HDDの小型化、HDDインターフェイスのシリアル化は、今後必ずやってくる潮流だ。とはいえ、手元にはまだまだパラレルATAの3.5インチHDDがゴロゴロしてる、というユーザーも少なくないことだろう。近い将来、こうしたドライブをどう再利用するか、ということが大きなテーマになるかもしれない。ここではそんな目的に使えるかもしれないアイテムをテストしてみた。 ●ミラーリング対応の「SC101」
最初に取り上げるのは、ネットギアの「SC101」だ。つい先日発売されたばかりのSC101は、ネットワーク接続型ストレージ(NAS)を構築するためのエンクロージャー。最大2台のHDDが内蔵可能で、ミラーリングをサポートする。ただし、RAID 0やJBODには未対応のため、上限である500GBのHDDを2台内蔵しても、1TBの単一ボリュームを構築することはできない。購入価格は16,800円だった。 特徴は、管理ソフトウェアにZeteraのZ-SANテクノロジを利用していること。Z-SANはIPプロトコルに独自技術を組み合わせたもので、TCP/IPを用いた汎用のNASと異なり、利用するクライアントに専用のドライバを組み込む必要がある。現時点でドライバが提供されているのはWindows XP(SP2以降)とWindows 2000(SP4以降)のみであるため、ちょっと古いWindowsクライアントやMacintoshが混在する環境では利用できない。また、IPアドレスはDHCPサーバーから取得する仕様になっており、DHCPサーバーのない環境で利用できない点は要注意だ。 また、SC101が提供するストレージスペースは、ユーザーからはローカルドライブに見えるものの、専用ドライバによるSCSIデバイスという扱いのせいか、Windows標準のゴミ箱などは使えない。メリットとしては、TCPを処理しないことで、汎用のNASより安価なプロセッサが使用可能になるということが考えられる。実際、本機は1万円台前半という買いやすい価格設定となっている。このあたり、以前このコラムで取り上げた、XimetaのNDASテクノロジを用いたアイ・オー・データ機器の「HDH-UL」シリーズと共通する。 ●制限の多い仕様 SC101の筐体は極めてコンパクトで、スマートなもの。電源がACアダプタのこともあり、3.5インチHDD2台の容積を一回り大きくしただけ、という印象だ。デザインは大きな貯金箱というか、蚊取り線香を入れる素焼きのブタというか、そんな感じである。
ドライブの取り付けは、前面パネルを中央のロックをコインなどで回して外し、現れたスロットにドライブをセットするだけ。ネジ回しも不要でとても簡単だ。この時、ドライブのジャンパ設定をCable Select(CS)にしておく必要がある。最近のドライブはおおむね工場出荷時にCSに設定されているが、既存のドライブを流用するユーザーは注意が必要だ。 それよりもっと大きな問題は、SC101が対応するドライブが、ATA-6準拠でなければならないことだろう。ATA-6で導入された新機能というと、Ultra ATA/100や48bit LBAといったあたりだが、SC101がこれらの機能を利用しているのかどうかは分からない(単にコマンド体系だけの問題かもしれない)。が、手元にあったHDDのうち、2000年~2001年前後に製造されたもの(40GB~80GBクラスの世代)は、認識されなかった。最大手のSeagateを例にすると手持ちの「Barracuda ATA IV」ではダメだったのだが、次の「Barracuda ATA V」ではシリアルATA版がラインナップに追加されたことを思うと、本当に新しいドライブ以外は難しいかもしれない。現時点ですでに古くなったドライブのリサイクルにはあまり向いていない製品のようだ。 HDDさえATA-6準拠であれば、ハードウェアの設定は本当に難しくない。何せ本機でユーザーが触れる部分は、Ethernetポート、ACアダプタ用のDCコネクタ、リセットスイッチの3つで、電源スイッチすらない。問題があるとしたら、ソフトウェアの部分だ。 基本的にはソフトウェアもウィザード形式で設定可能なもので、操作が難しいわけではない。が、フォーマットにやたらと時間がかかる一方で、進捗状況の表示がないため、とても不安になる。筆者は、250GBのHDD2台をセットし、100GBのミラーリングボリュームを作成したが、それに要した時間は約8時間であった。この間、いつ終わるともしれないため、リセットすべきなのではないかと思ったことが1度や2度ではない。
さて、出来上がったミラードライブ(Fドライブとしてシステムに接続)に、ローカルドライブからファイルコピーをしてみた。831MBのMPEG-2ファイルをコピーしたところ、所要時間は4分47秒というところ。Ethernet接続の個人向けNAS(非RAID)でも2分弱くらいの速度でコピー完了するものが少なくないが、RAID 1であることと価格を考えれば、それほど悪い結果ではない。
むしろ厄介なのは、ミラーリングを含めたストレージデバイスとしての使い勝手だ。基本的にミラーリングボリュームを作成できるのは、SC101上に新規ドライブの設定を行なう場合のみである。つまり1台のドライブでスタートして、後にもう1台を追加した場合に、1台目のデータを保持したままミラーリングを行なうことはできない。1台目のデータを別の場所に退避した上で、再度ボリュームを作り直す必要がある。 そして、一度ミラーリングボリュームを作成したら、片方のドライブを取り外す以外にミラーリングを解除する方法はない。できるのは、ミラーリングしたボリューム全体の削除であり、そこにあったデータは消える。同様に、ミラーリングボリュームの片方のドライブが壊れて交換した場合、データを退避しないでミラーリングボリュームをリビルドすることはできない。というわけで、確かにミラーリングによるデータの保護は可能だが、何というか片道切符のRAIDストレージという印象だ。 というわけでSC101についてまとめてみるとこんなところだろうか。 ○良いところ ×注意点 ●基板単体の「DC-SP4UI/B」
さて次のデバイスは、DIGITAL COWBOYの「DC-SP4UI/B」という基板。そう、カードというより基板と呼ぶにふさわしい。何せ、この製品は拡張カードスロットに挿すのではなく、ドライブベイにL字金具で固定しろというのである。 一体、これは何者か。「HDD Spanning Board Tera Cowboy」という名前が付けられているが、要するに基板上に2チャンネル設けられたIDEポートに最大4台のHDDを接続、個々の容量の大小にかかわらず1台の大きなドライブに見せかけましょう、というものだ。ネーミングは、4台まとめれば1TBを超える容量が実現できる、という意味らしい(500GB×4の2TBが実際の上限だろうが)。 このドライブの接続インターフェイスはUSB 2.0もしくはIEEE 1394a。電源はATXの20ピンか、FDDなどで良く使われる4ピンコネクタのどちらかである。使い道としては、余ったHDDを、これまた余ったPCケースのストレージベイにつっこんで、さらに余った古いATX電源と組み合わせ、3.5インチベイにこの基板を仕込めば、USB接続のどでかい外付けHDDの出来上がり、というところだろう。なんだか、お金のない大学の研究室あたりを覗くと、ころがっていそうな代物である。もちろん、本製品とお古のHDDをホストPCに内蔵しても良いのだろうが、それならPCIスロットを用いる通常のATAインターフェイスカードを買ってきた方が性能も良い(PCIバス対USB 2.0)だろうし、100倍まともに思える。 ただ、基板の仕様を見る限り、最初からこのような目的(単体でのリテール販売)のために作られたとは到底思えない。おそらく、どこかの周辺機器ベンダが販売する外付けHDDに内蔵する予定だったものの、何らかの理由で企画がキャンセルの憂き目に会い、作った基板がもったいないのでお色直しして出てきた、という風情だ。 あくまでもケース、ATX電源、HDDのすべてが手元に余っていて、捨てるに忍びない、という人向けの製品だと思うが、直販で11,000円という価格を考えると、それでも疑問を感じずにはいられない。 今、秋葉原に行けば、1万円で200GBの新品のドライブが買える。古いドライブをかき集めるといっても、250GBや300GBといったドライブが余っているわけではないだろう(そんなものがボロボロ余っているところなら、すでにTB級のNASや、400~500GB級のシリアルATAドライブが使われているに違いない)。60~80GBのドライブを4台寄せ集めても得られる容量などしれているし、消費電力、騒音を考えれば、新品の250GB~300GB級ドライブを購入した方がはるかにマシだ。このカードが2,000~3,000円程度なら、それこそ上述したような研究室くらいには売れそうだが、1万円近くしてはそれも難しいように思う。 ●価格なりの性能ではあるが 結局、SC101にしてもDC-SP4UI/Bにしても、古いドライブのリサイクルにはそれほど役立ちそうにない。新しいドライブを使って500GBのミラーリングされたネットワークストレージを構築する(SC101)、あるいは500GBの新品ドライブ4台と組合わせて2TBのストレージを作る(スパニングなので、信頼性が疑問だが)、という用途の方が良い(これから買うのならシリアルATAだろう、というツッコミが入るだろうが)。 このところ、記録密度の向上に陰りが見えるHDDだが、それでも着実に記録密度は上がり、バイト単価は低くなる。新製品を排してまで古い製品に第2の人生を見つけてあげるのは、なかなか容易ではない。
□ネットギアのホームページ (2006年2月24日) [Reported by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
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