の個人向けPCのサポートの一番の特徴は24時間のサポートだ。

 他社では、サポートの予約は24時間受付で、9時から17時に折り返すという例はあるが、24時間即答できるのは富士通だけだという。

 24時間サポートの理由は自宅からのインターネットアクセスが夜間に集中していることや、夜でないと問い合わせができない顧客の存在などだという。

 もちろん、24時間サポートのために無制限にコストがかけられるわけではない。必要に応じたコストの投下は、サポートという業務には欠かせない要素なのだ。

 まず、つながりやすさの向上のため、電話回線やスタッフを増強した。電話回線は2004年のそれまでの2倍に、スタッフ数は前年比で4割強化したという。

24時間サポートが富士通の特徴 応答率の推移。大きなウィルス騒ぎがきっかけとなっていることがわかる 入電状況に応じた複雑なシフト体制

 スタッフが対応できた「応答率」の変化をみると、2003年の初頭には50%台だったのが、2003年夏のBlaster騒ぎで20%以下に転落、2004年初頭に50%台に戻したところで、4月のSasserでまた30%台に転落している。つまり相次いだウィルス騒動がサポート強化の要因になっているのだ。2004年に強化が行なわれ、80%前後まで向上、9月のWindows XP SP2による落下も60%台に食い止め、その後は90%台を維持しているという。

 また、電話がかかってくる入電状況に応じて、スタッフを最適に配置するために勤務時間のシフトパターンも開発されている。このパターンは、スタッフが12のグループに分けられるという複雑なものだ。

 入電状況は、やはり9時から17時が多いため、最初のグループは9時~17時、次のグループは1時間早く8時~16時、逆に1時間遅いグループなどが主力となり、12のうち9のグループが多少なりと、この時間に勤務している。これに、18時~2時や、23時~9時の夜勤組などが組み合わされて、24時間をカバーしているのだ。

 これらの努力で、つながりやすさという「応答品質」を確保し、さきほど紹介したデータベースの整備で「回答品質」を向上させ、1回の電話で用件がすむことを目指しているという。この上に親切さや状況に応じた対応という「対応品質」の向上をめざしている段階で、電話による満足度調査などでは、非常に満足が71.3%、満足が23.3%で全体の95%まで向上したという。

●インターネット上のサポート

 ここまで見てきたのは電話窓口によるサポートだが、インターネット経由のサポートも重要になっている。

 富士通の場合、自分で持っている機種やスキルによってカスタマイズされた「マイページ」や、メールによるサポートが提供されている。ちなみにメールに対する回答時間は、翌日の同じ時間に間に合うように24時間以内が目標で現在の平均は14時間だという。

 3月31日からは、不具合が生じた際に、修理が必要かどうかを顧客が判断するため問診システム「WEB修理相談」も開始された。Web上で事故解決できる情報を提供するとともに、最終的修理が必要と判断されると、自動的に電話窓口に連絡され宅配便の手配まで行なうという。最終的にはWeb上で修理の手配や修理金額の見積もりなども実現する予定だ。

 人という高価なリソースを必要とする電話応対にたどり着く前に、自己解決の手段を提供するという意味で、Webサポートに期待される機能を果たしている典型的な例だろう。

リモートサポートのデモ。顧客のPCの画面を見ながら書き込みもできる

 また、直接インターネットを窓口にはしていないが、電話応対の際に、顧客のPCの画面を参照できる「リモートサポート」も3月から開始されている。現在の適用事例は数%だが、実施した場合は非常に有効だという。

 これは電話をかけてきた顧客の承諾の上でクライアントソフトをダウンロードして行なうシステムだ。使用する場合のほとんどが初心者ということで、口頭でうまく説明できないものが画面で確認できるため状況の把握がスムーズに行なえることや、言い間違いなどによるミスリードが防げることが有効だという。また、顧客の画面に書き込みをするドローイングの機能もあり、言葉で説明するかわりにマウスで指し示したり、丸で囲んだりできる。

 画面の参照にとどめてリモート操作にしていないのは、リモート操作によって時間短縮ができることが実証できていないためという。たぶん、自分の目の前で他人の手によって解決することもよりも、対話によって納得性を高めることを重視していることや、セキュリティ上の問題もあるのだろうと推測される。

●サポートのコストと難しさ

 私自身も、別の会社でサポート部門にいた経験があるが、サポートという業務は本当に難しい。

 ちゃんとやって当たり前で、失敗すれば顧客からも社内から叱責される。また、会社の顔ともいうべき部門なのに、コストを理由にリソースは思うように割いてもらえない。

 さらに、自分の経験で一番困るのは、限りあるリソースが一部のヘビーユーザーに消費されてしまうことだ。富士通の個人向けPCサポートは無料だが、電話サポートには10回という制限がある。ちなみにメールには制限がない。

 「通常、サポートを必要とされて電話窓口にくるお客様の大半が2~3回で終了する。だからといって無制限にすると、コストが跳ね上がってしまい、製品価格にまで影響してしまう」というのも、このあたりの事情だろう。

 今回見学させてもらったシステムは、当時の私からみればうらやましいものだが、それでも人を相手にする仕事だけに万全ということはあり得ない。電話アンケートでも3.7%は不満、0.6%は非常に不満と回答している。

 サポートを求めているユーザーは、PCという高価な製品を期待を持って購入し、それが期待通りに動かなかった人がほとんどだ。その信頼を裏切らないためにも、事例をこじらせないためにも、「納得」という言葉が何度も口にされるのだろう。

 説明を受けている間にも、多数の電話がかかっていた。電話の向こうの人たちの問題が早く解決してほしいと思う。そして、電話を受ける側には、いろいろな制約はある中で、そのために努力している人達がいることがよくわかった。

□富士通のホームページ
http://jp.fujitsu.com/
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(2006年4月3日)

[Reported by date@impress.co.jp]

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